2021(04)

■所変われどいつもの感じで

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「そしたら、ラーメンだな」
「よろしくお願いします」

 俺が今どこにいるのかと言うと、なんとなんと緑風で菜月先輩が運転する車の助手席だ。燦然と輝く初心者マークだ。例によって菜月先輩成分が足りなくなった俺は、勢いのある春風の話を聞いていたこともあり緑風に行くしかないと単身高速バスでやってきました。ただ、これがメチャクチャ寒い! その辺に普通に雪が積もってるし。これであったかくなったとか嘘だろ。
 緑風駅の周辺は、さすがエリアの中心だけあって俺の想像以上に開発されていて驚いた。と言うか普通に綺麗だし。駅のロータリーまで菜月先輩が俺を迎えに来てくださって、時間がちょうどいい感じなのでこれから昼食にしましょうということになった。ただ、緑風で観光客を迎える際に主に使われるのは魚介類であって……それら全般が苦手な俺には地獄でしかなかった。

「そのラーメン屋は結構遠いのですか?」
「凄く遠いって程じゃないけど、中心街からは離れるな。あ、前原の地元はこの辺だぞ」
「そうなのですね。特に必要としない情報ですが」
「だろうとは思ったけど一応な。緑風市民で高級住宅街だからってナチュラルにマウント取って来やがる」
「いい家の子なんですね」
「ボンボンであることには違いないな。さ、ラーメンはもうちょっと行って右折だ」

 もうちょっと行って右折して、さらにもうちょっと行ったところに今回の目的地となるラーメン屋がある。菜月先輩の愛してやまない野菜塩ラーメンのある“らーめん8号”ではない店だけど、ここはここで塩ラーメンが美味しいらしい。さすが菜月先輩、外さねえなあ~! 菜月先輩が菜月先輩で安心感しかないなど。

「まず券売機で食券を買う。うちは塩ラーメンと煮玉子」
「ええと、俺はとんこつ醤油ラーメンの大盛りにしましょう」
「唐揚げは何個にしよう。まあ、うちが食べ切れなくてもお前が食べるよな」
「そうですね」
「それじゃ5個にしよう。あとうちは和三盆プリンと」
「えっ、プリンがあるのですか!?」

 食券を買って席に着くと、店員がやってきてそれを回収しに来た。それで、ラーメンのオプションを決めなければならないとのこと。麺の硬さ、薬味トッピングの有無、それから背脂の濃さを何段階かの中から選ぶそうだ。菜月先輩は“固め”、“抜き”、“抜き”がいつものだそうだ。俺はとりあえず“普通”、“あり”、“普通”にしておこう。食べてる時に違うなって思えば調節し直してもらえるとか。

「しかしまあ、お前もそんなに暇じゃないだろうによくこんなところに来たな」
「菜月先輩とお会いするための時間であればいくらでも捻出出来ますので」
「しかも今年は単身でだろ?」
「その辺りのことはきちんと話すと少々長くなってしまうのですが、緑風に縁のある話を聞くことがあったので、そこからの連想でしょうか」
「お前風に言えば、意味がわからない」
「ええとですね、MMPにこのタイミングで新メンバーが2人加入しまして」
「おお」
「そのうちの女子とはいろいろありましてクレープを食べに行ったんですね。そのクレープの本店が緑風にあるという話を聞き。それから、その女子が元々天文部だったということで、プラネタリウムの元ネタになっている施設が緑風にあるという話を聞いたんですね」
「ああ、そうだぞ。ちなみに、余所のエリアに店を出すようなクレープ屋ならあそこくらいしかないだろうし、後で行くか」
「よろしくお願いします!」
「えっ、女子が入ったって言ったか? まさかのゲッティング☆ガールか」
「そうなんですよ」
「タイプ的には」
「真面目で品行方正といったタイプですね」
「春風の似合う可愛くてぽわぽわした癒される?」
「――かどうかはともかく、奈々受けは非常にいいです」

 とか何とか話していると、店員がラーメンと唐揚げを持って来た。プリンは食後に回し、とりあえずオプションを普通にしたとんこつ醤油ラーメンをいただきます。しかし唐揚げが大きい。タワシ唐揚げとも呼ぶ摩天楼の唐揚げと同じくらいあるんじゃないか。食べにくい場合はハサミで切ってもらえるそうだけど、今回はインパクト重視ということでそのまま出してもらいました。

「パートは?」
「アナウンサーです。それこそ菜月先輩の番組を聞いてアナウンサーとしての方向性が定まった感がありますし、サイエンスコミュニケーションの分野を突き詰めていきたいようですね」
「聞き捨てならないことを聞いたな」
「申し訳ございません。ですが、せっかくのラーメンなので叱責であれば食後に。逃げも隠れも言い訳も致しませんので」

 まあ、真面目系の星好き女子ということで菜月先輩受けもいいだろうから、そんな女子がゲッティング出来たということで俺のやらかしに関しても見逃してもらえないだろうかと。菜月先輩が自分の番組を後から出されるのが非常に嫌がるのも知っていて出したんだけど、それだけカノンが本気だったからというのはある。

「と言うかこの時期に2人も入るなんて何があったんだ」
「カノンが頑張ったんですよ」
「ほ~、やるなあ」
「それで、春の番組制作会までに最低限のレベルに持って行くんだと言って春休みもこれまでのMMPでは考えられないほどガツガツ練習していまして。それこそ緑ヶ丘かと思うほどです。軽く初心者講習も頼まれましたけど、地頭がいいので飲み込みが早いんですね」
「凄いじゃないか。いやあ、良かったなあ」
「そうですね」
「ところで、とんこつ醤油って美味しいのか?」
「美味しいですよ。と言うか、召し上がられたことがない?」
「塩一択だからな」


end.


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いつもの。
菜月さんの食生活の中心には麺類があり、その麺類の中のさらに中心となるのが塩ラーメンである
ゲッティング☆ガールプロジェクトに関してはこの真ん中の☆が重要なのであった。たまに忘れてる人は怒られるぞ

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