2021(04)
■完璧超人の憂鬱
公式学年+1年
++++
「はー……わかっちゃいたけど現実がしんどい」
「まあ、人には得意不得意があるしな」
「シノ、はっきり言ってくれ。俺が生放送に向いてなさすぎるからこうなってるんだって」
緑ヶ丘大学で行われる新入生学部ガイダンスという物の話があるということでスタジオに一部のゼミ生が招集されていた。その話が終わってうちに転がり込むなりベッドにもたれてへこむササだ。社会学部のガイダンスでは、普段ゼミでラジオをやっているガラス張りのブースにも立ち寄る。その運営の話が今日の主題だった。
オリエンテーションのルートとして1年が回って来るんだけど、ラジオブースではゼミ生が簡単なさわりだけの番組をやって、それを見学するというのが毎年の感じだ。俺たちが入学した年からは1年生にも体験してもらうというコーナーを設けるようになった。俺とササはこの体験で初めて一緒にブースに入ったんだよな。
で、とうとう俺たちがゼミ生としてブースの中から1年生を迎える側になった。オリエンテーションは自分たちでやる番組とは違って右も左もわかってない1年を入れてやるコーナーがあることから、あらゆる状況に対応出来るようMBCCの人間で脇を固めるのが基本だ。これまでだと、果林先輩や高木先輩が入って来た。
果林先輩は卒業するから、高木先輩はまだいるけどこれからは俺とササで頑張っていくんだと思っていた。実際そういう布陣ではある。だけど、1年の頃から散々果林先輩に指摘されて来たアナウンサーとしてのササの弱点は、ヒゲさんもしっかりわかっていた。2年のゼミで作った学術的な音声番組と比べると、生放送……と言うか常に変わる状況を追うライブ対応に弱いというのがササの最大の弱点だ。
「いつまで経っても弱点は弱点のままだし」
「さすがに1年の時よりは上手くなってんよ」
「でも、俺にちゃんと任せるには不安だからまいみぃの枠があれだけあるんだと思うと」
「言って麻衣はチャンネル登録者がウン万いる動画投稿者だぞ。場数踏んでるし単純に上手いから抜擢されたんであって、だからお前が頼りないとかではない」
俺の偏見だけど、頭のいい奴がへこみ始めるととことん沈んでそのうち死ぬんじゃねーかと心配になる。ササはまあまあ繊細なところがあるから、ちょっとしたことですぐネガティブに考え始めるんだよな。去年MBCCの同期で行った薪ストーブの会だって、みんなから遊びに誘われないのが嫌過ぎて幹事をやってたくらいだし。あとたまに情緒不安定になるし。
ここだけの話をすれば、サークルの代替わりの時に高木先輩から個別に言われてたのが「ササをよろしくね」ということだったんだよな。いつもだったらテスト前とかに「シノをよろしく」って感じでササに言うのが基本って感じで。正直「どうした?」とは思ってたんだけど、こないだのゼミ合宿後の様子とか今の感じとかを見てると、こういうことかってちょっとわかってきた感がある。
「でも、いよいよ成長が頭打ちになってるんじゃないかって感がある」
「諦めんなよ」
「と言うかそもそも俺にアナウンサーとしての強みなんかあったか? 収録番組に強いとは言われてるけど正直MBCCで収録番組が強くても意味なくないか?」
「強みとは少し違うけど、お前の逆キューの見やすさはミキサーにとってはメチャクチャありがたいぞ。あと、要所要所でこっちを気にかけてくれんのも助かってる。ミキサーとの意思疎通で言えば俺はお前がMBCCで一番だって言い張るぞ」
「シノ、ありがとなあ」
「いいトコはまだあるぞ。まずお前は噛まない! それから、テンションの乱高下がなくてゲインも常に一定だから俺らは慌てないでいいだろ? 安定感が抜群なんだよな、お前は。知的だとか収録云々の前に言うべきアナウンサーとしてのお前の良さは安定感とミキサー思いなところだ! お前だからこそ俺は生放送でやらかそうがいくらでもフォローしてやるって気持ちで構えられんだよ」
