2021(04)
■朝の光
++++
「よう朝霞。久し振りだな」
「越谷さんお久し振りです。すみません、無理言って時間作ってもらって」
「いや、休みだから大丈夫だ。ホント、わざわざよく来たな」
俺がやって来たのは光洋エリアは腰南市、越谷さんの地元だ。越谷さんが去年大学を卒業して実家に戻ったそれっきり会えていない。一応山口の誕生会がありますと声はかけたけど、さすがに平日のそれに駆けつけられる距離感でもなく。俺は一応まだ学生で時間はそれなりに作れるし、東都方面に行くことも増えていたから光洋くらいだったらいつでも行けるなと思った。
今日は今日でUSDX関係で東都に来ていた帰りだ。おかげで光洋に来るならこの時間帯だという早朝からここにいることが出来ている。星港の家からだったらまず起きるところから苦戦するだろう。越谷さんは朝型……と言うか寝てるのを見たことないからよくわからないけど、朝には強い方だという印象が強い。
早朝からやっているところでいい店というのがあるそうで、そこに連れて行ってもらう。玉子かけごはんと焼き魚の定食が美味い店だそうだ。玄のじゃこたまごかけごはんとはまた違う玉子かけごはんだけど美味いぞと勧められれば食べるしかない。白身をメレンゲにしてから黄身を乗せるタイプのヤツだそうで、と言うかこのテの定食は俺の好みなんだ。
「そうだ、悪かったなこないだ」
「こないだ?」
「洋平の誕生会の件だ」
「いや、平日の会なのに本当に来られても大丈夫かって思いますし、大丈夫です」
「お前ももうすぐ卒業なんだろ」
「そうですね。一応卒業は出来ます。越谷さんの教えに則って1、2年でちゃんと単位を取ってたおかげです」
「就職は決まったのか」
「はい。イベント関係の会社に決まりました」
「イベントか。何と言うかお前らしいな。映像で想像出来る」
「本当ですか」
「実家に戻るのか?」
「いえ、星港です。言って3人兄弟ですし1人くらい家を出たままでも何の支障もないんで。新居の場所も割と近場で」
「何だかんだあの辺は住みやすいもんな」
「そうなんですよね」
山口の誕生会の後で少し連絡を取り合っていたんだけど、それより後のことを報告したり、越谷さんの仕事の話を聞いたり。仕事の話はこれから社会人になる身として参考になるようなこともあるけど分野が違い過ぎてワケが分からなかったりもした。越谷さんは義手や義足の研究開発をしている。研究職なのか技師なのか。俺と言うよりリン君に近そうな雰囲気がある。
「洋平や戸田は元気か?」
「元気ですよ。山口とは卒業前に1回旅行しようかって話をしてます」
「俺も裕貴とは温泉に行ったりしたし、行くんならマジで今のうちだぞ」
「そうですね。戸田は~……そうですね、越谷さんが知ってる戸田とは軽く別人レベルで成長したと思います」
「そうなのか。洋平の誕生会でリモート通話したときはあんまり変わりない感じだったけど」
「戸田班を切り盛りする中でいろいろあって、班長としての器みたいなモンがどんどんデカくなっていったと思いますよ。少なくとも俺よりは余程落ち着いたいい班長だったと」
「それだけいろいろあったのか。朝霞班の時も相当酷かったけど、あんなような感じで」
「あ、それがですね」
今年の放送部にあったことを掻い摘んで越谷さんに説明する。日高班の残党が幅を利かせていたこと、それで戸田班の班員が襲われたこと。それを受けて旧日高班からなる部員が除籍処分になり、少しずつ透明化を図ろうと部が動き始めた。そして放送部はとうとう流刑地と呼ばれた班の人間である源を部長に活動をしていくことになり、改めてファンフェスにステージで出ようとしているとも聞いた。
「戸田班は荒くれ者の流刑地ではなく、競争が激しくて練習をバリバリやってるストイックなエリート集団だとか、そういう扱いなんだそうです」
「それも時代の流れか」
「俺もそれを追いコンで聞いて、そんな風にやってたのかと思ってしみじみしました。そうなんですよ越谷さん、俺と山口も追いコンに呼ばれたんです」
「今まで出たことなかったよな?」
「出たことなんかないですよ。それこそ流刑地とかはみ出し者を地で行ってましたし。越谷さんやっぱメレンゲ早いですね」
