2021(04)
■別世界の住人
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正直、俺は今かなり困惑している。今日は定例会があって、新年度からの動きを確認してくぞっていう感じの会議だったんだけど、そこで新しく向島の新メンバーが加わるぞっていうお知らせもあったりして。そこまではいい。
これからサキ君と一緒にミキサーとしてインターフェイスで進んでるシステム構築に携わっていくっていう風に紹介されていた松兄こと奏多のサキ君へのだる絡みを見た瞬間悟った。あっこれマジな別世界の人間だと。大学デビューの陰キャには刺激が強すぎる。
最近ではサキ君とすがやんと定例会終わりに飯を食うのもいつもの流れなんだけど、今日はそこに奏多も来たんだよな。正直どうしたらいいか全くわかんねー。すがやんはコミュ強の陽キャだから文化系陰キャの気持ちはわかんねーだろうし助けは求められないと思っていいだろう。
「すがやん、このメンツでいつも飯食ってんだろ? 何でこんなビミョーな空気になってるワケ?」
「自分が原因だとは思ってないわけ」
「ヒドいなサキちー」
「だからその呼び方やめてって言ってるでしょ」
「俺なりにサキちーと親睦を深めようと思ってんだぜ?」
「親睦を深めるなら普通にしてもらった方がよっぽどいいんだけど」
「これが俺の普通なんだけどなー」
「体育会系のコミュ強とは合わないんだよね、俺」
「そーゆー決めつけは良くないと思いまーす」
「まあまあサキ、一応これから一緒にやってくんだし今すぐ合わないって決めつけなくてもな」
「すがやんは春風からいろいろ聞いてたり向島で一緒に練習したりして奏多がいい人にも見えるかもしれないけど、今の俺にとってはこれが全てだからね。印象はかなりマイナスなわけ」
何かもう俺の不安みたいな物を全部サキ君が代弁してくれてるって感じ。何故かサキ君とは仲良くさせてもらってるんだけど、陰キャモードの俺は実際思うことがあってもジッとして黙ってるタイプなのに対して、サキ君は結構ズバズバ物を言う人だから、すげーなーと思うワケで。
もちろん俺もプロデューサーモードの時はバシバシ言ってかないと始まらないって思ってるしそのようにやらせてもらってるんだけど、隅っこでじーっと黙ってる時間ってのも必要なワケで。ずっとプロデューサーモードやってれるなら最強なんだけどもそうは行かないんだな。
「俺、彩人とも喋りてーんだけどー?」
「え」
「ンな驚かなくてもいーじゃんよ」
「緑ヶ丘と向島以外の人にとってはまだ謎の新メンバーであることを自覚しなよ」
「サキ君、俺名乗った覚えないんだけど何で知られてるんだと思う?」
「さあ。さすがにそこまではわからないよ」
「こないだの番組制作会で春風とやってたろ? だから覚えてんだよ。つか美形がその髪色してて印象に残すなって言う方が無理がないか?」
「あー、確かに彩人と言えば緑メッシュの美形ってのが第一印象には来るもんなー」
「それに関しては奏多が正しいね。俺も、最初は何であの人が俺なんかと話したいんだろうって不思議だったし。絶対に交わらない存在だと思ってたから」
「そーいやサキと彩人って実際結構似た空気感があるよなー」
髪色は完全に大学デビューのファッションとしてやってるんだけど、おかげさまであの髪の人として覚えてもらいやすくはなってるかなとは思う。だけど、今の髪型になる前はマジで地味な感じで印象にも残らないただの人だった。
見た目とか属性とかで絶対に交わらない存在って判断してしまえばそれまでなんだろうけど、話してみないとわからないことも多々あるのもそれは事実で。俺のような人間はその一歩を踏み出す勇気がなかなか出なくて苦労することも少なくない。
「春風はこないだ一緒に番組やったし、レナとリクからもちょっと話に聞いたから知ってんだ。えっ、春風と奏多ってどういう間柄で? 学科での友達とか?」
