2021(04)
■新生活の夢と希望とノリと勢い
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スマホのアラームが鳴って目が覚める。広がる景色は今までに全く知らない物。シノが1人暮らしを始めたアパートの天井だ。昨日、シノがとうとう1人暮らしを始めるということで、その引っ越しの準備を手伝わせてもらっていた。シノの新居は元々高崎先輩の部屋だったところで、L先輩の家の真下、コムギハイツⅡの102号室。
家電一式は高崎先輩のお古を譲ってもらえるという話になっていたそうで、L先輩の部屋に一時的に置かせてもらっていた。俺の仕事は主にその一時預かりとなっていた家電などをシノの部屋に下ろす手伝い。冷蔵庫や洗濯機といった大きな物をアパートの狭い階段伝いに下ろしていくのはなかなか神経をすり減らす仕事だった。
そんなこんなで下ろす物は下ろして、細かいことは明日やろうということで一旦引っ越し蕎麦をメインに据えた夕食を食べるための買い物に出た。シノは豊葦の土地勘がないから、生粋の豊葦っ子である俺がスーパーやその他使いそうな店の場所を教える簡易ツアーをやってたら全然部屋の整頓が進まなかった。それもひっくるめて今日やることに。
「ふあ~あ。7時半! 優雅だー!」
「7時半は早いだろ」
「バカ野郎、俺が1限に出るのに今まで何時の電車に乗ってたと思ってんだ」
「でも、これからは8時起きでも余裕だからな」
「それなー!」
往復で3時間にもなる通学時間がしんどいという理由で1人暮らしを始めたシノからすれば、家が原付で2分の距離というのは革新的過ぎてぶっ倒れるレベルだろう。浮いた時間で何をしようかなと考えるのは夢のような時間だ。しかも、2年生に進級すれば1限始まりの日はグッと減るとされている。
「そういやバイトも早く決めとけって高崎先輩から言われてんだった」
「本当にいろいろお世話になってるんだな」
「マジでそれ。辞めてく4年の枠に滑り込めってさ」
「あー、確かに。ウチの店でもそんな動きになってる。伊東さんとかがいなくなる分をまた入れなきゃいけないからって」
「そっか、カズ先輩と同じトコでバイトしてたんだったな」
そう言ってシノはバイトアプリを開いてこの辺でどっかいいトコないかなーと探し始めた。家具家電の整理は良いのかと思ったけど、シノがいいならいいんだろう。順序に関してはシノにお任せだ。家具家電は最悪何ヶ月放置でも死なないけど、バイトはちゃんと探しておかないと生活が回らなくなる。
「あっ、ここ良さそー」
「いいトコあった?」
「深夜帯イケるガソリンスタンド併設のコーヒーショップだって。くーっ、深夜帯可能な方大歓迎ですって! まさに俺のための求人枠じゃね!? とりあえずweb応募しとこ。ポチッ」
「えっ、どこどこ?」
「ここ。めちゃ近くね? コンビニもすぐそこにあるから買い物も出来るし」
「てかここって果林先輩がバイトしてるトコじゃないか?」
「えっマジ?」
「マジ」
「果林先輩って日給1万っつってたよな? 深夜帯メインで働いてて」
「言ってたな。それがほとんど食費で溶けるとも」
「俺も日給1万が夢じゃないってことか」
「頑張ればな。でも果林先輩の働き方は特殊だぞ。あの人は親の年末調整をガン無視してるから」
「さすがに103万超えないようにはするけどさ」
そんなことを話していると、web応募した店からすぐ反応があって、それではいつ面接をしますのでよろしくお願いしますと話が進んで行った。反応が早いところは本当に早いのがネットでの応募だな。シノが無事にバイトの面接に通ることを祈りつつ、本題である家具家電の整理へと移っていくことに。
「で、これが高崎先輩の置いて行った家電たちな。デカいのはもうセットしてるから、それ以外になんのかな」
「とりあえず電子レンジは台所だろ」
「これは冷蔵庫の上な」
「これはトースターか」
「パン焼いたりフライをあっため直すときに使うって言ってたな」
「どこが空いてる?」
「下駄箱の上」
「多分、冷蔵庫の上のスペースを生かすためのラックとかが必要になるんじゃないか」
