2021(04)

■デイリーなスマイル

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「タカちゃーん、来たよー」
「あっ、果林先輩お疲れさまです」
「そうそうこれこれ。誕生日プレゼントと言うには味気ないけどいつものヤツ、冷蔵庫に貼っとくね」
「ありがとうございます。さすが、もう3枚も溜まるんですね」
「6日でたった3枚だよ。1日14点換算でしょ? 1食に直すと4点か5点。そう考えたら楽勝じゃん」
「果林先輩だったら1食14点でも楽勝な気がします」

 俺がとうとう二十歳を迎え、合法的に外でも飲んで良くなるということで今日は外に飲みに行きましょうという約束になっていた。その前に先輩が俺の部屋に呼びに来てくれて、冷蔵庫に春のパンまつりのシール台紙を貼ってくれる。今年も台紙に28点分のシールを集めると白い皿が貰えるんだけど、スタートから1週間足らずで完成した台紙が3枚。安定ですよねー。

「今年の皿はエイジが欲しがってたんで、助かります」
「エージが欲しがってたんだ」
「CMで流れるのを見る度に、スープやサラダを盛れるのが便利だって言って、4枚くらいはあるといいって言うんですよ」
「4枚か。タカちゃん家それなりに人集まるんだし4枚と言わずもっとあってもいいと思うけどね」
「それで果林先輩に声を掛けさせてもらったんですけどね」

 如何せん俺が食器などには無頓着だから、深さのある食器と言えばマグカップか茶碗かお椀くらいになる。スープやサラダを盛れるようなちょっとしたボウル状の皿があると、確かに食卓にはいいのかもしれない。まあ、俺はスープも自分では作らないし、サラダは野菜が嫌いだから食べないんだけど。
 果林先輩にパンまつりに参加してますかと訊ねたらこうだから、多分そのうちもう何枚か台紙がもらえてしまうような気がする。俺は朝食にちょっと食パンを食べたり、たまにランチパックを食べるくらいだからなかなか集まりにくくて。ランチパックの得点効率はあまり良くないみたいだし。

「得点効率が一番いいのはやっぱり専門のショップなんだわ」
「パンまつり総本山のですか」
「そう。星港で用事があってさ、帰りにふと見つけちゃったんだよね、ショップを。で、明日のご飯でも買ってこうかな~って思ったらもうおしまい。何にでもポイントが付いてる。レンチンの中華まんには付いてないから何にでもはさすがに言い過ぎたけど、おにぎりとかお弁当にもポイントがついてて、何がすごいって税込み298円のサンドイッチで3点もらえるんだよ」
「150円のランチパック2つでも多分2点止まりなことを考えると凄まじい効率ですね」
「プリンとかのデザートにも付いてるし。タカちゃんこれプリンだから食べてね」
「この、商品表示のシールが不自然に切り取られたみたいな弧は」
「ここに2点のシールがついてました」
「なるほど」
「アタシは特別パンまつりのお皿目当てに買い物してるワケじゃないんだけどさ、シールが付いてるのを見ると何だかテンション上がっちゃうんだよね。だからパンまつりの時は食べるパンも偏りがち」

 そうやってテンションの上がった買い物は、ここに来るまでの間にも。店飲みの前にはお店を潰したり出禁を食らわないようにあらかじめ程よく食べておくというのが果林先輩の流儀。今回の店飲みの前にもそれは欠かさず行われる。うちに来るまでの間にしてきた買い物も、件のショップで。プリンに2点のシールがついていたのもそういうことだ。

「タカちゃん最近オシャレな食パン食べてるし、自分のポイントは溜まりにくくなってるよね」
「そういつもオシャレな食パンを食べてるワケじゃないですよ。彩人が持って来てくれた時だけです」
「タカちゃんのその手の話を聞くとホントいつも驚くわ。他校の後輩にそこまで懐かれてるって凄いよ。だって他にも野菜くれる子とかもいるんだよね?」
「そうですね。このマンションが星ヶ丘から近いんで彩人やみちるとはたまにそんな感じのやり取りがあります。あと、朝霞先輩を交えて飲んだりもします」
「まあ朝霞P先輩はああいう人だから。あっ、朝霞P先輩と言えばタカちゃん今年のバイトはどんな感じ?」
「今年は製品の吊り札付けの仕事の他にもいろいろやってるんですけど、肉体労働の出荷作業の方をやると、ジムで果林先輩に扱かれてて良かったなって思います」
「あれくらいならそこまで扱いてないよ。って言うか肉体労働もやるようになったんだね」
「そうですね。去年よりは体が動いてるような気がします」

 それは本当で、歩いたり荷物の上げ下ろしで体を大きく動かすことに対する抵抗がそこまでない。何より、去年はちっとも動かせなかったような重い荷物も、頑張れば少しずらして台車に載せることくらいは出来るようになっている。さすがに大石先輩のようには行かないけど、それでも俺としては物凄い進歩だ。

「朝霞P先輩も肉体労働やってんの?」
「一応やってますね」
「こないだのトレーニングの後、丸1日体動かなかったって聞いたけど大丈夫だったのかな」
「ま、まあ、出荷作業をやった次の日にも出勤は出来てたんで大丈夫なんじゃないですかね」
「そしたら、そろそろ行く?」
「そうですね。ちなみに、今日はどこの店に」
「ここからまあまあ近いよ。それこそ星ヶ丘のエリアのお店だから。でも期待しといてよ、美味しいお店だから」
「そうなんですね。楽しみです」
「ワンチャン朝霞P先輩いるかもだけど」


end.


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もっといろんな近況報告だとかこれからのことを話させるつもりだったのにパンまつりで尺半分埋まった
Pさんがいる可能性のあるお店っつったらやっぱりあそこになるのかしらねえ。串とる~び~と果林。
既に埋まったシール台紙を見てきゃっきゃしてるエイジの話もやりたい。果林を褒め称えるんだろうなあ

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