2022

■相棒のパワーバランス

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「対策委員っす。さて、そろそろ夏合宿の班割り? 決めてこーぜ。当麻、今年は何班くらい出来そう?」
「今年は現時点で結構人数多くて、対策委員込みで54人」
「54!?」

 当麻さんの話によれば、緑ヶ丘と向島の参加率が安定して高いのと、星ヶ丘からもたくさんの参加申し込みがあったようなのです。MMPはインターフェイスの行事に基本的に参加する方針であるのと、人数のV字回復に成功したことが合宿参加人数の底上げに繋がりました。

「なので、例年通り6人班で行くとすると全員班長にならなきゃいけない計算になるね」
「えーっ!? 全員班長!? どうしよう、あたしが班長なんて大役ちゃんと出来るかなあ」
「くるちゃんは全然大丈夫だと思うよ。俺が何を一番心配してるかって言ったら北星だから」
「本当に俺も班長やるの~?」

 初心者講習会でもそうでしたが、北星さんは映像の話になるととても頼りになるのです。ですが、普段はとても大らかなので当麻さんが付きっ切りで話の補足をしたりコーヒーで溺れないように声かけをするなどしています。夏合宿の活動はラジオメインなので、どう転ぶかが誰にもわからず不安要素となっているようです。

「とりあえず、対策委員以外の2年生の参加者を並べて副班長選びからやっていこうと思う」
「頼みます。実際それがいいと思う」
「シノ、どうやって決めるの?」
「アナミキで組み合わせるのは大前提で、ラジオの経験値で見ていく感じかな。とりぃはもう向島でバリバリやってっし初心者扱いしなくて大丈夫だよな?」
「鳥ちゃんはウチのエースアナウンサーに昇格してっからバリバリオッケー!」
「希くん!? それはさすがに誇張し過ぎではありませんか?」
「つかそれだとカノンは自分が抜かれたことを認めてる発言になるだろ」
「でも鳥ちゃんはマジでめちゃくちゃ上手くなった。技術的には負けても発想力じゃ負けたつもりはねーし」
「とりあえず北星の相方を最優先で決めて欲しい。アナウンサーだと雨竜と千颯以外から選ぶ感じになると思うけど」

 北星さんを支える副班長を誰にするのかということを考えたときに、まず実質的に班運営を任せられる人が望ましいという風に当麻さんは言います。次に、のんびりしている北星さんを戒めることの出来る人物がいれば助かるとも。普段は当麻さんがそれをやっているのですが、今回は同じ対策委員なのでそれが叶わないのです。

「え~、千颯がいいよ~、しっかりしてるし~」
「去年同じ班になってるんだからダメだ」
「えっと、そうなるとラジオの経験値的にウチのアナ陣から選ぶ感じになるかな?」
「そうしてもらえると助かる。北星、ササ、レナ、すがやんの中から1人選べ」
「誰もよく知らないんだけど~。くるちゃん、どんな子~? 映像やってる子とかいない~?」
「その3人は誰も映像をやってないと思うなあ」
「え~」
「ラジオの活動なんだから映像基準で考えるのをまずやめろ」
「あっ! でも、ササは高木先輩と同じゼミだからそのうち映像の勉強も始めると思うよ! ねえシノ!」
「ああ、そうだそうだ。今すぐじゃないけど、そのうちな」
「じゃあササがい~な~」
「シノ、ウチの都合で悪いけどササに北星の班の副班長を頼んでいい?」
「ああ。俺からも頼んどくよ」
「本当にありがとう。でも、ササは優しいし北星をシバくことは出来なさそうだ」
「あー……心当たりがあり過ぎる。テスト前に俺の面倒見るのとかも嫌な顔しないガチ聖人だもんなあ。あと最近じゃ天然ボケ疑惑も上がってるし最悪ボケとボケの混線で収集付かなくなる可能性もあるな」
「ここを2年生3人班にして本当のツッコミタイプの人を入れよう!」

