2021(04)
■新たな才能
++++
「皆さま、ごきげんよう」
「エマ来たー! ねえねえ、こないだ言ってたの持って来てくれた?」
「ええ。こちらでよろしくて?」
「そうそう! さっそくだけど、開けてもらっていい?」
「ええ。少々お待ちくださいませ」
5月の末頃に植物園でやらせてもらうステージの準備が本格化しているABC。このステージは代々2年生が中心となって進めるということで、新2年生の4人が話し合って台本を書いているような感じ。これから練習をしたり大道具や小道具の準備をしないといけないから、台本は出来れば今月末までにお願いっていうことになっている。
エマが来るのを今か今かと待っていたのはまつりだ。実は、今回のステージの台本はまつりメインで書いてるような感じなんだよね。台本を書くのは大体アナウンサーっていうイメージだったけど、別にミキサーが書いちゃダメっていう決まりもないから。ちとせは、やるのはともかく台本を考えるのが苦手みたいだし、エマは子供向けステージのイメージが付きにくいみたいだし。
それでどうしようねえって言ってたら、じゃあアタシが書くよーってまつりが手を挙げたんだよね。まつりは野球のマスコット好きなんだけど、野球だけじゃなくて着ぐるみマスコットみたいなのが好きなんだよね。それで子供向け番組とかもたまに見てるって言うし、それじゃあ任せてみようかって。
もちろんあたしも指導役としてまつりの台本書きの様子は見守ってるんだけど、ユキ先輩こんな感じでどうですかーって持って来たのを見た感じじゃ結構いいんだよね。何て言うか、意外な才能を見つけたって感じ。だからまつりの思う感じでみんなが準備をしてて、それに必要なのがエマのピアノだったんだって。さすがにエマの家にあるグランドピアノは持って来れないからキーボードだけど。
「すごーい! ホントのキーボードだ!」
「わたくしが自宅で弾くのはピアノですから、電子ピアノなどの経験もないのですけれど」
「そんな難しいことしなくて大丈夫だよ! ちょっとした伴奏をしてくれればいいだけだから!」
「あら、伴奏ですの?」
「エマ、チューリップの歌とかきらきらぼしの歌とかは知ってる?」
「ええ、存じておりますわよ」
「子供が好きなのは歌とリズム! だからあんまり難しいことはしないで音楽と簡単な振り付けがあれば楽しめると思うんだよ」
まつりの言うことは確かになーって思う。文字でぎちぎちの台本にするんじゃなくて、歌とリズムで楽しむ時間が長くたっていいよねという発想はあたしにはなかった。もちろん植物園でのステージだから草花に関する要素も入れて行きたいとは思うけど、それで難しくなりすぎても良くないし、本末転倒だから。
「まつり、3年生はどうしますかー?」
「そう! ここでサドニナ先輩なんですよ!」
「えっ、サドニナ?」
「自称歌って踊れるアイドル声優ですよ? 歌って踊るステージなんですからここでちゃんとやってもらわないと困るワケですよ!」
「でも、それは声優と関係なくない?」
「先輩、子供向けステージを甘く見たらダメですよ! テレビでも絵本でも、子供の頃に好きだった物って大人になっても印象に残ってるじゃないですか。子供の頃に好きだったあのマスコットの声は案外覚えてるものなんですよ。だから子供に印象付けるんですよ」
「なるほど、英才教育ってワケね! 子供に小さい頃からサドニナの声をしみ付けるんだ」
「教育に悪そう」
「うるさいユキ!」
「何にせよ、サドニナ先輩はABCのソングリーダーですから、今回のステージはよろしくお願いしますね! サドニナ先輩が頼みなんですよ!」
「まっかせといて! 何の歌でもどんと来いだし!」
いつになくやる気のサドニナに、まさかの才能をもうひとつ発見する。そうか、サドニナの操縦が出来るのはまつりだったか。自称歌って踊れるアイドル声優を上手く扱うには、歌とダンスの要素で上げて上げてゴマをすらないとダメだったんだ。あたしと啓子先輩には絶対に出来ない手法だなあ。こーた先輩はサドニナの歌動画の批評をしてたそうだし。やっぱそっちなんだ。
