2021(04)
■分け合うローコスト鍋
++++
「思ったよりも結構ボリューミーな感じになったね」
「最初はうどんと少しの肉と豆腐をポン酢で食うだけの予定だったっていう」
「白菜もポン酢で食うには悪くないっしょ?」
「まあそうなんすけどね?」
土鍋には、うどんとちょっとした量の豚肉と豆腐、それから山盛りの白菜と大根とエノキ。エイジと2人で囲む予定だった鍋も、朝霞先輩と彩人が加わっての4人鍋だ。スーパーに鍋の具材を買いに行ったら、例によって試食販売の仕事をしている朝霞先輩と会って、そこで立ち話をする中でこういうことになった。白菜と大根は彩人から分けてもらった物だ。
この時期と朝霞先輩で結び付く図式は吊り札付けのアルバイト。今年もどうやら大石先輩からその話があったらしく、ここで会ったが百年目だと再び勧誘された。この時期はゼミ合宿に追いコンにと何かとお金が必要になるので、少しでも稼げるのであればありがたい。去年のあの感じなら仕事内容としてもさほど苦ではなかったし、今度は自分が二つ返事で了承した。
今年は去年と少し日程や条件が変わるとのことで、スーパーで立ち話も難だからと現在に至っている。鍋をやるならととんとん拍子で話が進み、白菜や大根といった野菜を彩人に分けてもらえるよう調整してもらって、朝霞先輩も何か差し入れるよとのことだったので、俺たちは割引シールの貼られた豚肉のパックを当初の予定より多く買い込むことになった。
「こんなに野菜入れて大丈夫かなあ。こぼれそうだけど」
「野菜は縮むから大丈夫っすよ。つか全然色のねー鍋っすね」
「結局、色の無い物が調味料を選ばないっていう。安い物も多いべ」
「あっ2人とも、ごまポンもあるし、素のポン酢に飽きたら使ってみて」
「あざっす」
「ごまポンはなかなか使わないですね」
「あんま好きじゃなかった?」
「いえ、そういう少し変わった物は使い切れなくなりそうで買わないんですよね」
「あー、なるほど。賞味期限も開封前の表記だもんね」
「多少賞味期限が切れたくらいは気にしないんですけどね」
「お前は多少気にしろっていう」
「エイジは気にし過ぎなんだよ。こないだだって卵を1日期限が切れたくらいで捨てちゃうし。生食しなきゃ大丈夫だって言ってるじゃない」
「いや、アカンだろっていう。星ヶ丘勢はどー思います?」
「あー、卵とか牛乳みたいなモンはちょっと厳しくないすか?」
「卵は加熱調理でイケる。牛乳はずっと冷蔵庫で開封後1日くらいならギリギリかな」
「えー! ムリっすよ! 朝霞さんどんだけ強靭な胃してんすか!」
うちの冷蔵庫はエイジが定期的に管理しているので賞味期限切れの物なんかは容赦なくやられるし、傷んでしまった物をうっかり食べてしまうというような事故は起こりにくい環境になっている。いつだったかなあ、前にエイジにコーヒーを入れた時に使った牛乳が期限切れだったことがあって物凄~く怒られたことがあったんだよね。
「それじゃあいただきます」
「いただきます!」
「朝霞先輩も食べちゃってください」
「猫舌だから程よく冷めたらいただくよ。それで本題だけど高木君、バイトの話なんだけど」
「あ、お願いします」
「今年は期間が去年よりちょっと長いみたくて、回数もちょっと増えるのかな。足は例によって大石が送迎してくれるらしい。で、去年の実績があるから時給をちょっと上げてもらえてて、1030円になってるのかな。30円だけど、日給にすれば発泡酒1本分くらいにはなるからちり積もで」
時給30円アップというのはバイト経験者たちからすれば割といい話らしく、日給で発泡酒1本分くらいは変わるという具体的な話に、これはありがたいことなんだなあというのがよく分かる。
「ゼミ合宿ってのがあるんすねー」
「そうなんだよ。長篠の山の中にあるセミナーハウスなんだけど、ここが結構な洋館だから宿泊費もあるし交通費もかかるのかな? それに諸々の準備で結構な痛手でさ」