「ラックなー」
ちょうど良さそうなラックはまたネットで探すことにして、次へ。
「で、これは何? シュモクザメみたいな形してるけど」
「これは布団用掃除機だな。で、こっちが布団乾燥機」
「布団セットだと!?」
「高崎先輩は寝具に対するこだわりが凄いって伊東さんから聞いたことがある。多分それらも新調したいから置いて行ったんだな」
「なるほど」
「伊東さんによれば、花粉があるから今の時期は毎日でも布団に掃除機をかけた方がいいし、外に布団を干すなんてとんでもないから布団乾燥機を使うのがベストだって」
「なるほど。高崎先輩て花粉症だったのかな」
「わかんないけど、気を遣ってたことは確かだな。花粉症だったらバイク乗るの地獄じゃないかな」
「布団干すで思い出したけど、部屋用の物干し竿とかなかったわこの家。洗濯物干せねー」
「じゃあ、どっちにしろホームセンターか家具量販店には行かなきゃいけないんだな」
ホームセンターや家具店に行けば、準備の足りてない物がまたわかるかもしれない。気を付けなければならないのは、あれもこれもと調子に乗って要らない物を買ってしまうことだ。でも、実際に暮らしてみてわかるニーズもあるから、そういう物を買える場所を知っておくだけでもいいだろう。
「とりあえず、朝飯を食おう。話はそれからだ」
「はいはい。そしたらお湯沸かすか」
「そういやお湯沸かせる物ってあるのかな、ティファール的な。……あったー!」
「昨日見つけてればよかったな、これ」
end.
++++
花粉症だったのは高崎じゃなくていち氏だし、バイク乗りには地獄だったし布団や洗濯物の扱いについてはガチな忠告。
ここまで置いてあると新居に持って行った高崎の荷物がどれだけ簡素だったのかも気になるし、どれだけの買い物をしたのかも。
忘れかけてたけどササっていち浅と同じ店でバイトしてるんだった。送別会とかもやったりすんのかな
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スマホのアラームが鳴って目が覚める。広がる景色は今までに全く知らない物。シノが1人暮らしを始めたアパートの天井だ。昨日、シノがとうとう1人暮らしを始めるということで、その引っ越しの準備を手伝わせてもらっていた。シノの新居は元々高崎先輩の部屋だったところで、L先輩の家の真下、コムギハイツⅡの102号室。
家電一式は高崎先輩のお古を譲ってもらえるという話になっていたそうで、L先輩の部屋に一時的に置かせてもらっていた。俺の仕事は主にその一時預かりとなっていた家電などをシノの部屋に下ろす手伝い。冷蔵庫や洗濯機といった大きな物をアパートの狭い階段伝いに下ろしていくのはなかなか神経をすり減らす仕事だった。
そんなこんなで下ろす物は下ろして、細かいことは明日やろうということで一旦引っ越し蕎麦をメインに据えた夕食を食べるための買い物に出た。シノは豊葦の土地勘がないから、生粋の豊葦っ子である俺がスーパーやその他使いそうな店の場所を教える簡易ツアーをやってたら全然部屋の整頓が進まなかった。それもひっくるめて今日やることに。
「ふあ~あ。7時半! 優雅だー!」
「7時半は早いだろ」
「バカ野郎、俺が1限に出るのに今まで何時の電車に乗ってたと思ってんだ」
「でも、これからは8時起きでも余裕だからな」
「それなー!」
往復で3時間にもなる通学時間がしんどいという理由で1人暮らしを始めたシノからすれば、家が原付で2分の距離というのは革新的過ぎてぶっ倒れるレベルだろう。浮いた時間で何をしようかなと考えるのは夢のような時間だ。しかも、2年生に進級すれば1限始まりの日はグッと減るとされている。
「そういやバイトも早く決めとけって高崎先輩から言われてんだった」
「本当にいろいろお世話になってるんだな」
「マジでそれ。辞めてく4年の枠に滑り込めってさ」
「あー、確かに。ウチの店でもそんな動きになってる。伊東さんとかがいなくなる分をまた入れなきゃいけないからって」
「そっか、カズ先輩と同じトコでバイトしてたんだったな」