「幼馴染みっつーか腐れ縁っつーヤツな。フツーに家も近いし」
「あっ、そういう? あと、定例会でのサキ君とのやり取りで2コ上っつった?」
「そーね。今21だからストレートの1年となら2コ上になるわな。高校で1年ダブって1年浪人した結果が今な」
「高校でダブるって何やったらそーなるんだよ……不良だったとか?」
「や、事故って長期入院した結果単位が足りなくなったんよ」
「あ、ゴメン。マジなヤツじゃん」
「あー、気にすんな気にすんな。入院中リハビリだけじゃヒマだからっつってプログラミングの勉強とかして現在に至ってるし、悪いことだけでもなかったんだよ」
「え、だってさっきサキ君が感心するレベルの資格持ってるっつったじゃん。奏多ってチャラく見えてクソ真面目? それとも天才か何か?」
「いやー彩人の困惑が楽しいねえ! さーて俺はどんな人間でしょうか! 眉目秀麗、頭脳明晰、運動神経抜群の三拍子が綺麗に揃ったすげー奴、それが俺!」
深堀りすればするだけ奏多がよくわかんなくなるし、面白い人間であることには間違いなさそうだけどやっぱ俺とは住む世界が違うなと思う。
「あんまり調子に乗らない方がいいよ、奏多」
「やだなあサキちー、盛り上げ上手って言ってくれよ」
「その呼び方やめて」
「でも大体本当だからデカい口叩きやがってとも言えないっていうなー。とりあえず春風に今日のおもしろエピソードとして今の話そう」
「ちょっと待てすがやん、それは止めとかないか?」
「いいねすがやん、報告しなよ」
end.
++++
すがやんが完全に相槌マシーンになっている。でもみんなで一緒にいると基本はそんな感じ。
彩人は絶対奏多に対して「コイツとは合わねえ」って1回は思ってもおかしくないよなあとはフェーズ2初年度から思っていた
やっぱりサキは奏多に対してちょっと辛辣。でもそれくらいがちょうどいいのかもしれない。
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正直、俺は今かなり困惑している。今日は定例会があって、新年度からの動きを確認してくぞっていう感じの会議だったんだけど、そこで新しく向島の新メンバーが加わるぞっていうお知らせもあったりして。そこまではいい。
これからサキ君と一緒にミキサーとしてインターフェイスで進んでるシステム構築に携わっていくっていう風に紹介されていた松兄こと奏多のサキ君へのだる絡みを見た瞬間悟った。あっこれマジな別世界の人間だと。大学デビューの陰キャには刺激が強すぎる。
最近ではサキ君とすがやんと定例会終わりに飯を食うのもいつもの流れなんだけど、今日はそこに奏多も来たんだよな。正直どうしたらいいか全くわかんねー。すがやんはコミュ強の陽キャだから文化系陰キャの気持ちはわかんねーだろうし助けは求められないと思っていいだろう。
「すがやん、このメンツでいつも飯食ってんだろ? 何でこんなビミョーな空気になってるワケ?」
「自分が原因だとは思ってないわけ」
「ヒドいなサキちー」
「だからその呼び方やめてって言ってるでしょ」
「俺なりにサキちーと親睦を深めようと思ってんだぜ?」
「親睦を深めるなら普通にしてもらった方がよっぽどいいんだけど」
「これが俺の普通なんだけどなー」
「体育会系のコミュ強とは合わないんだよね、俺」
「そーゆー決めつけは良くないと思いまーす」
「まあまあサキ、一応これから一緒にやってくんだし今すぐ合わないって決めつけなくてもな」
「すがやんは春風からいろいろ聞いてたり向島で一緒に練習したりして奏多がいい人にも見えるかもしれないけど、今の俺にとってはこれが全てだからね。印象はかなりマイナスなわけ」
何かもう俺の不安みたいな物を全部サキ君が代弁してくれてるって感じ。何故かサキ君とは仲良くさせてもらってるんだけど、陰キャモードの俺は実際思うことがあってもジッとして黙ってるタイプなのに対して、サキ君は結構ズバズバ物を言う人だから、すげーなーと思うワケで。