「さすが緑ヶ丘、セミナーハウスも豪勢なんすね。つかエージさん文学部っしたよね? 緑ヶ丘の図書館がヤバいってのは本当っすか?」
「あー、図書館は結構居心地いいし俺もよく使ってるべ。普通の雑誌とかも一通り揃ってるし」
「やっぱいいんすね! あー、俺も行ってみてー」
「彩人、図書館の話なんかどこから聞いたんだっていう」
「リクからも聞いたことありますし、朝霞さんがすげー自慢してくるんすよ、緑ヶ丘の図書館はヤベーぞって」
「単位交換制度で緑大の授業取ってたんだよ。それで、緑大に行った日には図書館に入り浸っててさ」
「あそこはマジで時間が溶けるっすよね」
「そうなんだよ」
図書館の話は俺にはなかなか縁遠いので、黙々と肉とうどんを食べることに。図書館はなかなか使わないなあ。行って緑大の施設だからどの施設もそれなりに凄いんだろうけど、何がどう凄いんだろう。
「そういや高木、大学の施設と言えばお前たまにジム行ってるべ」
「ああ、果林先輩に引き摺られてね」
「あっこも結構すげーべ?」
「まず一般的なジムを知らないから何とも言えないけど、凄いのかなあ」
「と言うか、大学の中にジムはない」
「そっすね。少なくとも星ヶ丘にはないっす。星ヶ丘にあって緑大に無い物って何かありますかね朝霞さん」
「あー、割と真面目に農場とかになるんじゃないか?」
end.
++++
アルバイト紹介の話からやたら白い鍋になり、大学の施設ヤバいっていういつもの件に着地。エイジも図書館には用事がある方。
彩人は例によってひかりファームの野菜をみちるから分けてもらっているので冬野菜にはあまり困ってない。
日給の上がり幅のことを発泡酒1本分くらいという例えなのがPさんの価値観なのかもしれない。レッドブルには足りないし
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「思ったよりも結構ボリューミーな感じになったね」
「最初はうどんと少しの肉と豆腐をポン酢で食うだけの予定だったっていう」
「白菜もポン酢で食うには悪くないっしょ?」
「まあそうなんすけどね?」
土鍋には、うどんとちょっとした量の豚肉と豆腐、それから山盛りの白菜と大根とエノキ。エイジと2人で囲む予定だった鍋も、朝霞先輩と彩人が加わっての4人鍋だ。スーパーに鍋の具材を買いに行ったら、例によって試食販売の仕事をしている朝霞先輩と会って、そこで立ち話をする中でこういうことになった。白菜と大根は彩人から分けてもらった物だ。
この時期と朝霞先輩で結び付く図式は吊り札付けのアルバイト。今年もどうやら大石先輩からその話があったらしく、ここで会ったが百年目だと再び勧誘された。この時期はゼミ合宿に追いコンにと何かとお金が必要になるので、少しでも稼げるのであればありがたい。去年のあの感じなら仕事内容としてもさほど苦ではなかったし、今度は自分が二つ返事で了承した。
今年は去年と少し日程や条件が変わるとのことで、スーパーで立ち話も難だからと現在に至っている。鍋をやるならととんとん拍子で話が進み、白菜や大根といった野菜を彩人に分けてもらえるよう調整してもらって、朝霞先輩も何か差し入れるよとのことだったので、俺たちは割引シールの貼られた豚肉のパックを当初の予定より多く買い込むことになった。
「こんなに野菜入れて大丈夫かなあ。こぼれそうだけど」
「野菜は縮むから大丈夫っすよ。つか全然色のねー鍋っすね」
「結局、色の無い物が調味料を選ばないっていう。安い物も多いべ」
「あっ2人とも、ごまポンもあるし、素のポン酢に飽きたら使ってみて」
「あざっす」
「ごまポンはなかなか使わないですね」
「あんま好きじゃなかった?」
「いえ、そういう少し変わった物は使い切れなくなりそうで買わないんですよね」
