2021(04)
■仏頂面の喜怒哀楽
++++
「所沢、源はどうした」
「すみません、源はどうも一ヶ所に留まっていられないようで、時間があると現場仕事をしに行ってしまうのです」
「働かないでふんぞり返っているだけよりはいいが、一応話があるという理由で呼びだしたはずだが」
上述の理由で俺と源は放送部の前部長である柳井さんに呼び出されていました。ただ、源は指定されていたミーティングルームにはおらず、もちろん好きではない部長席などには寄り付きもしていないようです。俺はこういう部長だからと半ば諦めて自分の仕事をすることも出来ているのですが、前部長や文化会関係の人相手になると話は別です。
如何せん現場の最前線で走り回りたがる部長なので、今も今後の放送部の活動について考えて動いています。ただ、まだ正式に決まっているわけではないのでその話を内々に聞いているのはまだ俺だけです。今もきっとその関係の仕事を部室でしているのかもしれません。柳井さんは部室の環境が変わったことを恐らくはご存知でないでしょうから。
「源がいる場所に当てはあるのか」
「恐らくは部室か談話室でないかと思います」
「部室? あそこは埃臭い倉庫だったように思うが」
「代替わりの後で片付けました。今は会議をしたり映像のモニターや音声素材の収録などが出来る空間になっています。部長席にあったソファや監査席で管理していた戸棚もそこへ」
「部室に案内してくれ」
「わかりました」
部室へ行くと、案の定電気が点いていました。テスト期間も過ぎ、ステージも当分ない今の時期に部としての活動を行う人間などそう多くはありません。何をしているのかはさておき、今日俺たちが呼び出された本題は柳井さんからの話を聞くためで、源が内々に考えている話についてはまた後からやってもらうことにしましょう。
「源、入るぞ」
「わっ、柳井部長。えっ、もうそんな時間ですか? すみません」
「源、いくら時間があるからと言っても待ち合わせの前に仕事を始めないでください。それでなくても源は集中すると時間を忘れる癖があるのですから。大体、指定された場所はミーティングルームであって――」
「所沢、お前も説教は後にしろ」
「すみません」
「ここが会議スペースになっているならちょうどいい、このまま本題に移るぞ」
「あっはい、お願いします」
話があるとは聞いていたのですが、何についての話なのかはちゃんと聞いていませんでした。ですからこれからどんな話が始まるのか、俺と源は少々不安になりながら話を聞く体勢を整えます。
「所沢は相変わらず仏頂面だが源、お前は感情が表情に出過ぎる。部長たるもの、平静を装うことが必要な場面も出て来る」
「あっはい、そうですよね」
「そう心配しなくても悪い話ではない。今日お前たちを呼びだしたのは例年2月中旬に行われている4年生追いコンの件だ」
「えっと、追いコンってどういう感じの行事なんですか?」
「ん?」
「そう言えば源は元々朝霞班ですから、去年も参加していないんでしたね。追いコンというのは追い出しコンパの略称で、端的に言えば卒業する4年生をもてなす飲み会です。会の性質上、4年生の会費負担は無いか軽いかのどちらかで、2年生や3年生の会費負担が大きくなるという傾向にあります」
「へー、そうなんだ。放送部のこの人数が入る大きな店でやるんだねー」
「追いコンは例年3年生の元幹部が主体となって行っている。だから店やコースなどはもうこちらで予約済みで、後は告知をするだけという状況だ」
流刑地と呼ばれ放送部内で異端とされていた朝霞班は、新歓コンパや各種打ち上げ、追いコンなどといった部の大きな会にはほとんど参加していませんでした。日高元部長からの迫害によるものだと思っていたのですが、朝霞班となる前からも代々そのようなスタンスでやっていたそうなので、そういうものとしてやっていたのでしょう。
