2021(04)

■Nice brochure!

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 新年度が始まる前には健康診断と履修登録のために登校しなければならない日がある。それが今日で、さすがに4年にもなると履修コマにも結構な空きが出て来るなあと思いながら、最後の方に少し残っている一般教養の講義をポチッと入れていく。情報科学部の場合、最初に学部固有科目とかでギチギチになる分、最後に一般教養が残りやすいけど文系の社会学部は逆らしい。
 そして大学に来たついでに見ておきたい物もあった。それが就職課だ。4年にもなると就活にも本腰を入れて行かなければならなくて、少しでも何か参考になるものはないだろうかとやって来たのだ。見慣れない建物だ。あと、ここに来たのには他にも理由がある。それが、就職課の一角に置かれた大学パンフレット。俺はこの冊子に用事があったのだ。

「やァー、野坂じゃないスか」
「どうしたお前ら、お揃いで」
「どうしたじゃありませんよ。大体、元々一緒にいたのは私と野坂さんじゃありませんか。履修登録で文理に分かれた結果はぐれて音沙汰が無くなったのはどう説明するんですか。ちなみに土田さんとは履修登録の教室で会って、野坂さんがいるならと合流したんですよ」
「そうだったのか。履修登録自体はコマも少ないしさっさと終わったんだけど、その後で就職課に行ってて、スマホは普通に見てなかった」
「行っていた場所が就職課だけに怒りにくいのがまた厭らしいですね」
「さすがにヘンクツ理系男スわ。ちなみに、その冊子が就職課の戦利品スか?」
「そうだな。俺はこれをもらいに就職課に行ったと言っても過言ではない」
「自分もちッと興味あったンすよ。見してもらっていースか」
「俺もまだ見てないんだぞ。後でゆっくり楽しむつもりだったからな」
「そんなに楽しい物が載っているんです?」

 立ち話も難だということで学食に移動する。就職課で獲得した冊子に飯の汚れを付けてしまうワケにはいかないので先に飯を食い、食った後の物をきちんと食器返却口に片付けてからのお楽しみだ。律は誰かから話を聞いているようだけど、こーたは知らないらしい。まあ、見たらわかるだろMMPなんだから。

「えーと、どのページかなー」
「これは大学のパンフレットですよね。これが就職課に置いてあるんです?」
「大学のパンフレットっつーのは、ウチの大学からこれだけの大企業に人材を輩出してヤすよーっつー見栄のページがありヤすよね」
「まあそうですね。その人のインタビューページなんかが1ページか見開きで掲載されていますよね」
「野坂、お目当てのページすよ」
「うわあああああ! 何と素晴らしいグラビアページ!」
「グラビアっつーのはどーかと思いヤすが、プロの写真家が撮影して加工したガチな写真には違いないスね」
「ああ、野坂さんのお目当ては圭斗先輩のインタビューページでしたか。前言撤回します。あなたはどんな理由で私からの連絡を無視しているんですか!」
「お前と圭斗先輩を同じ天秤で測れると思うな!?」

 そう、最新の向島大学パンフレットの就職関連のページには圭斗先輩のインタビューや、就活の記録といった文章が掲載されているのだ! 圭斗先輩はそれなりに大きな会社に就職されるので、その関係でインタビューを受けたり文章を寄せられたんだとは思う。でもパンフレット映えするビジュアルであるということもかなり大きいだろと思う邪な俺であった。

「木々をバックに微笑む圭斗先輩の写真が載ったパンフレットとか永久保存だろ…!」
「圭斗先輩の就活中のスケジュールだとか、就活への臨み方、えーと? その会社に就職を決めた理由であったりが載ってるンすね」
「インタビューの他にも圭斗先輩が提出した原稿があるんですね」
「菜月先輩はこのパンフレットに関して圭斗先輩から話を聞いたらしーンすが、本人曰く「こんな文章を僕が書けるわけないだろう?」っつー話スよ」
「まあ正直圭斗先輩だけにゴーストライターがいても驚かないけど、やっぱこういうパンフレットに載せる文章ともなるとガッツリ編集者の手が入ってんだなって思う」
「そうですねえ。さすがにそのゴーストライターは菜月先輩ではありませんよね」
「さすがに大学側じャないスか?」

 圭斗先輩が書いた体の原稿はともかく、インタビューに関してはある程度圭斗先輩が話した内容が掲載されているだろうし、圭斗先輩の就活中の動き方なりスケジュールなどが載っているのはウキウキするし、何より計3枚掲載されている写真が素晴らしい! なんならこの写真のデータが欲しくて仕方ない。

「それはそうと、野坂さんの履修はどうなってるんです?」
「まあ、全休もありつつ一般教養メインで取ってくような感じだな。まあ、ほぼほぼ終わりなんだけど」
「さすがに理系の人でも4年生にもなればほぼほぼ終われるんですね」
「そうだな。まだ一般教養はあるけれどもだ」
「私たちもほぼほぼ終わりですから、ゼミの日に来るという感じですよ」
「やァー、悠々自適スわァー」
「ところで野坂さん、ヒロさんはどうしたんです?」
「知らね。まあでも学部固有もいくらか持ってるはずだし、4年でも大学には程々に来なきゃいけないはずだ」
「まァ安定スね」
「そうですねえ」


end.


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そろそろ単位取得数や履修が違い過ぎるからか行動様式が違い過ぎるからかノサヒロも別行動です。
さすがの圭斗さんガチ勢ノサカ、件のパンフレットはしっかり獲得していくし、日を改めて保存用のも貰いに行きそう
それなりに単位を取ってるこの3人はあんまり大学でその姿を見なくなりそうですね。ヒロはどうした

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