2021(04)
■重なる気持ち
++++
春風と2人で会うのは初めてじゃない。だからこその緊張なんだなとは思っていた。今週の初め、科学館に行ってお互いの好きなことについていろいろと話した。春風は星や宇宙のこと、俺は考古学や地層のことなんかを。それはそれですげー楽しくて、またお話ししましょうという風に話を閉じたはずだった。
誤算だったのがその後のこと。確かに春風は綺麗だし、めちゃくちゃ可愛い子だと思う。清楚で礼儀も正しいし知的好奇心や行動力もあって正直に言えば俺のタイプにどストライクなんだけど、決して下心があったワケじゃない。帰りに最寄りまで送ったまでは良かった。だけど何となく名残惜しくなって、何を話すでもなく流れた沈黙。その中で、気付けばキスをしていた。
拒否をされるでもなく、なんなら互いに見つめ合って笑みを浮かべたと思う。だけどその後でまたラジオの練習をするのに会った時にはそれまでと全く同じように接していたから、あれは何だったんだろうか、もしかすると俺の妄想だったのではないか。そんな状況をどうにかするためにも、まずは2人で会おうと連絡を入れて今日に至った。
「徹平くん」
「春風。おはよう」
「おはようございます。またお待たせしてしまいましたね」
「待ち合わせにはちょうどだよ。そしたら、行こうか?」
ダメ元で手を差し出してみる。すると俺の手に春風の細い指が絡んで来て、そこだけ感覚がめちゃくちゃ研ぎ澄まされてる感じがする。うん、拒否はされてねーんだよな今のところ。このまま平静を取り繕うべきなのか、言うことを言ってしまってダメならさっさと切ってもらうべきなのか。
「……あの、徹平くん。今の手は、こういうことで、良かった……ん、ですよね?」
「あ、うん。あっ、いや、歩きにくいとかなら全然いいんだけど」
「いえ、そんなことはないので大丈夫です! その、こういった経験がないので、これで良かったのか不安になってしまって」
「ごめん、俺が不親切だったね」
「いえ。その……緊張はしますが、それと同じくらい安心します」
「うん、俺も」
この変な緊張感をさっさと取っ払うべきだと思った。それで余所余所しい雰囲気のまま手を繋いで歩くのもどうなんだよって。もしかしたら変な気を遣わせてるかもしれないし。
「春風、歩き出して早々に言うことじゃないかもしれないんだけど、聞いてくれたら嬉しい」
「はい」
「……春風のことが好きです。俺と付き合って下さい。ダメならこの手を振り払ってもらって、今後は趣味の合う友達としてインターフェイスでも仲良くしてもらえると――」
勢いだから自分が言っていることもよくわかってないし、性格的に保険をかけてんだろうなとは思うけど。半ばダメ元で言ってるから、緩く絡めるように繋いでいた手が今より強く握り返された時に、俺はどういう顔をすればいいかわからなかった。
「私も徹平くんのことが好きです。ですから、お付き合いの話は、謹んでお受けします」
「ホントに…?」
「はい」
「はー……めちゃくちゃ嬉しい…!」
「とても不思議なんですけど、お互いの気持ちがわかると、手を繋ぐことに対する緊張感が少し薄れたように思います」
「うん、ホントだね。……あっ、えっと、まだ大事なことがあって」
「何ですか?」
「こないだは雰囲気でキスしたけど、付き合い始めたからには本っ当に大事にするんで! もう勢いとか雰囲気だけでしないんで!」
「あのことは、お互い不問にしませんか? 無理矢理ではなかったですし、2人で作った雰囲気だったと思うので」
「でも、手を繋ぐのも初めてってことはキスも初めてだった、よね?」
「それはそうですけど、それが素敵な思い出だとこの先ずっと言えるようにありたいです」
「えっと、今は素敵な思い出ですか?」
「はい」
ファーストキスが素敵な思い出だとこの先も言えるように。それっていうのは、この先ずっと春風が幸せであるようにっていうことなんだよな。責任としてはめちゃくちゃ重いけど、それくらい俺は本気だ。出会ったばかりでどの口が言ってんだって言われたとしても、俺は真剣だ。
「その……私も徹平くんに言っておかなければならないことがあって」
「ん、なに?」