まつりがエマにこの曲とこの曲とーと指示をすると、エマはこうですの、と伴奏をする。その伴奏を聞いてると、何となく幼稚園みたいな空気を感じる。その伴奏に合わせてサドニナが歌うんだけど、確かにいつもステージの練習をしてるってときよりはマジメって言うか、ちゃんとしてるんだよね。扱い方の問題だったんだろうけどねえ。なんだかなー。
「ふっふーん。やっぱり、歌って踊れるスーパーアイドル声優のサドニナなんだよねー! まつり、今のうちにサインあげようか」
「いらないです」
「ええっ!?」
「サドニナ先輩がプロ野球の始球式をやるレベルになればそのときにもらいます。アタシはアニメとか声優さんとかそこまで知らないんで」
「知らなくても持ってたらそのうちプレミア付くかもよー」
「持ってることを多分忘れるんで大丈夫です! よーし、そしたらエマ、今度ピアノの楽譜買いに行こー!」
「ええ。確認ですけれど、買うのは子供向けの楽譜ですの?」
「そうだよ。もしかしたら今後も使えるかもだし、ユキせんぱーい、サークル室に置いといて大丈夫ですかー?」
「いいけど、しばらくしばらく使わなかったら処分されるかもってことだけは覚えといてね」
「しばらくってどれくらいですかー?」
「まあ、2、3年ってトコじゃないかな? それのことを知ってる人がいなくなったらって感じ?」
「わかりましたー」
end.
++++
多分今後ABCで何かやってくぞってなったときに、今の1年生4人だとリーダーとか班長みたいな役割はまつりが担ってくれそう
サドニナの扱い方を間違えてたなーって思うユキちゃんだけど、今更改める気もないヤツ。
エマは多分ピアノやバイオリンは弾けるだろうし、家には普通にグランドピアノがありそうだなと思いました
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「皆さま、ごきげんよう」
「エマ来たー! ねえねえ、こないだ言ってたの持って来てくれた?」
「ええ。こちらでよろしくて?」
「そうそう! さっそくだけど、開けてもらっていい?」
「ええ。少々お待ちくださいませ」
5月の末頃に植物園でやらせてもらうステージの準備が本格化しているABC。このステージは代々2年生が中心となって進めるということで、新2年生の4人が話し合って台本を書いているような感じ。これから練習をしたり大道具や小道具の準備をしないといけないから、台本は出来れば今月末までにお願いっていうことになっている。
エマが来るのを今か今かと待っていたのはまつりだ。実は、今回のステージの台本はまつりメインで書いてるような感じなんだよね。台本を書くのは大体アナウンサーっていうイメージだったけど、別にミキサーが書いちゃダメっていう決まりもないから。ちとせは、やるのはともかく台本を考えるのが苦手みたいだし、エマは子供向けステージのイメージが付きにくいみたいだし。
それでどうしようねえって言ってたら、じゃあアタシが書くよーってまつりが手を挙げたんだよね。まつりは野球のマスコット好きなんだけど、野球だけじゃなくて着ぐるみマスコットみたいなのが好きなんだよね。それで子供向け番組とかもたまに見てるって言うし、それじゃあ任せてみようかって。
もちろんあたしも指導役としてまつりの台本書きの様子は見守ってるんだけど、ユキ先輩こんな感じでどうですかーって持って来たのを見た感じじゃ結構いいんだよね。何て言うか、意外な才能を見つけたって感じ。だからまつりの思う感じでみんなが準備をしてて、それに必要なのがエマのピアノだったんだって。さすがにエマの家にあるグランドピアノは持って来れないからキーボードだけど。
「すごーい! ホントのキーボードだ!」
「わたくしが自宅で弾くのはピアノですから、電子ピアノなどの経験もないのですけれど」