「あー、なるほど。賞味期限も開封前の表記だもんね」
「多少賞味期限が切れたくらいは気にしないんですけどね」
「お前は多少気にしろっていう」
「エイジは気にし過ぎなんだよ。こないだだって卵を1日期限が切れたくらいで捨てちゃうし。生食しなきゃ大丈夫だって言ってるじゃない」
「いや、アカンだろっていう。星ヶ丘勢はどー思います?」
「あー、卵とか牛乳みたいなモンはちょっと厳しくないすか?」
「卵は加熱調理でイケる。牛乳はずっと冷蔵庫で開封後1日くらいならギリギリかな」
「えー! ムリっすよ! 朝霞さんどんだけ強靭な胃してんすか!」
うちの冷蔵庫はエイジが定期的に管理しているので賞味期限切れの物なんかは容赦なくやられるし、傷んでしまった物をうっかり食べてしまうというような事故は起こりにくい環境になっている。いつだったかなあ、前にエイジにコーヒーを入れた時に使った牛乳が期限切れだったことがあって物凄~く怒られたことがあったんだよね。
「それじゃあいただきます」
「いただきます!」
「朝霞先輩も食べちゃってください」
「猫舌だから程よく冷めたらいただくよ。それで本題だけど高木君、バイトの話なんだけど」
「あ、お願いします」
「今年は期間が去年よりちょっと長いみたくて、回数もちょっと増えるのかな。足は例によって大石が送迎してくれるらしい。で、去年の実績があるから時給をちょっと上げてもらえてて、1030円になってるのかな。30円だけど、日給にすれば発泡酒1本分くらいにはなるからちり積もで」
時給30円アップというのはバイト経験者たちからすれば割といい話らしく、日給で発泡酒1本分くらいは変わるという具体的な話に、これはありがたいことなんだなあというのがよく分かる。
「ゼミ合宿ってのがあるんすねー」
「そうなんだよ。長篠の山の中にあるセミナーハウスなんだけど、ここが結構な洋館だから宿泊費もあるし交通費もかかるのかな? それに諸々の準備で結構な痛手でさ」
「さすが緑ヶ丘、セミナーハウスも豪勢なんすね。つかエージさん文学部っしたよね? 緑ヶ丘の図書館がヤバいってのは本当っすか?」
「あー、図書館は結構居心地いいし俺もよく使ってるべ。普通の雑誌とかも一通り揃ってるし」
「やっぱいいんすね! あー、俺も行ってみてー」
「彩人、図書館の話なんかどこから聞いたんだっていう」
「リクからも聞いたことありますし、朝霞さんがすげー自慢してくるんすよ、緑ヶ丘の図書館はヤベーぞって」
「単位交換制度で緑大の授業取ってたんだよ。それで、緑大に行った日には図書館に入り浸っててさ」
「あそこはマジで時間が溶けるっすよね」
「そうなんだよ」
図書館の話は俺にはなかなか縁遠いので、黙々と肉とうどんを食べることに。図書館はなかなか使わないなあ。行って緑大の施設だからどの施設もそれなりに凄いんだろうけど、何がどう凄いんだろう。
「そういや高木、大学の施設と言えばお前たまにジム行ってるべ」
「ああ、果林先輩に引き摺られてね」
「あっこも結構すげーべ?」
「まず一般的なジムを知らないから何とも言えないけど、凄いのかなあ」
「と言うか、大学の中にジムはない」
「そっすね。少なくとも星ヶ丘にはないっす。星ヶ丘にあって緑大に無い物って何かありますかね朝霞さん」
「あー、割と真面目に農場とかになるんじゃないか?」
end.
++++
アルバイト紹介の話からやたら白い鍋になり、大学の施設ヤバいっていういつもの件に着地。エイジも図書館には用事がある方。
彩人は例によってひかりファームの野菜をみちるから分けてもらっているので冬野菜にはあまり困ってない。
日給の上がり幅のことを発泡酒1本分くらいという例えなのがPさんの価値観なのかもしれない。レッドブルには足りないし
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