「シノ、俺マジで泣きそう」
「お前最近マジで涙腺ぶっ壊れてんな。そんな調子でレナの前でカッコつけれてんのかよ」
「うるさい」
「難しいことはまた後にして、腹減ったしポテトでも食おうぜ、揚げるし」
「1人暮らしで自分で揚げ物をするって、シノは凄いよなあ」
「俺も自分で揚げるようになるとは思わなかったけど、自分で作る方が安かったんだよ。唐揚げも鵠沼先輩に教えてもらって超美味いの作れるようになったしな」
マジで最近のササはちょっとしたことでぐすぐす泣き始めるんだけど、多分それっていうのは高木先輩だとか俺だとか、ある程度気を許してる相手の前で油断した時だけなんだろうとは思う。他の人の前では完璧超人のササの顔をキープしてることからすると。つかササ=完璧超人のイメージを一番強く持ってるのはササ本人だし、一番雁字搦めにされてんのもササ本人なんだよなあ。
「シノ、今度一緒にドーナツ作らないか?」
「ドーナツ? いいけど、唐突にどうした?」
「ドーナツも揚げ物だし、ホットケーキミックスでも作れるらしいから」
「ふーん。でも男2人でドーナツ揚げて食うのも難だし、一応甘いもののカテゴリだから他のメンバーも呼ぶか? くるみとか」
「いいな。みんなに予定合う日聞いてみよう。シノ、今日の夜飲みながら予定詰めよう」
end.
++++
公式学年+1年で時間が経ったササはぐすぐす泣きがち。情緒が落ち着いていない様子。それか感受性が豊かになったのかもしれない。
ササのいいところを知っているのがシノ。他のみんなとは違ういいところを知っているのがいいポイント。
ササシノがドーナツを丸めてるところがなかなかシュールになりそうだけど、見てみたいものだ
.
公式学年+1年
++++
「はー……わかっちゃいたけど現実がしんどい」
「まあ、人には得意不得意があるしな」
「シノ、はっきり言ってくれ。俺が生放送に向いてなさすぎるからこうなってるんだって」
緑ヶ丘大学で行われる新入生学部ガイダンスという物の話があるということでスタジオに一部のゼミ生が招集されていた。その話が終わってうちに転がり込むなりベッドにもたれてへこむササだ。社会学部のガイダンスでは、普段ゼミでラジオをやっているガラス張りのブースにも立ち寄る。その運営の話が今日の主題だった。
オリエンテーションのルートとして1年が回って来るんだけど、ラジオブースではゼミ生が簡単なさわりだけの番組をやって、それを見学するというのが毎年の感じだ。俺たちが入学した年からは1年生にも体験してもらうというコーナーを設けるようになった。俺とササはこの体験で初めて一緒にブースに入ったんだよな。
で、とうとう俺たちがゼミ生としてブースの中から1年生を迎える側になった。オリエンテーションは自分たちでやる番組とは違って右も左もわかってない1年を入れてやるコーナーがあることから、あらゆる状況に対応出来るようMBCCの人間で脇を固めるのが基本だ。これまでだと、果林先輩や高木先輩が入って来た。
果林先輩は卒業するから、高木先輩はまだいるけどこれからは俺とササで頑張っていくんだと思っていた。実際そういう布陣ではある。だけど、1年の頃から散々果林先輩に指摘されて来たアナウンサーとしてのササの弱点は、ヒゲさんもしっかりわかっていた。2年のゼミで作った学術的な音声番組と比べると、生放送……と言うか常に変わる状況を追うライブ対応に弱いというのがササの最大の弱点だ。
「いつまで経っても弱点は弱点のままだし」
「さすがに1年の時よりは上手くなってんよ」
「でも、俺にちゃんと任せるには不安だからまいみぃの枠があれだけあるんだと思うと」
