2021(04)

■リバイバル・ムーブ

++++

 久々にベティさんと話したいなと思って単身プチメゾンに足を運ぶ。終電までにはちゃんと帰ろうと心に決めて。すると、恐らくFMにしうみでのバイト上がりなのか、ミーナとサキが何やらベティさんと話しているようだった。

「あらカオルちゃん。いらっしゃい」
「ベティさんご無沙汰してます。ミーナとサキはバイト上がり?」
「そうですね。朝霞さんは」
「俺は単に飲みに来ただけ。ベティさんの料理が食べたくてさ」
「美味しいですよね。俺もここでは食べる量が少し増えます」
「小食のサキちゃんから褒められると嬉しいわ~。張り切って作るからカオルちゃん何でも注文していいのよ!」
「クリームサーモンのキッシュをお願いします」
「はーい」

 先月ここで初めて会ったサキだけど、彩人から話には聞いているから会った回数以上には知っている感じがする。サキは食べる量が少なくて心配になると彩人が言っていたけど、ここではまあまあ摘んでいるように思う。ドライフルーツがお気に入りのようだ。

「サキはFMにしうみでバイトを始めて3ヶ月目に入ったんだっけ?」
「そうですね」
「ミーナ、働きぶりはどう?」
「4月までは、私のしている仕事の実質的な引継ぎを……飲み込みが早くて、助かる……」

 ミーナもバイトを辞めるわけではないけど、大学院生になるとどんな風に忙しくなるかわからないという理由で研修ついでに仕事の引継ぎをしているそうだ。それから、ミーナは土日メインで働いていたけどサキは平日も入るとのこと。

「……そう、ロイ」
「ん?」
「10月を目処に、FMにしうみでは学生パーソナリティーの番組をタイムテーブルに組み込むことを検討している……」
「マジか。ちょっと詳しく」
「去年の年末までやっていた、BJの番組にいい反響があって……局の偉い人も、学生の番組の枠を作ることに前向きになって……」
「今はその話を俺が定例会で話して、興味のある人を探しているような感じです」
「そうか、とうとうファンフェス以外で一般の人に向けた番組をやる機会を得ようとしているのか」
「そういうことですね。もちろん公共の電波に乗せるワケですから公序良俗を守ってもらった上でそれなりのレベルを必要としますけど」
「それなりのレベルを求められるって、スキー場DJを思い出すな」
「……確かに」
「俺はギリギリ選抜のボーダーに滑り込んで、何とか行かせてもらったもんな。あのヒリヒリした感じ、懐かしい」
「そう言えば、スキー場DJの話は過去の記録では読んだことがあるんですけど、選抜があったんですか?」
「そうそう。インターフェイスでやってる夏合宿は元々スキー場DJに誰が行けるのかってのを選抜する場所だったんだよ」
「……そこで、現地に派遣出来るレベルにないと判断されれば、冬の班編成で名前が組み込まれない……」

 最終的にインターフェイスに残った俺たちの学年のアナウンサーでは、俺が一番レベルが低かったのは事実としてある。そもそもラジオメインではない星ヶ丘にあって、人前で喋ることもないプロデューサーを本職にしていたというのもある。
 だけど川口班の方針で出れる行事には出ろという感じだったし、俺もスキー場で番組をやるなんてことは普通は絶対に出来ないと思ったから後学のためにどうしても行きたかった。だから何とか行けないかと山口と一緒に越谷さんに習って一生懸命アナウンサーの技術を勉強していた。

「高崎の番組が好評だったのはわかるんだよ。アイツは実際めちゃくちゃ上手い」
「あの子はちゃんとFMにしうみや西海市のこと、それからどういった人が番組を聞いているのかということを実際に調べて分析した上で番組を作ってたのよね。ラジオパーソナリティーとしての技術があるのはもちろんとして」
「ベティさんから見てもそうなんですね」
「アタシもプロではないけれど、ナメた態度で来られればわかるわよ」
「FMにしうみの偉い人が高崎をインターフェイスの標準レベルだと思ってないかってのはちょっと気になりますね」
「……その辺りは、私からも説明してある……問題ない」
「もちろん現役の俺たちも技術向上の必要があるのはわかってますけど、いきなり伝説レベルは少し厳しいですからね」

 興味あるという人がいれば今年の夏合宿にはFMにしうみの関係者にもモニター会に来てもらって実際の様子を見てもらうという方針で行くようだ。確かに、10月スタートの番組に向けた話なら時期的にも悪くないだろうと思う。

「緑大佐藤ゼミとの競合もあるので、やりたい人には凄く頑張ってもらうことになりますね」
「へえ、インターフェイスだけに声がかかったワケじゃないんだな」
「そうですね。佐藤ゼミというのが高木先輩やササとシノのいるゼミで、緑大では学部のラジオブースで昼に番組をやってるんです。自称・ブロック随一のサブカル・メディアゼミとのことで」
「なるほどなー。でもこれはこれで面白いんじゃないか? 映像のことも始まって、一般のラジオにも挑戦できる可能性があって。いよいよインターフェイス、始まるな」
「そうですね。楽しみです」
「……もちろん、スタッフの佐崎君も、無条件通過ではない……」
「わかってます。でも、その上でインターフェイス代表として俺は選抜に通ります」

 今のインターフェイスもみんなで仲良くやってるようだけど、サキのような強気で負けず嫌いな子がいるというのもいいことだと思う。今やインターフェイスを代表するミキサーとなった高木君にだって負ける気はないと言ってドライオレンジを食む彼の頼もしいこと。

「審査員には福井ちゃんが回るのかしらね?」
「その時の状況にもよりますけど、恐らく……」
「サキ、ミーナは甘くないぞ」
「知ってますよ」


end.


++++

美奈もめちゃくちゃ負けず嫌いだしサキもだし、寡黙で意外にフッ軽で強気で負けず嫌いという共通点のある美奈サキの師弟である。
Pさんは定例会として一応そういう場所を探してた体の人だから、余計に思うことがありそう。
一方その頃緑ヶ丘ではのパターンも見たいけど、どうかな? TKGがササシノ辺りと喋ってるのを見てみたいものだけど

.
55/78ページ