「弁当は自分で作ってるからな。玉子焼きは毎日焼いてるし、慣れだ」
「うわー、やっぱそうなんですね」
きっと俺は自分で弁当を作るなんてことは出来ないし、コンビニとかで買うのがメインになるのだろうか。どんな風に働くのかにもよるけどそれこそランチに出たりとか? 伊東さんは「旦那さんがいる時はお弁当作ってもらえるかも」って言ってたし、それはちょっと羨ましい(旦那さんの就職先は日勤と夜勤の概念があるとかないとか)。俺も簡単な料理くらいはしないとな。
「そう言えば、例のリモートの時に誰かが言ってたけどお前、彼女が出来たとか」
「あー、とっくに振られましたよ。やっぱり俺はクリエイターを恋愛対象にしてはいけないと確認しました。物書きは物書きです」
「そっか、ドンマイ」
「それこそ越谷さんはどうなんですか、水鈴さんとの進展など」
「あってたまるか」
「何か、この件も久し振りで、懐かしいです」
「笑ってないでさっさとメレンゲ作って食え、飯を」
「はい、すみません」
「大体お前飯食う時黙る方で、こんなに喋る奴じゃなかっただろ」
「そこは、越谷さんとの再会が嬉しいからということにしておいてください。もっと時間があれば飲みたかったんですけど、さすがに朝っぱらから飲むのもアレなんで」
「そうだな、お前と飲むんであれば時間と放り込める場所の確保は絶対条件だからな」
「越谷さん、これ食べたら観光に付き合ってください。地元ならではの場所に連れてってもらいたくて」
end.
++++
お久し振りのこっしーさん。多分フェーズ2になってから初めて。そもそも卒業した人のお話ってなかなかないからね
Pさんがちょこちょこいろんなエリアを行き来するようになって、それでなくてもこっしーさん大好きだしホイホイ出掛けますよね
4年になって専ら先輩をやっていたPさんだけど、この人もこっしーさんの前だとやっぱり後輩になるねえ
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「よう朝霞。久し振りだな」
「越谷さんお久し振りです。すみません、無理言って時間作ってもらって」
「いや、休みだから大丈夫だ。ホント、わざわざよく来たな」
俺がやって来たのは光洋エリアは腰南市、越谷さんの地元だ。越谷さんが去年大学を卒業して実家に戻ったそれっきり会えていない。一応山口の誕生会がありますと声はかけたけど、さすがに平日のそれに駆けつけられる距離感でもなく。俺は一応まだ学生で時間はそれなりに作れるし、東都方面に行くことも増えていたから光洋くらいだったらいつでも行けるなと思った。
今日は今日でUSDX関係で東都に来ていた帰りだ。おかげで光洋に来るならこの時間帯だという早朝からここにいることが出来ている。星港の家からだったらまず起きるところから苦戦するだろう。越谷さんは朝型……と言うか寝てるのを見たことないからよくわからないけど、朝には強い方だという印象が強い。
早朝からやっているところでいい店というのがあるそうで、そこに連れて行ってもらう。玉子かけごはんと焼き魚の定食が美味い店だそうだ。玄のじゃこたまごかけごはんとはまた違う玉子かけごはんだけど美味いぞと勧められれば食べるしかない。白身をメレンゲにしてから黄身を乗せるタイプのヤツだそうで、と言うかこのテの定食は俺の好みなんだ。
「そうだ、悪かったなこないだ」
「こないだ?」
「洋平の誕生会の件だ」
「いや、平日の会なのに本当に来られても大丈夫かって思いますし、大丈夫です」
「お前ももうすぐ卒業なんだろ」
「そうですね。一応卒業は出来ます。越谷さんの教えに則って1、2年でちゃんと単位を取ってたおかげです」
「就職は決まったのか」
「はい。イベント関係の会社に決まりました」
「イベントか。何と言うかお前らしいな。映像で想像出来る」
「本当ですか」
「実家に戻るのか?」
「いえ、星港です。言って3人兄弟ですし1人くらい家を出たままでも何の支障もないんで。新居の場所も割と近場で」
「何だかんだあの辺は住みやすいもんな」
「そうなんですよね」
