2021(04)
■憧れのガールズ・トーク
++++
「へえ、レナはお父さんとツーリングに行ったりするのですね」
「その辺は親が協力的と言うか、趣味仲間みたいな感じなのが気が楽かな。家によってはバイクなんてとんでもないって言われることもあるみたいだし」
「難しいところですね。バイクは生身で乗りますから。ですが、大学生になると原付に乗る人も増えますし、多少は目を瞑っていただきたいですね」
先日、緑ヶ丘の皆さんが開いてくださった親睦会という名目のたこ焼きパーティーで意気投合したレナと今日は自動車博物館にやってきて、その流れで博物館だけでなくいろいろ見て回っています。所謂町歩きということでしょうか。
たくさん歩いて少し疲れたのでカフェで休憩をする事になり、如何せん施設内では大きな声で話すこともままなりませんでしたから、自由に話すことが出来てとても楽しく思います。まだまだ友人になって日が浅いので、互いを知るための会話が多いでしょうか。
「春風は? 車とか、バイクとかを自分が運転する予定は」
「自動車の免許自体はあるので一応乗れるのですが、まだ具体的にいつ車を買おうという話にはなっていません。ただ、ペーパードライバーのまま免許をただの身分証明書にしてしまうのは、それはそれで怖いので3年生になるまでにはと両親は言ってくれています」
「あ、わかる。私も車の免許は一応あるんだけど、メインがバイクだから車の感覚がね」
「私は家が自動車整備工場なのですが、新車販売などの手続きと言うか窓口もやっていますから、カタログなどは見放題なんです」
「うわっ、いいなあ。車もオプションも悩みたい放題だね」
「はい。私には兄がいるのですが、その兄がとても過保護なのです。ですから、カタログを読んでいるとドライブレコーダーはこれがいいとか安全装備は一番いい物にしろとか大学が豊葦なんだから冬はスタッドレスタイヤを履けとか横から口を挟んできて」
「お兄さん、スタッドレス派なんだね」
「チェーンを巻くのは手間ですし、向島エリアでも何だかんだ言って降るときは降るというのが理由のようです」
「確かにすがやんも親御さんに豊葦に行くならスタッドレスにしなさいって言われたみたいだね。親の言うことは聞くもんだなって言ってた」
「やっぱり、豊葦を知っているとそう考えるのですね」
私がいつか乗る車のことは今後はレナにも相談しながら考えようと思います。兄さんは過保護で困りますが、言っていること自体は間違っていないのです。と言うか、お金は父さんに出してもらうのだから、兄さんが好き勝手に言うことも出来ないと思うけど。
「冬タイヤとかって、交換の手間とタイヤの保管場所がネックになってくるけど、春風の場合は家が工場だからその辺はクリア出来る感じ?」
「そうですね。タイヤ交換であれば自分でも出来るのですが、自分の車となると兄がさせてくれないと思うので父か兄に任せることになるかと」
「うーん、お兄さんの過保護っぷりはまだ想像の域を抜けないけど、彼氏が出来たという事に関しては大丈夫だった?」
「間に奏多が入ってくれてどうにか納得はしてくれたようです。ただ、実際に会ってどんな男かこの目で見ないことには、と」
「すがやん頑張れ。あと、松兄は何て言ってそのお兄さんを納得させたの?」
「兄が唯一私を放任するのが天文学の趣味なのです。徹平くんとの初対面時に考古学を絡めた天文学の話で盛り上がったことを受けて、彼氏は私の天文学の趣味を同等の知識で受け止められる器だと。多少奏多らしい誇張表現も含めつつですが、兄を黙らせてくれたようです」
「こないだ会っただけだけど、松兄って弁が立ちそうな印象だよね。世渡りが上手そうと言うか」
「そうですね。コミュニケーションの上手さは素直に感心します。一見飄々としているように見えますが、実はかなりの努力家でもあります。それを表に出すことはしないので、努力もせずに何でも出来る天才型と思われがちなのですが」
ですから、本来は幼馴染みであり頼れる先輩という立ち位置に来るはずなのですが、如何せん外面がああなので……。あのだらしなさを私が看過することが出来ず、つい怒鳴り散らしてしまうのです。
「あれ。レナ、すみません。……わあ、いいなー…!」
「どうしたの?」
「野坂先輩からのLINEです。野坂先輩はただ今緑風に旅行されているとのことで、今は天文台に行ってきましたと建物の写真とパンフレットの写真を送ってくれました」