そう言ってシノはバイトアプリを開いてこの辺でどっかいいトコないかなーと探し始めた。家具家電の整理は良いのかと思ったけど、シノがいいならいいんだろう。順序に関してはシノにお任せだ。家具家電は最悪何ヶ月放置でも死なないけど、バイトはちゃんと探しておかないと生活が回らなくなる。
「あっ、ここ良さそー」
「いいトコあった?」
「深夜帯イケるガソリンスタンド併設のコーヒーショップだって。くーっ、深夜帯可能な方大歓迎ですって! まさに俺のための求人枠じゃね!? とりあえずweb応募しとこ。ポチッ」
「えっ、どこどこ?」
「ここ。めちゃ近くね? コンビニもすぐそこにあるから買い物も出来るし」
「てかここって果林先輩がバイトしてるトコじゃないか?」
「えっマジ?」
「マジ」
「果林先輩って日給1万っつってたよな? 深夜帯メインで働いてて」
「言ってたな。それがほとんど食費で溶けるとも」
「俺も日給1万が夢じゃないってことか」
「頑張ればな。でも果林先輩の働き方は特殊だぞ。あの人は親の年末調整をガン無視してるから」
「さすがに103万超えないようにはするけどさ」
そんなことを話していると、web応募した店からすぐ反応があって、それではいつ面接をしますのでよろしくお願いしますと話が進んで行った。反応が早いところは本当に早いのがネットでの応募だな。シノが無事にバイトの面接に通ることを祈りつつ、本題である家具家電の整理へと移っていくことに。
「で、これが高崎先輩の置いて行った家電たちな。デカいのはもうセットしてるから、それ以外になんのかな」
「とりあえず電子レンジは台所だろ」
「これは冷蔵庫の上な」
「これはトースターか」
「パン焼いたりフライをあっため直すときに使うって言ってたな」
「どこが空いてる?」
「下駄箱の上」
「多分、冷蔵庫の上のスペースを生かすためのラックとかが必要になるんじゃないか」
「ラックなー」
ちょうど良さそうなラックはまたネットで探すことにして、次へ。
「で、これは何? シュモクザメみたいな形してるけど」
「これは布団用掃除機だな。で、こっちが布団乾燥機」
「布団セットだと!?」
「高崎先輩は寝具に対するこだわりが凄いって伊東さんから聞いたことがある。多分それらも新調したいから置いて行ったんだな」
「なるほど」
「伊東さんによれば、花粉があるから今の時期は毎日でも布団に掃除機をかけた方がいいし、外に布団を干すなんてとんでもないから布団乾燥機を使うのがベストだって」
「なるほど。高崎先輩て花粉症だったのかな」
「わかんないけど、気を遣ってたことは確かだな。花粉症だったらバイク乗るの地獄じゃないかな」
「布団干すで思い出したけど、部屋用の物干し竿とかなかったわこの家。洗濯物干せねー」
「じゃあ、どっちにしろホームセンターか家具量販店には行かなきゃいけないんだな」
ホームセンターや家具店に行けば、準備の足りてない物がまたわかるかもしれない。気を付けなければならないのは、あれもこれもと調子に乗って要らない物を買ってしまうことだ。でも、実際に暮らしてみてわかるニーズもあるから、そういう物を買える場所を知っておくだけでもいいだろう。
「とりあえず、朝飯を食おう。話はそれからだ」
「はいはい。そしたらお湯沸かすか」
「そういやお湯沸かせる物ってあるのかな、ティファール的な。……あったー!」
「昨日見つけてればよかったな、これ」
end.
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花粉症だったのは高崎じゃなくていち氏だし、バイク乗りには地獄だったし布団や洗濯物の扱いについてはガチな忠告。
ここまで置いてあると新居に持って行った高崎の荷物がどれだけ簡素だったのかも気になるし、どれだけの買い物をしたのかも。
忘れかけてたけどササっていち浅と同じ店でバイトしてるんだった。送別会とかもやったりすんのかな
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