2022
■Delicious Cooking
++++
「この度は私の料理の練習に付き合っていただけるということで、本当にありがとうございます」
「何か深刻な事情っぽいし、どんどん練習しちゃってー」
「自宅生だと台所でなかなか自由に出来ないもんね」
「あの、ミドリさんには台所を使わせていただくということで、こちら、私もいただいたものなのですがよろしければ食べてください」
「わーっ! すごーい! 野菜だー! えっ、本当にいいの?」
サークルで料理の話になり、誰がどんな料理が得意で、という内容で盛り上がったのです。1年生6人がジャックの部屋で食事をしていたそうなのですが、そこで出た殿の料理が本当に絶品だったと。今度はジュンのリクエストでメンチカツが振る舞われるそうです。話を聞いているだけでも羨ましいです。
殿がとても料理上手なのは、これまでに見聞きして抱いた彼の印象と違わないので納得なのです。パロは香辛料を使った料理が得意であるとか、ジャックが料理の練習を始めているという話になると、先輩たちはどうですかと話を振られますよね。私はあまり料理が得意でなく、奏多にはお前は食べる専だからなと煽られる始末。このままではマズいなと思いました。
「菜園でアルバイトをしている1年生がいるのですが、たまに規格外になった野菜などを持って来てくれるのです。彼は料理がとても上手なので料理の練習をしたいと相談したところ、快く野菜を分けていただいたのです」
「え、あの中に料理めちゃ上手い子いるんだ? だれだれ?」
「殿ですよ。体の大きな彼です」
「あー、あのすっごいデカい子! え、菜園でバイトしてて料理上手とか、すげーね」
「高校時代は園芸部だったそうですし、心が優しいのです。そして今日の献立なのですが、これから夏に向けて、豚肉のトマト煮を作ってみてはどうかと勧めてもらいました」
「美味そう」
「ですよね」
料理の練習の話を美雪さんに相談したところ、ミドリさんの家でやらせていただけることになりました。せっかくなので徹平くんにも来てもらったらと先輩たちが仰ったので、声を掛けてみるといつものフットワークで行くよーと返事をもらいました。徹平くんとは出先で出された料理を食べることはしてきましたが、自分で作ることは初めてなのでとても緊張します。
「春風、何か手伝おうか?」
「ありがとうございます。でも、これは私の練習なので」
「そっか」
「あっ、すみません! お手伝いして欲しいことを思いついたのですがいいですか?」
「うん、なになに? 何でも言って」
「私のスマホに、殿からもらったレシピがあるのです。それを読み上げてもらえますか? 今出しますね。はい。このメモがレシピです」
「おー、すげーきっちりしてる。マジなレシピじゃん」
「これに沿って作ればいくら私の料理の腕が拙くても食べられる物にはなるはずです。手を洗って……はい、お願いします」
「1番。玉ねぎは芯を取り除き、薄切りにする。にんにくは芯を取り除き、みじん切りにする。エリンギは乱切り、しめじは手でほぐす」
野菜の切り方については参考になるサイトを教えてもらって動画を確認しましたし、イメージトレーニングだけはバッチリなのです。たどたどしい包丁捌きだとは重々承知していますが、如何せん不慣れなので仕方ありません。
「ところで、徹平くんは普段料理などはするのですか?」
「俺はあんまりかなー。簡単なことくらいしか出来ないよ」
「そうなのですか。魚を捌く手付きを見ると包丁の扱いに慣れているのだなあと思っていたのですが」
「魚を捌くのは釣りをやってるうちに出来るようになったけど、本当にそれだけなんだよ。あっでも焼きそばは学祭の食品ブースですげー美味いのが作れるようになったかな」
「そんなに美味しい焼きそばだったんですか?」
「まずソースの味が美味いし、肉も料理酒で下処理をするから臭みがなくて柔らかいし、野菜の食感もちゃんとあって水っぽくないしで冷めても美味いんだこれが。学祭でも飛ぶように売れてさ」
「俄然興味が湧きました。2番の工程をお願いします」
「はい。2番。豚肉は赤身と脂身の間に切り込みを数カ所入れ、3等分にする。塩こしょうをふるい、薄力粉を全体にまぶす」
「はい。切れ込みは、こんな感じでしょうか」
「それでいいと思う」
「とりぃ、調子はどう? 台所のことでわかんないとかあったら言ってね」
「ありがとうございます。今のところ不都合な点はないので大丈夫です」
「そう。それじゃあごゆっくり」
美雪さんの話によれば、ミドリさんは結構料理がお上手なんだそうです。ですが凝った工程を経たこだわりの料理ということではなく、手を抜けるところは適切に抜いた上で美味しくする才能が凄いとか。実際台所を見ても綺麗にされていますし、缶詰めや乾き物のストッカーが充実しているなと思います。特に鯖缶のストックが凄いですね。好物なのでしょうか。
「えーと、ここまで出来たら次は焼いてきます」
「はい」
「フライパンにオリーブオイル、にんにくを入れて弱火で香りが立つまで熱し」
「はい」
「次、玉ねぎとキノコたちスタンバイで」
「同時に入れるのですか?」
