2021(04)
■バキバキの体をゆるくほぐす
++++
「あっ、朝霞先輩お疲れさまです」
「高木君2限しかなかったんでしょ? ごめんね付き合ってもらって」
「いえいえ。俺もそろそろ呼び出しがかかる頃だと思ってましたしちょうどいい機会かなと」
「確かにいい頃合いではあるんだけど、まさかタカちゃんからジムへのお誘いとか驚きますよねー。しかも朝霞P先輩も一緒にって」
俺は今年、単位交換制度という、よその大学の授業も履修出来る制度を使って緑大のイベントプロデュースというめちゃくちゃ面白そうな授業を履修していた。結果としては授業の内容的にも受けて良かったし、緑大の図書館というヤバい施設を使うことが出来たのも非常にいい経験となった。
図書館はヤベーぞという話をこないだ高木君の家でした鍋の時に改めて彩人にしていたら、ジムの話が出て来てさらに驚いたよな。なんでも、緑大には学生が自由に使えるジムがあって、空いた時間にそこでトレーニングをすることが出来るらしい。高木君もゼミで缶詰めになったりしたときなんかに利用しているとのことで案内してもらうことになった。
「本日はよろしくお願いします」
「ところで朝霞P先輩って根っからの文化系ですよね? トレーニングの経験などは」
「ないです」
「じゃあ体をほぐすレベルでやりましょうか。いきなりゴリゴリの筋トレなんかをやっても身体がビックリして明日動けなくなりますからね」
「果林の存在がマジで心強いな」
「俺も果林先輩がいなければジムになんか近寄らずに卒業してたと思います」
緑ヶ丘の1年の子がダイエット目的にジムで体を動かし始めるのを後押ししたのが果林だったそうで、その話があれよあれよと運動不足になって久しい高木君に飛び火したんだとか。ただ、高木君が逃げずに果林からのトレーニングのお誘いにちゃんと乗っているのは、指導がいいからだという。決して無理はさせないし、その人に合ったペースでのトレーニングをリードしてくれるそうで。
「え、高木君はちゃんとしたバキバキのトレーニングなの」
「いえ、俺は体力作り程度の軽めのヤツですね。それこそ体をほぐすレベルの」
「タカちゃん、入り口の先からは朝霞P先輩よろしく。ストレッチエリアの前集合で」
「わかりました」
ジムは緑大生より少し割高の金さえ払えば一応他校生でも使えたようで、それではこっちですと男子用のロッカールームに案内される。緑大生は学生証がこのジムでもいろいろな役割を担っているらしい。動きやすい服装に着替え、一応走ったりも出来る内履きに履き替える。指示されたストレッチエリアに集合すると、ガチな人が俺たちを待っていた。
「果林、ジャージがいつもの感じじゃなくてガチ過ぎやしないか」
「これが普通ですよ」
「朝霞先輩、言っても果林先輩はオリンピックも狙えたレベルの元アスリートなので」
「よくよく考えたら緑大ってそういうレベルの人がゴロゴロいるんだよな。つか俺みたいなのがジムを使って大丈夫なんだろうか」
「大丈夫ですよ。そういうレベルの人の拠点はもっとちゃんとしたところなんで。あ、でもワンチャンテスト期間が近付くと何かの間違いがあるかもしれないのか。まあ、ないない。大丈夫です! それじゃあストレッチをしましょう」
ストレッチとは言うけど俺がイメージしていた体を伸ばしてぐ~っ、というヤツじゃなくて、準備運動と言うのがそれらしいストレッチだ。と言うか、こういうのをどこかで見たと思ったらカンヂさんのリングフィット配信だ。うーん、新居に引っ越したら振動対策なんかもちゃんとして俺も今更リングフィット配信とかやってみようかな。
「果林、既に体が熱いし息切れしてるんだけど大丈夫か」
「運動不足の人の初回は大体こんな感じなんで大丈夫です。タカちゃんもそんな感じでした」
「え、高木君普通にケロッとしてるけど」
「やってるうちに慣れてきましたね」
「やっぱ運動は継続なのか」
「そしたらタカちゃんはいつもの感じでやってもらって、アタシは朝霞P先輩に付いてやりましょうか」