「そんな難しいことしなくて大丈夫だよ! ちょっとした伴奏をしてくれればいいだけだから!」
「あら、伴奏ですの?」
「エマ、チューリップの歌とかきらきらぼしの歌とかは知ってる?」
「ええ、存じておりますわよ」
「子供が好きなのは歌とリズム! だからあんまり難しいことはしないで音楽と簡単な振り付けがあれば楽しめると思うんだよ」
まつりの言うことは確かになーって思う。文字でぎちぎちの台本にするんじゃなくて、歌とリズムで楽しむ時間が長くたっていいよねという発想はあたしにはなかった。もちろん植物園でのステージだから草花に関する要素も入れて行きたいとは思うけど、それで難しくなりすぎても良くないし、本末転倒だから。
「まつり、3年生はどうしますかー?」
「そう! ここでサドニナ先輩なんですよ!」
「えっ、サドニナ?」
「自称歌って踊れるアイドル声優ですよ? 歌って踊るステージなんですからここでちゃんとやってもらわないと困るワケですよ!」
「でも、それは声優と関係なくない?」
「先輩、子供向けステージを甘く見たらダメですよ! テレビでも絵本でも、子供の頃に好きだった物って大人になっても印象に残ってるじゃないですか。子供の頃に好きだったあのマスコットの声は案外覚えてるものなんですよ。だから子供に印象付けるんですよ」
「なるほど、英才教育ってワケね! 子供に小さい頃からサドニナの声をしみ付けるんだ」
「教育に悪そう」
「うるさいユキ!」
「何にせよ、サドニナ先輩はABCのソングリーダーですから、今回のステージはよろしくお願いしますね! サドニナ先輩が頼みなんですよ!」
「まっかせといて! 何の歌でもどんと来いだし!」
いつになくやる気のサドニナに、まさかの才能をもうひとつ発見する。そうか、サドニナの操縦が出来るのはまつりだったか。自称歌って踊れるアイドル声優を上手く扱うには、歌とダンスの要素で上げて上げてゴマをすらないとダメだったんだ。あたしと啓子先輩には絶対に出来ない手法だなあ。こーた先輩はサドニナの歌動画の批評をしてたそうだし。やっぱそっちなんだ。
まつりがエマにこの曲とこの曲とーと指示をすると、エマはこうですの、と伴奏をする。その伴奏を聞いてると、何となく幼稚園みたいな空気を感じる。その伴奏に合わせてサドニナが歌うんだけど、確かにいつもステージの練習をしてるってときよりはマジメって言うか、ちゃんとしてるんだよね。扱い方の問題だったんだろうけどねえ。なんだかなー。
「ふっふーん。やっぱり、歌って踊れるスーパーアイドル声優のサドニナなんだよねー! まつり、今のうちにサインあげようか」
「いらないです」
「ええっ!?」
「サドニナ先輩がプロ野球の始球式をやるレベルになればそのときにもらいます。アタシはアニメとか声優さんとかそこまで知らないんで」
「知らなくても持ってたらそのうちプレミア付くかもよー」
「持ってることを多分忘れるんで大丈夫です! よーし、そしたらエマ、今度ピアノの楽譜買いに行こー!」
「ええ。確認ですけれど、買うのは子供向けの楽譜ですの?」
「そうだよ。もしかしたら今後も使えるかもだし、ユキせんぱーい、サークル室に置いといて大丈夫ですかー?」
「いいけど、しばらくしばらく使わなかったら処分されるかもってことだけは覚えといてね」
「しばらくってどれくらいですかー?」
「まあ、2、3年ってトコじゃないかな? それのことを知ってる人がいなくなったらって感じ?」
「わかりましたー」
end.
++++
多分今後ABCで何かやってくぞってなったときに、今の1年生4人だとリーダーとか班長みたいな役割はまつりが担ってくれそう
サドニナの扱い方を間違えてたなーって思うユキちゃんだけど、今更改める気もないヤツ。
エマは多分ピアノやバイオリンは弾けるだろうし、家には普通にグランドピアノがありそうだなと思いました
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