2021(04)
■内緒の職権
++++
「何だかんだ言って集まってくれたね」
「そうですね。これをいかにバランスの良い班として編成していくかですね」
源が部長になって大掃除の他に言い出したことで特筆すべきことは、ファンタジックフェスタへのステージでの参加でした。源の考えでは、8月上旬の頃にある丸の池ステージと10月下旬か11月上旬にある大学祭で行うステージが部の看板ステージですが、大学祭から丸の池までの期間が開き過ぎではないか、ということでした。
俺たちが1年の頃、日高元部長の独断でファンフェスのステージに部で参加したことがあるのですが、準備期間も碌に与えられず、参加しなければ夏の丸の池ステージの枠はないと圧力をかけられた部員のモチベーションはそれはもう低い物であったと記憶しています。そして、そのステージのクオリティも。
今回は事前に参加するのはやりたい人だけで大丈夫ですと周知されていましたし、新4年生の引退に伴う班の編成に関しても配慮するという風に言っています。即興の班であるからこそ出来る手法などを試してもらいたいし、それぞれの班のやり方をみんなで学んで部のレベルの底上げに繋げたいという考えがあるようです。
「とりあえず、源班はバラバラにしてもらう感じで行こうか」
「源班をバラバラにするんですか? 何か源なりの考えがあるんでしょうけど、一応理由は聞きますよ」
「バラバラにすることで他の班のやり方をいろいろ勉強してきてもらって夏のステージではどーんと」
「それは完全に源の都合ですね。私利私欲に塗れていると言うか、ステージに関わる話であるという理由で黙認されようとしている職権濫用のように見えますが」
「怖い怖い! それも全くないワケじゃないけど、本当はメインPのマリンがインターフェイスの方とかで忙しくて不参加だからっていうのが主だよ!」
「プロデューサーであれば、谷本君がいるのでは?」
「ちょっと今回の参加者リストを見てほしいんだけどさ」
そう言って源は今村の名前を指差します。今村班は代々音楽を主としたバンドスタイルでのステージをやっている班です。菅野 班と呼ばれていた頃には作曲能力の高い菅野 さんがどんどん曲を作って披露していたように思いますが、今はかつて菅野さんの作った曲の練度を高めているような感じです。
「いまむーが参加してくれるから、今村班の音楽を軸としたステージもぜひやってもらいたいと俺は考えてるんだよね。みんながみんな同じようなことをしてても変わり映えしないし」
「それはそうですね」
「だから、キーボードが弾ける彩人はいまむーに預けたいと思ってるんだよ。元々戸田班と小林班で考えてたみたいだから、向こうのスタイルにも順応出来るかなとは。彩人には朝霞先輩の残した台本の翻訳を頼んでるでしょ? だから逆に朝霞先輩が全くやってないスタイルのステージを見て、やって、彩人ならではの味にしてもらいたいなとは」
「まだ職権濫用の域は抜けませんが、楽器が増えるのは今村にとってもやりやすくなるでしょう」
朝霞さんから師事を受けた谷本君が完全に朝霞さんと同じようなプロデューサーになるのを今のうちに止めたいという考えもあるようですね。谷本君自身のスタイルというものを築いて欲しいというのが源班班長としての思いのようです。あとは浦和がアンチ朝霞さんですからその辺の張り合いも大変なんだよ、とこぼしているのは聞いたことがあります。
「源が職権濫用をするのであれば、俺もひとつ要求をいいですか」
「うん、どんな?」
「班編成が済み次第参加者には通知をして、準備や練習に入ってもらうという次第ですね」
「そうだね」
「ですが、3月4月は俺が個人的に忙しいので、俺の入る班には荒川さんを入れてもらえると助かります」
「えっ、レオって春は忙しいんだね。学部でのいろいろとか?」
「何を言っているんですか。ファンフェスの事務局とやり取りをしているのも俺ですし、卒業式関係の事務作業や文化会関係の書類の処理、新入生勧誘活動に向けた庶務であったり、進級したらしたでまだまだやることは山積みなんですよ」
「えーと……本来俺がやらなきゃいけない仕事ってどれくらいあるんですかね…?」
「本来であれば半分は部長にやってもらいたい仕事ですよ」
「レオの班にはみちるを入れます! いつもお世話になってます!」
俺も一応ディレクターとしての仕事はしているのですが、如何せん監査としての仕事が山積みなのでディレクターの補佐が欲しいと思っていたところでした。源が職権濫用するのであれば、自分もひとつくらい……と言いますか、部長が書類仕事をしてくれれば俺が補佐を必要とすることもありませんから、源は折れざるを得ないんですね。
「お互いひとつ職権を行使しましたし、あとは当人の能力や雰囲気などを見ながら適当に入れて行きますか」
「そうだね」
「他の班のやり方を見て学ぶということであれば、他の部員にも源の小道具作りの技をぜひ伝えていただきたいですね」
「え、小道具作りを? 他の班ってその辺どうやってるの?」
「他の班は朝霞班より予算がありましたから多少であれば買うこともあったようです。戸田班のステージを見て他の部員が小道具をどこで揃えているのかと言っているのも聞いたことがあります。あれは源が作っているのだと答えると驚いていましたし、そういった技術に興味のある部員もいるんじゃないかと思います」
「ふーん、そうなんだね。とりあえず俺は班の垣根に関係なく誰でも訪ねて来て下さいってスタンスだし、いつでも聞きに来てもらえれば」
end.
