2021(04)

■開かずの記録とイスのフタ

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 きっとどこかにあるだろう昔々の活動記録を掘り起こした結果、足の踏み場も怪しくなった部屋だけど、テスト期間も近い時期にわざわざ来るような人もそうそういないだろう。そう踏んで、部屋を汚くしたことを無視して探しものを続ける。でも普段から書類や記録なんかを管理してる人間じゃないから何がどこにあるのかさっぱりわからない。
 探しているのは桜貝大学放送サークルSBCの……何年前かな、3年か4年、それ以上前の記録だ。こないだの休みに、買い物ついでに街をふらっとしてたら高校の同級生だった上川北星に会った。北星は動画制作の技術が凄いということで高校ではなかなか有名な存在で、大学でも映像のことを勉強しに進学した。専門学校とかじゃないのは少し意外だったけど。
 女の子と一緒にいたモンだからあの映像バカが映像を捨てて人間、しかも女にうつつを抜かしてるのかと思ったけど、そうでもなかったらしい。一緒にいたのは大学のサークルを通じて出会った子で、その子のやってる趣味の映像に技術協力をしているとか。動画を載せてるブログを見せてもらったけどなかなか美味しそうなスイーツ動画だった。
 そこで聞いたのが、インターフェイスなる向島エリアの大学にあるいくつかの放送系団体を繋ぐ組織のこと。ウチも昔は参加してたとかしてなかったとかって話らしいけど、今ではそんな話どころか単語すら上には上がって来ない。ここで言う放送ってのはラジオのことを主に指していて、映像作品を作っているワケではないらしい。
 ところがどっこい、北星によればそのインターフェイスとやらでも映像作品を作ろうという機運が高まっているらしく、桜貝と同じく映像を主に活動している青敬は注目の的。いやいや待てよ、そんな面白そうな話……とは思ったけど、そもそもインターフェイスとは何ぞや? そう思って昔の記録を穿り返してたところだ。

「あーもう、つかどこに何があんだよこの部屋」

 女だろうが男だろうが関係なく、片付けが出来る出来ないはその個々人の特性だね。SBCにいるのは片付けの出来ない方の人が作った枠に何となくその辺の物を収めておく程度のことを片付けと呼べてしまう人種の人間ばかりなんだろうね、アタシも含めて。さすがにもうちょっとやって見つからないとなれば片付けないとマズい。

「キャー! ちょっとなにこれー! 誰ー!?」
「泥棒でも入った跡みたい」
「あっ、リリアさんソラさんすみません、ちょっと探し物してて」
「もー、伊吹ー、ちゃんと片付けといてよねー」
「伊吹、何を探してるの? こんなになるまでひっくり返して」
「えっとですね」

 かくかくしかじかで……と事情を説明すると、2人も「そう言えば」と考え始めた。2人は尼崎リリアさんと稲美氷空さん、それぞれ2年生の先輩なんだけど、2年生の先輩もインターフェイスという単語とは無縁でこれまでやってきたから、そういうのがあるんだねーとかそういう次元の話だ。

「映像の活動があるんだったらアタシちょっと興味あるんですよね。言ってうちら女子大ですし、男性的なインスピレーションとかはなかなか得にくいじゃないですか。そういうときに、外部とのリアルな、オフの繋がりがあるのは悪いことじゃないかなって」
「そういう古い物とかって、場所知ってそうなのみっきーじゃない? 片付け得意なのあの子くらいじゃん」
「新しい物はみっきーに聞けば大体わかるけど、昔から動いてないような物はどうかなあ」
「いーからいーから! みっきー呼んで聞いちゃえ」

 こういうときの行動力が凄いのがリリアさんで、みっきー呼んで聞いちゃえ、と言いながらみっきーさんに電話をしている。しばらく待つとみっきーさんこと三木さつき先輩がやって来て、2人の先輩と同じようにこの部屋の惨状に驚いた後で同じようにかくかくしかじかと事情を説明すると、どこだったかなとアタシが漁っていた場所とは見当違いの場所を見始める。

「えー!? このイスって上開くんですか!?」
「そうだよ。収納式スツールってヤツ。滅多に使わないような物とか、季節ものとかがこの中にあるから。で、古い書類とかはあんまり動かさない方のイスの中。3、4年以上前だったらこの辺に……ああ、これかな」
「ありがとうございます!」
「すっごー、さすがみっきー。ヌシだよヌシ。知恵袋じゃん」
「知恵袋って言われると老けてるみたい」
「そんなこと言ってないし! 深読みしすぎー!」
「それで、伊吹が探してる情報はありそう?」
「んー、何か、ちょこちょこ定例会の報告みたいなことが書いてるページがあるんで、それかな的な?」
「一応まだインターフェイスに参加してる体なら話聞くくらいはいいんじゃん? 誰かに連絡取れないの?」
「取れないことはないけど、どうかな~、ダメ元かー。先輩たちどう思います?」
「いいんじゃん?」
「でも話を聞いて本当に参加していく感じになったら、ちゃんと話をするのは私たちになるんじゃない?」
「顔合わせじゃないけど、ツラ貸しな! 的な?」
「違う。顔合わせの方が正しい」

 何はともあれ、ダメ元で北星に連絡してみたけど、アイツ、そういう私用の連絡に返信してくる奴だったかなー。アイツがダメなら完全に望みが断たれるんだけど。


end.


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はじめましての桜貝サイドのお話。例によってキャラ詰めなどはこれから。全員1話だけ出てる昨年度の話がある。
如何せん伊吹の頼みの綱が北星なので、ダメだろうな~っていう感が非常に強い。伊吹が知っているのは昔の北星だからね
2年生たちが最初にあやめと話してるだろう現場もあるはずだし、その辺のことも見てみたいね

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