2021(04)

■パパンがパン

++++

「おはよーございまーす。ダイチさんいますー?」
「真桜クンおはよう。烏丸さんだったらまだだよ」
「まだっしたかー、残念」
「真桜、烏丸さんに何の用事だったの?」
「ダイチさん今日誕生日らしいじゃないっすか。だから美味しいって評判の食パン買って来たんすよ」
「なるほど」

 そう言えば去年もこの時期に烏丸さんの誕生会ということで鍋大会なんかをやった覚えがある。白菜とかキャベツだったかな? その辺の葉物野菜があったから煮込みラーメンにして食べたような気がする。春山さんがちゃちゃっとやってくれたんだよなあ。
 今年はそういう会をグイグイ引っ張ってくれるタイプの人がいない代わりと言ったら難だけど、真桜がマメなタイプなのかな。烏丸さんの主食である食パンがプレゼントなのはナイスだね。でも美味しいって評判の食パンは俺も気になるなあ。

「ちなみにどこにあるお店?」
「花栄っす。弟の友達がバイトしてる花栄のコーヒースタンドで売ってる食パンがま~あ美味しいのなんの。的なことを聞いたんで、じゃあ実際に食べて確かめてみたら美味しかったんすよ。これは問題なく人にあげれるなと思って」
「へー、パン屋さんの食パンじゃないんだねー」
「高級食パン専門店とかのヤツかと思ったー」
「言ってダイチさんが高級食パン専門店のパンかじってるイメージあります?」
「ないね」

 思わずカナコさんと声が揃ったけど、実際そうなんだよなあ。烏丸さんは食パンが主食なんだけど、その食パンっていうのが普通にスーパーで100円から200円の間くらいで売ってるごくごく普通の食パンなんだよね。高級食パンのイメージは全くない。
 だけど、烏丸さんはその比較的安い食パンもちゃんと味の違いをわかって食べているところが凄くって、甘いのが食べたいときはこのパン、バター味が食べたいときはこのパン、もっちり食感がいいときはこのパン、みたいに食べ分けをしているらしい。

「何やら美味そうな匂いがするな」
「林原さんおはようございます。真桜が烏丸さんの誕生日プレゼントにって食パンを買ってきたんですよ」
「ほう、なかなかいい選択だな」
「やったー褒められた!」
「なかなか小洒落た紙袋だが、専門店の物か」
「花栄のコーヒースタンドのっす。弟に勧められて食べたんですけど美味しかったんでダイチさんにもどうかなーと思って」
「烏丸が急に高級な食パンなど食ってひっくり返らんだろうか」
「あー」

 またカナコさんと声が揃ったんだけど、烏丸さんのイメージなんだよなあ。烏丸さんの実家はお金がある家らしいんだけど、烏丸さん本人の育ちがかなり特殊なんだ。いつまともに食べられなくなる生活に戻るかわからないし、贅沢は敵だーみたいな感じで粗食を貫いてるんだよね。
 俺がお土産に買って持ってきたリンゴパイを食べたときなんかすっごい驚いちゃってて、リアクションの大きさにみんなが驚いちゃったよね。あっまーい! ってさ。俺も最初にバターサンドを食べたときはあまりの美味しさに感動したけど、その比じゃなかったんだろうなあ。

「真桜クン、このパンって焼いて食べるのが美味しいの? そのまま食べるのがいいの?」
「あのお店、生食パンとトースト用の2種類が売ってて、これは生食パンの方っすね。ダイチさんてそのままパン食べるじゃないすか。なんで焼かずに食べた方が美味しいヤツにしときました」
「へー、2種類あるんだ。食べ比べしたいな」
「コーヒーとトーストって、おしゃれな朝食って感じですよねー」
「姫、興味ある感じだったら一緒に行きません? コーヒーも普通においしーんすよー」
「えー、いいねー! 行こう行こう」

 烏丸さんは焼いて食べるタイプのパンでもきっとそのまま食べるだろうけど、どうせなら美味しい方がいいよね。でも、俺も美味しいパンが食べたいなあ。たまにユキちゃんがどこそこのパンだよーって言って持ってきてくれるけど、あれは本当に贅沢だからなー。

「おはよー」
「あっダイチさん来たっすね! 誕生日だって聞いたんで食パンどーぞっすー」
「マオ、ありがとう! あれ、これ、俺の知ってるパンじゃないねー」
「花栄にあるコーヒースタンドで売ってる生食パンっすよ。何せ、美味しいパンなんで今日の晩からでも食べてみて下さい。美味いっすよ~」
「へー、楽しみだなー。ちょっとおなか空いたしせっかくだからちょっと食べてみようかな」

 烏丸さんがパンを紙袋から出したときにふわっと、そしてさらにビニールから出したときにまたふわっとパンのいい匂いがするんだ。4限が終わった夕方の時間帯にはかなりキツいんだよな~。俺もつられておなか空いちゃう。明日の朝ご飯はパンかなー。

「林原さん、星港ってパンの激戦区でしたよねー?」
「確かそうだったと思うが」
「バイトが終わった後からでもやってるお店って、この近くにもありますかねー」
「調べればいいだろう」
「じゃ、ちょっと調べまーす」
「そう言えば、カナコちゃんて誕生日そろそろだったよね? 29日とかじゃなかった?」
「あれっ、言いましたっけ?」
「去年聞いたから知ってるんだと思うよ」
「そうなんですよ、私は29日が誕生日で」

 そう言えば有馬くんが誕生日にテディベア博物館みたいな施設に行きたいって言ってたんだっけ。改めて有馬くんに声をかけてみて、ちゃんと道とか調べとかないとなあ。あと、カナコさんの誕生日も何かお祝い出来たらいいんだけど。

「姫の誕生日なんか全力で祝うに決まってるじゃないっすか! 先約がなければデートしましょデート」
「いいよー。どこ行こっかー」


end.


++++

2年生以上のスタッフたちはダイチを何だと思っているのか。でも大体間違ってないのがダイチである。
五百崎姉弟は同じバンドで一緒にベースやってるだけあって結構仲が良いんだろうなあ。
彩人がPさんにどうやってパンを差し入れてるかわかんないけど、Pさんの部屋に同じ紙袋があったりしないんだろうか

.
8/78ページ