2021(04)
■下りた肩の荷
公式学年+1年
++++
「それでは皆さんお疲れさまでした。家まで気を付けて帰って下さい」
大学の駐車場で大型バスが止まるやいなや、ササはバスから飛び降りるように駆けだしていく。荷物、と呼びかけてもガン無視で行くモンだから、ササの大きなカバンは俺が回収。お土産も買い込んでデカくなった2人分の荷物はさすがに重い。アイツどこに行きやがった。トイレだったらバスの中にもあったしそこまで急ぐ必要もないだろうに。やっとササを見つけたと思ったら、高木先輩と果林先輩と話している。
「おーいササ、お前荷物」
「あ、ゴメンシノ。ありがとう」
「ホントだ、何か足りないと思ったら大きな荷物持ってなかったじゃん」
「本当に、それどころじゃなくって。高木先輩と話さなきゃって思って」
「別に、いつでも話せるでしょ」
「今じゃないとダメなんです! だって高木先輩、果林先輩と仲良くしてるじゃないですか!」
俺には何のことだかさっぱりわかってなかったんだけど、ササにとっては高木先輩と果林先輩が一緒にいて仲良くしているということが大事だったようだ。言ってしまえば先輩らが仲良いとかそんなことは当たり前で、今更何を疑うことがあるんだと。一緒にいる時間が短かったとするなら授業もない4年生の先輩がそんなに大学に来てるかっていう話で。
「ササ、その心配をしてたの?」
「めちゃくちゃ心配してましたよ! だって今まであんなに仲良かったのに急に気まずそうになってるし、高木先輩何かずっとしんどそうだったじゃないですか。俺見てらんなくて」
「あー、本当。わかられてたんだね」
「そりゃあタカちゃんとササじゃ経験値も全然違うんだから、タカちゃんが何ヶ月も悩んでたことなんてササからすれば1秒で答えが導けますよねー」
「まあ、そうなんでしょうけどね?」
「何があったんですか?」
「何もなかったよ。俺がいろいろ考え過ぎて気後れしてただけ。結果から言えば、果林先輩と付き合うことになって」
「えー! マジすか!」
「わっ、ビックリしたあ」
「スンマセンっす。でもビックリしたのはこっちっすよ! えっ、2人が? 付き合い始めた? マジっすか!?」
「昨日の夜に改めて話したときにね」
「おめでとうございます!」
よくよく考えてみると付き合ってないのが不思議なくらい仲良い人らではあったけど、恋愛関係として付き合ってるとか付き合ってないとか関係のない次元での仲の良さではあったから、どっちに転んでもあの人らだもんなーと納得は出来るんだよな。恋愛経験のない高木先輩には、自分が拗らせていた果林先輩への感情が何なのかさっぱりわからなくて悶々としていたらしかった。
確かにそりゃササと比べるのは酷だよなあと思う。俺らの中でもササは恋愛経験が豊富というポジションでご意見番扱いだし。すがやんも恋愛絡みで困った時には大体ササに相談してるもんな。だけど、人に聞けば1秒で答えが出てしまうところを自分で悩んで辿り着いたっていうところにきっと意味があるんだと思う。ホント、恋愛の形って人それぞれだ。
「う~……高木せんぱぁい…!」
「あー、どうしたのササ」
「俺ホントにうれしくて」
ササは高木先輩にすげー懐いてると言うかマジで大好きだから、しんどそうじゃなくなったってのと、果林先輩と付き合い始めてめでたいのと、何か他いろいろ合わさって先輩の状態が上向きになったのが自分のことのようにガチで嬉しいんだろう。俺の前で緩んでぐだぐだなときもあるけど基本クールなササがここまで人前で感情を露わにするのも珍しい。
涙声になって鼻をすすりながら、結構な勢いで先輩に抱きついて。スポーツ中継とかでしか見たことがないヤツだ。さすがにそこまでされるのは想定外なのか、高木先輩はちょっと困ったような顔をしている。だけどそれも顔を完全に埋めているササからは見えない。俺と果林先輩は、やれやれという感じで目を見合わせる。
「ササ、そんなに嬉しいの?」
「だって高木先輩は俺とか、後輩の面倒ばっかり見て気を配ってて、自分のことは二の次って感じでみんなを優先してくれてて。俺なんか特に、去年の夏からずっとお世話になりっぱなしだし、そんなの、先輩にだって楽しく幸せになって欲しいに決まってるじゃないですか」
「俺は今でも十分楽しく幸せに暮らしてるよ」
「先輩絶対自覚してないですよね? 果林先輩といるときが一番いい顔してるんですよ。食事のときとか、番組のときとか。だから、2人の間に距離があったのがすごくいやで」
「そうだね。俺ももう嫌かな。ササ、俺はもう大丈夫だよ。心配かけてごめん」
