2022
■Hardness & Softness
++++
「おはようございます」
「おはよーさーん」
授業が終わり、奏多と一緒にサークル室まで行き、挨拶をすれば返って来る声の数が圧倒的に増えたなと思います。私と奏多の挨拶に対し、1年生の声が4人分。この時点で既に先に引退した現4年生の人数と並んだのと同時に、2年生と3年生を合わせた数と同じだけの人数がサークルに加入してくれたのです。
現在はインフォメーション放送として流している昼の短い番組が意外に認知されたこと、そして机を並べて開いたブースに立ち寄ってくれる人もいました。ですから、この方法での新入生勧誘が効果的だったということが言えそうです。このまま今いる4人が定着してくれれば、サークル存続の危機ということもひとまずは回避できるのかなと。
「奈々さんとかっすーはまだっぽいな」
「そのようね」
「奈々先輩って3年生ですし、やっぱ授業とか少ないんですかね?」
「そりゃあ俺らよりは少ないだろうよ。今は新歓のブース出してるから2日に1回のペースで昼に来てるけどよ」
「今日のブース当番はカノン先輩ととりぃ先輩でしたっけ?」
「そうですよ」
「ブースって今月いっぱい出せるんでしたよね? まだこれから人が来る可能性もバリバリあるって感じですか?」
「バリバリあるぜ~。ま、これ以上要らないってんならブースを出さなきゃいいだけだしな」
「奏多、あなた言っていい冗談とそうでない冗談があるのよ」
今いる1年生4人に関しては、DJネームを決める会議というのも行われたのですが、最終的に奏多が適当に付けたような名前を皆さん採用してしまいました。私は本当にそれでいいのかと繰り返し確認したのですがみんな受け入れているようで、その名前で呼び合い仲良くしています。仲が良いのは良いことだと思います。
最初にサークルに加入してくれた朝宮健人くんには服にあしらわれていた国旗からジャックという名前が付きました。次に来た鷹来純平くんは比較的わかりやすくジュンと。彼は二浪の結果、現在奈々先輩と同い年で今年21歳になるそうです。私や希くんから見ればひとつ年上ですね。だからか、少し大人びた感じがします。
3番目に来てくれたのが、体も大きく厳つい顔つきからか第一印象では少し怖がられることも多いという勝川要くんです。彼は口数も比較的少なくどっしりと構えているので殿と呼び名が付きました。そして一番最近来てくれた玉野千歳くん。彼は家でサボテンを育てているということで、その品種であるパロディアになぞらえパロと決まりました。
「とりぃ先輩って松兄に対してはめちゃくちゃ厳しいっすよね」
「そーだぞジャック。春風は俺に対してだけ馬鹿の一つ覚えみたいに説教してくんのよ」
「あなたがだらしないのを看過できないのよ」
「いやいや、2年長く生きてる分人生経験みてーなモンも多少はちげーワケよ。なあジュン! お前も何とか言ってやれ」
「奏多先輩の人生経験がどんな物かはわかりませんが、少なくとも自分はそこまで誇れるような人生を送ってきていないので何とも」
「そこはテキトーに口裏合わせんだよ」
「ええ……」
「みんながみんなあなたと同じだと思わないで。ジュン、奏多がごめんなさい」
「いえ、大丈夫です」
「春風、そんなにガミガミ怒鳴ってたらせっかく来た1年が逃げてって奈々さん悲しむぜ~?」
「誰がそうさせてるのよ。あと、奈々先輩の名前を出すのは反則でしょう」
「大丈夫ですよとりぃ先輩。僕たちは今の件も幼馴染みあるある的なものだと認識してますから」
「組織には、空気を締める存在も必要かと」
「わっ、殿が喋った」
「俺が喋ると、そんなにおかしいか」
「いえ、おかしくないよ! ただ、珍しいなって思って」
「殿もパロもフォローをありがとうございます」
パロが幼馴染みあるあるだと認識してくれたのは本当に助かりましたし、殿にこうフォローされると何だか納得してしまうので不思議な説得力があるなと思います。余談ですが、私は1年生に対して硬すぎる2年生だと思われないよう意識的にあだ名となるDJネームを使って呼ぶようにしています。丁寧語があまり取れないのは仕様だと思って諦めました。
「おざまーす!」
「おはよーッ!」
「奈々先輩、希くんも、おはようございます」
「何と今日は、アップルパイを焼いてきましたーッ!」
「も~う、隣歩いててめっちゃいい匂いしてたんだよな~!」
「ちゃんと8等分して来てるし分けて食べようッ」
「この時間のおやつはめっちゃ助かります!」
「わあ、とっても美味しそうですね! えっ、これを奈々先輩が手作りで?」
「久し振りだったけど上手く出来てホントに良かったッ! あっ、みんな食べて食べてッ」
「いただきまーす!」
