2022
■特攻隊長の計画
++++
「いいか、今年は絶対に買い過ぎるな! 悪魔に魂は売れないぞ!」
「どーする、やりたいことを絞んなきゃだよむぎぃ」
「やりたいことが多すぎるのは大体来須サンなんだよね~」
佐藤ゼミのバーベキューは、1学年につき25000円の予算で買い物をしなければならない。3年生からは酒も解禁されるし、居酒屋での打ち上げの補助金にしてもいいそうだけど、食材もしっかり買わなければならないことに変わりはない。
ただ、去年までと絶対的に違う点。悪魔に魂は売れないというシノの表現の仕方はともかく、困ったときの果林先輩はもういない。俺たちが3年ということは、2つ上の先輩はよほどのことがない限り卒業済み。買ったものは自分たちで何とかする必要がある。
「ところで陸、飲酒解禁だけどどれくらい飲む?」
「俺はあればあるだけ飲むけど、他の人がどれくらい飲むかまでは完璧に把握しきってないよ。シノが飲めないとか、亮真と村上君がめちゃくちゃ飲むとかそれくらいしか」
「和は鉄道関係なくても飲むからね~」
「とりあえず陸がアルコール隊長ね! お酒のことは仕切ってもらうから!」
「あまり名誉な役職じゃないなあ」
「文句言うな! ウチらの学年で一番飲む奴が責任持って飲む分だけ買えっていうだけの話でしょーよ! ああ、それともお酒は要らないと?」
「すみません要ります!」
まいみぃ曰く、俺たちの学年では俺と亮真、それから村上君の飲む量が際だって多いそうだ。俺だってMBCC基準で言えば普通くらいだと思うけど。そう呟くと、シノは酒豪しかいないウチのサークルを基準にするなと俺を諭す。
「智也、アンタ車の免許は持ってたっけ?」
「現状ペーパーだけど一応ある」
「オートマ限定?」
「や、マニュアル」
「ならよかった。最悪の場合車動かしてもらうことになるかもだし。ないようにはするけどね」
「あー、飲めないとそういうのが回ってくるのか」
「だってゼミで一番弱いの多分アンタだし。飲み会でもほとんど飲まないじゃん」
「まあ、マジで飲めないからな。あんま弱すぎてもアレかなと思って練習はしてるけど、家以外で飲もうって気には全然なんねーわ」
高木先輩によれば、鵠沼先輩はシノよりもっと飲めないそうで、受動喫煙などでも体調を崩してしまうとのこと。だからゼミの飲み会などでも外に出やすい席にしてもらうなどの対策をして臨んでいるそうだ。シノと鵠沼先輩はその辺りの苦労があるある話として盛り上がるらしい。
俺はシノの飲酒の練習には必ず付き合ってるけど、多分今以上強くなることはそうそうないんだろうなと思う。一緒に飲んでいても、最終的には一口飲んでもういいわってなったシノが俺のつまみを作ってくれるとか、そんなことになってしまっている。
「そうだ、買い出しとは直接関係ないけど智也、アンタ新じゃがに興味ある?」
「新じゃが? 興味しかない」
「よくあるデッカいジャガイモじゃなくて、ころころっとした、ピンポン玉くらいの小さいヤツなんだけど。素揚げして甘辛く煮るとすっごい美味しいからやってみてよ、アタシの畑で採れたのあげるから」
「マジか! サンキュ! ササ、作ったら食いに来るだろ?」
「もちろん」
「佐々木クンてすっごい美人の彼女いるはずなのに、胃袋を掴んでるのがシノキ君っていうね~」
「大丈夫。玲那は俺とシノの事に関して寛容だから」
「陸のドヤ顔ってこんなに腹立ったっけ?」
「来須サンは、佐々木クンのシノは俺のだぞアピールがムカついただけっしょ?」
「うるせーわ」
最近は何だかシノとまいみぃがいい雰囲気で、下梨君がまいみぃを冷やかす図は度々見る。シノとは飲みながらその辺の事に関しても話すけど、くららとまいみぃの間で揺れる感情とどう折り合いをつけるか、それが本人なりにまだ難しいそうだ。
俺だったら2人同時に好きになったって自分の恋愛の仕方がそういうものだとわかっているから頑張るかあとなるだけだけど、シノが恋愛をするのは基本的に1人相手だから、どちらにも不誠実にならないようにしたいという風に言っていた。
「とりあえず去年の教訓としては、前菜と炭水化物は控えめでいいってことだな」
「そーね。野菜は欲しいけど、確かに去年はメインが肉ってことを忘れてたわ」
「何にしても肉を食いたいんだよ俺は。ちょっとグレードの高い牛肉とか買えねー?」
「まだ20人以上いるんだからムリ」
「4年になってからか!」
