2021(04)
■優しさを胸に
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放送サークルのMMPに正式に加入することになり、お試し体験のようだったこれまでと比べても練習に身が入ります。私と奏多に基本的なことを教えてくれる希くんはアナウンサーの練習もミキサーの練習もやっている二刀流なのですが、さすがに1人では2人を相手にしっかり教えるのは不安だということで次回は助っ人を呼ぶからと言っていました。
助っ人として招集されたのは、秋学期の半期、緑ヶ丘から“留学”という名目の文化交流で週に1度こちらで活動をしていた菅谷徹平くんという同い年の方です。パートはアナウンサーで、希くんによれば「すがやんは緑ヶ丘仕込みで基礎はバッチリだから!」とのことです。希くんは奏多にミキサーのことを教えるようです。
冒頭、何とか会話をしようと思って大学ではどんな勉強をしているのか尋ねると、考古学の観点での星の話を聞かせてもらいました。話は弾み、とても盛り上がったのですが今日はあくまでラジオの練習なのでその話はまた今度ということになり、マイクの前に座って本題へ移ります。これまでも希くんから触り程度には教わっていたのですが、どんなことを教えてもらえるのでしょうか。
「えーっと、春風は一方的になり過ぎない話の仕方だとか、幅広い人に聞いてもらえる話し方を伸ばしたいんだっけ? あ、こういう子がいるからーって話は事前にカノンから簡単に聞いてて」
「そうなのです。先程の星の話でもそうなのですが、私の熱量が高すぎるのか、一方的になり過ぎて受け手側の興味を削いでしまうようで」
「うん、わかるよ。俺もホントに自分の好きな分野? 例えば考古学の話とかは興味ある人の方が少ない分野だし、あんま熱く語っても引かれるよなーって。だからさっきは俺もちょっと周りが見えなくなったけど、春風が興味持ってくれてすげー嬉しかった。それを、広くやりたいワケだよな」
「はい」
「例えば、俺だったら考古学だし春風だったら星とか宇宙の話って、専門的な知識を持ってるしここがこういいんですよ~ってことを語りたくなりがちなんだけど、そこをグッと我慢するんだよ最初は」
「我慢ですか?」
「そう。入り口を広く取るっていうのかな」
「入り口?」
「ちょっとしたことから入ってもらえるように、なんならついで程度にでも気になってもらえればラッキー、くらいな感じ」
知識やそれに絡めた話は相手が自分と同程度以上のレベルでないとついていくことが出来なくなるので、何気ない日常の会話にそれとなく星や宇宙の要素を混ぜ込む程度から始めてみるのがいいという話のようです。確かに先日は奏多も希くんもそこまで星や宇宙に興味はないと言っていましたが、アウトドアやデートなどが結び付けば、星空もいいアクセントになるのです。
まずはライトな話から始めて、回を重ねるごとに少しずつ少しずつ、その成分を濃くしていくこと。そうすれば、いきなり専門知識を畳みかけるよりは相手からしても取っつきやすくなるそうです。そう言われれば確かにそうだなと思いました。私も、突然アイドルの話を振られても困惑してしまいます。それと同じことですね。
「あの、質問をしてもいいでしょうか」
「いいよ。答えられればいいんだけど」
「大学祭のプラネタリウムで読む原稿を作った時に、先輩たちからは文章が固いと。私の原稿は難しい熟語を多用する傾向にあるので言葉を開いて柔らかくすると良いという風に助言をいただいたのですが、ラジオでもそれは有効なのでしょうか」
「んー、それは熟語を分解してひらがなの成分を増やすみたいなことかな?」
「例えばですが、原稿では“凶兆”という単語を使ったのですが、それを「悪いことの起きる兆し」くらいに言い換えた方がわかりやすいという風に言われました」
「あー、それはそうだわ。文脈を意識して話を聞いてれば何となくわかるかなーって気もするんだけど、同音異義の単語って多分俺らの思うよりずっと多いし、ラジオは字幕がないから聞いてスッとわかる方がいいかなとは」
