2021(04)
■A space for two
++++
「おはようございます。すみません、お待たせしてしまいましたか?」
「ううん、俺もさっき来たトコ」
「徹平くんは今日は電車ですか?」
「ううん、移動は基本的に車。駐車場探すのに時間かかるかなと思って割と早め早めには動いてるんだけど、今日は時間かかって結構ギリギリになっちまって。間に合ってよかった」
カノンから頼まれて、この間からまた向島大学に出向くようになった。話としては、これからMMPに入りたいと言っている人が2人いて、俺のことも半分MMPみたいなモンだから紹介しときたいっていうのと、アナウンサー志望の子に対する指導を頼まれていた。
そのアナウンサー志望の子というのが春風で、初手の自己紹介の時に考古学に絡めた星の話で盛り上がった。星とか宇宙が好きな子という風にはカノンからの事前情報で知ってたんだけど、俺の考古学からの観点にも食いついてきて、知的好奇心が旺盛な子だなという印象を受けた。
MMPのサークル室での本題はあくまでラジオのことだから、星だとか宇宙、それから地層だとかの話をするには科学館に行くのがいいだろうということになって、約束をしてとうとう迎えた今日。あれから俺は考古学的観点からの星や宇宙のことを改めて勉強していた。
「あの、ぜひ聞きたいことがあるのですが、いいですか?」
「うん、いいよ」
「先日放送されていた『宇宙からの素粒子で探るピラミッドの謎』というテレビ番組はご覧になりましたか?」
「見た! 面白かったよな~…! 春風も見た?」
「見ました! 徹平くんであれば見ていると思ったのですが、やはりご覧になられていましたか!」
「あのシリーズ、ホント大好きでさ。元々地球史も好きなんだけど、ピラミッドに古代ローマ!? そう切り込まれてきたら受信料なんかめちゃくちゃ安い!」
「私もあのシリーズは大好きで、毎週録画をしているのです」
さすがにこのまま科学館の前の立ち話、それもテレビの話だけで今日を終わるワケにはいかないので、とりあえず中に入ることに。施設の入場料とプラネタリウムの券を買う。プラネタリウムは上映のタイミングなんかもあるけど、割とすぐにあるようなのでそれを見ることに。
「うーん、やっぱ上映時間近くに列につくとすげー後ろの方だなー」
「それでも座席には座れるようなので良かったです」
「プラネタリウムって座るのにいい席とかあるんだよね確か」
「そうですね。季節の星座は主に南側の空に見えるので、南の空を背にした席だと見えにくくなるかと思います」
「へー、そうなんだ。でも、確かにそう言われれば教科書とかに載ってる図も大体南の空かも」
「徹平くんはこれまでプラネタリウムを何回ほど見たことがありますか?」
「4、5回は見てると思うけど、春風からしたら少ないよなー」
「4、5回も見ていれば、見ている方だと思いますよ。興味がなければ学校の社会科見学でもない限り見ませんから」
少しずつ列が進んでいって、ドームへと人が吸い込まれていく。俺たちの買った券に書いてある座席の番号はどこだと照らし合わせながら、薄暗い中を歩く。プラネタリウムをよく見る春風もあまり知らない感覚の番号だという。もしかしたら南側が背になっているのかもしれない。
「ここ、ですか……」
「そう、みたいですね」
思わず俺も変な丁寧語になってしまった。俺たちの座席というのがいかにもなカップルシート。買うときには何も考えずに、空席だラッキーって勢いで滑り込んだんだけど。まさか2人で座る用だとは。しかも何か間隔狭くね?
「見たことのない座席からの空を楽しむことにしましょう。こんなことでもないと座ることのない席ですから。徹平くんには感謝ですね」
「ポジティブに捉えてもらえれば俺も救われるよ」
「あの、狭くないですか? 私、女子の平均より大きな方なので」
「あ、ううん、大丈夫」
確かに春風は女子の平均より大きいし、なんならサキより大きいけどそれで2人掛けソファが狭くてギチギチということはない。つーか場所の雰囲気なのか何なのか、ちょっとドキドキすんな。この距離だし、いろいろやらかさないようにしないと。
「私は今日のこのプラネタリウムをどう見ればいいのか、少し悩んでいて」
「どう見るって?」
「MMPに加入して、希くんや徹平くんにいろいろ教えてもらいながらアナウンスの練習を始めてから初めて来るプラネタリウムなので。私は将来プラネタリウムに絡む仕事がしたいと思っていて、番組中に生でお話ししてくれる解説員さんは憧れなのです。もちろん映像技術や番組の内容にも興味関心があって」
「逆に何も考えずに、リラックスして見たら? 力が入ってたら楽しめるものも楽しめないし」
「そうですね」
前にくるみがプラネタリウムの映像で勉強するって言ってた北星とここに来たことがあるらしいけど、春風は真面目すぎて混乱しそうだし。と言うか今日の本題は地学だし。ラジオの話はまた今度、MMPのサークル室ですればいいさ。
「もうすぐ上映ですね。リクライニングはどうしますか?」
「春風が見やすい角度にしてくれればいいよ」
「では少し倒しますね」
「おーっ」
「私は、上映が始まると座席が浮いて自分だけの宇宙に揺蕩うような感覚が好きなのです。もちろん実際には浮きませんが」
「今日は春風の宇宙に俺も入れてもらっていい?」
「はい、もちろんです。2人で行きましょう」
end.
