2022
■オフラインの現実
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「春風、読書が楽しそうだねえ」
「わかりますか?」
「いつもならゲームの延長に乗ってくれるのに、きっちり時間通り、回数通りに終わってるからね」
「すみません。レナやサキさんと遊ぶのも楽しいのですが、本は借りている物なので早く読まないとと思い」
「いやいや、大丈夫です」
「あの、サキさんは気を悪くしていないでしょうか」
「全然大丈夫だよ。多分すがやんから話が行ってるんじゃないかな。それにサキも多分今の春風の楽しみには理解があるタイプだから」
春休みが終わるとまた規則正しい生活が始まって、遊ぶのも夜がメインっていう感じになってきた。春風とは割と定期的に会ってるんだけど、お互いたまにはちゃんと顔を見て話さないとっていう危機感があったみたいだ。
顔を合わせることで健全な社会性を維持出来るじゃないけど、趣味のこと以外の顔も思い出さないとっていう危機感? お互い尻を叩き合って、ちゃんとした生活を送りなさいよって。尤も、春風は私に比べれば全然健全なワケなんだけど。
「それで、何冊借りてきたの?」
「手始めに10冊ですね」
「やるねえ」
「レナなら理解してもらえると思うんですが、興味の強い分野の本ばかりが並んだ重厚な本棚を前にしたときの高揚感です」
「わかりみしかない」
「菅谷先生の本棚はこの世の楽園なのです!」
「こんなとき彼氏の母親が恩師なのは強いわ。それも自分を宇宙沼に引きずり込んだ張本人ときた」
この間、春風はすがやんの家に招かれてお母さんに挨拶をしてきたそうだ。その挨拶は初対面の緊張感と言うよりは、高校卒業以来となる再会で会話に花が咲いたっていう、実に微笑ましい感じだったそうだ。まあ、すがやんの親御さんだし想像は出来る。
この話はすがやんからも聞いたんだけど、途中からはすがやんそっちのけでお母さんと春風が楽しそうに星や宇宙の話をしているので疎外感がハンパなかったそうだ。そうだよねえ。空の上を見る母と彼女に対して地面の下を見る息子だから。
私も一応陸の家には行ったことはあるけど家族に挨拶っていう機会はまだないし、陸がうちにっていうのはまだない。こうして見るとすがやんと春風の付き合いが既に両家公認みたいな感じになってるのは単純に強いなって思う。何せお兄さんの攻略が早すぎた。
「一般的に、彼氏の母親とか彼女の父親みたいなラスボス的存在って、こんなに早く攻略出来るモンじゃないと思うんだよ。あと、春風の家だったらお兄さんみたいなタイプの人とか」
「そうなんですよね。いろいろな偶然が重なった結果なんですよね」
「そう言えば、鳥居家はお兄さんは攻略済みだけどご両親はすがやんについて何か」
「現状では礼儀正しい感じのいい子だという評価ですね。レナのことも、こんなに仲良く出来る友達が出来てよかったと安心してくれたようです。もしレナのバイクに乗せてもらうことがあっても迷惑をかけない乗り方をしなさいと父が指導をしてきて。気が早いですよね」
「一応2人乗りはもう出来るからね。でも、春風を乗せる前に私も大学の駐車場とかで陸を乗せて練習しないと。安心して乗ってもらえるようになったら2人でどこか行こうか」
「はい。楽しみにしていますね。私も練習に励みます」
あーかわいい。ホントに練習頑張らないとね。春風を傷物にした日には各方面が怖すぎるから。でも、娘が人のバイクの後ろに乗ることを想定して指導をするとか、さすが自動車整備工場の家だなって。一般的にはそんな危ない物に乗ってはいけませんだと思うんだけど。
「そうだ。今度の連休に、うちの工場の敷地内でバーベキューをすることになりまして。工場の従業員さんや徹平くんに菅谷先生も来てくださることになり。ついで程度に奏多もいますが、もし良ければレナも来ませんか?」
「そんな錚々たるところに私がいてもいいのかって感じだけど」
「ぜひ来てください! 徹平くんはサキさんにも声をかけてくれたそうです」
「あ、そうなんだ。それじゃあ私もお呼ばれしようかな。でも、工場の慰労会とか両家のナントカみたいな会っぽいのに本当に大丈夫?」