山口の誕生会の後で少し連絡を取り合っていたんだけど、それより後のことを報告したり、越谷さんの仕事の話を聞いたり。仕事の話はこれから社会人になる身として参考になるようなこともあるけど分野が違い過ぎてワケが分からなかったりもした。越谷さんは義手や義足の研究開発をしている。研究職なのか技師なのか。俺と言うよりリン君に近そうな雰囲気がある。
「洋平や戸田は元気か?」
「元気ですよ。山口とは卒業前に1回旅行しようかって話をしてます」
「俺も裕貴とは温泉に行ったりしたし、行くんならマジで今のうちだぞ」
「そうですね。戸田は~……そうですね、越谷さんが知ってる戸田とは軽く別人レベルで成長したと思います」
「そうなのか。洋平の誕生会でリモート通話したときはあんまり変わりない感じだったけど」
「戸田班を切り盛りする中でいろいろあって、班長としての器みたいなモンがどんどんデカくなっていったと思いますよ。少なくとも俺よりは余程落ち着いたいい班長だったと」
「それだけいろいろあったのか。朝霞班の時も相当酷かったけど、あんなような感じで」
「あ、それがですね」
今年の放送部にあったことを掻い摘んで越谷さんに説明する。日高班の残党が幅を利かせていたこと、それで戸田班の班員が襲われたこと。それを受けて旧日高班からなる部員が除籍処分になり、少しずつ透明化を図ろうと部が動き始めた。そして放送部はとうとう流刑地と呼ばれた班の人間である源を部長に活動をしていくことになり、改めてファンフェスにステージで出ようとしているとも聞いた。
「戸田班は荒くれ者の流刑地ではなく、競争が激しくて練習をバリバリやってるストイックなエリート集団だとか、そういう扱いなんだそうです」
「それも時代の流れか」
「俺もそれを追いコンで聞いて、そんな風にやってたのかと思ってしみじみしました。そうなんですよ越谷さん、俺と山口も追いコンに呼ばれたんです」
「今まで出たことなかったよな?」
「出たことなんかないですよ。それこそ流刑地とかはみ出し者を地で行ってましたし。越谷さんやっぱメレンゲ早いですね」
「弁当は自分で作ってるからな。玉子焼きは毎日焼いてるし、慣れだ」
「うわー、やっぱそうなんですね」
きっと俺は自分で弁当を作るなんてことは出来ないし、コンビニとかで買うのがメインになるのだろうか。どんな風に働くのかにもよるけどそれこそランチに出たりとか? 伊東さんは「旦那さんがいる時はお弁当作ってもらえるかも」って言ってたし、それはちょっと羨ましい(旦那さんの就職先は日勤と夜勤の概念があるとかないとか)。俺も簡単な料理くらいはしないとな。
「そう言えば、例のリモートの時に誰かが言ってたけどお前、彼女が出来たとか」
「あー、とっくに振られましたよ。やっぱり俺はクリエイターを恋愛対象にしてはいけないと確認しました。物書きは物書きです」
「そっか、ドンマイ」
「それこそ越谷さんはどうなんですか、水鈴さんとの進展など」
「あってたまるか」
「何か、この件も久し振りで、懐かしいです」
「笑ってないでさっさとメレンゲ作って食え、飯を」
「はい、すみません」
「大体お前飯食う時黙る方で、こんなに喋る奴じゃなかっただろ」
「そこは、越谷さんとの再会が嬉しいからということにしておいてください。もっと時間があれば飲みたかったんですけど、さすがに朝っぱらから飲むのもアレなんで」
「そうだな、お前と飲むんであれば時間と放り込める場所の確保は絶対条件だからな」
「越谷さん、これ食べたら観光に付き合ってください。地元ならではの場所に連れてってもらいたくて」
end.
++++
お久し振りのこっしーさん。多分フェーズ2になってから初めて。そもそも卒業した人のお話ってなかなかないからね
Pさんがちょこちょこいろんなエリアを行き来するようになって、それでなくてもこっしーさん大好きだしホイホイ出掛けますよね
4年になって専ら先輩をやっていたPさんだけど、この人もこっしーさんの前だとやっぱり後輩になるねえ
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