2022
■まだまだこれから
++++
「何つーか、お前の変わらなさには安心感しかないな」
「実際バイト先と就職先が同じだし、バイトでも社員でも基本勤務時間は一緒だから、大きく生活リズムが変わることもなかったからね」
就職してひと月、久々のプチメゾンだ。本来俺の会社は土曜だろうと日曜だろうと仕事のある時には出勤という勤務形態だ。自分の携わるイベントのスケジュールに則って動くという感じで。もちろん代休はあるので年間休日日数への影響は少ないという話だが。
とは言え新入社員の最初のひと月なんかは社会人としてのビジネスマナーがどうしたなどといった研修を受けるのが仕事だから、月曜から金曜の朝から夕方まで働いて、土日休みというスケジュールで動いている。実際の仕事を始めると出勤時間もフレックスになるらしい。
「勝手知ったる会社だし、人間関係も結構完成されてるだろ。まあまあやりやすいんじゃないか?」
「そうは言っても同期の人とはまだまだこれからだけどね」
「でも、彼とは結構仲良いだろ? ほら、越野君」
「そうだね。実際これから一緒に仕事をすることも増えるみたいだし、個人的にはやりやすいかな」
冬のバイトで少しだけ顔を合わせたときに、大石と同期入社になる越野君だと紹介を受けた。彼は紅社の大学で物流を学び、システム系の職種で採用されたそうだけど、塩見さんの目によれば体力もあるし筋がいいので現場でも十分にやれるとのこと。
そこで大石と越野君は塩見さんの助手として新倉庫で取り扱う製品の在庫管理の仕事をやるようになったそうだ。大石はもちろん現場でフォークリフトに乗ったり荷物を扱ったりするけど、越野君はそれをパソコンで管理する方の仕事を始めたとのこと。
ただ、パソコンで管理するとは言っても現物のこともわかっていなければならない。だから現場に出てきて自分の目でも確認して、という作業を一緒にやりながら製品知識を付けているそうだ。体力があるとわかっているので荷物の積み替えなどもしながららしい。
「俺は現場のことをやればいいし、事務職の子は事務のことを覚えればいいんだけど、越野はどっちもやらなきゃいけないから新人の中では多分一番大変だと思うんだよね」
「すげーな。俺あんま要領良くないから慣れない仕事を2ついっぺんにとかムリだ」
「朝霞は一点集中のスペシャリスト型だもんね」
「そう言えば聞こえはいいんだけどなあ。不器用なんだよ」
「朝霞の方はどう? 仕事は」
「研修が終わったくらいかな。実際の仕事はまだ」
「そっか。でも普通はそうなんだと思う。うちの会社はそこまで大きくないからまず現場に投入って感じだけど」
「ビジネスマナーがどうとかって会社でもなさそうだもんな」
「事務系だと多少は出てくるだろうけどね。電話とか、お客さんとか。でも俺はほとんどないよ」
電話の出方や名刺交換の練習もいくらかしたし、社会人としての物の考え方があーだこーだみたいなセミナーも受けた。でも正直さっさと実際の現場を見たい気持ちが強い。いや、所作が大事なのも十分にわかるんだけどもだ。
「本格的に仕事が始まると、朝霞はまた食べることも寝ることもしなくなるような感じ?」
「何つーか、そうなるのが自分でも見えてるんだよな。で、就活の時に友達になった子がそのまま同期になったんだけど、俺と同じワーカホリックタイプでいろいろ読まれてたのか、飯は食えっつってたまに弁当のおかず分けてくれんだよ」
「朝霞って男をナントカな“子”って表現しないよね。その友達の子って女の子?」
「ああ、女子だな。同期でタメだけどもう結婚してて、旦那特製の弁当を持ってきてんのな。俺は基本買い弁で」
「いいね、旦那さんのお弁当かあ。料理好きな旦那さんなのかな」
伊東さんの弁当は毎日マジで美味そうだなって思って見てる。冷凍食品なんかも使ってるそうだけど、最低1品は自分で作った物を入れたいというのが旦那のこだわりらしい。その旦那が作った物を分けてくれるんだよな。
「で、最近ちょっと趣味で忙しくしてて睡眠削った結果あーもうこれダメだゼリーで済ますっつってゼリーとレッドブル投入してたら怒られて、次の日どうなったと思う?」
「え、わかんない。でもその生活を叱ってくれるのはいい同期だと思うよ」
「旦那が俺の分の弁当まで作ってくれたんだよ」
