2021(03)
■魔窟からの脱出
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「あー……クソさみー……」
「卒論も出し終わったし、今日が全休でよかったね朝霞クン」
「ホントに。あ、ミカン好きに食ってくれな」
「それじゃあお言葉に甘えて、いただきま~す」
場所によっては暴風雪とかになってるレベルでクソ強い寒波が来ているらしい。今日の俺はバイトもなく授業もなく、卒論も提出済みということで外に出る理由がひとつもないということで、ひたすらこたつの中で出来ることだけをやっている。例えば、書き物の作業であったり、マイクラの整地作業であったり。
山口がうちに遊びに来ているのは今週末に頼んでいる引っ越し準備のための下見という体だ。俺は大学卒業と同時に引っ越しをすることになっている。そのためにはまずある程度片付けて、持って行くものと実家で整理する物、そして処分する物などに分けなければならない。
「何か、こうしてお茶を飲みながらミカンを食べてると、冬の原風景って感じだよね」
「俺の中では当たり前の光景なんだけどな」
「それにしてもこのミカンあっまいね」
「お茶と一緒に食ってるから尚更じゃないか?」
「あ~、それもあるかもね」
結局、片付けは二の次になってしまっていて、山口共々こたつの中から出られなくなってしまっている。お茶を飲みながらミカンを食って、片付けの下見をしないといけないとは思いつつも、次は何をするかなあとぐだぐだしてしまっている。片付けをしなければいけないんだけど、何をするかなあ。
「朝霞クンこれから卒業までの間に何するとかある? テストはさすがにもうほとんどないでしょ?」
「それなんだけど、緑ヶ丘の授業取ってるからそのテストをどうするかなーって感じで」
「他の大学の授業で取った単位って星ヶ丘の単位として認定されるの?」
「ああ。単位交換制度ってのはそういう仕組みだな。緑ヶ丘の単位は捨てても一応卒業は出来るんだけど、せっかくだし緑ヶ丘に行って図書館にでも行って来るかなーとも思ってて」
「だったらテスト受けたらいいんじゃない? どっちかって言うと図書館の方が主な目的って感じがするけどね」
「実際そうだからな。緑ヶ丘の図書館はマジですげーからな」
イベントプロデュースという授業は隔週で行われていて、2週に1回、2コマぶっ続けで講義を受ける。緑ヶ丘では社会学部3年生の後期から開放されるらしく、果林も同じ講義を受けているらしい。興味のある奴は大体3年のうちに取ってしまうようだ。シンや宮林さん、もとい伊東さんも取ったって言ってたし。
テストはそれなりにやるとして、俺が緑ヶ丘遠征で何を楽しみにしていたのかと言えば、飯と図書館で過ごす時間だ。緑ヶ丘は規模のデカい大学だけあって食堂もたくさんあるし、メニューも選び放題だ。授業は3、4限だから、少し早めに行って昼飯を食ってから授業を受けていた。
授業が終われば図書館籠りの時間だ。緑ヶ丘は図書館の規模も星ヶ丘より大きく、設備もいい。映画見放題のオーディオ・ビジュアルスペースもあって、身体が吸い付くようなソファに座り、付けている感覚がほとんどない高音質のヘッドホンを付けて映画に没頭出来る時間の贅沢さだ。もちろん、本の取り揃えもかなりいい。
この図書館はリク君もお気に入りのようで、彼も空き時間にはよく利用しているそうだ。彩人はリク君から「ウチの図書館が最高でさあ」という話を聞いていたらしいのに、その上俺も緑ヶ丘の図書館はヤベーぞと言い始めたことで緑ヶ丘の図書館はどんなところなんだと憧れを強くしているようだ。
「朝霞クン、この年末年始もいろいろ忙しくしてたでしょ? お土産見てても思うけどさあ」
「そうだな。だからまた金がなくなっちまったし、そろそろバイトのことも考えて行かないとなとは」
「完全に去年と同じ流れになってるよね」
「それなんだよ。結局去年もこの時期は大石が持って来たバイトの話に乗ったから、派遣会社からの仕事の依頼はないだろうし。どうにかして働き口を探さないとなとは。仕事くれって連絡してみるかなー」