もちろん俺もプロデューサーモードの時はバシバシ言ってかないと始まらないって思ってるしそのようにやらせてもらってるんだけど、隅っこでじーっと黙ってる時間ってのも必要なワケで。ずっとプロデューサーモードやってれるなら最強なんだけどもそうは行かないんだな。
「俺、彩人とも喋りてーんだけどー?」
「え」
「ンな驚かなくてもいーじゃんよ」
「緑ヶ丘と向島以外の人にとってはまだ謎の新メンバーであることを自覚しなよ」
「サキ君、俺名乗った覚えないんだけど何で知られてるんだと思う?」
「さあ。さすがにそこまではわからないよ」
「こないだの番組制作会で春風とやってたろ? だから覚えてんだよ。つか美形がその髪色してて印象に残すなって言う方が無理がないか?」
「あー、確かに彩人と言えば緑メッシュの美形ってのが第一印象には来るもんなー」
「それに関しては奏多が正しいね。俺も、最初は何であの人が俺なんかと話したいんだろうって不思議だったし。絶対に交わらない存在だと思ってたから」
「そーいやサキと彩人って実際結構似た空気感があるよなー」
髪色は完全に大学デビューのファッションとしてやってるんだけど、おかげさまであの髪の人として覚えてもらいやすくはなってるかなとは思う。だけど、今の髪型になる前はマジで地味な感じで印象にも残らないただの人だった。
見た目とか属性とかで絶対に交わらない存在って判断してしまえばそれまでなんだろうけど、話してみないとわからないことも多々あるのもそれは事実で。俺のような人間はその一歩を踏み出す勇気がなかなか出なくて苦労することも少なくない。
「春風はこないだ一緒に番組やったし、レナとリクからもちょっと話に聞いたから知ってんだ。えっ、春風と奏多ってどういう間柄で? 学科での友達とか?」
「幼馴染みっつーか腐れ縁っつーヤツな。フツーに家も近いし」
「あっ、そういう? あと、定例会でのサキ君とのやり取りで2コ上っつった?」
「そーね。今21だからストレートの1年となら2コ上になるわな。高校で1年ダブって1年浪人した結果が今な」
「高校でダブるって何やったらそーなるんだよ……不良だったとか?」
「や、事故って長期入院した結果単位が足りなくなったんよ」
「あ、ゴメン。マジなヤツじゃん」
「あー、気にすんな気にすんな。入院中リハビリだけじゃヒマだからっつってプログラミングの勉強とかして現在に至ってるし、悪いことだけでもなかったんだよ」
「え、だってさっきサキ君が感心するレベルの資格持ってるっつったじゃん。奏多ってチャラく見えてクソ真面目? それとも天才か何か?」
「いやー彩人の困惑が楽しいねえ! さーて俺はどんな人間でしょうか! 眉目秀麗、頭脳明晰、運動神経抜群の三拍子が綺麗に揃ったすげー奴、それが俺!」
深堀りすればするだけ奏多がよくわかんなくなるし、面白い人間であることには間違いなさそうだけどやっぱ俺とは住む世界が違うなと思う。
「あんまり調子に乗らない方がいいよ、奏多」
「やだなあサキちー、盛り上げ上手って言ってくれよ」
「その呼び方やめて」
「でも大体本当だからデカい口叩きやがってとも言えないっていうなー。とりあえず春風に今日のおもしろエピソードとして今の話そう」
「ちょっと待てすがやん、それは止めとかないか?」
「いいねすがやん、報告しなよ」
end.
++++
すがやんが完全に相槌マシーンになっている。でもみんなで一緒にいると基本はそんな感じ。
彩人は絶対奏多に対して「コイツとは合わねえ」って1回は思ってもおかしくないよなあとはフェーズ2初年度から思っていた
やっぱりサキは奏多に対してちょっと辛辣。でもそれくらいがちょうどいいのかもしれない。
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