 奈々先輩も仰っていたのですが、たまに班長よりも副班長の方がしっかりしている班というものが出来ることがあるのだそうです。去年だとガンガン系ムードメーカーの奈々先輩より真面目で責任感溢れる性格のマリン先輩の方が班長らしかったそうで、実質的に班長が入れ替わっていたと。
 映像に関わらない時の北星さんは大らかですし、ササさんも天然ボケの気があるとは徹平くんもレナも言っていたのでそうなのかもしれません。実際、緑ヶ丘の皆さんに意図しないタイミングで徹平くんと私の事が知れてしまったのもササさんのうっかりからだったとは聞きました。

「シノ、残りのメンバーでツッコミだったらみちるとかどう? 結構キレッキレだと思うんだけど」
「ひっ!」
「くらら、北星の反応を見るにみちるが最適解だ。俺からもお願いします。いくらでもシバいてもらっていいんで」
「北星、みちるちゃんは怖くないよ」
「それは知ってるけど~、ちゃんとしなかったら怒られるよね~」
「ちゃんとしなきゃって気負わなくたっていいよ。普通でいいんだから。北星は真面目だし、コーヒーで溺れちゃうくらい眠いのは仕事をいっぱい抱えてるからだよねきっと。あたしも自分の動画で何でもかんでも北星に甘えなくていいように頑張るからね! だからちゃんと寝てね!」
「え~!? やだよ~、くるちゃん、俺のこと頼ってよ~!」
「じゃあササとも仲良くしてね!」
「わかった~。顔と名前を覚えるところから始める~」
「うんうん、その意気だよ!」

 初心者講習会のすき間時間にくるみと北星さんとの関係についても少し聞いていたのですが、これはなかなか直球な感じなのですね。確かにこれは表立って冷やかすと言うより陰ながら応援したくなりますね。

「……あの、当麻さん」
「何?」
「先程北星さんはみちるさんの名前を聞いて酷く怯えた様子でしたが、何かあったのですか?」
「えーっと、何て言えばいいのかな、去年の夏合宿でのことになるんだけど、そこで何かあったとかって聞いたことある?」
「掻い摘んでですが。ですがその話を希くんの前でしてはいけないと」
「そのときのみちるがあまりに武闘派だったから驚いたってだけのことで、くるちゃんを通じて普通に仲良くしてるから特段苦手とかそういうことでもないんだよ。みちるはくるちゃんと仲が良いし、くるちゃんを巡るお目付け役みたいな感じかな。くるちゃんを泣かせたらその時はわかってるよな、的な」
「そうなのですね」

 スマホにあるササさんの写真を見せて「こういう子だからね!」と北星さんに説明を入れるくるみの一生懸命なこと。その様子を見ると“星の子のとりぃ”で覚えてもらっているのは本当に奇跡的なことなのだなと思います。そんなことを考えているうちに、残りの2年生も少しずつ班が決まっているようです。

「この感じだとまつりはとりぃの班かな」
「そうなるね」
「ちとせさん、まつりさんとはどういう感じの方なんですか?」
「まつりちゃんは野球経験のある体育会系の子で、ガンガン系の性格かな。でも、この間ウチでやってたステージの台本とか書いたりもしてたし、頭も回るタイプだよ。あたしたちのまとめ役と言うか、引っ張ってくれる感じ」
「あっ、そうだよね! まつりちゃん頭の回転早くてあたしホントにビックリした! カノンが考えた構成の話も機材の動作的には~ってすぐ理解しちゃってたし」
「そうなのですね。私が慎重になり過ぎてしまうタイプなので、引っ張ってもらえそうで頼もしいですね」

 まつりさんと打ち解けるには野球の話がいいのでしょうか。私はあまり野球を知らないので、奈々先輩に……いえ、奈々先輩は少し過激なので、最近野球を見始めたばかりですが奏多の方がいいですね。一応私も水泳と空手の経験があり体育会系出身なのですが、チームスポーツと個人スポーツでは性質も異なりますし、どうなるでしょうか。

