2022

■落ち着いた次の段階

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 年度が替わって1ヶ月ほどが経ち、MBCCにも5人の1年生が加入してとても賑やかになったのを感じる。自分たちの代として3年生までの15人とゆず先輩の16人でやっていくんだなあと思うと気も引き締まるけどしみじみしたりもして、一言では言い表せないものがのし掛かってくる。
 3年生はアナウンス部長のエイジに機材部長の俺、会計のハナちゃんを主に、ふらりと現れる壮平がたまに俯瞰で見た活動の改善点なんかをポイッと放ってまたふらりといなくなる。そんな感じで何だかんだ悪くないバランスを保っている。
 2年生の6人は相変わらずとても仲がいい。進級したことでゼミやその他でそれぞれの忙しさが生まれたようだけど、ここで6人でいる分には何ら平和的だなと思う。この段階でまだ誰も離脱してないし、これからもこんな感じなんだろうなあ。

「エイジ、今週はファンフェス関係のことがメインになるんでしょ」
「それもやりつつ、基礎的なこともやるべ。1年にはファンフェスの事なんか関係ないっていう。実戦練習を積ますか、打ち合わせを見て学ばすかは考え中だけどな」

 ファンタジックフェスタがいよいよ今週末に迫る中で、打ち合わせに行ってきますと欠席する子もちらほら出ている。1年生にはこういう行事があってという風に説明はしてあるけど、それを我が事として実感するのは1年先かな。

「今日はレナとサキがファンフェスの打ち合わせだっつってたな」
「そうだね」
「ササとシノはどうした」
「うーん、もしかしたらゼミのバーベキューの関係で捕まってるのかもね。買い出しに行くにしても明日だと思うんだけど。あ、水曜日は俺も休みだから」
「ササとシノもだな」
「そうだね」
「あっ、エージ先輩、あたし水曜日向島に行ってカノンと打ち合わせるんで休みます!」
「俺はその送迎です」
「了解だべ。すがやん、ついでに向島の何がどう変わったかまた偵察して来てくれ」
「はーい。とりあえず、1年が4人入ったところまでは聞いてます」
「おっ、やるべ」

 向島さんの動向についてもすがやんつてに最新情報が常に入るようになっていた。1年生が4人入ったなら、先に引退した現4年生の先輩の数を補うことには成功したということだ。それがどんな子かはこれからわかってくるかな。
 その4人は最初からかなり個性的だったって言うけど、ウチの5人も慣れた頃にはちゃんと個性が出てくるんだろうなと思う。今はまだまだ様子見の子もいるだろうし。現段階で一番個性的なのは中(あたる)じゃないかな。

「すがやん先輩、向島ってどういう感じのトコなんですか?」
「俺が行ってた時は、とにかく自由で、MBCCじゃまずやらないようなことが平然と行われるって感じだったかな。例えば焚き火で焼き芋をやったり、冬至だからカレーうどんを食べようって言って鍋持ったOBの先輩が乱入してきたりとか」
「え…? カレーうどん?」
「私はカレーうどんも嫌いじゃないけど、お菓子の方がいいなあ」
「この間は奈々先輩っていう3年生の先輩がアップルパイを焼いて持ってきたそうだし、その前にも卒業した人だけどチーズケーキをよく持ってきてくれてたそうだからそういうのもカバーしてるって」
「いいな~」