「まるで自慢されてるみたいだねえ」
「ですが、本当に羨ましいです! 私も時間が取れたらいつか緑風に行ってクレープを食べたり天文台に行きたいですね」
「ソロ旅行?」
「現地でMMPのOGである菜月先輩という方と合流しているとのことです。緑風出身でいらっしゃるとのことで」
「え、それじゃあ実質デートじゃん」
「仲のいい先輩と後輩のお出かけなのでは?」
「そっか、春風はまだ知らなかったか。野坂先輩は菜月先輩にそれはもう一途な片想いをしてるっていう話で、インターフェイス内でも常識みたいになってるけど、みんな応援してて表立って冷やかさないっていう暗黙の了解があるんだよ」
「そうだったのですね…! 私は菜月先輩の番組を聞いてこんなアナウンサーになりたいと憧れを抱いているのですが、まだお会いしたことはないのです」
「透明感があって可愛さと綺麗さをハイブリッドした激烈な美人だとは。でも缶蹴りの時の感じでは体も動くしノリがいいよ。星のイヤーカフが印象的だったな」
「私も野坂先輩に何か写真で今のことを自慢したいのですが……何を撮りましょう」
「さっき買ったチョロQとフォークリフトとか」
「いいですね」
スマホカメラの技術を教えてもらう前なのが悔やまれますが、私は楽しくやっていますとせめてものご報告を。ファインダーの中にはレナが出したピースサインの指先を入れて。送信。
「わっ。もう返ってきました」
「何て?」
「『自動車博物館は俺も羨ましく思うけどそれよりフォークリフト模型に菜月先輩のテンションがヤバい』とのことです」
「もしかして菜月先輩もこちら側の人…?」
「でしたら、尚更卒業前にご挨拶を…!」
end.
++++
レナの思うほどこちら側ではないのだけど、一般的な女子より働く車などにきゃっきゃする系女子の菜月さんである
MMPのアナウンサーとしては菜月さんを踏襲し、立ち振る舞いなどはライトなノサカ風に描いている春風なので、一言で言って強い
さて、すがやんに訪れようとしている試練を他人事のように構えているレナだけど、自分もそのうち何者だと言われることになるんよ
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「へえ、レナはお父さんとツーリングに行ったりするのですね」
「その辺は親が協力的と言うか、趣味仲間みたいな感じなのが気が楽かな。家によってはバイクなんてとんでもないって言われることもあるみたいだし」
「難しいところですね。バイクは生身で乗りますから。ですが、大学生になると原付に乗る人も増えますし、多少は目を瞑っていただきたいですね」
先日、緑ヶ丘の皆さんが開いてくださった親睦会という名目のたこ焼きパーティーで意気投合したレナと今日は自動車博物館にやってきて、その流れで博物館だけでなくいろいろ見て回っています。所謂町歩きということでしょうか。
たくさん歩いて少し疲れたのでカフェで休憩をする事になり、如何せん施設内では大きな声で話すこともままなりませんでしたから、自由に話すことが出来てとても楽しく思います。まだまだ友人になって日が浅いので、互いを知るための会話が多いでしょうか。
「春風は? 車とか、バイクとかを自分が運転する予定は」
「自動車の免許自体はあるので一応乗れるのですが、まだ具体的にいつ車を買おうという話にはなっていません。ただ、ペーパードライバーのまま免許をただの身分証明書にしてしまうのは、それはそれで怖いので3年生になるまでにはと両親は言ってくれています」
「あ、わかる。私も車の免許は一応あるんだけど、メインがバイクだから車の感覚がね」
「私は家が自動車整備工場なのですが、新車販売などの手続きと言うか窓口もやっていますから、カタログなどは見放題なんです」
「うわっ、いいなあ。車もオプションも悩みたい放題だね」
「はい。私には兄がいるのですが、その兄がとても過保護なのです。ですから、カタログを読んでいるとドライブレコーダーはこれがいいとか安全装備は一番いい物にしろとか大学が豊葦なんだから冬はスタッドレスタイヤを履けとか横から口を挟んできて」
「お兄さん、スタッドレス派なんだね」
「チェーンを巻くのは手間ですし、向島エリアでも何だかんだ言って降るときは降るというのが理由のようです」
「確かにすがやんも親御さんに豊葦に行くならスタッドレスにしなさいって言われたみたいだね。親の言うことは聞くもんだなって言ってた」