抱きついたままのササの頭を高木先輩が撫でると、ササはぐすぐすと本格的に泣き始めた。相変わらず高木先輩はちょっと困ったような顔をしていて、目で救援要請を出されている感もある。傍から見てる分にはいい話なのかもしれないけど、ガチ勢っつーかちょっと重めの後輩が自分の幸せを祈ったり祝ったりしてぐすぐす泣いてる状況か。うーん、どうしよう。
「そうだ。アタシにいい案があるんだけど。シノ、部屋貸してくれる?」
「部屋っすか?」
「この後タカちゃんの部屋でさっきサービスエリアで買って来た物食べる予定だったけど、シノの部屋で食べることにしない? そうすればアタシもタカちゃんも楽しく食事が出来るし、ササもそんなアタシたちを見れる。シノも晩ご飯の準備の手間が省ける上に、実質アタシの奢りだからみんなハッピー。これで手を打とう!」
「サイコーじゃないすか! さすが果林先輩!」
「それはいいですね。ササ、それでいい? 一緒に晩ご飯食べよう」
「はい。いただきます」
はいシノから荷物受け取ってと果林先輩から促されたササが自分の荷物を引き取ると、俺の肩から一気に重さが無くなった。そして向かうのは俺の部屋だ。急にお邪魔して大丈夫かと先輩たちから聞かれるけど、俺は部屋を割と綺麗にしてる方だからいつ誰が来ても大丈夫だ。こう言うと意外がられるけど部屋は綺麗な方なんだよ俺は。
「果林先輩、ひとつ荷物持ちますか?」
「ありがとね」
「つか果林先輩、行きもすげー荷物だったっすけど帰りもすげー荷物っすね」
「帰りのサービスエリアがゼミ合宿の本番だからね。長篠の美味しい物をたくさん買って帰るのが娯楽!」
「確かにっすねー。もっとバイトしときゃ良かったなー」
end.
++++
フェーズ1の17年度、+2年という概念の時間軸でやっていた話をフェーズ2の+1年の枠で。
フェーズ2の通常時間軸でもTKG大好きっ子みたいになってるササだけど、+1だとさらに強火になっている様子。向島で似て非なるヤツを見た。
事態を打開したり停滞した空気を動かすのは勢いのある果林の発言だったりもする。食事の光景も覗きたいものだね
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公式学年+1年
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「それでは皆さんお疲れさまでした。家まで気を付けて帰って下さい」
大学の駐車場で大型バスが止まるやいなや、ササはバスから飛び降りるように駆けだしていく。荷物、と呼びかけてもガン無視で行くモンだから、ササの大きなカバンは俺が回収。お土産も買い込んでデカくなった2人分の荷物はさすがに重い。アイツどこに行きやがった。トイレだったらバスの中にもあったしそこまで急ぐ必要もないだろうに。やっとササを見つけたと思ったら、高木先輩と果林先輩と話している。
「おーいササ、お前荷物」
「あ、ゴメンシノ。ありがとう」
「ホントだ、何か足りないと思ったら大きな荷物持ってなかったじゃん」
「本当に、それどころじゃなくって。高木先輩と話さなきゃって思って」
「別に、いつでも話せるでしょ」
「今じゃないとダメなんです! だって高木先輩、果林先輩と仲良くしてるじゃないですか!」
俺には何のことだかさっぱりわかってなかったんだけど、ササにとっては高木先輩と果林先輩が一緒にいて仲良くしているということが大事だったようだ。言ってしまえば先輩らが仲良いとかそんなことは当たり前で、今更何を疑うことがあるんだと。一緒にいる時間が短かったとするなら授業もない4年生の先輩がそんなに大学に来てるかっていう話で。
「ササ、その心配をしてたの?」
「めちゃくちゃ心配してましたよ! だって今まであんなに仲良かったのに急に気まずそうになってるし、高木先輩何かずっとしんどそうだったじゃないですか。俺見てらんなくて」
「あー、本当。わかられてたんだね」
「そりゃあタカちゃんとササじゃ経験値も全然違うんだから、タカちゃんが何ヶ月も悩んでたことなんてササからすれば1秒で答えが導けますよねー」
「まあ、そうなんでしょうけどね?」
「何があったんですか?」
「何もなかったよ。俺がいろいろ考え過ぎて気後れしてただけ。結果から言えば、果林先輩と付き合うことになって」
「えー! マジすか!」
「わっ、ビックリしたあ」
「スンマセンっす。でもビックリしたのはこっちっすよ! えっ、2人が? 付き合い始めた? マジっすか!?」
「昨日の夜に改めて話したときにね」