「実は、これまでのことを野坂先輩に相談していて、今日のデートにも、緊張するからという理由で程よい距離感のところで見守っていただけませんかとお願いをしていて……」
「えーと、つまりここが見えるどこかに野坂先輩がいる、と」
「そういうことです……先輩にご足労をかけてしまっているのもそうですけど、見られているという状況を徹平くんにもお詫びしないといけないなと」
「見られて困るようなことをするつもりもなかったから俺は別にいいんだけど、そうなるとこっちサイドの奴も尾行とかしてないか不安になるなー……」
って言うか地味~にチラッチラ見えてんだよな、挙動不審な白いパーカーが。あれ絶対ササじゃんか。アイツは絶対面白がってるな。
「ま、いっか! とりあえず、歩きながら何するか考えよう」
「そうですね。世音坂ですから、何でも出来ますよね。徹平くんは世音坂にはよく来るのですか?」
「俺は専ら服を買ったり見たりかな。ヴィンテージ物の服とかはまだ憧れて見てるだけなんだけど」
「今はまだ憧れという物はありますよね」
「春風も何かある?」
「私は腕時計ですね。将来、頑張れば買えるくらいの物なんですけど」
「……もしかして、コスモサイン? カンパノラの」
「ご存知ですか!?」
「俺も同じカンパノラのエコ・ドライブが将来の憧れだから」
「私たち、気が合うんですね」
「でも、この先お互いを知って行って理解出来ないことがあったとしても、それもひっくるめて受け止めて行きたい」
「はい。改めて、よろしくお願いします」
end.
++++
昨年度は尾行していた人たちの方を追いましたが、今回はすがやんと春風の側を。尾行しやすい街歩きのデート。
変な緊張感のままデートしてもらっても良かったけど、それだと春風が多分大変なことになりかねない(相談話での感じで)
挙動不審な白いパーカーに関しては最早救いがないくらい怪しかったんだろうなあ。こういうことには向かないのね
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春風と2人で会うのは初めてじゃない。だからこその緊張なんだなとは思っていた。今週の初め、科学館に行ってお互いの好きなことについていろいろと話した。春風は星や宇宙のこと、俺は考古学や地層のことなんかを。それはそれですげー楽しくて、またお話ししましょうという風に話を閉じたはずだった。
誤算だったのがその後のこと。確かに春風は綺麗だし、めちゃくちゃ可愛い子だと思う。清楚で礼儀も正しいし知的好奇心や行動力もあって正直に言えば俺のタイプにどストライクなんだけど、決して下心があったワケじゃない。帰りに最寄りまで送ったまでは良かった。だけど何となく名残惜しくなって、何を話すでもなく流れた沈黙。その中で、気付けばキスをしていた。
拒否をされるでもなく、なんなら互いに見つめ合って笑みを浮かべたと思う。だけどその後でまたラジオの練習をするのに会った時にはそれまでと全く同じように接していたから、あれは何だったんだろうか、もしかすると俺の妄想だったのではないか。そんな状況をどうにかするためにも、まずは2人で会おうと連絡を入れて今日に至った。
「徹平くん」
「春風。おはよう」
「おはようございます。またお待たせしてしまいましたね」
「待ち合わせにはちょうどだよ。そしたら、行こうか?」
ダメ元で手を差し出してみる。すると俺の手に春風の細い指が絡んで来て、そこだけ感覚がめちゃくちゃ研ぎ澄まされてる感じがする。うん、拒否はされてねーんだよな今のところ。このまま平静を取り繕うべきなのか、言うことを言ってしまってダメならさっさと切ってもらうべきなのか。
「……あの、徹平くん。今の手は、こういうことで、良かった……ん、ですよね?」
「あ、うん。あっ、いや、歩きにくいとかなら全然いいんだけど」
「いえ、そんなことはないので大丈夫です! その、こういった経験がないので、これで良かったのか不安になってしまって」
「ごめん、俺が不親切だったね」
「いえ。その……緊張はしますが、それと同じくらい安心します」
「うん、俺も」