「やっぱり、豊葦を知っているとそう考えるのですね」
私がいつか乗る車のことは今後はレナにも相談しながら考えようと思います。兄さんは過保護で困りますが、言っていること自体は間違っていないのです。と言うか、お金は父さんに出してもらうのだから、兄さんが好き勝手に言うことも出来ないと思うけど。
「冬タイヤとかって、交換の手間とタイヤの保管場所がネックになってくるけど、春風の場合は家が工場だからその辺はクリア出来る感じ?」
「そうですね。タイヤ交換であれば自分でも出来るのですが、自分の車となると兄がさせてくれないと思うので父か兄に任せることになるかと」
「うーん、お兄さんの過保護っぷりはまだ想像の域を抜けないけど、彼氏が出来たという事に関しては大丈夫だった?」
「間に奏多が入ってくれてどうにか納得はしてくれたようです。ただ、実際に会ってどんな男かこの目で見ないことには、と」
「すがやん頑張れ。あと、松兄は何て言ってそのお兄さんを納得させたの?」
「兄が唯一私を放任するのが天文学の趣味なのです。徹平くんとの初対面時に考古学を絡めた天文学の話で盛り上がったことを受けて、彼氏は私の天文学の趣味を同等の知識で受け止められる器だと。多少奏多らしい誇張表現も含めつつですが、兄を黙らせてくれたようです」
「こないだ会っただけだけど、松兄って弁が立ちそうな印象だよね。世渡りが上手そうと言うか」
「そうですね。コミュニケーションの上手さは素直に感心します。一見飄々としているように見えますが、実はかなりの努力家でもあります。それを表に出すことはしないので、努力もせずに何でも出来る天才型と思われがちなのですが」
ですから、本来は幼馴染みであり頼れる先輩という立ち位置に来るはずなのですが、如何せん外面がああなので……。あのだらしなさを私が看過することが出来ず、つい怒鳴り散らしてしまうのです。
「あれ。レナ、すみません。……わあ、いいなー…!」
「どうしたの?」
「野坂先輩からのLINEです。野坂先輩はただ今緑風に旅行されているとのことで、今は天文台に行ってきましたと建物の写真とパンフレットの写真を送ってくれました」
「まるで自慢されてるみたいだねえ」
「ですが、本当に羨ましいです! 私も時間が取れたらいつか緑風に行ってクレープを食べたり天文台に行きたいですね」
「ソロ旅行?」
「現地でMMPのOGである菜月先輩という方と合流しているとのことです。緑風出身でいらっしゃるとのことで」
「え、それじゃあ実質デートじゃん」
「仲のいい先輩と後輩のお出かけなのでは?」
「そっか、春風はまだ知らなかったか。野坂先輩は菜月先輩にそれはもう一途な片想いをしてるっていう話で、インターフェイス内でも常識みたいになってるけど、みんな応援してて表立って冷やかさないっていう暗黙の了解があるんだよ」
「そうだったのですね…! 私は菜月先輩の番組を聞いてこんなアナウンサーになりたいと憧れを抱いているのですが、まだお会いしたことはないのです」
「透明感があって可愛さと綺麗さをハイブリッドした激烈な美人だとは。でも缶蹴りの時の感じでは体も動くしノリがいいよ。星のイヤーカフが印象的だったな」
「私も野坂先輩に何か写真で今のことを自慢したいのですが……何を撮りましょう」
「さっき買ったチョロQとフォークリフトとか」
「いいですね」
スマホカメラの技術を教えてもらう前なのが悔やまれますが、私は楽しくやっていますとせめてものご報告を。ファインダーの中にはレナが出したピースサインの指先を入れて。送信。
「わっ。もう返ってきました」
「何て?」
「『自動車博物館は俺も羨ましく思うけどそれよりフォークリフト模型に菜月先輩のテンションがヤバい』とのことです」
「もしかして菜月先輩もこちら側の人…?」
「でしたら、尚更卒業前にご挨拶を…!」
end.
++++
レナの思うほどこちら側ではないのだけど、一般的な女子より働く車などにきゃっきゃする系女子の菜月さんである
MMPのアナウンサーとしては菜月さんを踏襲し、立ち振る舞いなどはライトなノサカ風に描いている春風なので、一言で言って強い
さて、すがやんに訪れようとしている試練を他人事のように構えているレナだけど、自分もそのうち何者だと言われることになるんよ
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