2022

■Nice to meet you!

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 春風の家がやっている自動車工場の敷地でやるバーベキューに招かれたから、助手席に母さんを乗せて行く。工場の慰労会みたいな感じの会らしいけど、鳥居家の人や従業員の人がみんなそれぞれ適当にお誘いの声をかけたようで、参加者は結構な人数になるそうだ。俺も声をかける権利をもらったからサキに声をかけたし、春風はレナに声をかけた。

「こんにちはー」
「おっ、徹平。ちゃんとくみちゃん連れて来たな?」
「母さんは今ご両親に挨拶をしてますね。何か手伝うことありますか?」
「そしたら、向こうで春風が肉の準備してるからそっち行ってやってくれ。結構な量あるから」
「わかりました。そしたらお邪魔します」

 工場の奥にある流し場では昨日買って来た肉を春風が冷蔵庫から取り出して支度をしている。こうして見るとやっぱり凄い量を買って来たなと思う。でもこれくらいは必要だと春風が言うのだから必要になるのだろう。

「春風、その肉持ってく?」
「ああ、徹平くん。それでは、この牛肉を外の網の方へ持って行ってもらっていいですか?」
「わかったよ。よいしょっと」

 大量の肉を抱えて言われた網の方に行くと、白いカッコいい車が滑り込んで来て、運転席からは芸能人かと思うほど男前でオーラのある人と、助手席からサキが降りて来た。パッと見関係性が分からなさすぎる。

「ああ、すがやん。おはよう」
「サキ、おはよう。乗せてもらって来たのか」
「うん。塩見さんは西海で方角が一緒だから」
「どういう知り合いなんだ?」
「バイト上がりでたまに行くバーの話はするでしょ。そこで知り合った社会人の人だよ。細かな経緯は長くなるから割愛するけど、大体そんな感じ。春風のお兄さんから声がかかったんだって」
「へえ」
「塩見さん。今日はお越しいただきありがとうございます」
「よう春風。これ、差し入れだから適当に焼いてくれ」
「ありがとうございます! すみません、わざわざ用意していただいて」
「それだけ俺も食うからな」

 サキと話していると塩見さんという例の人と春風が挨拶をしているようだった。春風に手渡された袋は遠目に見てもなかなかな重量感がありそうな雰囲気だ。

「徹平くん、塩見さんから差し入れのお肉をいただきました。こちらもそのお肉と一緒に置いておいてください」
「わかったよ。……うっわ、すっげー美味そう。こんな肉見たことない」
「本当ですね! もしかしなくても、凄く高価なお肉なのでは…?」
「あの人はお兄さんの知り合いの人?」
「そうですね。兄の知り合いで、うちの工場を贔屓にしてもらっている常連さんでもあります」
「最初見たとき芸能人か何かかと思った。銀か白みたいな髪色だしピアスめっちゃついてるし、それでいて派手さに本人のオーラが負けてないと言うか」
「倉庫で働いているので、装飾品はともかく髪の色に対する規則は特にないそうなのです」
「へー」
「春風、レナはもう来てる?」
「まだですね。何かあれば連絡があると思いますから、それがないということはもうそろそろじゃないでしょうか」
「寝過ごしてないといいけどね」
「……可能性はゼロじゃないのが何とも言えませんね」

 普段からオンラインでゲームをしている3人だけに、こうして実際に話している時には見えない面なんかも知っているのかもしれない。例えば、レナだったらクールでしっかりしてるっていうイメージだから俺は寝坊の可能性なんか考えないけど、この2人にはそれも少し大きな可能性として浮上してくるみたいだし。

「よーうお前ら、勢揃いじゃんか」
「さすがに奏多は余裕の到着ね」
「徒歩圏内ならこんなモンだろ。そーいや、すがやんのお袋さんは?」
「えーと、今はお兄さんと話してるっぽい」
「あっ、それじゃ邪魔したら真宙君にぶっ殺されるな。挨拶でもしとこうと思ったのに」
「いっそ張り倒されればいいのに」
「サキちーの酷さが安定なんだが!? 春風絡みの時の真宙君がどんだけガチか知らねーから軽々しく言えんだよ」
「と言うか奏多は菅谷先生のクラスだったことも物理の授業を受けたこともないんでしょう? 改めて挨拶をするような間柄でもないと思うんだけど」
「まあ、半分ミーハーなのは否定しないけどよ。一応同じ高校にいたことのあるよしみっつーヤツで?」
「すがやんのお母さんて物理の先生なんだね」
「そうなんだよ。あとそれとは別に天文学が好きで、元々星が好きだった春風を天文学沼に引きずり込んだ張本人らしい」
「へえ。それじゃあ本当の恩師なんだね」

 まだ来てない人も結構いるみたいだから、肉を焼くのはもう少ししたら。火や飲み物の準備をしながら話に花を咲かせている。自分たちもいつものメンバーで固まってばかりいないでいろいろな人と話せたらいいんだろうけどなあ、などと話していると、颯爽と赤いバイクがやってくる。レナの愛車だ。

「春風、間に合った?」
「レナ、おはようございます。まだ始まっていませんよ」
「はー、良かった」
「レナ、眠そうだね」
「起きたら10時半でホントに焦った」
「遅くまでゲームしてるから」
「サキには言われたくないんだけど」
「俺は寝坊してないよ」
「ツライ」
「レナも寝坊とかするんだなー」
「普段は気力で活動してるから。そうだ春風、家の人に挨拶したいんだけど。バーベキューに招待してもらってるワケだし」
「ああ、俺もまだだね」
「それでしたら、一緒に行きましょうか。工場の流しで支度をしているので」
「あと、すがやんのお母さんにも挨拶したいな」
「俺はどちらかと言えばすがやんのお母さんの方が挨拶しときたいかも」
「じゃあ俺もついてくよ。あっ、奏多、肉の番よろしく」
「――っておい! 俺は留守番かよ!」


end.


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いつの間にかサキと塩見さんがまあまあな知り合いになっているなど。地味に共通の話題あるもんなあ
サキやら春風からすればレナは夜更かしからのお寝坊さんだし、よっちゃんも多分また夜更かしかなあくらいにしかもう思ってないやろなあ

(phase3)

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