2021(04)

■Just not in the same place

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 緑風旅行2日目。何と言うか、こうやって朝を迎えることが非日常と言うか妄想が具現化してるんだよなあ。お世辞にも広いとは言えない部屋に、ベッドが2台。今回はツインの部屋で、同室に菜月先輩も宿泊されている。それと言うのも、酒を飲む機会があるだろうし飲んだら車では帰れないからという理由だ。
 菜月先輩と夜を明かすこと自体は別に初めてでもない。今ではもう引き払われてしまったのだけど、菜月先輩の住んでいたマンションの一室だ。そこに泊まらせてもらうということは割とあったと思う。あれはあれで今から思うと結構なことではあるんだけど、多分ここが宿の一室であるということがやたら挙動不審になってしまう原因だろう。
 先輩の部屋に泊まるときは基本的に雑魚寝だったし、こう、ベッドが並んでるのがダメなヤツなんだわ。付き合うどころか告白さえ出来ないでいるというのに、それらの行程を全部すっ飛ばして新婚生活の妄想に行くんだから俺という奴は本当に救いようがないなあと。せっかく勢いのある話を聞いてここまで来たというのに結局やってることはいつもと一緒だしなあ。

「起きたか」
「おはようございます。もう朝の支度が済んでしまわれたのですか?」
「粗方な。いつでも朝ごはんを食べに行けるぞ」
「そう言えば、朝食は結局どうしましょう。宿の朝食会場で食べるか、外に出て食べるかという議論は結局明日の朝になってからの気分でいいかと着地しましたよね」
「うちはどっちでもいいぞ。外に出るなら車は動かせるし、徒歩圏内でもいいし。ただ、土地勘はないから調べてもらえると助かる」
「そうですね……せっかくですから、外に出ましょうか。寒そうですが」
「ところで、昨日のクレープは自慢したんだろ? 何かリアクションはあったのか?」
「羨ましいですと返信がありましたね」

 すがやんと付き合うことになったと春風から報告を受けたときに行ったクレープ店の本店がこの近くにあるということで、昨日昼食のラーメンを食べた後に連れて行ってもらったんだ。本店限定のメニューを注文してそれを撮影、流れるように春風に自慢してやる性格の悪い3年である。ちなみに今日は天文台へ行くという当てつけムーブだ。
 完全な余談だけど、春風からは緑ヶ丘の1年6人が開いてくれたというたこ焼きパーティーの写真が送られて来た。友達が少ないとか出来にくいということで悩んでいるようだったけど、レナとは話がとても合ったようで、今度自動車博物館に出かけることになったとか。レナのロボット・機械・車・バイクといった趣味を春風がカバーしてるとは思わなかったというのが本音だ。

「ところでモーニングですが、簡単に調べてみた結果、ホテルのバイキングが検索上位に出てきますね。他には、老舗喫茶店のモーニングなど」
「そんなところがあるのか」
「あるようですね。隠れ家的喫茶店のようですが、知る人ぞ知るのでいつ行っても賑わっていると」
「ふーん。緑風中心街なんて滅多に来ないし、こんなことでもないと行かないから行ってみるかあ。ちなみに距離的には?」
「路面電車に少し乗る必要がありそうですが、降りたところからは徒歩2分ほどだそうです」
「そうか。じゃあ電車で行こう」

 緑風駅周辺をぐるりと網羅した路面電車は本当に凄いしカッコいいなあと思う。昨日は乗る機会がなかったんだけど、今から乗ることになったのでちょっと楽しみだ。向島じゃこういう電車はないもんなあ。ライトレールというヤツで、駅周辺なら本当に車がなくてもそれなりに回れてしまうそうだ。

「せっかくですし、少し電車の写真も撮りたいですね」
「いいんじゃないか? 新しいのを撮るのか昔ながらのレトロ感のあるヤツを撮るのかでもまた変わるだろうけど。と言うか、お前に撮り鉄的な趣味があるという話は聞いたことがないけど」
「ええ。そのような趣味はないのですが、せっかくですので記録という意味合いの観光写真ですね」
「なるほど」

 さて、今現在も菜月先輩をお待たせしてしまっているので、顔を洗ったり朝の支度をしてしまわないと。と言うか菜月先輩は朝がお早い。いや、今が8時前だから俺が遅いのか。せっかくの旅行なのに昼まで寝てたんじゃお笑いだ。と言うかそれで菜月先輩と一緒にいられる時間を削るだなんて笑止千万でしかない。

「しかし、緑風の寒さの中でも菜月先輩は薄着でいらっしゃるのですね。例によって脚が露出していますし」
「と言うか、星港を歩くときの方が重装備にしないといけないんだぞ」
「そうなのですか?」
「星港は外を歩くしビル風が強い。こっちでは基本的に車移動だし活動も屋内だからあまり重ね着をすると暑いんだぞ」
「そのような違いがあるのですね。俺にはどちらも寒いですが」
「結局今日は朝ごはんを食べて、天文台に行って飲みに行くって予定だけど、モーニングと天文台の間が問題でだな」
「地元民的に、何かありますか?」
「ない」
「それは困りましたね」
「地元だからこそ知らないものだ」
「それはそうですが、こうも堂々と言われると潔さを感じますね」
「そういうことだからさっさと準備をして調べてくれ」
「はい」


end.


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いつもの。特筆することはないいつものナツノサ。

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