2022
■実力と人望のある部長
＋＋＋＋
「やっと見つけましたよ源」
「うわっ、レオ！」
「「うわっ」じゃありませんよ。まったく、練習は結構ですが部長というのは自分のステージのことだけ考えていられる立場ではないと何度言えばわかるんですか。ほら、行きますよ」
「待ってよ～」
「待ちません。俺の方がどれだけ待たされていると思ってるんですか。そういうことですから浦和、谷本君、源はしばらく戻りませんのでよろしくお願いします」
「わかりましたですよ」
「お疲れっすー」
ファンフェスが終わってしばし。星ヶ丘大学放送部は次の丸の池ステージに向けて動き始めていた。学年が上がって変わった生活リズムだとか、ファンフェスに向けて動いていたバタバタ感みたいな物が引いていって、今年の平常っていうものに慣れてきた頃合いだ。
監査の所沢さんが仕事を放り出してステージの準備や練習をしているゴローさんを連れ戻しに来るのも部ではよく見る光景となった。ステージ大好き現場主義の自由な部長と、それを戒めつつもステージでは好きにさせる監査は何だかんだいいコンビだとも言われている。
今ではゴローさんに振り回される所沢さんに同情する人や理解者が増えてきたのか、ゴローさんの目撃情報などは積極的にリークされるようになっているそうだ。ゴローさんを見つけるまでの時間は最初の頃より圧倒的に短縮されているとのこと。
「ゲンゴロー、まーた部の仕事を放置してこっちに来てたですよ」
「今度からは俺らもまず所沢さんにゴローさんがこっちにいてもいいのか確認してから迎え入れた方がいいんすかね？」
「今後も治らないようなら検討するですよ」
戸田班改め源班も上々のスタートを切っていると思う。ファンフェスではみんなバラバラになっていろんな班に派遣されてたんだけど、そこでの経験を持ち帰って各々パワーアップしたと思いたい。
ゴローさんは自由な部長だけど、それがいい風に働いた結果も出ている。ファンフェスでのゴローさんのミキサー捌きを見た１年が、この部長の班でミキサーをやりたいと既にウチの班で練習を始めてるんだ。
今年も１年の班見学ツアーはやるらしいし、多分その話もあってゴローさんが所沢さんに連行されてったんだけど。つーか「実力と人望のある部長」ってのはやっぱり目を引くな。字面の力も強いと言うか。
それから、ファンフェスステージの成功は文化会にも報告されていて、この実績を含めた上で今度の部費を計上してもらえるようになったそうだ。本当に、部長としてのゴローさんは書類仕事が嫌いなことだけが玉に瑕なんだろう。
「おはようございます」
「おーすみちる」
「海月は？ 対策委員？」
「っつってた。初心者講習会が終わるまではこんなモンだろってさ」
「ゴローさんは――」
「所沢さんに連行されてった」
「ああ、いつものか」
「そ。いつもの」
班長はゴローさんだけど、ステージはプロデューサーがいればある程度回る。だからゴローさんが所沢さんに連行されてもバタバタすることはないし、何なら部としての方針をちゃんと決めてもらわないと部員みんながバタバタするから部長の仕事を優先しろというのが班員の総意。
丸の池のステージの枠についても正確な物はもうちょっとしてから発表されるとのことだ。今はおおよその目安としての枠をもらってる状態で、準備はしておいてくださいねという期間。今一番忙しいのは台本を書く俺とマリンさんだ。
「マリンさん、今年も班見学ツアーはやるんですか？」
「やるっていう話ですよ。そのことも話し合わなきゃいけないのに、と連行されてったですよ」
「あー……」
「班としてのスタンスは去年と同じです。源班がどういう班かを見てもらうには実際の練習風景を見せるですよ。笑顔の絶えないアットホームな班ですと言いたげなお見合いに意味はないですよ」
「違いないっすね。どんなことをどんなレベルでやれる班かってのがわかんねーと、見学したところで余計迷うだけっすからね」
「インターフェイスの活動については説明するんですか？」
「そういうのはゲンゴローがやってるので私たちが改めてやる必要はないですよ。部長が言うなら出てみようかなって、初心者講習会にもウチから過去最多になる人数が参加するらしくて海月がヒーヒー言ってたですよ」
「ゴローさん効果ヤベー」