「ううん、最初は玉ねぎ。弱火でしんなりしたらキノコを加えて強火で1分ほどって書いてる」
殿の教えてくれたレシピに沿って料理してみると、レシピをきちんと人に伝わるようにまとめることの凄さに圧倒されてしまうのです。私は常日頃から星や宇宙についていろいろな人に興味関心を持ってもらえるような話し方を身に付けたいと思っているのですが、こういった部分でも人に伝えることの難しさを思い知ると言うか。
玉ねぎを炒め、キノコを加え、そして次にお肉を焼いてトマト缶とその他調味料を加えて煮る。工程を進めるにつれとてもいい匂いが広がって、ここから焦がさなければ成功するだろうと自信も湧いてきました。人から聞いたもの、教えてもらったことを自分の物にすることの難しさもその自信と比例していくのですが。
「そろそろ完成でしょうか」
「うん。いいと思う」
「それでは取り分けましょう」
4人分のトマト煮を皿に取り分け、配膳します。先輩たちは美味しそうだと声を上げてくれますが、どうでしょうか。
「あの、すみません。完成した物の写真を撮影してもいいでしょうか」
「いいじゃん! 撮っちゃえ撮っちゃえ」
「では失礼します。うん。写真で見る限りでは美味しそうですね。あっ、ぜひいただいてください」
「それじゃあいただきまーす」
「ん! 美味しいよ!」
「ホントだ、美味しい!」
「ありがとうございます。徹平くん、どうですか?」
「ミドリ先輩、白いご飯ありますか?」
「あー、パックごはんで良ければあるよ」
「ご飯と食べたいヤツっすねこれ。めっちゃ美味い。すみません、そのご飯もらいます」
「どうぞどうぞ。台所のストッカーにあるから」
「はーい。春風、大成功」
美味しいと言ってもらえて安心しました。自分でも一口食べてみると、本当に自分が作ったのかと思う美味しさです。殿には成功報告が出来そうでホッとしました。これを機に少しずつちゃんと料理が出来るようになればいいのですが。これも練習あるのみですね。
「あたしパンで食べたいかも。ミドリ、食パンもらうねー」
「いいよー」
「とりぃはご飯とかパンとか付ける?」
「ええと、ご飯をいただけますか」
「すがやーん、とりぃもご飯食べるってー」
「了解っすー」
end.
++++
すがやんの食べる量自体は多分一般的男子くらいだと思うけど、美味しいおかずにはご飯を合わせたいようです
相談相手がユキちゃんになったのは仲が良いからか、内輪じゃない方が良かったからか。どうだろね
(phase3)
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「この度は私の料理の練習に付き合っていただけるということで、本当にありがとうございます」
「何か深刻な事情っぽいし、どんどん練習しちゃってー」
「自宅生だと台所でなかなか自由に出来ないもんね」
「あの、ミドリさんには台所を使わせていただくということで、こちら、私もいただいたものなのですがよろしければ食べてください」
「わーっ! すごーい! 野菜だー! えっ、本当にいいの?」
サークルで料理の話になり、誰がどんな料理が得意で、という内容で盛り上がったのです。1年生6人がジャックの部屋で食事をしていたそうなのですが、そこで出た殿の料理が本当に絶品だったと。今度はジュンのリクエストでメンチカツが振る舞われるそうです。話を聞いているだけでも羨ましいです。
殿がとても料理上手なのは、これまでに見聞きして抱いた彼の印象と違わないので納得なのです。パロは香辛料を使った料理が得意であるとか、ジャックが料理の練習を始めているという話になると、先輩たちはどうですかと話を振られますよね。私はあまり料理が得意でなく、奏多にはお前は食べる専だからなと煽られる始末。このままではマズいなと思いました。
「菜園でアルバイトをしている1年生がいるのですが、たまに規格外になった野菜などを持って来てくれるのです。彼は料理がとても上手なので料理の練習をしたいと相談したところ、快く野菜を分けていただいたのです」
「え、あの中に料理めちゃ上手い子いるんだ? だれだれ?」
「殿ですよ。体の大きな彼です」
「あー、あのすっごいデカい子! え、菜園でバイトしてて料理上手とか、すげーね」
「高校時代は園芸部だったそうですし、心が優しいのです。そして今日の献立なのですが、これから夏に向けて、豚肉のトマト煮を作ってみてはどうかと勧めてもらいました」
「美味そう」
「ですよね」
料理の練習の話を美雪さんに相談したところ、ミドリさんの家でやらせていただけることになりました。せっかくなので徹平くんにも来てもらったらと先輩たちが仰ったので、声を掛けてみるといつものフットワークで行くよーと返事をもらいました。徹平くんとは出先で出された料理を食べることはしてきましたが、自分で作ることは初めてなのでとても緊張します。
「春風、何か手伝おうか?」
「ありがとうございます。でも、これは私の練習なので」
「そっか」
「あっ、すみません! お手伝いして欲しいことを思いついたのですがいいですか?」
「うん、なになに? 何でも言って」