「ああ、そうだカノンとりぃ」
「どした?」
「今年なんだけど、1年生は既に実戦デビューしてる向島のレベルが一番高いと見て、去年の俺ら的な、ラジオ分かってる1年枠として2年生で比較的ラジオ的戦力の弱いところにぶち込ませて欲しい。もちろんウチの連中も様子見ながら入れてくけど」
「あー、わかった了解」
「ですが希くん、ラジオの実力的に問題が無くても、人見知りの子をどうするかの問題はありますよ」
「あー、それだ。悪いシノ、ミキサーで1人すげー人見知りがいるから、ソイツだけちょっと」
「大丈夫大丈夫。その辺はちゃんと考えるから」
「そうそう! 去年はサキがそうやってハナ先輩と一緒になってたみたいだし!」
「サキさんは口数が少ないだけで、実は特別人見知りではないですよね? むしろ少し気が強いタイプのように思いますが」
「実はね。さすがとりぃ、知ってるね」

 普段ゲームをしているときの様子を見ていてもそうですし、徹平くんや奏多から聞くサキさん像からすると、実は相当負けず嫌いで気が強いのだなと思います。内に秘める闘志がかなり強いと言いましょうか。友達をちゃんと叱ることの出来る優しい人だとも聞きますが。本人曰く、言葉選びが苦手で語気が強くなって人を不快にさせてしまうそうなのです。

「あ。口数が少ないと言えば、ウチに存在感だけですげー人を威圧しそうなのもいるんだけど大丈夫かな? 内気な子とかだと姿だけでビビりかねない」
「あ、あの子か!? あのすげーデカいの」
「ああ……確かに、知らなければ少し怖いと思われるかもしれませんね……。殿は体が大きくて顔も厳ついので怖く思われがちなのですが、実際はとても心優しいのです」
「実際付き合ってみてそういうのを知っていく場でもあるから、大丈夫だろ! 実際心優しいならトラブルも起こさなさそうだし」
「あ、そうですね。トラブルを起こすイメージはないので大丈夫です」
「とりあえず向島のミキサーを入れるべき班をピックアップしてみたんだけど、七海班とちとせ班、あと海月班になんのかな? 人見知りの子はどこに入れる?」
「ちとせ班で頼みます! 奏多とすがやんがいる、これは強い! えっ、向島同士のダブリってOKだよな?」
「人数的に1人はダブる計算になるな」
「じゃここだ!」
「そうですね。身内の奏多がいますし、徹平くんとも面識はあるのでツッツも安心できるのではないかと」
「ヤベーなすがやん。さすがと言えばさすがだけど」
「だってすがやんはあのサキと一番にまともな会話を成立させたんだよ! 他の子だってすがやんには心を開いちゃうよ!」
「何せすがやんは半分MMPだしな!」
「もーっ、だからカノン、すがやんは全部MBCCなの!」
「そうですよ希くん。新歓のときもそうやって徹平くんをサークルの人数にカウントしていましたよね?」
「えーっ、ひどーい!」
「は!? 何だそれ!」
「何はともあれ人見知り問題はこれで解決だ!」

 希くんが半ば強制的にこの話を終わらせたようにも思いますが、班編成はまだまだ始まったばかりなのです。ウチの他の子たちや、他の大学の子たちをああでもないこうでもないと組み合わせていく作業。それでなくても今年は合宿への参加人数が多いので例年よりも難しいのです。

「よーし、今日は長丁場になるぞー。トイレとか買い足しとか各々好きに行ってくれー」
「シノ、あたしケーキ買って来ます!」
「シノさん、私もフードを買って来ます」
「シノ~、俺トイレ~」
「そしたら一旦10分休憩!」


end.


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昔なら短編規模の話として上がってたまあまあの文字数。仕方ない、気付けば長くなった。
シノが議長として場を回しつつも、然る場では適切に当麻の力を借りているような感じ。ますます当麻はイシカー兄さんポジだね
北星とササの組み合わせにボケの混線の可能性を見出したシノ、対策委員が終わる頃にはTKGパイセンも期待した成長を遂げるか?

(phase3)

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