「まあそーなるっしょ。4年生は任意参加になるから人数が減って贅沢出来るようになるワケだし」
「ワンチャン4年生が肉余らせて俺らんトコに降りてこねーかなあ」
「シノ、高木先輩がいる時点で酒に予算が振られてる可能性を考えた方がいいぞ」
「や、言ってあの人自腹切らずにいい肉食いたい人だしワンチャンないかなと思って」
「自腹切らずにいい肉食べていい酒を飲むだろ」
「だよなー…! 俺も自腹切らずにいい肉食いてー!」
そもそも、4年生にもなればゼミバーベキューの攻略法なんかもしっかり把握しているので、無駄な買い物はしないし予算も無駄なく自分たちの学年で使い切ることが出来るようになる。おこぼれなんかは期待しない方がいいだろう。
「てか仮にもアンタら自分たちの先輩を何だと思ってんの?」
「先生にゼミのエースとまで呼ばれる先輩に対する扱いではないねー」
「や、でも高木先輩はあーいう人だし」
「俺は尊敬しかしてないし、高木先輩が幸せならそれでいい。だからタダ肉タダ酒を存分に味わって楽しんでもらいたいと言っているだけじゃないか」
「陸の言うことに説得力がまるでない」
「麻衣、ササに高木先輩の話を振ると情緒不安定になるから今後はちょっと控えめにしてくれ」
「これに関してはアンタの言う通りにするわ」
「佐々木クン、結局お酒はいくら分くらい飲みたいか決めた?」
「350ml缶で1人平均1、2本と仮定して、甘めのチューハイとしっかりしたチューハイが10本ずつ、ビールが24本で5000円くらいにならないかなとは。もっと欲しい人は自分で持ってくるスタイルでどう?」
「まあ妥当じゃない? 余ってもどーせ3酒豪が飲むっしょ」
「さて、俺はもっと飲みたいけど飲むと原付に乗れないんだよな。シノ~」
「わーったよ、俺が原付で酒持って上がればいいんだろ」
「相棒、恩に着る」
end.
++++
佐藤ゼミの話になるとそのときの主流より学年を上げたくなるのはある種の病気。
この時間軸だとササのTKG強火勢っぷりがさらにアレになっているけどまだまだ元祖のノサカには敵わないのである
(phase4)
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「いいか、今年は絶対に買い過ぎるな! 悪魔に魂は売れないぞ!」
「どーする、やりたいことを絞んなきゃだよむぎぃ」
「やりたいことが多すぎるのは大体来須サンなんだよね~」
佐藤ゼミのバーベキューは、1学年につき25000円の予算で買い物をしなければならない。3年生からは酒も解禁されるし、居酒屋での打ち上げの補助金にしてもいいそうだけど、食材もしっかり買わなければならないことに変わりはない。
ただ、去年までと絶対的に違う点。悪魔に魂は売れないというシノの表現の仕方はともかく、困ったときの果林先輩はもういない。俺たちが3年ということは、2つ上の先輩はよほどのことがない限り卒業済み。買ったものは自分たちで何とかする必要がある。
「ところで陸、飲酒解禁だけどどれくらい飲む?」
「俺はあればあるだけ飲むけど、他の人がどれくらい飲むかまでは完璧に把握しきってないよ。シノが飲めないとか、亮真と村上君がめちゃくちゃ飲むとかそれくらいしか」
「和は鉄道関係なくても飲むからね~」
「とりあえず陸がアルコール隊長ね! お酒のことは仕切ってもらうから!」
「あまり名誉な役職じゃないなあ」
「文句言うな! ウチらの学年で一番飲む奴が責任持って飲む分だけ買えっていうだけの話でしょーよ! ああ、それともお酒は要らないと?」
「すみません要ります!」
まいみぃ曰く、俺たちの学年では俺と亮真、それから村上君の飲む量が際だって多いそうだ。俺だってMBCC基準で言えば普通くらいだと思うけど。そう呟くと、シノは酒豪しかいないウチのサークルを基準にするなと俺を諭す。
「智也、アンタ車の免許は持ってたっけ?」
「現状ペーパーだけど一応ある」
「オートマ限定?」
「や、マニュアル」
「ならよかった。最悪の場合車動かしてもらうことになるかもだし。ないようにはするけどね」
「あー、飲めないとそういうのが回ってくるのか」
「だってゼミで一番弱いの多分アンタだし。飲み会でもほとんど飲まないじゃん」
「まあ、マジで飲めないからな。あんま弱すぎてもアレかなと思って練習はしてるけど、家以外で飲もうって気には全然なんねーわ」