「言って麻衣はチャンネル登録者がウン万いる動画投稿者だぞ。場数踏んでるし単純に上手いから抜擢されたんであって、だからお前が頼りないとかではない」
俺の偏見だけど、頭のいい奴がへこみ始めるととことん沈んでそのうち死ぬんじゃねーかと心配になる。ササはまあまあ繊細なところがあるから、ちょっとしたことですぐネガティブに考え始めるんだよな。去年MBCCの同期で行った薪ストーブの会だって、みんなから遊びに誘われないのが嫌過ぎて幹事をやってたくらいだし。あとたまに情緒不安定になるし。
ここだけの話をすれば、サークルの代替わりの時に高木先輩から個別に言われてたのが「ササをよろしくね」ということだったんだよな。いつもだったらテスト前とかに「シノをよろしく」って感じでササに言うのが基本って感じで。正直「どうした?」とは思ってたんだけど、こないだのゼミ合宿後の様子とか今の感じとかを見てると、こういうことかってちょっとわかってきた感がある。
「でも、いよいよ成長が頭打ちになってるんじゃないかって感がある」
「諦めんなよ」
「と言うかそもそも俺にアナウンサーとしての強みなんかあったか? 収録番組に強いとは言われてるけど正直MBCCで収録番組が強くても意味なくないか?」
「強みとは少し違うけど、お前の逆キューの見やすさはミキサーにとってはメチャクチャありがたいぞ。あと、要所要所でこっちを気にかけてくれんのも助かってる。ミキサーとの意思疎通で言えば俺はお前がMBCCで一番だって言い張るぞ」
「シノ、ありがとなあ」
「いいトコはまだあるぞ。まずお前は噛まない! それから、テンションの乱高下がなくてゲインも常に一定だから俺らは慌てないでいいだろ? 安定感が抜群なんだよな、お前は。知的だとか収録云々の前に言うべきアナウンサーとしてのお前の良さは安定感とミキサー思いなところだ! お前だからこそ俺は生放送でやらかそうがいくらでもフォローしてやるって気持ちで構えられんだよ」
「シノ、俺マジで泣きそう」
「お前最近マジで涙腺ぶっ壊れてんな。そんな調子でレナの前でカッコつけれてんのかよ」
「うるさい」
「難しいことはまた後にして、腹減ったしポテトでも食おうぜ、揚げるし」
「1人暮らしで自分で揚げ物をするって、シノは凄いよなあ」
「俺も自分で揚げるようになるとは思わなかったけど、自分で作る方が安かったんだよ。唐揚げも鵠沼先輩に教えてもらって超美味いの作れるようになったしな」
マジで最近のササはちょっとしたことでぐすぐす泣き始めるんだけど、多分それっていうのは高木先輩だとか俺だとか、ある程度気を許してる相手の前で油断した時だけなんだろうとは思う。他の人の前では完璧超人のササの顔をキープしてることからすると。つかササ=完璧超人のイメージを一番強く持ってるのはササ本人だし、一番雁字搦めにされてんのもササ本人なんだよなあ。
「シノ、今度一緒にドーナツ作らないか?」
「ドーナツ? いいけど、唐突にどうした?」
「ドーナツも揚げ物だし、ホットケーキミックスでも作れるらしいから」
「ふーん。でも男2人でドーナツ揚げて食うのも難だし、一応甘いもののカテゴリだから他のメンバーも呼ぶか? くるみとか」
「いいな。みんなに予定合う日聞いてみよう。シノ、今日の夜飲みながら予定詰めよう」
end.
++++
公式学年+1年で時間が経ったササはぐすぐす泣きがち。情緒が落ち着いていない様子。それか感受性が豊かになったのかもしれない。
ササのいいところを知っているのがシノ。他のみんなとは違ういいところを知っているのがいいポイント。
ササシノがドーナツを丸めてるところがなかなかシュールになりそうだけど、見てみたいものだ
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