この変な緊張感をさっさと取っ払うべきだと思った。それで余所余所しい雰囲気のまま手を繋いで歩くのもどうなんだよって。もしかしたら変な気を遣わせてるかもしれないし。
「春風、歩き出して早々に言うことじゃないかもしれないんだけど、聞いてくれたら嬉しい」
「はい」
「……春風のことが好きです。俺と付き合って下さい。ダメならこの手を振り払ってもらって、今後は趣味の合う友達としてインターフェイスでも仲良くしてもらえると――」
勢いだから自分が言っていることもよくわかってないし、性格的に保険をかけてんだろうなとは思うけど。半ばダメ元で言ってるから、緩く絡めるように繋いでいた手が今より強く握り返された時に、俺はどういう顔をすればいいかわからなかった。
「私も徹平くんのことが好きです。ですから、お付き合いの話は、謹んでお受けします」
「ホントに…?」
「はい」
「はー……めちゃくちゃ嬉しい…!」
「とても不思議なんですけど、お互いの気持ちがわかると、手を繋ぐことに対する緊張感が少し薄れたように思います」
「うん、ホントだね。……あっ、えっと、まだ大事なことがあって」
「何ですか?」
「こないだは雰囲気でキスしたけど、付き合い始めたからには本っ当に大事にするんで! もう勢いとか雰囲気だけでしないんで!」
「あのことは、お互い不問にしませんか? 無理矢理ではなかったですし、2人で作った雰囲気だったと思うので」
「でも、手を繋ぐのも初めてってことはキスも初めてだった、よね?」
「それはそうですけど、それが素敵な思い出だとこの先ずっと言えるようにありたいです」
「えっと、今は素敵な思い出ですか?」
「はい」
ファーストキスが素敵な思い出だとこの先も言えるように。それっていうのは、この先ずっと春風が幸せであるようにっていうことなんだよな。責任としてはめちゃくちゃ重いけど、それくらい俺は本気だ。出会ったばかりでどの口が言ってんだって言われたとしても、俺は真剣だ。
「その……私も徹平くんに言っておかなければならないことがあって」
「ん、なに?」
「実は、これまでのことを野坂先輩に相談していて、今日のデートにも、緊張するからという理由で程よい距離感のところで見守っていただけませんかとお願いをしていて……」
「えーと、つまりここが見えるどこかに野坂先輩がいる、と」
「そういうことです……先輩にご足労をかけてしまっているのもそうですけど、見られているという状況を徹平くんにもお詫びしないといけないなと」
「見られて困るようなことをするつもりもなかったから俺は別にいいんだけど、そうなるとこっちサイドの奴も尾行とかしてないか不安になるなー……」
って言うか地味~にチラッチラ見えてんだよな、挙動不審な白いパーカーが。あれ絶対ササじゃんか。アイツは絶対面白がってるな。
「ま、いっか! とりあえず、歩きながら何するか考えよう」
「そうですね。世音坂ですから、何でも出来ますよね。徹平くんは世音坂にはよく来るのですか?」
「俺は専ら服を買ったり見たりかな。ヴィンテージ物の服とかはまだ憧れて見てるだけなんだけど」
「今はまだ憧れという物はありますよね」
「春風も何かある?」
「私は腕時計ですね。将来、頑張れば買えるくらいの物なんですけど」
「……もしかして、コスモサイン? カンパノラの」
「ご存知ですか!?」
「俺も同じカンパノラのエコ・ドライブが将来の憧れだから」
「私たち、気が合うんですね」
「でも、この先お互いを知って行って理解出来ないことがあったとしても、それもひっくるめて受け止めて行きたい」
「はい。改めて、よろしくお願いします」
end.
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昨年度は尾行していた人たちの方を追いましたが、今回はすがやんと春風の側を。尾行しやすい街歩きのデート。
変な緊張感のままデートしてもらっても良かったけど、それだと春風が多分大変なことになりかねない(相談話での感じで)
挙動不審な白いパーカーに関しては最早救いがないくらい怪しかったんだろうなあ。こういうことには向かないのね
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