「卒業旅行とかって行くような感じ?」
「全然想定してなかったな。卒業旅行っていう概念がなかった」
「あらそう」
「そう言うお前はどうなんだ」
「俺も全然考えてなかったよね。朝霞クンが時間余裕あるならどっか行けるかな~くらいに考えてたけど」
「時間っつーのはな、作るモンだ。2月3月の予定も埋まり始めてるから、具体的な日程を出してくれれば調整はする」
「ホント!? じゃあまた計画持って来るから!」
USDXでは大学4年のメンバー4人が進学や就職で環境が変わる前に動画を撮れるだけ撮ろうという話になっている。それに、例によってまたコラボ動画を撮りましょうという話もありがたいことにちょこちょこいただいているので、2月3月も既にそういう予定で埋まりつつある。
ただ、USDXもオンライン関係の活動として括ってしまえば、オフの友達との予定も入れて行きたいなとは思っている。環境が変わると会えなくなる人も普通にいるし、長い休みは学生だからこそだ。引っ越しもあるし、うん、やっぱ休んでるヒマなんか全然ねーな。スケジュールを埋めていこう。
「山口、もう1個ミカン食ったら片付けるぞ」
「急にやる気出したね~、いいことだけど、どうしたの」
「思ったより俺には時間がなかった。旅行すんだろ。こたつでゆっくりするのもいいけど、時間を作るんだよ」
end.
++++
Pさんは寒さに弱いのでこたつなんか使うとそこから出られなくなるけど、お茶を淹れるために台所までは歩くよ。
片付けの下見とかいうよくわからない名目でやまよがいるけど、何から手を付けていけばいいかわからないから下調べは必要。
スケジュールを本気で埋めに行ったPさんの本気はそれこそ分単位とか秒単位で動き始めることになるのだろうか。鬼の朝霞Pがまた見られるか
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「あー……クソさみー……」
「卒論も出し終わったし、今日が全休でよかったね朝霞クン」
「ホントに。あ、ミカン好きに食ってくれな」
「それじゃあお言葉に甘えて、いただきま~す」
場所によっては暴風雪とかになってるレベルでクソ強い寒波が来ているらしい。今日の俺はバイトもなく授業もなく、卒論も提出済みということで外に出る理由がひとつもないということで、ひたすらこたつの中で出来ることだけをやっている。例えば、書き物の作業であったり、マイクラの整地作業であったり。
山口がうちに遊びに来ているのは今週末に頼んでいる引っ越し準備のための下見という体だ。俺は大学卒業と同時に引っ越しをすることになっている。そのためにはまずある程度片付けて、持って行くものと実家で整理する物、そして処分する物などに分けなければならない。
「何か、こうしてお茶を飲みながらミカンを食べてると、冬の原風景って感じだよね」
「俺の中では当たり前の光景なんだけどな」
「それにしてもこのミカンあっまいね」
「お茶と一緒に食ってるから尚更じゃないか?」
「あ~、それもあるかもね」
結局、片付けは二の次になってしまっていて、山口共々こたつの中から出られなくなってしまっている。お茶を飲みながらミカンを食って、片付けの下見をしないといけないとは思いつつも、次は何をするかなあとぐだぐだしてしまっている。片付けをしなければいけないんだけど、何をするかなあ。
「朝霞クンこれから卒業までの間に何するとかある? テストはさすがにもうほとんどないでしょ?」
「それなんだけど、緑ヶ丘の授業取ってるからそのテストをどうするかなーって感じで」
「他の大学の授業で取った単位って星ヶ丘の単位として認定されるの?」
「ああ。単位交換制度ってのはそういう仕組みだな。緑ヶ丘の単位は捨てても一応卒業は出来るんだけど、せっかくだし緑ヶ丘に行って図書館にでも行って来るかなーとも思ってて」