しかし、今ではその朝霞班からなる源が部長となる時代。参加する文化にないので出ませんと言える立場でもありません。そうは言ってもそこまで堅苦しい作法や式典めいた進行があるわけではないので普通の飲み会と変わりませんよとだけ説明をして、納得をしてもらいました。大きな飲み会自体はインターフェイスで経験があるようです。
「それでだ、戸田に話した時にはあまりいい反応ではなかったのだが、お前にも伝えておく」
「はい」
「朝霞さん、それから山口さんの両名も今度の会にはぜひ来てもらいたいと考えている」
「えっ、本当ですか!? それで、つばめ先輩は何て」
「いくら日高の息のかかった連中がいなくなったにせよ、あの人は何だかんだ理由を付けて来ないだろう。とのことだ」
「あー……わかる気がします。朝霞先輩は周りの人のことを考える人ですし、朝霞先輩がいないなら山口先輩もきっと」
「今の1年には、認めるのは癪だがストイックなエリート集団と呼ばれた戸田班の基礎を成した朝霞さんと話してみたいと考えている者もいる。機会を設けてやるべきだと俺は考える」
「わかりました。俺からも話してみます」
「頼んだ。それから、会計については所沢、お前に頼む。俺の代の会計帳簿はお前が管理していたからな。その延長だと思ってくれ」
「わかりました」
なるほど、追いコンの話でしたか。そう言えばそうでしたね。去年のこの会を巡っても本当にいろいろありました。不正会計の件を宇部さんに内部告発をしたのも遠い昔のことのように感じられます。今年はそのような心配をする必要がほぼないのがとても嬉しく感じられますよ。仏頂面なりに、喜びの感情は出ていると思いますけどね。
end.
++++
柳井が洋朝に対してさん付けで呼称することに対して違和感しかない。別の話では普通に朝霞っつってたよな
ゲンゴローは相変わらず現場でバタバタ走り回ってるし、レオはそれを追いかけ回して説教をしてる。
つばちゃんまでは流刑地思想がなかなかに強い世代なので、結構ネガティブに考えがちですね
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「所沢、源はどうした」
「すみません、源はどうも一ヶ所に留まっていられないようで、時間があると現場仕事をしに行ってしまうのです」
「働かないでふんぞり返っているだけよりはいいが、一応話があるという理由で呼びだしたはずだが」
上述の理由で俺と源は放送部の前部長である柳井さんに呼び出されていました。ただ、源は指定されていたミーティングルームにはおらず、もちろん好きではない部長席などには寄り付きもしていないようです。俺はこういう部長だからと半ば諦めて自分の仕事をすることも出来ているのですが、前部長や文化会関係の人相手になると話は別です。
如何せん現場の最前線で走り回りたがる部長なので、今も今後の放送部の活動について考えて動いています。ただ、まだ正式に決まっているわけではないのでその話を内々に聞いているのはまだ俺だけです。今もきっとその関係の仕事を部室でしているのかもしれません。柳井さんは部室の環境が変わったことを恐らくはご存知でないでしょうから。
「源がいる場所に当てはあるのか」
「恐らくは部室か談話室でないかと思います」
「部室? あそこは埃臭い倉庫だったように思うが」
「代替わりの後で片付けました。今は会議をしたり映像のモニターや音声素材の収録などが出来る空間になっています。部長席にあったソファや監査席で管理していた戸棚もそこへ」
「部室に案内してくれ」
「わかりました」
部室へ行くと、案の定電気が点いていました。テスト期間も過ぎ、ステージも当分ない今の時期に部としての活動を行う人間などそう多くはありません。何をしているのかはさておき、今日俺たちが呼び出された本題は柳井さんからの話を聞くためで、源が内々に考えている話についてはまた後からやってもらうことにしましょう。
「源、入るぞ」
「わっ、柳井部長。えっ、もうそんな時間ですか? すみません」
