2021(04)

■断面素人たちの悲哀

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「くるちゃーん! ちょっとマジで聞いてくれよー!」
「ええっ、ちょっとどうしたの雨竜!」
「ひでーんだよ今日のテスト!」

 今日の2限のテストが終わって雨竜と北星と合流して話すことは、今のテストはダメなヤツだということ。これはくるちゃんに話を聞いてもらうしかねーよと雨竜が言い出せば、俺もくるちゃんにはぜひ聞いてもらいたい話だなとは思った。ダメ元で北星からくるちゃんのアポを取ってもらうと、オッケーの返事があったので現在に至っている。
 俺たちがやって来たのはスイーツバイキングだ。青敬のテストに関する愚痴を緑大のくるちゃんに聞いてもらうこと、そしてスイーツバイキングという場所はかけ離れているようで密接に結びついている。俺たちが今日の2限に受けたのはそんなテストだったんだ。それをそつなくこなしたのはもちろん俺たちの中では北星だったワケなんだけれども。

「えっと、青敬の、映像系の学科のテストだよね?」
「今日の2限のテストが実技系のテストでさ、60分でテーマに沿った映像をスマホで撮影して15秒から30秒の動画に編集しなさいっていうお題だったんだよ。音声素材とかは用意してもらったのを使ってっつー感じで自由にやっていいんだけど、撮影は自分でやんなきゃいけなくて」
「へー、そういう映像を撮影して編集するってテストがあるんだ。さすが青敬だね。それが難しかったの?」
「事前に発表されてたテーマが「食品の断面」だったんだよ」
「えーっ! あたしの得意分野じゃん! 食品って何でもアリ?」
「何でもあり。野菜でも果物でも。このテーマが出た瞬間俺ら全員くるちゃんじゃんってなったし。実際くるちゃんのブログ見て勉強させてもらったりして」
「でも実際撮影してみるとめちゃくちゃ難しいのなんのって」

 くるちゃんのブログで予習していた俺たちが撮影用素材として持ち込んだのはもちろんコンビニスイーツだ。あの動画をイメージしてナイフで切ってみるんだけど、なかなかあの映像みたく美味しそうには切れないし、そもそもが美味しそうじゃない映像素材をどうやっていい物に編集しろと言うのかと、テストが終わってから俺と雨竜は文句を垂れていた。
 ただ、北星はテストが終わった後もいつものようにのんびりと「なんとか出来た~」と言っていたし、実際に撮った映像を見せてもらってもスイーツを切るところからしてまず上手い。普段のふにゃふにゃした様子からは想像も出来ないナイフ捌きだったワケで。切った断面のクリームも全然よれてないし。で、切ったスイーツを美味しくいただいて。

「北星、くるちゃんに撮ったの見せてあげてよ」
「いいよ~。はい、これ」
「ありがとう」
「北星が上手かったのってやっぱ普段からくるちゃんと一緒にやってるからかな」
「ずっけーよな、カンニングみたいなもんじゃねーか」
「わー、ホントに上手に切れてるし、美味しそうに撮れてるね!」
「何であんなスッと切れたんだよ」
「くるちゃんが普段やってるみたく、使うスイーツを予め半冷凍しといたんだよ。今日の2限にこのテストだってわかってたから」
「抜け駆けかよ!」
「やっぱノウハウがあるんだな」
「北星は実際凄いよ。あたしが撮った動画も見やすくしてくれてるし。ちなみにだけど、今も北星には節分ロールの撮影手伝ってもらってるから予習はバッチリだったかも」
「節分ロールってなに?」
「恵方巻ってあるでしょ、太巻きの。あれのスイーツ版があるんだよ」
「何でもあるなー」
「行事に乗じてビジネスチャンスにするのはあるあるだからね」

 そう言ってくるちゃんは一口サイズのケーキをぽいぽいと頬張る。くるちゃんにはくるちゃんなりに編み出したスイーツ断面撮影のノウハウというものがあって、それをちょっと動画を眺めただけで盗もうと考えた俺たちが浅はかだったのは明らかだ。と言うか、それこそもっと切りやすい物を題材に選ぶっていう手段もあったし。

「でも~、俺はくるちゃんの撮影を見てるけど、実際にやるのは凄く難しかったな~」
「何だよ、嫌味かよ」
「違うよ。くるちゃんは普段からナイフを入れる角度だとか、手の動かし方まで動画でどう見えるかっていうのを計算してやってるんだよ。俺は編集専門だから、撮ったものの編集は出来ても撮影が凄く難しかった。知識としてはあっても、いつも実際にやってるのはくるちゃんだから」
「マジかー、ちょっと今度改めて研究しないとだな」
「ちなみにだけど、当麻と雨竜が今日のテストで撮影した映像もあるの?」
「一応あるけど見せられる代物ではないかな」
「それなー。切るのが下手過ぎてぐっちゃぐちゃになっちまったし」

 今回のテストは60分で撮影から編集まで全部をこなせっていうスピード勝負だったんだけど、テーマは事前に発表されてたし練習しようと思えば十分できたんだよな。何でぶっつけでやったんだとは今になって思う。くるちゃんだっていつも動画撮影するときには最低2個割るって言ってるんだぞ。それも、程よく上手くなった今の話で、断面撮影素人の俺らがそう上手くやれるはずもなく。

「って言うかみんなテストで使ったスイーツ食べて、お昼ご飯食べて、今スイーツバイキングでしょ? よく食べれるね」
「まあ食べれるかな。夕飯は抜くか控えめにするかになると思うけど」
「くるちゃんも~、食べれるよね~」
「あたしは食べれるけど、男の子ってそんなに甘いのたくさん食べない印象だし」
「スイーツバイキングって言うけど酸っぱいのとかコーヒーゼリーとか抹茶みたいなちょい苦い系とかもあるし全然余裕じゃね?」
「場所選びはくるちゃんに来てもらうならっていうのもありありで」


end.


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青敬だったらそういう実技系のテストがあってもいいかなと思って()
テストの内容があんな感じだったからくるちゃん呼んで愚痴ろうってなるのが仲良しの証なのかしら
コンビニで節分ロールというものがあるのを予約チラシみたいなので見たけど、くるちゃんはしっかり押さえてるのね

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