「だったらテスト受けたらいいんじゃない? どっちかって言うと図書館の方が主な目的って感じがするけどね」
「実際そうだからな。緑ヶ丘の図書館はマジですげーからな」
イベントプロデュースという授業は隔週で行われていて、2週に1回、2コマぶっ続けで講義を受ける。緑ヶ丘では社会学部3年生の後期から開放されるらしく、果林も同じ講義を受けているらしい。興味のある奴は大体3年のうちに取ってしまうようだ。シンや宮林さん、もとい伊東さんも取ったって言ってたし。
テストはそれなりにやるとして、俺が緑ヶ丘遠征で何を楽しみにしていたのかと言えば、飯と図書館で過ごす時間だ。緑ヶ丘は規模のデカい大学だけあって食堂もたくさんあるし、メニューも選び放題だ。授業は3、4限だから、少し早めに行って昼飯を食ってから授業を受けていた。
授業が終われば図書館籠りの時間だ。緑ヶ丘は図書館の規模も星ヶ丘より大きく、設備もいい。映画見放題のオーディオ・ビジュアルスペースもあって、身体が吸い付くようなソファに座り、付けている感覚がほとんどない高音質のヘッドホンを付けて映画に没頭出来る時間の贅沢さだ。もちろん、本の取り揃えもかなりいい。
この図書館はリク君もお気に入りのようで、彼も空き時間にはよく利用しているそうだ。彩人はリク君から「ウチの図書館が最高でさあ」という話を聞いていたらしいのに、その上俺も緑ヶ丘の図書館はヤベーぞと言い始めたことで緑ヶ丘の図書館はどんなところなんだと憧れを強くしているようだ。
「朝霞クン、この年末年始もいろいろ忙しくしてたでしょ? お土産見てても思うけどさあ」
「そうだな。だからまた金がなくなっちまったし、そろそろバイトのことも考えて行かないとなとは」
「完全に去年と同じ流れになってるよね」
「それなんだよ。結局去年もこの時期は大石が持って来たバイトの話に乗ったから、派遣会社からの仕事の依頼はないだろうし。どうにかして働き口を探さないとなとは。仕事くれって連絡してみるかなー」
「卒業旅行とかって行くような感じ?」
「全然想定してなかったな。卒業旅行っていう概念がなかった」
「あらそう」
「そう言うお前はどうなんだ」
「俺も全然考えてなかったよね。朝霞クンが時間余裕あるならどっか行けるかな~くらいに考えてたけど」
「時間っつーのはな、作るモンだ。2月3月の予定も埋まり始めてるから、具体的な日程を出してくれれば調整はする」
「ホント!? じゃあまた計画持って来るから!」
USDXでは大学4年のメンバー4人が進学や就職で環境が変わる前に動画を撮れるだけ撮ろうという話になっている。それに、例によってまたコラボ動画を撮りましょうという話もありがたいことにちょこちょこいただいているので、2月3月も既にそういう予定で埋まりつつある。
ただ、USDXもオンライン関係の活動として括ってしまえば、オフの友達との予定も入れて行きたいなとは思っている。環境が変わると会えなくなる人も普通にいるし、長い休みは学生だからこそだ。引っ越しもあるし、うん、やっぱ休んでるヒマなんか全然ねーな。スケジュールを埋めていこう。
「山口、もう1個ミカン食ったら片付けるぞ」
「急にやる気出したね~、いいことだけど、どうしたの」
「思ったより俺には時間がなかった。旅行すんだろ。こたつでゆっくりするのもいいけど、時間を作るんだよ」
end.
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Pさんは寒さに弱いのでこたつなんか使うとそこから出られなくなるけど、お茶を淹れるために台所までは歩くよ。
片付けの下見とかいうよくわからない名目でやまよがいるけど、何から手を付けていけばいいかわからないから下調べは必要。
スケジュールを本気で埋めに行ったPさんの本気はそれこそ分単位とか秒単位で動き始めることになるのだろうか。鬼の朝霞Pがまた見られるか
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