 くるみの打ち合わせの話で出た向島という単語に、去年の秋学期にすがやんがしていた文化交流を目的とする体の留学について1年生が興味津々な様子で聞いている。お互いこれだけ人数が増えれば番組の枠をもらったり譲ったりすることもなくなるだろうし、今年はないかなあ。
 純粋に向島の様子に興味を持って最初に質問したのが一ノ瀬凛斗。この子は社学メディ文で、学部オリエンテーションのラジオブースで釣れた典型的なタイプの子だ。現状ササとシノを足して2で割ったような感じという印象。
 佐藤ゼミに興味を持っている子はあと2人いる。甘いもの好きでくるみと仲がいい、ちむりーこと千村毬生さん。彼女はとてもほんわかした雰囲気だけど勉学には物凄く真面目なミキサーなので、春学期の成績如何では俺とシノにとってかなりの脅威となる存在だ。
 もう1人は最初から個性が爆発していた百崎中。この子は占い稼業の家に育ち、自分も将来は占いで食べるつもりでいるそうだ。だけどその前に星読みをせず口だけで人の心を揺さぶる話術をライトに身につけようとMBCCに来た結果、機材にピンと来てミキサーをやることになった。
 現状佐藤ゼミを志望する3人が本当にゼミに入るとするなら、中とちむりーは通れるかなと思う。そもそもがミキサーだし、中は個性が強くてちむりーは優秀だろうから。ミキサーとしての腕が最低限まで伸びる前提だけど。
 アナウンサーの凛斗がどうなるかは成績と隠された個性次第かな。あとは同じアナウンサーであるササが、ラジオをやる上でどれだけアナウンサーが大事かを先生に実力で思い知らせるかだ。それはササ自身の生存戦略になってくるし、頑張って欲しい。

「周(あまね)と琉生はまだかなー」
「理系の子は遅いイメージだし、これからじゃないかな」
「高木先輩、ちなみに佐藤ゼミのバーベキューってどんな感じなんですか?」
「言っても普通のバーベキューだよ。ああ、でも買い物のときに遣り繰りの腕を問われるかな」
「バーベキューいいっすねー。ワンチャンMBCCでバーベキューとかやらないっすか? ねえエージ先輩、バーベキューやりましょうよ」
「やりたいって言うなら具体的に考えて持って来いっていう。やりたいって言うだけなら簡単だべ。でもやりたいっつって後は他人任せっつーのは違うっていう」
「ヒー、キビシーっす。高木先輩、エージ先輩あんま乗り気じゃないっすか?」
「それとこれとは別問題だね。でもMBCC的には緩い諭し方だよ」
「マジすか」
「バーベキューをやるとして、お金の工面と日程調整、会場の手配、お酒はアリなのかナシなのか、買い出しや荷物の運搬にしてもハナちゃんとすがやんの力は絶対に借りなきゃいけないよ。人数が増えれば増えるほど行事の企画運営は難しいからね。エイジはそういうことを言ってるんだよ。ダメだとはひとつも言ってないから、本当にやりたいんならきちんと調べて計画を立ててねって話」

 すると凛斗はもーちょっと経験を積んでからにしまーすと案外簡単に引き下がってしまった。うーん、エイジもまだまだプレゼンバトルは初心者の方なんだけどなあ。いや、歴代の先輩たちが強すぎた可能性もあるにはあるけど。

「いきなりサークル全員じゃなくて、まずは1年5人で遊ぶところからどんどん規模をデカくしてくぞ!」
「凛斗、頑張って」
「意気込みはいいけど、そんな調子でやってたら3年生の先輩は引退しちまわねーか?」
「言ってレベル上げは必要だろ」
「まーな?」
「すがやん先輩、2年生の先輩って6人で遊ぶこととかあります?」
「あるけど、そういうんだったら俺よりもササに聞く方がいいかな。アイツ、旅行の幹事とかしてくれたし、経験はあるから」
「ホントっすか! あざーっす! 見とけよ中!」
「ま、期待しすぎない程度に期待しとくわ」


end.


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MBCCのフェーズ3初回。1年生は5人中3人をピック。ゆくゆく佐藤ゼミに入ることになる子たち。ちむりーをすでに脅威と捉えるTKGである
ササたちの代になると、多分すがやんがいち氏的ポジションでみんなを見守るのかな感。サキは多分結構厳しい。
すがやんは自分が計画を立てるよりは人に誘われる方が多いんやろなあ

(phase3)

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