「お願いします」
「でも朝霞P先輩って自転車は普段から乗ってますもんね。ペダル系は慣れっこじゃないです?」
「あ、チャリンコはほぼ毎日乗ってるぞ。通学とか買い物とか。星ヶ丘は坂の上だし学内もアップダウンがあるから、チャリや歩くだけならある程度は」
「じゃクロストレーナーにしましょうか」
そう言って果林は高木君が乗っているマシンの隣に俺を誘導してピピピとセッティングする。高木君がやっているのを見ればどうすればいいのかは何となくイメージ出来るんだけど、最初は手と足がなかなかついて来ない。スキーをやるときみたく足に板があって、手にはスティックを握って四肢を前後に動かすと言うか漕ぐと言うか。え、何だこれ。
「少しずつ心拍数上げて行きますよー。はい、腕をもっと大きく! 後ろまで引いてー、肩甲骨を意識ー!」
「ひっ、つらっ」
「最初は機械に遊ばれてる感じになるんですよね。わかります」
確かに機械に遊ばれてる感じになってるし慣れない運動がめちゃくちゃ辛くはあるんだけど、コーチの指導込みで1回300円はめちゃくちゃ安くないか。いや、普通に来ただけじゃコーチの指導オプションは付かないんだけど。緑大生は200円だって言ってたよな。星ヶ丘にあったら使ってたかって聞かれると多分近寄らずに卒業するけど、これはなかなかいい。
「ちょっとずつわかってきたぞ」
「朝霞先輩、大石先輩の倉庫のバイトが明日じゃなくて良かったですね」
「……やっぱ明日しんどい?」
「俺は体がかなり痛くなって、逆転した昼夜が元に戻るくらい眠かったです」
end.
++++
Pさんの緑大施設利用ジム編。そういや果林と同じ授業履修してたなと思い出してこんな感じに。
TKGとPさんは多分お悩みだとか運動不足レベル的には似たような感じだと思うの。パソコンをよく使う人のお悩み的な。
最初は逆転した昼夜が元に戻るくらい運動の影響があったTKGも、今では慣れて昼夜は逆転しっぱなしである
.
++++
「あっ、朝霞先輩お疲れさまです」
「高木君2限しかなかったんでしょ? ごめんね付き合ってもらって」
「いえいえ。俺もそろそろ呼び出しがかかる頃だと思ってましたしちょうどいい機会かなと」
「確かにいい頃合いではあるんだけど、まさかタカちゃんからジムへのお誘いとか驚きますよねー。しかも朝霞P先輩も一緒にって」
俺は今年、単位交換制度という、よその大学の授業も履修出来る制度を使って緑大のイベントプロデュースというめちゃくちゃ面白そうな授業を履修していた。結果としては授業の内容的にも受けて良かったし、緑大の図書館というヤバい施設を使うことが出来たのも非常にいい経験となった。
図書館はヤベーぞという話をこないだ高木君の家でした鍋の時に改めて彩人にしていたら、ジムの話が出て来てさらに驚いたよな。なんでも、緑大には学生が自由に使えるジムがあって、空いた時間にそこでトレーニングをすることが出来るらしい。高木君もゼミで缶詰めになったりしたときなんかに利用しているとのことで案内してもらうことになった。
「本日はよろしくお願いします」
「ところで朝霞P先輩って根っからの文化系ですよね? トレーニングの経験などは」
「ないです」
「じゃあ体をほぐすレベルでやりましょうか。いきなりゴリゴリの筋トレなんかをやっても身体がビックリして明日動けなくなりますからね」
「果林の存在がマジで心強いな」
「俺も果林先輩がいなければジムになんか近寄らずに卒業してたと思います」
緑ヶ丘の1年の子がダイエット目的にジムで体を動かし始めるのを後押ししたのが果林だったそうで、その話があれよあれよと運動不足になって久しい高木君に飛び火したんだとか。ただ、高木君が逃げずに果林からのトレーニングのお誘いにちゃんと乗っているのは、指導がいいからだという。決して無理はさせないし、その人に合ったペースでのトレーニングをリードしてくれるそうで。