今年は新歓でもファンフェスのステージに出ることを押し出したりしてたからか、丸の池と大学祭が大きなステージですと言ってただけより見栄えがしたんだよな。実際それで興味を持った層もいるとかで。
それで入った結構な人数に、さらにゴローさんが畳みかけるようにインターフェイスっていう組織があってね、などと宣伝していたそうだ。実力と人望のある部長が楽しいよって言うもんだから、まあ興味は持たれるよな。ラジオに興味ある奴も一定数いたとはゴローさん談。
「それでなくても広く人前で作品を披露することの基本みたいなことは部では改めてやらないですよ。初心者講習会でやってもらえるならこっちで教える手間も少し省けますですし、声をかけまくったそうです」
「で、海月が大変なことになってると」
「でも、インターフェイス的には機材補償費がたんまりですよ」
「あ、そうっすよね。ゴローさんの宣伝効果っすね」
「対策委員の活動ですし会場になってる青敬にも費用は分配されるですから全額定例会の収入にはならないですけど、それでもまあまあのお金にはなるですよ」
「えっ、その計算式ってどーなるんでしたっけ。この場合定例会に入るのって」
「２分の１ですよ。今回の場合は対策委員が４分の１で、機材を貸し出す青敬にも４分の１が入るです」
「なるほど。え、それで機材がぶっ壊れたらどーなるんすか？」
「機材補償費で青敬の機材を補償することになるです。先の分配は何事もなかったときの話ですよ」
「あざっす。勉強になるっす」
「さて、いい時間になったですし、ステージの話をするですよ」
「はーい」
まだマリンさんがいるけど俺もいちプロデューサーとしてしっかりやってかねーとなっつー気合いは十分だ。学年も上がったし、ファンフェスを経て俺がやれることも増えた。１年も入ってくるしうかうかしてらんねーよな。筆と音は止めらんねーんだわ。よーし、書くぞ！
end.
＋＋＋＋
現場主義と言えば聞こえはいいと気付いたゲンゴローのアレ。班員は大体レオの味方である。
源班１年生についてはまだまだ名前を考えてる段階なので実際にデビューするのはもうちょっと先？
機材保障費の観点でもしてやったりなことに気付いたマリン、さすが定例会の会計だね
(phase3)
.
＋＋＋＋
「やっと見つけましたよ源」
「うわっ、レオ！」
「「うわっ」じゃありませんよ。まったく、練習は結構ですが部長というのは自分のステージのことだけ考えていられる立場ではないと何度言えばわかるんですか。ほら、行きますよ」
「待ってよ～」
「待ちません。俺の方がどれだけ待たされていると思ってるんですか。そういうことですから浦和、谷本君、源はしばらく戻りませんのでよろしくお願いします」
「わかりましたですよ」
「お疲れっすー」
ファンフェスが終わってしばし。星ヶ丘大学放送部は次の丸の池ステージに向けて動き始めていた。学年が上がって変わった生活リズムだとか、ファンフェスに向けて動いていたバタバタ感みたいな物が引いていって、今年の平常っていうものに慣れてきた頃合いだ。
監査の所沢さんが仕事を放り出してステージの準備や練習をしているゴローさんを連れ戻しに来るのも部ではよく見る光景となった。ステージ大好き現場主義の自由な部長と、それを戒めつつもステージでは好きにさせる監査は何だかんだいいコンビだとも言われている。
今ではゴローさんに振り回される所沢さんに同情する人や理解者が増えてきたのか、ゴローさんの目撃情報などは積極的にリークされるようになっているそうだ。ゴローさんを見つけるまでの時間は最初の頃より圧倒的に短縮されているとのこと。
「ゲンゴロー、まーた部の仕事を放置してこっちに来てたですよ」
「今度からは俺らもまず所沢さんにゴローさんがこっちにいてもいいのか確認してから迎え入れた方がいいんすかね？」
「今後も治らないようなら検討するですよ」
戸田班改め源班も上々のスタートを切っていると思う。ファンフェスではみんなバラバラになっていろんな班に派遣されてたんだけど、そこでの経験を持ち帰って各々パワーアップしたと思いたい。
ゴローさんは自由な部長だけど、それがいい風に働いた結果も出ている。ファンフェスでのゴローさんのミキサー捌きを見た１年が、この部長の班でミキサーをやりたいと既にウチの班で練習を始めてるんだ。