「そうですか、ありがとうございます」
「正直、ラジオから流れるトークを一生懸命聞く人がいるかって言ったら、そこまで多くはないんだよ。ただ流れてる音の一部に過ぎなくって。だからこそ緑ヶ丘で言われてるのは、ノイズにならない番組作りをっていうことなんだ」
「ノイズ、ですか?」
「そう。聞いてて不快にならないように。ウチやMMPでやってる昼放送にしても、選んで聞く物じゃないから。だからこそ発声や滑舌もそうだけど、話を組み立てる技術を磨く必要があって、その空間の邪魔にならない、溶け込める自然な音であれるようにすると言うか」
本当は選んで聞いてもらえればそれに越したことはないんだけどね、と徹平くんは笑みを浮かべます。彼がラジオをやる上で心がけていることは、本当に大切なことだと思います。自分以外の人のことを思いやる優しさが溢れているなと。私もそんな優しさを胸に、いつかはしっかり星と宇宙を題材にした番組をやりたいのですが、広く万人に聞きやすい番組を作っていけたらと思います。
「御託はこれくらいにして。春風、マイクの前に座ってみてくれる?」
「はい」
「おーっ、お手本のような姿勢の良さ」
「すがやん、鳥ちゃんは姿勢と腹式呼吸は今インターフェイスに出しても即上位クラスだから」
「かっすー、デカく出たねえ」
「いや、でもマジで」
「俺腹式呼吸ガチると結構すぐ疲れるし、そっちは教えてもらわなきゃかもなー」
end.
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MBCCでは聞き役ポジションになることの多いすがやんですが、春風相手だと自分が話す機会が多い感じがしますね
MMPでは雨天中止になりがちな発声練習などもMBCCではしっかりやっているのでその辺のことも今後はやっていくのかしら
将来的には春風がMMPの発声や腹式呼吸の訓練などをすることになるのでしょうか。その前に勧誘だな!
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放送サークルのMMPに正式に加入することになり、お試し体験のようだったこれまでと比べても練習に身が入ります。私と奏多に基本的なことを教えてくれる希くんはアナウンサーの練習もミキサーの練習もやっている二刀流なのですが、さすがに1人では2人を相手にしっかり教えるのは不安だということで次回は助っ人を呼ぶからと言っていました。
助っ人として招集されたのは、秋学期の半期、緑ヶ丘から“留学”という名目の文化交流で週に1度こちらで活動をしていた菅谷徹平くんという同い年の方です。パートはアナウンサーで、希くんによれば「すがやんは緑ヶ丘仕込みで基礎はバッチリだから!」とのことです。希くんは奏多にミキサーのことを教えるようです。
冒頭、何とか会話をしようと思って大学ではどんな勉強をしているのか尋ねると、考古学の観点での星の話を聞かせてもらいました。話は弾み、とても盛り上がったのですが今日はあくまでラジオの練習なのでその話はまた今度ということになり、マイクの前に座って本題へ移ります。これまでも希くんから触り程度には教わっていたのですが、どんなことを教えてもらえるのでしょうか。
「えーっと、春風は一方的になり過ぎない話の仕方だとか、幅広い人に聞いてもらえる話し方を伸ばしたいんだっけ? あ、こういう子がいるからーって話は事前にカノンから簡単に聞いてて」
「そうなのです。先程の星の話でもそうなのですが、私の熱量が高すぎるのか、一方的になり過ぎて受け手側の興味を削いでしまうようで」
「うん、わかるよ。俺もホントに自分の好きな分野? 例えば考古学の話とかは興味ある人の方が少ない分野だし、あんま熱く語っても引かれるよなーって。だからさっきは俺もちょっと周りが見えなくなったけど、春風が興味持ってくれてすげー嬉しかった。それを、広くやりたいワケだよな」
「はい」