「いえ、本当にただのバーベキューなのです。先生にまで声がかかったのは、兄さんが久し振りに先生に会いたいと言ったからで。兄さんは菅谷先生の言葉を胸に自動車整備工として自己研鑽し続けて来ましたから、挨拶をしたいのでしょう」
「中学の恩師の言葉を胸に当時からの目標を叶えるとか、はじめに聞いてた過保護で厳ついドシスコン兄貴の印象からはギャップありすぎなんだわ」
「あの過保護さえなければ立派な兄だと思うのですが……」
そう言って春風は大きな溜め息をひとつ。すがやんという彼氏と私という友達が出来たことで人間関係に関する過保護っぷりは少しマシになったそうだけど、交友関係が広がったことで出歩く範囲が広がって、今度はそれが心配なんだとか。
春風の取説をすがやんにバトンタッチして自分はやっと自由に、と思っていた松兄も、相変わらずお兄さんにいろいろと詰め寄られているとかいないとか。さすがに大学内のことまでは私とすがやんではカバー出来ないし、そこはやっぱり一番近い松兄の仕事になるよなあとは。
「ところで春風、すがやん本人とは最近どうですか」
「ええと……ゆっくりではありますが、会う度に新しい一面を発見出来て、楽しいです」
「く~っ、いいなあ! 楽しい時期だもんね」
「徹平くんの部屋も本や化石などがたくさんあって楽しいのですが、私が昔菅谷先生から借りた息子さんの本にお礼を書いて貼った付箋がまだ残っているのを見せてくれて」
「運命に引き寄せられてキスするヤツ!」
「いえ! してはいませんが!」
「こほん。失礼。でも彼氏の部屋でそのシチュエーションだと、アリかなとは思いました」
「まあ、いつかは……とは思うのですが。まだ付き合い始めて2ヶ月弱ほどですし」
「もう2ヶ月じゃん。それに付き合う前にキスはしてますよね?」
「それはそうですけど。だからこそお互いをちゃんと知っていきましょうという話になったわけですし」
「そうかー……その状況でないのかー……。春風たちが健全なのか自分たちが不健全なのかわからなくなってきたぞ」
end.
++++
多分どっちも。不健全という程でもないけどササレナはその辺手早かったであろう
(phase3)
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「春風、読書が楽しそうだねえ」
「わかりますか?」
「いつもならゲームの延長に乗ってくれるのに、きっちり時間通り、回数通りに終わってるからね」
「すみません。レナやサキさんと遊ぶのも楽しいのですが、本は借りている物なので早く読まないとと思い」
「いやいや、大丈夫です」
「あの、サキさんは気を悪くしていないでしょうか」
「全然大丈夫だよ。多分すがやんから話が行ってるんじゃないかな。それにサキも多分今の春風の楽しみには理解があるタイプだから」
春休みが終わるとまた規則正しい生活が始まって、遊ぶのも夜がメインっていう感じになってきた。春風とは割と定期的に会ってるんだけど、お互いたまにはちゃんと顔を見て話さないとっていう危機感があったみたいだ。
顔を合わせることで健全な社会性を維持出来るじゃないけど、趣味のこと以外の顔も思い出さないとっていう危機感? お互い尻を叩き合って、ちゃんとした生活を送りなさいよって。尤も、春風は私に比べれば全然健全なワケなんだけど。
「それで、何冊借りてきたの?」
「手始めに10冊ですね」
「やるねえ」
「レナなら理解してもらえると思うんですが、興味の強い分野の本ばかりが並んだ重厚な本棚を前にしたときの高揚感です」
「わかりみしかない」
「菅谷先生の本棚はこの世の楽園なのです!」
「こんなとき彼氏の母親が恩師なのは強いわ。それも自分を宇宙沼に引きずり込んだ張本人ときた」
この間、春風はすがやんの家に招かれてお母さんに挨拶をしてきたそうだ。その挨拶は初対面の緊張感と言うよりは、高校卒業以来となる再会で会話に花が咲いたっていう、実に微笑ましい感じだったそうだ。まあ、すがやんの親御さんだし想像は出来る。
この話はすがやんからも聞いたんだけど、途中からはすがやんそっちのけでお母さんと春風が楽しそうに星や宇宙の話をしているので疎外感がハンパなかったそうだ。そうだよねえ。空の上を見る母と彼女に対して地面の下を見る息子だから。
私も一応陸の家には行ったことはあるけど家族に挨拶っていう機会はまだないし、陸がうちにっていうのはまだない。こうして見るとすがやんと春風の付き合いが既に両家公認みたいな感じになってるのは単純に強いなって思う。何せお兄さんの攻略が早すぎた。