++++
場所が場所ならノサカがテーブルをひっくり返すくらいのことはしていたすがやんと春風のデート風景。
北星はただただ映像を見たくてここに来ていたけど、春風は見たいことが多すぎてわちゃわちゃになるんですね
すがやんに慣れて口調が柔らかくなる時間軸の春風も見たい。現段階では全く想像が付かないのだけど
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「おはようございます。すみません、お待たせしてしまいましたか?」
「ううん、俺もさっき来たトコ」
「徹平くんは今日は電車ですか?」
「ううん、移動は基本的に車。駐車場探すのに時間かかるかなと思って割と早め早めには動いてるんだけど、今日は時間かかって結構ギリギリになっちまって。間に合ってよかった」
カノンから頼まれて、この間からまた向島大学に出向くようになった。話としては、これからMMPに入りたいと言っている人が2人いて、俺のことも半分MMPみたいなモンだから紹介しときたいっていうのと、アナウンサー志望の子に対する指導を頼まれていた。
そのアナウンサー志望の子というのが春風で、初手の自己紹介の時に考古学に絡めた星の話で盛り上がった。星とか宇宙が好きな子という風にはカノンからの事前情報で知ってたんだけど、俺の考古学からの観点にも食いついてきて、知的好奇心が旺盛な子だなという印象を受けた。
MMPのサークル室での本題はあくまでラジオのことだから、星だとか宇宙、それから地層だとかの話をするには科学館に行くのがいいだろうということになって、約束をしてとうとう迎えた今日。あれから俺は考古学的観点からの星や宇宙のことを改めて勉強していた。
「あの、ぜひ聞きたいことがあるのですが、いいですか?」
「うん、いいよ」
「先日放送されていた『宇宙からの素粒子で探るピラミッドの謎』というテレビ番組はご覧になりましたか?」
「見た! 面白かったよな~…! 春風も見た?」
「見ました! 徹平くんであれば見ていると思ったのですが、やはりご覧になられていましたか!」
「あのシリーズ、ホント大好きでさ。元々地球史も好きなんだけど、ピラミッドに古代ローマ!? そう切り込まれてきたら受信料なんかめちゃくちゃ安い!」
「私もあのシリーズは大好きで、毎週録画をしているのです」
さすがにこのまま科学館の前の立ち話、それもテレビの話だけで今日を終わるワケにはいかないので、とりあえず中に入ることに。施設の入場料とプラネタリウムの券を買う。プラネタリウムは上映のタイミングなんかもあるけど、割とすぐにあるようなのでそれを見ることに。
「うーん、やっぱ上映時間近くに列につくとすげー後ろの方だなー」
「それでも座席には座れるようなので良かったです」
「プラネタリウムって座るのにいい席とかあるんだよね確か」
「そうですね。季節の星座は主に南側の空に見えるので、南の空を背にした席だと見えにくくなるかと思います」
「へー、そうなんだ。でも、確かにそう言われれば教科書とかに載ってる図も大体南の空かも」
「徹平くんはこれまでプラネタリウムを何回ほど見たことがありますか?」
「4、5回は見てると思うけど、春風からしたら少ないよなー」
「4、5回も見ていれば、見ている方だと思いますよ。興味がなければ学校の社会科見学でもない限り見ませんから」
少しずつ列が進んでいって、ドームへと人が吸い込まれていく。俺たちの買った券に書いてある座席の番号はどこだと照らし合わせながら、薄暗い中を歩く。プラネタリウムをよく見る春風もあまり知らない感覚の番号だという。もしかしたら南側が背になっているのかもしれない。
「ここ、ですか……」
「そう、みたいですね」
思わず俺も変な丁寧語になってしまった。俺たちの座席というのがいかにもなカップルシート。買うときには何も考えずに、空席だラッキーって勢いで滑り込んだんだけど。まさか2人で座る用だとは。しかも何か間隔狭くね?
「見たことのない座席からの空を楽しむことにしましょう。こんなことでもないと座ることのない席ですから。徹平くんには感謝ですね」
「ポジティブに捉えてもらえれば俺も救われるよ」
「あの、狭くないですか? 私、女子の平均より大きな方なので」
「あ、ううん、大丈夫」
確かに春風は女子の平均より大きいし、なんならサキより大きいけどそれで2人掛けソファが狭くてギチギチということはない。つーか場所の雰囲気なのか何なのか、ちょっとドキドキすんな。この距離だし、いろいろやらかさないようにしないと。
「私は今日のこのプラネタリウムをどう見ればいいのか、少し悩んでいて」
「どう見るって?」
「MMPに加入して、希くんや徹平くんにいろいろ教えてもらいながらアナウンスの練習を始めてから初めて来るプラネタリウムなので。私は将来プラネタリウムに絡む仕事がしたいと思っていて、番組中に生でお話ししてくれる解説員さんは憧れなのです。もちろん映像技術や番組の内容にも興味関心があって」
「逆に何も考えずに、リラックスして見たら? 力が入ってたら楽しめるものも楽しめないし」
「そうですね」
前にくるみがプラネタリウムの映像で勉強するって言ってた北星とここに来たことがあるらしいけど、春風は真面目すぎて混乱しそうだし。と言うか今日の本題は地学だし。ラジオの話はまた今度、MMPのサークル室ですればいいさ。
「もうすぐ上映ですね。リクライニングはどうしますか?」
「春風が見やすい角度にしてくれればいいよ」
「では少し倒しますね」
「おーっ」
「私は、上映が始まると座席が浮いて自分だけの宇宙に揺蕩うような感覚が好きなのです。もちろん実際には浮きませんが」
「今日は春風の宇宙に俺も入れてもらっていい?」
「はい、もちろんです。2人で行きましょう」
end.
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場所が場所ならノサカがテーブルをひっくり返すくらいのことはしていたすがやんと春風のデート風景。
北星はただただ映像を見たくてここに来ていたけど、春風は見たいことが多すぎてわちゃわちゃになるんですね
すがやんに慣れて口調が柔らかくなる時間軸の春風も見たい。現段階では全く想像が付かないのだけど
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