「例えば、俺だったら考古学だし春風だったら星とか宇宙の話って、専門的な知識を持ってるしここがこういいんですよ~ってことを語りたくなりがちなんだけど、そこをグッと我慢するんだよ最初は」
「我慢ですか?」
「そう。入り口を広く取るっていうのかな」
「入り口?」
「ちょっとしたことから入ってもらえるように、なんならついで程度にでも気になってもらえればラッキー、くらいな感じ」
知識やそれに絡めた話は相手が自分と同程度以上のレベルでないとついていくことが出来なくなるので、何気ない日常の会話にそれとなく星や宇宙の要素を混ぜ込む程度から始めてみるのがいいという話のようです。確かに先日は奏多も希くんもそこまで星や宇宙に興味はないと言っていましたが、アウトドアやデートなどが結び付けば、星空もいいアクセントになるのです。
まずはライトな話から始めて、回を重ねるごとに少しずつ少しずつ、その成分を濃くしていくこと。そうすれば、いきなり専門知識を畳みかけるよりは相手からしても取っつきやすくなるそうです。そう言われれば確かにそうだなと思いました。私も、突然アイドルの話を振られても困惑してしまいます。それと同じことですね。
「あの、質問をしてもいいでしょうか」
「いいよ。答えられればいいんだけど」
「大学祭のプラネタリウムで読む原稿を作った時に、先輩たちからは文章が固いと。私の原稿は難しい熟語を多用する傾向にあるので言葉を開いて柔らかくすると良いという風に助言をいただいたのですが、ラジオでもそれは有効なのでしょうか」
「んー、それは熟語を分解してひらがなの成分を増やすみたいなことかな?」
「例えばですが、原稿では“凶兆”という単語を使ったのですが、それを「悪いことの起きる兆し」くらいに言い換えた方がわかりやすいという風に言われました」
「あー、それはそうだわ。文脈を意識して話を聞いてれば何となくわかるかなーって気もするんだけど、同音異義の単語って多分俺らの思うよりずっと多いし、ラジオは字幕がないから聞いてスッとわかる方がいいかなとは」
「そうですか、ありがとうございます」
「正直、ラジオから流れるトークを一生懸命聞く人がいるかって言ったら、そこまで多くはないんだよ。ただ流れてる音の一部に過ぎなくって。だからこそ緑ヶ丘で言われてるのは、ノイズにならない番組作りをっていうことなんだ」
「ノイズ、ですか?」
「そう。聞いてて不快にならないように。ウチやMMPでやってる昼放送にしても、選んで聞く物じゃないから。だからこそ発声や滑舌もそうだけど、話を組み立てる技術を磨く必要があって、その空間の邪魔にならない、溶け込める自然な音であれるようにすると言うか」
本当は選んで聞いてもらえればそれに越したことはないんだけどね、と徹平くんは笑みを浮かべます。彼がラジオをやる上で心がけていることは、本当に大切なことだと思います。自分以外の人のことを思いやる優しさが溢れているなと。私もそんな優しさを胸に、いつかはしっかり星と宇宙を題材にした番組をやりたいのですが、広く万人に聞きやすい番組を作っていけたらと思います。
「御託はこれくらいにして。春風、マイクの前に座ってみてくれる?」
「はい」
「おーっ、お手本のような姿勢の良さ」
「すがやん、鳥ちゃんは姿勢と腹式呼吸は今インターフェイスに出しても即上位クラスだから」
「かっすー、デカく出たねえ」
「いや、でもマジで」
「俺腹式呼吸ガチると結構すぐ疲れるし、そっちは教えてもらわなきゃかもなー」
end.
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MBCCでは聞き役ポジションになることの多いすがやんですが、春風相手だと自分が話す機会が多い感じがしますね
MMPでは雨天中止になりがちな発声練習などもMBCCではしっかりやっているのでその辺のことも今後はやっていくのかしら
将来的には春風がMMPの発声や腹式呼吸の訓練などをすることになるのでしょうか。その前に勧誘だな!
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