++++
新生星ヶ丘の部長監査コンビが話し合いをしているのが何か好き。何だかんだ名コンビになるんじゃないか
例によってゲンゴローが好き放題暴れ回ろうとしていたようだけど、職権の激しい濫用は止められるよ
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「何だかんだ言って集まってくれたね」
「そうですね。これをいかにバランスの良い班として編成していくかですね」
源が部長になって大掃除の他に言い出したことで特筆すべきことは、ファンタジックフェスタへのステージでの参加でした。源の考えでは、8月上旬の頃にある丸の池ステージと10月下旬か11月上旬にある大学祭で行うステージが部の看板ステージですが、大学祭から丸の池までの期間が開き過ぎではないか、ということでした。
俺たちが1年の頃、日高元部長の独断でファンフェスのステージに部で参加したことがあるのですが、準備期間も碌に与えられず、参加しなければ夏の丸の池ステージの枠はないと圧力をかけられた部員のモチベーションはそれはもう低い物であったと記憶しています。そして、そのステージのクオリティも。
今回は事前に参加するのはやりたい人だけで大丈夫ですと周知されていましたし、新4年生の引退に伴う班の編成に関しても配慮するという風に言っています。即興の班であるからこそ出来る手法などを試してもらいたいし、それぞれの班のやり方をみんなで学んで部のレベルの底上げに繋げたいという考えがあるようです。
「とりあえず、源班はバラバラにしてもらう感じで行こうか」
「源班をバラバラにするんですか? 何か源なりの考えがあるんでしょうけど、一応理由は聞きますよ」
「バラバラにすることで他の班のやり方をいろいろ勉強してきてもらって夏のステージではどーんと」
「それは完全に源の都合ですね。私利私欲に塗れていると言うか、ステージに関わる話であるという理由で黙認されようとしている職権濫用のように見えますが」
「怖い怖い! それも全くないワケじゃないけど、本当はメインPのマリンがインターフェイスの方とかで忙しくて不参加だからっていうのが主だよ!」
「プロデューサーであれば、谷本君がいるのでは?」
「ちょっと今回の参加者リストを見てほしいんだけどさ」
そう言って源は今村の名前を指差します。今村班は代々音楽を主としたバンドスタイルでのステージをやっている班です。
「いまむーが参加してくれるから、今村班の音楽を軸としたステージもぜひやってもらいたいと俺は考えてるんだよね。みんながみんな同じようなことをしてても変わり映えしないし」
「それはそうですね」
「だから、キーボードが弾ける彩人はいまむーに預けたいと思ってるんだよ。元々戸田班と小林班で考えてたみたいだから、向こうのスタイルにも順応出来るかなとは。彩人には朝霞先輩の残した台本の翻訳を頼んでるでしょ? だから逆に朝霞先輩が全くやってないスタイルのステージを見て、やって、彩人ならではの味にしてもらいたいなとは」
「まだ職権濫用の域は抜けませんが、楽器が増えるのは今村にとってもやりやすくなるでしょう」
朝霞さんから師事を受けた谷本君が完全に朝霞さんと同じようなプロデューサーになるのを今のうちに止めたいという考えもあるようですね。谷本君自身のスタイルというものを築いて欲しいというのが源班班長としての思いのようです。あとは浦和がアンチ朝霞さんですからその辺の張り合いも大変なんだよ、とこぼしているのは聞いたことがあります。
「源が職権濫用をするのであれば、俺もひとつ要求をいいですか」
「うん、どんな?」
「班編成が済み次第参加者には通知をして、準備や練習に入ってもらうという次第ですね」
「そうだね」
「ですが、3月4月は俺が個人的に忙しいので、俺の入る班には荒川さんを入れてもらえると助かります」
「えっ、レオって春は忙しいんだね。学部でのいろいろとか?」
「何を言っているんですか。ファンフェスの事務局とやり取りをしているのも俺ですし、卒業式関係の事務作業や文化会関係の書類の処理、新入生勧誘活動に向けた庶務であったり、進級したらしたでまだまだやることは山積みなんですよ」
「えーと……本来俺がやらなきゃいけない仕事ってどれくらいあるんですかね…?」
「本来であれば半分は部長にやってもらいたい仕事ですよ」
「レオの班にはみちるを入れます! いつもお世話になってます!」
俺も一応ディレクターとしての仕事はしているのですが、如何せん監査としての仕事が山積みなのでディレクターの補佐が欲しいと思っていたところでした。源が職権濫用するのであれば、自分もひとつくらい……と言いますか、部長が書類仕事をしてくれれば俺が補佐を必要とすることもありませんから、源は折れざるを得ないんですね。
「お互いひとつ職権を行使しましたし、あとは当人の能力や雰囲気などを見ながら適当に入れて行きますか」
「そうだね」
「他の班のやり方を見て学ぶということであれば、他の部員にも源の小道具作りの技をぜひ伝えていただきたいですね」
「え、小道具作りを? 他の班ってその辺どうやってるの?」
「他の班は朝霞班より予算がありましたから多少であれば買うこともあったようです。戸田班のステージを見て他の部員が小道具をどこで揃えているのかと言っているのも聞いたことがあります。あれは源が作っているのだと答えると驚いていましたし、そういった技術に興味のある部員もいるんじゃないかと思います」
「ふーん、そうなんだね。とりあえず俺は班の垣根に関係なく誰でも訪ねて来て下さいってスタンスだし、いつでも聞きに来てもらえれば」
end.
++++
新生星ヶ丘の部長監査コンビが話し合いをしているのが何か好き。何だかんだ名コンビになるんじゃないか
例によってゲンゴローが好き放題暴れ回ろうとしていたようだけど、職権の激しい濫用は止められるよ
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