「え、高木君はちゃんとしたバキバキのトレーニングなの」
「いえ、俺は体力作り程度の軽めのヤツですね。それこそ体をほぐすレベルの」
「タカちゃん、入り口の先からは朝霞P先輩よろしく。ストレッチエリアの前集合で」
「わかりました」
ジムは緑大生より少し割高の金さえ払えば一応他校生でも使えたようで、それではこっちですと男子用のロッカールームに案内される。緑大生は学生証がこのジムでもいろいろな役割を担っているらしい。動きやすい服装に着替え、一応走ったりも出来る内履きに履き替える。指示されたストレッチエリアに集合すると、ガチな人が俺たちを待っていた。
「果林、ジャージがいつもの感じじゃなくてガチ過ぎやしないか」
「これが普通ですよ」
「朝霞先輩、言っても果林先輩はオリンピックも狙えたレベルの元アスリートなので」
「よくよく考えたら緑大ってそういうレベルの人がゴロゴロいるんだよな。つか俺みたいなのがジムを使って大丈夫なんだろうか」
「大丈夫ですよ。そういうレベルの人の拠点はもっとちゃんとしたところなんで。あ、でもワンチャンテスト期間が近付くと何かの間違いがあるかもしれないのか。まあ、ないない。大丈夫です! それじゃあストレッチをしましょう」
ストレッチとは言うけど俺がイメージしていた体を伸ばしてぐ~っ、というヤツじゃなくて、準備運動と言うのがそれらしいストレッチだ。と言うか、こういうのをどこかで見たと思ったらカンヂさんのリングフィット配信だ。うーん、新居に引っ越したら振動対策なんかもちゃんとして俺も今更リングフィット配信とかやってみようかな。
「果林、既に体が熱いし息切れしてるんだけど大丈夫か」
「運動不足の人の初回は大体こんな感じなんで大丈夫です。タカちゃんもそんな感じでした」
「え、高木君普通にケロッとしてるけど」
「やってるうちに慣れてきましたね」
「やっぱ運動は継続なのか」
「そしたらタカちゃんはいつもの感じでやってもらって、アタシは朝霞P先輩に付いてやりましょうか」
「お願いします」
「でも朝霞P先輩って自転車は普段から乗ってますもんね。ペダル系は慣れっこじゃないです?」
「あ、チャリンコはほぼ毎日乗ってるぞ。通学とか買い物とか。星ヶ丘は坂の上だし学内もアップダウンがあるから、チャリや歩くだけならある程度は」
「じゃクロストレーナーにしましょうか」
そう言って果林は高木君が乗っているマシンの隣に俺を誘導してピピピとセッティングする。高木君がやっているのを見ればどうすればいいのかは何となくイメージ出来るんだけど、最初は手と足がなかなかついて来ない。スキーをやるときみたく足に板があって、手にはスティックを握って四肢を前後に動かすと言うか漕ぐと言うか。え、何だこれ。
「少しずつ心拍数上げて行きますよー。はい、腕をもっと大きく! 後ろまで引いてー、肩甲骨を意識ー!」
「ひっ、つらっ」
「最初は機械に遊ばれてる感じになるんですよね。わかります」
確かに機械に遊ばれてる感じになってるし慣れない運動がめちゃくちゃ辛くはあるんだけど、コーチの指導込みで1回300円はめちゃくちゃ安くないか。いや、普通に来ただけじゃコーチの指導オプションは付かないんだけど。緑大生は200円だって言ってたよな。星ヶ丘にあったら使ってたかって聞かれると多分近寄らずに卒業するけど、これはなかなかいい。
「ちょっとずつわかってきたぞ」
「朝霞先輩、大石先輩の倉庫のバイトが明日じゃなくて良かったですね」
「……やっぱ明日しんどい?」
「俺は体がかなり痛くなって、逆転した昼夜が元に戻るくらい眠かったです」
end.
++++
Pさんの緑大施設利用ジム編。そういや果林と同じ授業履修してたなと思い出してこんな感じに。
TKGとPさんは多分お悩みだとか運動不足レベル的には似たような感じだと思うの。パソコンをよく使う人のお悩み的な。
最初は逆転した昼夜が元に戻るくらい運動の影響があったTKGも、今では慣れて昼夜は逆転しっぱなしである
.