2021(04)

■丸めた取説のバトン

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「どーしたよ春風、お前が秘密裏に話したいことがあるって」
「奏多に相談と言うか、お願いしたいことがあって」
「何だー? 男でも出来たかー?」
「その……」
「なーんて、お前に限ってそんなことな」
「実は、彼氏が……」
「……マジか!?」

 春風が俺に深刻なノリで頼み事をしてくるなんてあんまないことで、秘密裏に話したいっつーことは真宙君バレを恐れてるとしか思えねーんだよな。で、真宙君バレを恐れるっつーことは交友関係、特に男の存在ってのが疑うべきポイントなんだろうとは思ったんだけど、春風の反応からするとガチじゃねーか。おいおい、これはめんどくせーことに巻き込まれたんじゃねーのか俺は。

「で、俺に男絡みで何を頼むんだよ。つかいつの間にそんなモンが出来た」
「一昨日。それをこのまま兄さんに隠し通せるとは思わないけど、私の口からはとてもじゃないけど言えないし。奏多からそれとなく兄さんに伝えてもらえないかと思って。面倒なことを頼んでるのは百も承知なんだけど、この通り」
「面倒だってお前もわかってんじゃねーか。兄妹の問題に俺を巻き込むんじゃねーよ」
「兄妹の問題と言うか、兄さんの問題でしかなくない?」
「まーな。それは否定しない。真宙君自体はいい奴だけど、シスコンだけがめんどくせーんだよな」
「過保護なのよ」

 真宙君と春風の兄妹はまあまあ歳が離れていて、真宙君からすりゃ春風が可愛くて仕方ないんだろうな。交友関係をとにかく探りたがるしどこの馬の骨とも知れない奴が近付かないように俺に見張っとけとかガチで言って来る正真正銘のどシスコンだ。女の友達ですら春風に害を為さないか裏を取りがたるんだぞ。男なんか出来たとバレた日には。
 春風には友達が少ない。それっていうのは車やバイクに厳つい改造をするのが好きな真宙君が不良だと思われていたことで、悪い評判が先行していたというのが理由としてはある。不良の妹っつーレッテルみたいな物を貼られていたからか、自分も素行不良だと思われないよう変な硬さ、変な品行方正さになったと言うか。
 春風は春風で真宙君の過保護を疎ましがるけど、疎ましがってるのはそこだけで基本的に兄妹仲自体はいい。だからちゃんと話して真宙君にも認めてもらいたいし安心してもらいたいという考えらしい。でも、真宙君がそれでブチ切れる可能性も無きにしも非ずなのでまずは俺を挟みたいようだ。ったくよ~、兄妹揃ってホント俺がいねーとダメだなお前ら!

「で? その男に関する情報がねーと俺も真宙君に話しようがねーっつーことはわかるよな」
「それはそうね」
「ただ、ロクでもない男だったら俺はその頼みを受けないし、今からでもお前の気の迷いだったって力尽くで説得するぞ。俺も命が惜しいからな」
「ロクでもない人ではないし、むしろとても素敵な人よ」
「恋は盲目っつーからなァ。一応聞くけど、あのクソロクでもない天文部関係じゃねーよな? まずその可能性は潰したい」
「心配しなくても違うわよ」
「じゃ命は助かりそうだな。つかお前の交友関係は大体知ってるつもりだけど、そんな候補になりそうな男なんかいたか?」
「その……実は、徹平くんとお付き合いを始めて」
「すがやんか!? いやいやいや、お前それはさすがに早すぎんだろ。完全に勢いじゃねーか」
「確かに知り合ってからは短いと思うけれど、勢いだけで付き合い始めたわけではないから」
「いや、まあ、初対面のことを思えばお前にはこれ以上ない相手だとは思うぜ?」
「本当?」
「お前の星講釈を同等のレベルで渡り合った上に話を広げて科学館デートに付き合ってくれる猛者だぜ? しかもかっすーも信頼を置くかなりの善人だ。俺もすがやんの何を知ってるワケじゃねーけどお前には勿体ないとすら思う」
「そうよね。奏多もそう思うでしょう?」

 出会って2週間経つか経たないかというスピード展開で付き合い始めたという話を真宙君が聞いたらぶっ倒れるかもしれない。ただ、春風にはこれ以上ない相手だと思うっつーのもマジでガチだから、どうにかして真宙君を怒らせないように俺が説得しないといけないってことだな。ただ、付き合いは長いし真宙君攻略法もわかってんだよな。

「なんなら俺はお前の本性を知ってすがやんが幻滅しないかっつー心配の方がでけーよ」
「そうなのよね……私はネガティブだし、食事は人一倍食べるし、腕っぷしは強いし、工場や機械が好きで女の子らしい女の子ではないとは自覚してるけど、人に言われるとその心配は大きくなる一方で」
「いや、お前は心配すんな! 真宙君は俺が何とかしてやるよ」
「本当…?」
「お前は絶対にすがやんを逃がすな。アイツを逃がすとこの先一生お前の星講釈に付き合ってくれる男なんか見つからねーぞ。なーに、真宙君には彼氏は春風の天文学の趣味を同等の知識で受け止められる懐のデカい奴なんでって言っとけば太刀打ち出来ねーからよ」
「ええと……徹平くんの専攻は天文学ではなく厳密には考古学なんだけど」
「切っても切れねーんだろ、考古学と天文学は。へーきへーき、真宙君にはわかんねーから」
「奏多、本当にありがとう」
「つかいい加減お前の面倒見んのも誰かに押し付けたいと思ってたんだよ。すがやんにお前の取説渡しとかねーとなァ」

 さてと。いつ勝負に出るのがいいかな。でも、なる早で話してやんないといけないんだろう。そうしねーと俺も春風の取説を握ったまま死ぬことになりかねねーし。


end.


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付き合い始めた相手がすがやんだとわかると春風を応援し始めた奏多。やっぱ真宙君の言いつけをずっと守るのも大変なんだね
変な品行方正でない春風の地とか素みたいな物も知っているので本当に大丈夫かなあという心配も出て来る様子。付き合いの長さ。
奏多がどうやって真宙君に話したのかも気になるし、2校たこパ以降レナとの兼ね合いも出て来るので奏多は忙しいやろなあ

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