「えー、凄いねー! てか気前いいねー」
「それが美味いのなんの」
「良かったじゃん。でも同期の子にそんな心配させるってどんな生活してるの朝霞」
「学生の頃とほとんど何も変わってないと思ってくれ」
「社会人としての自覚がまるでない」
「実際まだ働いてねーんだから自覚もクソもあるか」
「開き直ったねー」
「俺のことはいいんだよ。ここで相談なんだけどさ大石」
「うん、何?」
「今度その同期の子から家に飯食いに来いって誘われてるんだよ。旦那さんが張り切って作るからねって言って。俺はどうするべきだと思う?」
「うーん、それはお弁当のお礼も兼ねてお呼ばれしたら?」
「そうなるか。菓子折りとかいる?」
「知らないよ。でも同期だしそこまで肩肘張らない程度の手土産はあるといいかもね。食後のデザートになるような物とか」
「じゃあプリンでも持ってくかあ。でも実際ちょっと気まずくないか。嫁さんにそんだけ心配させてる会社の同期、それも野郎だぜ」
「でも旦那さんも張り切るってことは料理好きなんだろうし、もてなされてみたら? 旦那さんとも友達になれるかもしれないし。朝霞って人好きだし、そういうトコ結構デリカシーなくずかずか行く人じゃなかったっけ?」
「俺を何だと思ってるんだ。つか一言多いんだよお前は。いいけど」
去年の大喧嘩を経て俺に対する遠慮がなくなったのは良いことだとは思うけど、マジで大石は一言多い。コイツやっぱ普段は言葉を選びまくって濁してるけど、こういう奴のストッパーを外すと毒だの刃物だのが出てくるんだよな。それが楽しいんだけどもだ。
「朝霞、俺持ちで好きなの作るし機嫌直してよ」
「じゃあソーダフロート」
「えっ、お酒じゃないんだ!」
「悪いかよ」
「ううん、今作るよ」
end.
++++
朝霞Pに対しては程良く口が悪いといいなあちーちゃん。大体本当のことだから怒れないPさんなど
そーいやバイトの現場でPさんとこっしーの邂逅とかはやってないからいつか気が向いたらやる
(phase3)
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「何つーか、お前の変わらなさには安心感しかないな」
「実際バイト先と就職先が同じだし、バイトでも社員でも基本勤務時間は一緒だから、大きく生活リズムが変わることもなかったからね」
就職してひと月、久々のプチメゾンだ。本来俺の会社は土曜だろうと日曜だろうと仕事のある時には出勤という勤務形態だ。自分の携わるイベントのスケジュールに則って動くという感じで。もちろん代休はあるので年間休日日数への影響は少ないという話だが。
とは言え新入社員の最初のひと月なんかは社会人としてのビジネスマナーがどうしたなどといった研修を受けるのが仕事だから、月曜から金曜の朝から夕方まで働いて、土日休みというスケジュールで動いている。実際の仕事を始めると出勤時間もフレックスになるらしい。
「勝手知ったる会社だし、人間関係も結構完成されてるだろ。まあまあやりやすいんじゃないか?」
「そうは言っても同期の人とはまだまだこれからだけどね」
「でも、彼とは結構仲良いだろ? ほら、越野君」
「そうだね。実際これから一緒に仕事をすることも増えるみたいだし、個人的にはやりやすいかな」
冬のバイトで少しだけ顔を合わせたときに、大石と同期入社になる越野君だと紹介を受けた。彼は紅社の大学で物流を学び、システム系の職種で採用されたそうだけど、塩見さんの目によれば体力もあるし筋がいいので現場でも十分にやれるとのこと。
そこで大石と越野君は塩見さんの助手として新倉庫で取り扱う製品の在庫管理の仕事をやるようになったそうだ。大石はもちろん現場でフォークリフトに乗ったり荷物を扱ったりするけど、越野君はそれをパソコンで管理する方の仕事を始めたとのこと。
ただ、パソコンで管理するとは言っても現物のこともわかっていなければならない。だから現場に出てきて自分の目でも確認して、という作業を一緒にやりながら製品知識を付けているそうだ。体力があるとわかっているので荷物の積み替えなどもしながららしい。
「俺は現場のことをやればいいし、事務職の子は事務のことを覚えればいいんだけど、越野はどっちもやらなきゃいけないから新人の中では多分一番大変だと思うんだよね」