人数分用意してもらっているということで、あまりがっついて食い意地が張っていると思われないように我慢です。まずは1年生たちに取ってもらって、私はそれからでも大丈夫なのです。そんな私を見てどうせ奏多が面白がってるんでしょうけど。
「わあ…! 美味しいです! 殿、美味しいね」
「……これは、美味い」
「良かったーッ。あっ、2年生も食べてねッ」
「ありがとうございます。では、いただきますね」
「それじゃ俺も。ん、うまっ。奈々さんマジでやりますね」
「でしょ? とりぃはどう?」
「美味しすぎて感動しているところです! んーっ、幸せです!」
「とりぃが食べてるの見てるともっと与えたくなっちゃうなあッ! 可愛すぎッ!」
「それはいけません! 誘惑に負けてしまいます! そうなると余計なお肉が付いてしまって落とすのに一苦労なのです」
「それでなくても最近じゃすがやんもお前に食わそうとしてるもんな? お前が飯食ってるのの何が可愛いのか全っ然理解できねーけど」
「とりぃ先輩の彼氏さん、噂の」
「緑ヶ丘の」
「幸せなのは、いいことだ」
「本当ですよね。殿の言う通りだと僕も思います」
「あのっ、私の話はいいのでこれを食べたら発声練習をしますよ!?」
思いがけず爆弾が回って来たようで顔がとてもあっついです。早く外に出て風に当たりたい気分です。ですが1年生に関してはまだ物珍しい状態でしょうし、ファンフェスなどで実物の徹平くんを見れば名前だけでこんなに盛り上がることはなくなるでしょう。問題は奏多と、このような話題が好きな奈々先輩ですね。
「特に奏多、これから発声練習でみっ……ちりと! 扱いてあげる」
「や、ちょっと待て! 何でお前が仕切る前提なんだよ! 発声練習はアナ部長のかっすーが」
「前回発声練習後に希くんと話し合ったのです。今後は発声練習の進行役は1回交代にしましょうと。そう言えば全体への連絡はまだでしたのでこれを以って報告に替えさせていただきます」
「松兄ドンマイっす」
「つか俺ミキサーだぞ!? 扱くならアナのコイツらじゃねーのか!」
end.
++++
奏多に対してだけだけど春風がまあまあ地なので、完全にシメる役割になっている
MMPの1年生は現在4人。個性豊かなキャラクターを今後もっとわちゃわちゃさせたい。人数増えると増えた分だけ難しくなるけど
奈々のアップルパイとか結構久し振りに穿り返してきたトピックだなあ
(phase3)
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「おはようございます」
「おはよーさーん」
授業が終わり、奏多と一緒にサークル室まで行き、挨拶をすれば返って来る声の数が圧倒的に増えたなと思います。私と奏多の挨拶に対し、1年生の声が4人分。この時点で既に先に引退した現4年生の人数と並んだのと同時に、2年生と3年生を合わせた数と同じだけの人数がサークルに加入してくれたのです。
現在はインフォメーション放送として流している昼の短い番組が意外に認知されたこと、そして机を並べて開いたブースに立ち寄ってくれる人もいました。ですから、この方法での新入生勧誘が効果的だったということが言えそうです。このまま今いる4人が定着してくれれば、サークル存続の危機ということもひとまずは回避できるのかなと。
「奈々さんとかっすーはまだっぽいな」
「そのようね」
「奈々先輩って3年生ですし、やっぱ授業とか少ないんですかね?」
「そりゃあ俺らよりは少ないだろうよ。今は新歓のブース出してるから2日に1回のペースで昼に来てるけどよ」
「今日のブース当番はカノン先輩ととりぃ先輩でしたっけ?」
「そうですよ」
「ブースって今月いっぱい出せるんでしたよね? まだこれから人が来る可能性もバリバリあるって感じですか?」
「バリバリあるぜ~。ま、これ以上要らないってんならブースを出さなきゃいいだけだしな」
「奏多、あなた言っていい冗談とそうでない冗談があるのよ」
今いる1年生4人に関しては、DJネームを決める会議というのも行われたのですが、最終的に奏多が適当に付けたような名前を皆さん採用してしまいました。私は本当にそれでいいのかと繰り返し確認したのですがみんな受け入れているようで、その名前で呼び合い仲良くしています。仲が良いのは良いことだと思います。
最初にサークルに加入してくれた朝宮健人くんには服にあしらわれていた国旗からジャックという名前が付きました。次に来た鷹来純平くんは比較的わかりやすくジュンと。彼は二浪の結果、現在奈々先輩と同い年で今年21歳になるそうです。私や希くんから見ればひとつ年上ですね。だからか、少し大人びた感じがします。
3番目に来てくれたのが、体も大きく厳つい顔つきからか第一印象では少し怖がられることも多いという勝川要くんです。彼は口数も比較的少なくどっしりと構えているので殿と呼び名が付きました。そして一番最近来てくれた玉野千歳くん。彼は家でサボテンを育てているということで、その品種であるパロディアになぞらえパロと決まりました。
