2021(04)

■Spring is coming again

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 いよいよ来週末には4月になり新年度を迎えるということで、サークルへの勧誘活動についても本腰を入れて考えなければならない段階にありました。MMPでは例年ビラ配りを中心に、ポスターの掲示などをしていたようです。
 私と奏多がこの度加入したことで、今すぐサークル存続の危機という心配はなくなったのですが、それでも新入生を勧誘しなければまた同じことの繰り返し。先に引退された3年生と同じだけの人数、つまり4人加入が目標ということになります。
 今日はビラとポスターを作ろうということで大学に集合しました。私と奏多が情報メディア学科で、グラフィックなどを扱うソフトが入っている情報棟の自習室を使うことが出来るのでここに集合します。文系の奈々先輩はこの建物に入るのも初めてのようです。

「とりあえず、これが去年野坂先輩が作ったっていうビラとポスターのファイルで、あと、こっちがそれ以前のビラとポスターの資料」
「さすが希くんですね。準備に抜かりがありません」
「つか、去年のファイルがあるならそれを軽くイジればオッケーじゃんな。楽勝楽勝」
「まあ、それでいいとは思うんだけど、それでも今年っぽい売り文句みたいなものは一応考えていきたいじゃんな。ねえ、考えたいっすよね奈々先輩」
「そうだねッ」

 これからのサークルをどうしていくかということに関しては、希くんがより強く考えているような気がします。奈々先輩も考えてくれてはいるようですが、希くんの意思を尊重した上でゴーサインやストップを出すという感じに見えます。
 今年らしい売り文句というのは確かに大事だなと思います。需要と供給ではありませんけど、流行などもその瞬間によっても変わりますし、また新たに生まれたりもします。急に追い風が吹いてラジオをやってみようと思う人が、その売り文句によって増えるかもわからないのです。

「今年っぽい売り文句ねェ。かっすー、何かあるかあ?」
「今のMMPの状況的には初心者大歓迎だし、インターフェイス的には映像に興味ある人もどんと来いだし、あとは何だろ。個人的にはあーいうのじゃなきゃいいって感じなんだけど」
「ああ、あーいう感じな」
「ああいう?」
「あ、鳥ちゃんは知らないままでいいです」

 ああいう感じ、ということの詳細は結局希くんの口からは教えてもらえませんでした。ですが奏多は知っているような感じなので(恐らく希くんから相談や愚痴を受けて聞いていたのでしょう)、帰りにでも聞いてみたいと思います。
 私としては、自分も初心者で新しく来る1年生と立場はそう変わりないので一緒に頑張っていけるような空気を作っていければと思っています。ただ、あまり自分の理想を押しつけすぎてもいけないですし、MMPの伝統とも言える自由な空気という物は残すべきだと思います。

「あれ。誰の通知?」
「うちだねッ。えーと」
「ビラもポスターも野坂先輩のファイルを軽くイジる方向で行くとして、どう洗練させるかだよなー。確か、ポスターはA4サイズじゃなきゃダメで、ビラは最大A4で大きさは割と自由だったっけ」
「いや、俺はさすがにそこまでわかんねーわ。つかそーゆーのをわかってんのは奈々さんっしょ。ねー奈々さん」

 ――と、奏多が奈々先輩に話を振るのですが、肝心の奈々先輩は通知のあったスマホを睨みつけるような鋭い眼光をしています。いつも明るく朗らかな奈々先輩とは思えないような表情で、声をかけるのも憚られますし、さすがの奏多も一瞬引いているようです。

「おいかっすー、奈々さんどーしたんだよ」
「奈々先輩がこういう顔してるときは大体野球絡みなんだわ」
「あ、マジ。政治宗教野球の話はすんなって言うけどMMPもそーゆー感じね」
「そーね。先輩たちも結構野球好きの人たちだったから。中でも奈々先輩が一番過激っつーかアツい人で」
「奈々先輩は野球がお好きなのですね」
「あっゴメンゴメン。何だった?」
「ビラとポスターの大きさ規定の話っすよ。ビラはA4がマックスで基本自由っすよね?」
「あっそうそう! でも毎年そこまで大きくないし、今年もそこまで大きくしなくていいんじゃないかなッ」
「奈々先輩、もしかして今日土曜日っすしデーゲームっすか?」
「我らがストライプ・サンダースに今年もチェアーズが立ちはだかってくるッ! 魔の6回表…!」
「野球が気になるのはわかりますけど、今はとりあえず新歓の方をメインにお願いするっす」
「ゴメンゴメン、集中するね。それで、ゲッティング☆ガールプロジェクトはどうする?」
「はい?」

 ゲッティングガールプロジェクトという耳馴染みのない言葉が聞こえたのですが、それをどういうことなのか希くんに訊ねると、言葉通りの意味で新歓が行われていたらしいという返答がありました。言葉通りだとすると、女子の獲得作戦と解釈出来るのですが。

「とりあえず今回は無差別に行きましょ」
「うっすうっす。うちの代のゲッティング☆ガールプロジェクトはとりぃの加入で達成されたからオッケーだしッ」
「ええと、私ですか?」
「麻里さんの代から続くかわいい女の子が来てくれないかなーッてお願いして加入してもらえるよう狙っていくプロジェクトだったんだけど、確かに今は形振り構ってられないからねッ! 来るものは拒まず去る物は適度に慰留ッ!」
「その意気っす!」

 奈々先輩も一旦野球のことは脇に置いて、勧誘のビラとポスターをどういう方針で行くかに集中してもらっています。一方で、私たちはと言えば人の関心をMMPに引く売り文句をずっと探し続けているのです。私個人の課題でもあるので、非常に難しく感じます。

「これ、ファイル出来たらプリントアウトするような感じでいーんすかね」
「あっ、えっとね、1部印刷してもらえればサークル棟にコピー室があるから、そこで印刷出来るよッ」
「あそこまで歩くのかー…!」


end.


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春のMMPに関してはカノン率いる新2年生が頑張ってるけど、奈々も新代表としてそれなりにやってます
今となっては野球に熱いのも奈々だけだけど、春風と奏多はどうだろうか。エリア柄、気になるとしてもポケッツかな?
何気にゲッティング☆ガールプロジェクトはお麻里様の頃から行われていたけど、そういう名前になったのは菜月さんからである

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