「私のスマホに、殿からもらったレシピがあるのです。それを読み上げてもらえますか? 今出しますね。はい。このメモがレシピです」
「おー、すげーきっちりしてる。マジなレシピじゃん」
「これに沿って作ればいくら私の料理の腕が拙くても食べられる物にはなるはずです。手を洗って……はい、お願いします」
「1番。玉ねぎは芯を取り除き、薄切りにする。にんにくは芯を取り除き、みじん切りにする。エリンギは乱切り、しめじは手でほぐす」
野菜の切り方については参考になるサイトを教えてもらって動画を確認しましたし、イメージトレーニングだけはバッチリなのです。たどたどしい包丁捌きだとは重々承知していますが、如何せん不慣れなので仕方ありません。
「ところで、徹平くんは普段料理などはするのですか?」
「俺はあんまりかなー。簡単なことくらいしか出来ないよ」
「そうなのですか。魚を捌く手付きを見ると包丁の扱いに慣れているのだなあと思っていたのですが」
「魚を捌くのは釣りをやってるうちに出来るようになったけど、本当にそれだけなんだよ。あっでも焼きそばは学祭の食品ブースですげー美味いのが作れるようになったかな」
「そんなに美味しい焼きそばだったんですか?」
「まずソースの味が美味いし、肉も料理酒で下処理をするから臭みがなくて柔らかいし、野菜の食感もちゃんとあって水っぽくないしで冷めても美味いんだこれが。学祭でも飛ぶように売れてさ」
「俄然興味が湧きました。2番の工程をお願いします」
「はい。2番。豚肉は赤身と脂身の間に切り込みを数カ所入れ、3等分にする。塩こしょうをふるい、薄力粉を全体にまぶす」
「はい。切れ込みは、こんな感じでしょうか」
「それでいいと思う」
「とりぃ、調子はどう? 台所のことでわかんないとかあったら言ってね」
「ありがとうございます。今のところ不都合な点はないので大丈夫です」
「そう。それじゃあごゆっくり」
美雪さんの話によれば、ミドリさんは結構料理がお上手なんだそうです。ですが凝った工程を経たこだわりの料理ということではなく、手を抜けるところは適切に抜いた上で美味しくする才能が凄いとか。実際台所を見ても綺麗にされていますし、缶詰めや乾き物のストッカーが充実しているなと思います。特に鯖缶のストックが凄いですね。好物なのでしょうか。
「えーと、ここまで出来たら次は焼いてきます」
「はい」
「フライパンにオリーブオイル、にんにくを入れて弱火で香りが立つまで熱し」
「はい」
「次、玉ねぎとキノコたちスタンバイで」
「同時に入れるのですか?」
「ううん、最初は玉ねぎ。弱火でしんなりしたらキノコを加えて強火で1分ほどって書いてる」
殿の教えてくれたレシピに沿って料理してみると、レシピをきちんと人に伝わるようにまとめることの凄さに圧倒されてしまうのです。私は常日頃から星や宇宙についていろいろな人に興味関心を持ってもらえるような話し方を身に付けたいと思っているのですが、こういった部分でも人に伝えることの難しさを思い知ると言うか。
玉ねぎを炒め、キノコを加え、そして次にお肉を焼いてトマト缶とその他調味料を加えて煮る。工程を進めるにつれとてもいい匂いが広がって、ここから焦がさなければ成功するだろうと自信も湧いてきました。人から聞いたもの、教えてもらったことを自分の物にすることの難しさもその自信と比例していくのですが。
「そろそろ完成でしょうか」
「うん。いいと思う」
「それでは取り分けましょう」
4人分のトマト煮を皿に取り分け、配膳します。先輩たちは美味しそうだと声を上げてくれますが、どうでしょうか。
「あの、すみません。完成した物の写真を撮影してもいいでしょうか」
「いいじゃん! 撮っちゃえ撮っちゃえ」
「では失礼します。うん。写真で見る限りでは美味しそうですね。あっ、ぜひいただいてください」
「それじゃあいただきまーす」
「ん! 美味しいよ!」
「ホントだ、美味しい!」
「ありがとうございます。徹平くん、どうですか?」
「ミドリ先輩、白いご飯ありますか?」
「あー、パックごはんで良ければあるよ」
「ご飯と食べたいヤツっすねこれ。めっちゃ美味い。すみません、そのご飯もらいます」
「どうぞどうぞ。台所のストッカーにあるから」
「はーい。春風、大成功」
美味しいと言ってもらえて安心しました。自分でも一口食べてみると、本当に自分が作ったのかと思う美味しさです。殿には成功報告が出来そうでホッとしました。これを機に少しずつちゃんと料理が出来るようになればいいのですが。これも練習あるのみですね。
「あたしパンで食べたいかも。ミドリ、食パンもらうねー」
「いいよー」
「とりぃはご飯とかパンとか付ける?」
「ええと、ご飯をいただけますか」
「すがやーん、とりぃもご飯食べるってー」
「了解っすー」
end.
++++
すがやんの食べる量自体は多分一般的男子くらいだと思うけど、美味しいおかずにはご飯を合わせたいようです
相談相手がユキちゃんになったのは仲が良いからか、内輪じゃない方が良かったからか。どうだろね
(phase3)
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