2021(04)

■お弁当箱に何詰めよう

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「よしっ! それじゃあやってくかあ」

 エプロンの紐をキュッと結んでカズが気合を入れる。カウンターの上には2つのお弁当箱。いよいよ明日にはお互い社会人として就職することになっていて、カズは星港市交通局に、うちはイベント会社に勤める。就職してからのことでいろいろ話し合ってたんだけど、そこで議題にあがったのは「お昼ご飯はどうする?」問題。
 多分最初のうちは研修とかがあって朝から夕方までっていう感じなんだろうとは思う。だけどそれが終わってからはカズには夜勤の概念が出て来るし、うちもその時々によって働く時間帯が変わって来るだろうなあとは。と言うかうちはどんな仕事をするのかもその時にならないとわかんないまであるからね。
 お昼ご飯で言えばその辺で買って食べるのか、社食みたいな施設があるのか、はたまたランチを食べに外に出るのかとかいろいろ考えられた。だけどよくわかんないときは逆にお弁当が自由が利いていいのかもしれないという結論に達した。手元にご飯を持っておけることの安心感っていうのかな。それでこの間一緒にお弁当箱を買いに行って今日に至る。

「カズ、全部自分でおかず作るの?」
「常備菜とかも使いながらになるかな。あと、普通に冷凍食品も使ってくけど、最低1品は俺が自分で作ったのを入れたいかなーとは。夜勤明けの時間とかその次の日の休みとか、そういうときに弁当のおかずを作れたらいいなーとは思うけど、どうなるんだろうなー」
「こればっかりはやってみないとわかんないもんね」
「俺は夜勤があるっつっても時間が決まってるけど、そっちは繁忙期に入ったりでもしたらワケわかんないことになるだろ?」
「イベント前は修羅場、これ常識」
「まだ働いてもないのに説得力やべー、心強えー」

 お休みの使い方に関してはうちはこれまで同様趣味に使うことになるんだろうけど、さすがに社会人ともなると学生の頃より趣味に充てる時間が取れなさそう。でも財力は出来るし、なんなら知見を得る、リアル取材の機会だと捉えて創作に生かしていくしかないよね。――というような話は同期になる朝霞クンともしてました。

「とりあえず今詰められる物は今詰めて、ごはんとかは明日の朝に詰めるような感じになるかな」
「すごーい、お弁当だー」
「そうだよ、そりゃ弁当だよ」
「何て言うか、お弁当を作ってもらえることの幸せだよね」
「どうした? 急に」
「ううん。いつもの友達の子がさ」
「ああ、同期入社になるっていう就活友達な」
「そう。その子ともお昼ご飯のことについて話してたんだよ。その子は星港で1人暮らしだし料理もあんま得意じゃないから買ったり食べに出るのがメインになるかなって言ってて。うちは旦那さんに作ってもらえるかもーって言ったらいいなーって」
「まあ、男の1人暮らしで弁当なんかよっぽどじゃないと作る気にはなんねーよなーとは。俺もどうにかして慧梨夏に食わせないとって料理を覚えたワケだし」
「お世話になります」
「いやはや。俺も「愛妻弁当?」みたいな感じで聞かれんのかな」
「まあ結婚してるって言ったらまずつつくトコだからね。愛妻弁当かあ。作れたら良かったんだけどね」
「気持ちだけで十分です」

 実際のところ、料理の練習はしたけどうちの料理音痴は完全には改善されてないので上手な人が作る方がいいよねっていう。人に何か言われたりしても旦那さんが料理好きな人なんでって正直に答えれば何の問題もないだろうからね。まあ、朝霞クンには旦那さんのお弁当はガッツリ自慢させてもらいますけどね!

「そう言えば、カズってあんまりお弁当のイメージないよね。高校の時とかも学食かパンの自販機だったでしょ?」
「そうだなー。京子さんが結構忙しい人だし学食あるなら学食で食えみたいなスタンスだったからなー。慧梨夏は基本弁当で本当にごくたまに学食で、あと何かたまに先生に奢ってもらってなかったか?」
「うん。職員室にだけ来るパン屋さんの配達で好きなの買ってもらってた」
「それマジで抜け駆けだよな。普通に自販機で売ってる市販のパンとパン屋のパンだったらそりゃパン屋のパンのが美味いじゃんな」
「ポイントは、職員室受けする生徒であること」
「俺はあんま職員室受けする方じゃなかったもんよ」
「服装検査でひっかかりまくる以外は至って普通なんだけどねえ。素行も特に悪くないし」
「それなー。服装検査で引っかかる以外は普通なんだよ。服装で引っかからないって理由でリンちゃんのタバコとかフツーにスルーしてたもんなアイツらマジうぜー」
「明日就職する人の発言じゃないんですよ。完全に悪ガキの高校生じゃん」
「大体生徒会長が茶髪ピアスに一応校則で禁止になってる原付に乗ってたって時点でどーなってんだあの高校って感じはする」
「ほら、我らが生徒会長サマはその能力の高さ故に異例の2期政権を担ったとにかく凄い人だったじゃないですかあ。見た目が能力に何の問題を及ぼすっていうのを地で行ってたし」
「高校の頃の話になると絶対そこに着地するんだよな。やめだやめだ。えーと、あと卵焼きをここに入れてまた明日かな」

 その我らが生徒会長サマは星港市職員としてこれからバリバリ街の仕事をやってくのかな。って言うか星港市職員って公務員の中でもちょっと位の高い試験とかなかったっけ? 公務員のことあんまよくわかんないんだけど。でも独学でやるから凄いんだわあの人。しかも受かるまで絶対言わなかったし。

「そう言えば、学校と言えば浅浦クンてどこの学校に行くことになったの?」
「羽丘高校だってよ。マジで超近い」
「わーお。でも星港高校ではなかったんだね」
「まあいきなり母校はないんじゃね? 知らないけど」
「星港高校だったらパン買ってもらおうと思ったのに」
「どんな理由だよ。俺の弁当食ってなさいよ」


end.


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就職前夜のいちえりちゃん。いち氏がお弁当を作っているようです。好きそうだもんね
働く大人の昼ご飯の番組とか見てるといちえりちゃんたちのお弁当なんかもイメージできるし、そこから始まる話もありそうで楽しい
懐かしの話もちょっとあるけど、高校の頃の話になると大体高崎とリン様がおかしいという結論になるいち氏でした

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