今年も１年の班見学ツアーはやるらしいし、多分その話もあってゴローさんが所沢さんに連行されてったんだけど。つーか「実力と人望のある部長」ってのはやっぱり目を引くな。字面の力も強いと言うか。
それから、ファンフェスステージの成功は文化会にも報告されていて、この実績を含めた上で今度の部費を計上してもらえるようになったそうだ。本当に、部長としてのゴローさんは書類仕事が嫌いなことだけが玉に瑕なんだろう。
「おはようございます」
「おーすみちる」
「海月は？ 対策委員？」
「っつってた。初心者講習会が終わるまではこんなモンだろってさ」
「ゴローさんは――」
「所沢さんに連行されてった」
「ああ、いつものか」
「そ。いつもの」
班長はゴローさんだけど、ステージはプロデューサーがいればある程度回る。だからゴローさんが所沢さんに連行されてもバタバタすることはないし、何なら部としての方針をちゃんと決めてもらわないと部員みんながバタバタするから部長の仕事を優先しろというのが班員の総意。
丸の池のステージの枠についても正確な物はもうちょっとしてから発表されるとのことだ。今はおおよその目安としての枠をもらってる状態で、準備はしておいてくださいねという期間。今一番忙しいのは台本を書く俺とマリンさんだ。
「マリンさん、今年も班見学ツアーはやるんですか？」
「やるっていう話ですよ。そのことも話し合わなきゃいけないのに、と連行されてったですよ」
「あー……」
「班としてのスタンスは去年と同じです。源班がどういう班かを見てもらうには実際の練習風景を見せるですよ。笑顔の絶えないアットホームな班ですと言いたげなお見合いに意味はないですよ」
「違いないっすね。どんなことをどんなレベルでやれる班かってのがわかんねーと、見学したところで余計迷うだけっすからね」
「インターフェイスの活動については説明するんですか？」
「そういうのはゲンゴローがやってるので私たちが改めてやる必要はないですよ。部長が言うなら出てみようかなって、初心者講習会にもウチから過去最多になる人数が参加するらしくて海月がヒーヒー言ってたですよ」
「ゴローさん効果ヤベー」
今年は新歓でもファンフェスのステージに出ることを押し出したりしてたからか、丸の池と大学祭が大きなステージですと言ってただけより見栄えがしたんだよな。実際それで興味を持った層もいるとかで。
それで入った結構な人数に、さらにゴローさんが畳みかけるようにインターフェイスっていう組織があってね、などと宣伝していたそうだ。実力と人望のある部長が楽しいよって言うもんだから、まあ興味は持たれるよな。ラジオに興味ある奴も一定数いたとはゴローさん談。
「それでなくても広く人前で作品を披露することの基本みたいなことは部では改めてやらないですよ。初心者講習会でやってもらえるならこっちで教える手間も少し省けますですし、声をかけまくったそうです」
「で、海月が大変なことになってると」
「でも、インターフェイス的には機材補償費がたんまりですよ」
「あ、そうっすよね。ゴローさんの宣伝効果っすね」
「対策委員の活動ですし会場になってる青敬にも費用は分配されるですから全額定例会の収入にはならないですけど、それでもまあまあのお金にはなるですよ」
「えっ、その計算式ってどーなるんでしたっけ。この場合定例会に入るのって」
「２分の１ですよ。今回の場合は対策委員が４分の１で、機材を貸し出す青敬にも４分の１が入るです」
「なるほど。え、それで機材がぶっ壊れたらどーなるんすか？」
「機材補償費で青敬の機材を補償することになるです。先の分配は何事もなかったときの話ですよ」
「あざっす。勉強になるっす」
「さて、いい時間になったですし、ステージの話をするですよ」
「はーい」
まだマリンさんがいるけど俺もいちプロデューサーとしてしっかりやってかねーとなっつー気合いは十分だ。学年も上がったし、ファンフェスを経て俺がやれることも増えた。１年も入ってくるしうかうかしてらんねーよな。筆と音は止めらんねーんだわ。よーし、書くぞ！
end.
＋＋＋＋
現場主義と言えば聞こえはいいと気付いたゲンゴローのアレ。班員は大体レオの味方である。
源班１年生についてはまだまだ名前を考えてる段階なので実際にデビューするのはもうちょっと先？
機材保障費の観点でもしてやったりなことに気付いたマリン、さすが定例会の会計だね
(phase3)
.