「おめでとうございます!」
よくよく考えてみると付き合ってないのが不思議なくらい仲良い人らではあったけど、恋愛関係として付き合ってるとか付き合ってないとか関係のない次元での仲の良さではあったから、どっちに転んでもあの人らだもんなーと納得は出来るんだよな。恋愛経験のない高木先輩には、自分が拗らせていた果林先輩への感情が何なのかさっぱりわからなくて悶々としていたらしかった。
確かにそりゃササと比べるのは酷だよなあと思う。俺らの中でもササは恋愛経験が豊富というポジションでご意見番扱いだし。すがやんも恋愛絡みで困った時には大体ササに相談してるもんな。だけど、人に聞けば1秒で答えが出てしまうところを自分で悩んで辿り着いたっていうところにきっと意味があるんだと思う。ホント、恋愛の形って人それぞれだ。
「う~……高木せんぱぁい…!」
「あー、どうしたのササ」
「俺ホントにうれしくて」
ササは高木先輩にすげー懐いてると言うかマジで大好きだから、しんどそうじゃなくなったってのと、果林先輩と付き合い始めてめでたいのと、何か他いろいろ合わさって先輩の状態が上向きになったのが自分のことのようにガチで嬉しいんだろう。俺の前で緩んでぐだぐだなときもあるけど基本クールなササがここまで人前で感情を露わにするのも珍しい。
涙声になって鼻をすすりながら、結構な勢いで先輩に抱きついて。スポーツ中継とかでしか見たことがないヤツだ。さすがにそこまでされるのは想定外なのか、高木先輩はちょっと困ったような顔をしている。だけどそれも顔を完全に埋めているササからは見えない。俺と果林先輩は、やれやれという感じで目を見合わせる。
「ササ、そんなに嬉しいの?」
「だって高木先輩は俺とか、後輩の面倒ばっかり見て気を配ってて、自分のことは二の次って感じでみんなを優先してくれてて。俺なんか特に、去年の夏からずっとお世話になりっぱなしだし、そんなの、先輩にだって楽しく幸せになって欲しいに決まってるじゃないですか」
「俺は今でも十分楽しく幸せに暮らしてるよ」
「先輩絶対自覚してないですよね? 果林先輩といるときが一番いい顔してるんですよ。食事のときとか、番組のときとか。だから、2人の間に距離があったのがすごくいやで」
「そうだね。俺ももう嫌かな。ササ、俺はもう大丈夫だよ。心配かけてごめん」
抱きついたままのササの頭を高木先輩が撫でると、ササはぐすぐすと本格的に泣き始めた。相変わらず高木先輩はちょっと困ったような顔をしていて、目で救援要請を出されている感もある。傍から見てる分にはいい話なのかもしれないけど、ガチ勢っつーかちょっと重めの後輩が自分の幸せを祈ったり祝ったりしてぐすぐす泣いてる状況か。うーん、どうしよう。
「そうだ。アタシにいい案があるんだけど。シノ、部屋貸してくれる?」
「部屋っすか?」
「この後タカちゃんの部屋でさっきサービスエリアで買って来た物食べる予定だったけど、シノの部屋で食べることにしない? そうすればアタシもタカちゃんも楽しく食事が出来るし、ササもそんなアタシたちを見れる。シノも晩ご飯の準備の手間が省ける上に、実質アタシの奢りだからみんなハッピー。これで手を打とう!」
「サイコーじゃないすか! さすが果林先輩!」
「それはいいですね。ササ、それでいい? 一緒に晩ご飯食べよう」
「はい。いただきます」
はいシノから荷物受け取ってと果林先輩から促されたササが自分の荷物を引き取ると、俺の肩から一気に重さが無くなった。そして向かうのは俺の部屋だ。急にお邪魔して大丈夫かと先輩たちから聞かれるけど、俺は部屋を割と綺麗にしてる方だからいつ誰が来ても大丈夫だ。こう言うと意外がられるけど部屋は綺麗な方なんだよ俺は。
「果林先輩、ひとつ荷物持ちますか?」
「ありがとね」
「つか果林先輩、行きもすげー荷物だったっすけど帰りもすげー荷物っすね」
「帰りのサービスエリアがゼミ合宿の本番だからね。長篠の美味しい物をたくさん買って帰るのが娯楽!」
「確かにっすねー。もっとバイトしときゃ良かったなー」
end.
++++
フェーズ1の17年度、+2年という概念の時間軸でやっていた話をフェーズ2の+1年の枠で。
フェーズ2の通常時間軸でもTKG大好きっ子みたいになってるササだけど、+1だとさらに強火になっている様子。向島で似て非なるヤツを見た。
事態を打開したり停滞した空気を動かすのは勢いのある果林の発言だったりもする。食事の光景も覗きたいものだね
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