高木先輩によれば、鵠沼先輩はシノよりもっと飲めないそうで、受動喫煙などでも体調を崩してしまうとのこと。だからゼミの飲み会などでも外に出やすい席にしてもらうなどの対策をして臨んでいるそうだ。シノと鵠沼先輩はその辺りの苦労があるある話として盛り上がるらしい。
俺はシノの飲酒の練習には必ず付き合ってるけど、多分今以上強くなることはそうそうないんだろうなと思う。一緒に飲んでいても、最終的には一口飲んでもういいわってなったシノが俺のつまみを作ってくれるとか、そんなことになってしまっている。
「そうだ、買い出しとは直接関係ないけど智也、アンタ新じゃがに興味ある?」
「新じゃが? 興味しかない」
「よくあるデッカいジャガイモじゃなくて、ころころっとした、ピンポン玉くらいの小さいヤツなんだけど。素揚げして甘辛く煮るとすっごい美味しいからやってみてよ、アタシの畑で採れたのあげるから」
「マジか! サンキュ! ササ、作ったら食いに来るだろ?」
「もちろん」
「佐々木クンてすっごい美人の彼女いるはずなのに、胃袋を掴んでるのがシノキ君っていうね~」
「大丈夫。玲那は俺とシノの事に関して寛容だから」
「陸のドヤ顔ってこんなに腹立ったっけ?」
「来須サンは、佐々木クンのシノは俺のだぞアピールがムカついただけっしょ?」
「うるせーわ」
最近は何だかシノとまいみぃがいい雰囲気で、下梨君がまいみぃを冷やかす図は度々見る。シノとは飲みながらその辺の事に関しても話すけど、くららとまいみぃの間で揺れる感情とどう折り合いをつけるか、それが本人なりにまだ難しいそうだ。
俺だったら2人同時に好きになったって自分の恋愛の仕方がそういうものだとわかっているから頑張るかあとなるだけだけど、シノが恋愛をするのは基本的に1人相手だから、どちらにも不誠実にならないようにしたいという風に言っていた。
「とりあえず去年の教訓としては、前菜と炭水化物は控えめでいいってことだな」
「そーね。野菜は欲しいけど、確かに去年はメインが肉ってことを忘れてたわ」
「何にしても肉を食いたいんだよ俺は。ちょっとグレードの高い牛肉とか買えねー?」
「まだ20人以上いるんだからムリ」
「4年になってからか!」
「まあそーなるっしょ。4年生は任意参加になるから人数が減って贅沢出来るようになるワケだし」
「ワンチャン4年生が肉余らせて俺らんトコに降りてこねーかなあ」
「シノ、高木先輩がいる時点で酒に予算が振られてる可能性を考えた方がいいぞ」
「や、言ってあの人自腹切らずにいい肉食いたい人だしワンチャンないかなと思って」
「自腹切らずにいい肉食べていい酒を飲むだろ」
「だよなー…! 俺も自腹切らずにいい肉食いてー!」
そもそも、4年生にもなればゼミバーベキューの攻略法なんかもしっかり把握しているので、無駄な買い物はしないし予算も無駄なく自分たちの学年で使い切ることが出来るようになる。おこぼれなんかは期待しない方がいいだろう。
「てか仮にもアンタら自分たちの先輩を何だと思ってんの?」
「先生にゼミのエースとまで呼ばれる先輩に対する扱いではないねー」
「や、でも高木先輩はあーいう人だし」
「俺は尊敬しかしてないし、高木先輩が幸せならそれでいい。だからタダ肉タダ酒を存分に味わって楽しんでもらいたいと言っているだけじゃないか」
「陸の言うことに説得力がまるでない」
「麻衣、ササに高木先輩の話を振ると情緒不安定になるから今後はちょっと控えめにしてくれ」
「これに関してはアンタの言う通りにするわ」
「佐々木クン、結局お酒はいくら分くらい飲みたいか決めた?」
「350ml缶で1人平均1、2本と仮定して、甘めのチューハイとしっかりしたチューハイが10本ずつ、ビールが24本で5000円くらいにならないかなとは。もっと欲しい人は自分で持ってくるスタイルでどう?」
「まあ妥当じゃない? 余ってもどーせ3酒豪が飲むっしょ」
「さて、俺はもっと飲みたいけど飲むと原付に乗れないんだよな。シノ~」
「わーったよ、俺が原付で酒持って上がればいいんだろ」
「相棒、恩に着る」
end.
++++
佐藤ゼミの話になるとそのときの主流より学年を上げたくなるのはある種の病気。
この時間軸だとササのTKG強火勢っぷりがさらにアレになっているけどまだまだ元祖のノサカには敵わないのである
(phase4)
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