「一般的に、彼氏の母親とか彼女の父親みたいなラスボス的存在って、こんなに早く攻略出来るモンじゃないと思うんだよ。あと、春風の家だったらお兄さんみたいなタイプの人とか」
「そうなんですよね。いろいろな偶然が重なった結果なんですよね」
「そう言えば、鳥居家はお兄さんは攻略済みだけどご両親はすがやんについて何か」
「現状では礼儀正しい感じのいい子だという評価ですね。レナのことも、こんなに仲良く出来る友達が出来てよかったと安心してくれたようです。もしレナのバイクに乗せてもらうことがあっても迷惑をかけない乗り方をしなさいと父が指導をしてきて。気が早いですよね」
「一応2人乗りはもう出来るからね。でも、春風を乗せる前に私も大学の駐車場とかで陸を乗せて練習しないと。安心して乗ってもらえるようになったら2人でどこか行こうか」
「はい。楽しみにしていますね。私も練習に励みます」
あーかわいい。ホントに練習頑張らないとね。春風を傷物にした日には各方面が怖すぎるから。でも、娘が人のバイクの後ろに乗ることを想定して指導をするとか、さすが自動車整備工場の家だなって。一般的にはそんな危ない物に乗ってはいけませんだと思うんだけど。
「そうだ。今度の連休に、うちの工場の敷地内でバーベキューをすることになりまして。工場の従業員さんや徹平くんに菅谷先生も来てくださることになり。ついで程度に奏多もいますが、もし良ければレナも来ませんか?」
「そんな錚々たるところに私がいてもいいのかって感じだけど」
「ぜひ来てください! 徹平くんはサキさんにも声をかけてくれたそうです」
「あ、そうなんだ。それじゃあ私もお呼ばれしようかな。でも、工場の慰労会とか両家のナントカみたいな会っぽいのに本当に大丈夫?」
「いえ、本当にただのバーベキューなのです。先生にまで声がかかったのは、兄さんが久し振りに先生に会いたいと言ったからで。兄さんは菅谷先生の言葉を胸に自動車整備工として自己研鑽し続けて来ましたから、挨拶をしたいのでしょう」
「中学の恩師の言葉を胸に当時からの目標を叶えるとか、はじめに聞いてた過保護で厳ついドシスコン兄貴の印象からはギャップありすぎなんだわ」
「あの過保護さえなければ立派な兄だと思うのですが……」
そう言って春風は大きな溜め息をひとつ。すがやんという彼氏と私という友達が出来たことで人間関係に関する過保護っぷりは少しマシになったそうだけど、交友関係が広がったことで出歩く範囲が広がって、今度はそれが心配なんだとか。
春風の取説をすがやんにバトンタッチして自分はやっと自由に、と思っていた松兄も、相変わらずお兄さんにいろいろと詰め寄られているとかいないとか。さすがに大学内のことまでは私とすがやんではカバー出来ないし、そこはやっぱり一番近い松兄の仕事になるよなあとは。
「ところで春風、すがやん本人とは最近どうですか」
「ええと……ゆっくりではありますが、会う度に新しい一面を発見出来て、楽しいです」
「く~っ、いいなあ! 楽しい時期だもんね」
「徹平くんの部屋も本や化石などがたくさんあって楽しいのですが、私が昔菅谷先生から借りた息子さんの本にお礼を書いて貼った付箋がまだ残っているのを見せてくれて」
「運命に引き寄せられてキスするヤツ!」
「いえ! してはいませんが!」
「こほん。失礼。でも彼氏の部屋でそのシチュエーションだと、アリかなとは思いました」
「まあ、いつかは……とは思うのですが。まだ付き合い始めて2ヶ月弱ほどですし」
「もう2ヶ月じゃん。それに付き合う前にキスはしてますよね?」
「それはそうですけど。だからこそお互いをちゃんと知っていきましょうという話になったわけですし」
「そうかー……その状況でないのかー……。春風たちが健全なのか自分たちが不健全なのかわからなくなってきたぞ」
end.
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多分どっちも。不健全という程でもないけどササレナはその辺手早かったであろう
(phase3)
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