「すげーな。俺あんま要領良くないから慣れない仕事を2ついっぺんにとかムリだ」
「朝霞は一点集中のスペシャリスト型だもんね」
「そう言えば聞こえはいいんだけどなあ。不器用なんだよ」
「朝霞の方はどう? 仕事は」
「研修が終わったくらいかな。実際の仕事はまだ」
「そっか。でも普通はそうなんだと思う。うちの会社はそこまで大きくないからまず現場に投入って感じだけど」
「ビジネスマナーがどうとかって会社でもなさそうだもんな」
「事務系だと多少は出てくるだろうけどね。電話とか、お客さんとか。でも俺はほとんどないよ」
電話の出方や名刺交換の練習もいくらかしたし、社会人としての物の考え方があーだこーだみたいなセミナーも受けた。でも正直さっさと実際の現場を見たい気持ちが強い。いや、所作が大事なのも十分にわかるんだけどもだ。
「本格的に仕事が始まると、朝霞はまた食べることも寝ることもしなくなるような感じ?」
「何つーか、そうなるのが自分でも見えてるんだよな。で、就活の時に友達になった子がそのまま同期になったんだけど、俺と同じワーカホリックタイプでいろいろ読まれてたのか、飯は食えっつってたまに弁当のおかず分けてくれんだよ」
「朝霞って男をナントカな“子”って表現しないよね。その友達の子って女の子?」
「ああ、女子だな。同期でタメだけどもう結婚してて、旦那特製の弁当を持ってきてんのな。俺は基本買い弁で」
「いいね、旦那さんのお弁当かあ。料理好きな旦那さんなのかな」
伊東さんの弁当は毎日マジで美味そうだなって思って見てる。冷凍食品なんかも使ってるそうだけど、最低1品は自分で作った物を入れたいというのが旦那のこだわりらしい。その旦那が作った物を分けてくれるんだよな。
「で、最近ちょっと趣味で忙しくしてて睡眠削った結果あーもうこれダメだゼリーで済ますっつってゼリーとレッドブル投入してたら怒られて、次の日どうなったと思う?」
「え、わかんない。でもその生活を叱ってくれるのはいい同期だと思うよ」
「旦那が俺の分の弁当まで作ってくれたんだよ」
「えー、凄いねー! てか気前いいねー」
「それが美味いのなんの」
「良かったじゃん。でも同期の子にそんな心配させるってどんな生活してるの朝霞」
「学生の頃とほとんど何も変わってないと思ってくれ」
「社会人としての自覚がまるでない」
「実際まだ働いてねーんだから自覚もクソもあるか」
「開き直ったねー」
「俺のことはいいんだよ。ここで相談なんだけどさ大石」
「うん、何?」
「今度その同期の子から家に飯食いに来いって誘われてるんだよ。旦那さんが張り切って作るからねって言って。俺はどうするべきだと思う?」
「うーん、それはお弁当のお礼も兼ねてお呼ばれしたら?」
「そうなるか。菓子折りとかいる?」
「知らないよ。でも同期だしそこまで肩肘張らない程度の手土産はあるといいかもね。食後のデザートになるような物とか」
「じゃあプリンでも持ってくかあ。でも実際ちょっと気まずくないか。嫁さんにそんだけ心配させてる会社の同期、それも野郎だぜ」
「でも旦那さんも張り切るってことは料理好きなんだろうし、もてなされてみたら? 旦那さんとも友達になれるかもしれないし。朝霞って人好きだし、そういうトコ結構デリカシーなくずかずか行く人じゃなかったっけ?」
「俺を何だと思ってるんだ。つか一言多いんだよお前は。いいけど」
去年の大喧嘩を経て俺に対する遠慮がなくなったのは良いことだとは思うけど、マジで大石は一言多い。コイツやっぱ普段は言葉を選びまくって濁してるけど、こういう奴のストッパーを外すと毒だの刃物だのが出てくるんだよな。それが楽しいんだけどもだ。
「朝霞、俺持ちで好きなの作るし機嫌直してよ」
「じゃあソーダフロート」
「えっ、お酒じゃないんだ!」
「悪いかよ」
「ううん、今作るよ」
end.
++++
朝霞Pに対しては程良く口が悪いといいなあちーちゃん。大体本当のことだから怒れないPさんなど
そーいやバイトの現場でPさんとこっしーの邂逅とかはやってないからいつか気が向いたらやる
(phase3)
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