「源、いくら時間があるからと言っても待ち合わせの前に仕事を始めないでください。それでなくても源は集中すると時間を忘れる癖があるのですから。大体、指定された場所はミーティングルームであって――」
「所沢、お前も説教は後にしろ」
「すみません」
「ここが会議スペースになっているならちょうどいい、このまま本題に移るぞ」
「あっはい、お願いします」
話があるとは聞いていたのですが、何についての話なのかはちゃんと聞いていませんでした。ですからこれからどんな話が始まるのか、俺と源は少々不安になりながら話を聞く体勢を整えます。
「所沢は相変わらず仏頂面だが源、お前は感情が表情に出過ぎる。部長たるもの、平静を装うことが必要な場面も出て来る」
「あっはい、そうですよね」
「そう心配しなくても悪い話ではない。今日お前たちを呼びだしたのは例年2月中旬に行われている4年生追いコンの件だ」
「えっと、追いコンってどういう感じの行事なんですか?」
「ん?」
「そう言えば源は元々朝霞班ですから、去年も参加していないんでしたね。追いコンというのは追い出しコンパの略称で、端的に言えば卒業する4年生をもてなす飲み会です。会の性質上、4年生の会費負担は無いか軽いかのどちらかで、2年生や3年生の会費負担が大きくなるという傾向にあります」
「へー、そうなんだ。放送部のこの人数が入る大きな店でやるんだねー」
「追いコンは例年3年生の元幹部が主体となって行っている。だから店やコースなどはもうこちらで予約済みで、後は告知をするだけという状況だ」
流刑地と呼ばれ放送部内で異端とされていた朝霞班は、新歓コンパや各種打ち上げ、追いコンなどといった部の大きな会にはほとんど参加していませんでした。日高元部長からの迫害によるものだと思っていたのですが、朝霞班となる前からも代々そのようなスタンスでやっていたそうなので、そういうものとしてやっていたのでしょう。
しかし、今ではその朝霞班からなる源が部長となる時代。参加する文化にないので出ませんと言える立場でもありません。そうは言ってもそこまで堅苦しい作法や式典めいた進行があるわけではないので普通の飲み会と変わりませんよとだけ説明をして、納得をしてもらいました。大きな飲み会自体はインターフェイスで経験があるようです。
「それでだ、戸田に話した時にはあまりいい反応ではなかったのだが、お前にも伝えておく」
「はい」
「朝霞さん、それから山口さんの両名も今度の会にはぜひ来てもらいたいと考えている」
「えっ、本当ですか!? それで、つばめ先輩は何て」
「いくら日高の息のかかった連中がいなくなったにせよ、あの人は何だかんだ理由を付けて来ないだろう。とのことだ」
「あー……わかる気がします。朝霞先輩は周りの人のことを考える人ですし、朝霞先輩がいないなら山口先輩もきっと」
「今の1年には、認めるのは癪だがストイックなエリート集団と呼ばれた戸田班の基礎を成した朝霞さんと話してみたいと考えている者もいる。機会を設けてやるべきだと俺は考える」
「わかりました。俺からも話してみます」
「頼んだ。それから、会計については所沢、お前に頼む。俺の代の会計帳簿はお前が管理していたからな。その延長だと思ってくれ」
「わかりました」
なるほど、追いコンの話でしたか。そう言えばそうでしたね。去年のこの会を巡っても本当にいろいろありました。不正会計の件を宇部さんに内部告発をしたのも遠い昔のことのように感じられます。今年はそのような心配をする必要がほぼないのがとても嬉しく感じられますよ。仏頂面なりに、喜びの感情は出ていると思いますけどね。
end.
++++
柳井が洋朝に対してさん付けで呼称することに対して違和感しかない。別の話では普通に朝霞っつってたよな
ゲンゴローは相変わらず現場でバタバタ走り回ってるし、レオはそれを追いかけ回して説教をしてる。
つばちゃんまでは流刑地思想がなかなかに強い世代なので、結構ネガティブに考えがちですね
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