「とりぃ先輩って松兄に対してはめちゃくちゃ厳しいっすよね」
「そーだぞジャック。春風は俺に対してだけ馬鹿の一つ覚えみたいに説教してくんのよ」
「あなたがだらしないのを看過できないのよ」
「いやいや、2年長く生きてる分人生経験みてーなモンも多少はちげーワケよ。なあジュン! お前も何とか言ってやれ」
「奏多先輩の人生経験がどんな物かはわかりませんが、少なくとも自分はそこまで誇れるような人生を送ってきていないので何とも」
「そこはテキトーに口裏合わせんだよ」
「ええ……」
「みんながみんなあなたと同じだと思わないで。ジュン、奏多がごめんなさい」
「いえ、大丈夫です」
「春風、そんなにガミガミ怒鳴ってたらせっかく来た1年が逃げてって奈々さん悲しむぜ~?」
「誰がそうさせてるのよ。あと、奈々先輩の名前を出すのは反則でしょう」
「大丈夫ですよとりぃ先輩。僕たちは今の件も幼馴染みあるある的なものだと認識してますから」
「組織には、空気を締める存在も必要かと」
「わっ、殿が喋った」
「俺が喋ると、そんなにおかしいか」
「いえ、おかしくないよ! ただ、珍しいなって思って」
「殿もパロもフォローをありがとうございます」
パロが幼馴染みあるあるだと認識してくれたのは本当に助かりましたし、殿にこうフォローされると何だか納得してしまうので不思議な説得力があるなと思います。余談ですが、私は1年生に対して硬すぎる2年生だと思われないよう意識的にあだ名となるDJネームを使って呼ぶようにしています。丁寧語があまり取れないのは仕様だと思って諦めました。
「おざまーす!」
「おはよーッ!」
「奈々先輩、希くんも、おはようございます」
「何と今日は、アップルパイを焼いてきましたーッ!」
「も~う、隣歩いててめっちゃいい匂いしてたんだよな~!」
「ちゃんと8等分して来てるし分けて食べようッ」
「この時間のおやつはめっちゃ助かります!」
「わあ、とっても美味しそうですね! えっ、これを奈々先輩が手作りで?」
「久し振りだったけど上手く出来てホントに良かったッ! あっ、みんな食べて食べてッ」
「いただきまーす!」
人数分用意してもらっているということで、あまりがっついて食い意地が張っていると思われないように我慢です。まずは1年生たちに取ってもらって、私はそれからでも大丈夫なのです。そんな私を見てどうせ奏多が面白がってるんでしょうけど。
「わあ…! 美味しいです! 殿、美味しいね」
「……これは、美味い」
「良かったーッ。あっ、2年生も食べてねッ」
「ありがとうございます。では、いただきますね」
「それじゃ俺も。ん、うまっ。奈々さんマジでやりますね」
「でしょ? とりぃはどう?」
「美味しすぎて感動しているところです! んーっ、幸せです!」
「とりぃが食べてるの見てるともっと与えたくなっちゃうなあッ! 可愛すぎッ!」
「それはいけません! 誘惑に負けてしまいます! そうなると余計なお肉が付いてしまって落とすのに一苦労なのです」
「それでなくても最近じゃすがやんもお前に食わそうとしてるもんな? お前が飯食ってるのの何が可愛いのか全っ然理解できねーけど」
「とりぃ先輩の彼氏さん、噂の」
「緑ヶ丘の」
「幸せなのは、いいことだ」
「本当ですよね。殿の言う通りだと僕も思います」
「あのっ、私の話はいいのでこれを食べたら発声練習をしますよ!?」
思いがけず爆弾が回って来たようで顔がとてもあっついです。早く外に出て風に当たりたい気分です。ですが1年生に関してはまだ物珍しい状態でしょうし、ファンフェスなどで実物の徹平くんを見れば名前だけでこんなに盛り上がることはなくなるでしょう。問題は奏多と、このような話題が好きな奈々先輩ですね。
「特に奏多、これから発声練習でみっ……ちりと! 扱いてあげる」
「や、ちょっと待て! 何でお前が仕切る前提なんだよ! 発声練習はアナ部長のかっすーが」
「前回発声練習後に希くんと話し合ったのです。今後は発声練習の進行役は1回交代にしましょうと。そう言えば全体への連絡はまだでしたのでこれを以って報告に替えさせていただきます」
「松兄ドンマイっす」
「つか俺ミキサーだぞ!? 扱くならアナのコイツらじゃねーのか!」
end.
++++
奏多に対してだけだけど春風がまあまあ地なので、完全にシメる役割になっている
MMPの1年生は現在4人。個性豊かなキャラクターを今後もっとわちゃわちゃさせたい。人数増えると増えた分だけ難しくなるけど
奈々のアップルパイとか結構久し振りに穿り返してきたトピックだなあ
(phase3)
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