2021(03)

■ムギワンの1限対策鍋祭り

++++

 世間では成人の日ということだけど、俺は成人式には出ないからそのためにわざわざ実家に帰ることもせずに向島でこの日を迎える。成人の日の3連休の前が金曜日と火曜日だっていうのも結構大きくて、履修してる授業の中でも重要度が高い曜日なんだよね。
 火曜日は1限に情報処理応用っていう授業を履修している。これはパソコンを使ったデータベース関係の内容だ。MBCCでもインターフェイスでもパソコンを使ってファイル化した音楽や番組を検索したりっていうシステムを使うようになったし、興味はあったから取ってみた。
 でも、1限っていうのがかなりしんどいんだ。1限は9時からだけど、それに間に合うように大学に行くとなると結構早起きをしないといけない。元々夜型人間なのにこの年末年始でさらに生活リズムが反転してたのにいきなり授業に出なさいって。

「お邪魔します」
「おっ高木、来たか。米福も来てるし、今から鍋の準備するところじゃんな」
「2人が買い物してくれたんだよね? お金とか」
「後で計算して割り勘するし、とりあえず上がってもらって」

 1限対策ということで、一浪しているので成人式は去年終わってしまった鵠さんと米福君と一緒に鍋をやることになっている。鵠さんの住むコムギハイツは大学から徒歩5分のところにあるので、うちにいるよりも1時間ほど遅く起きても時間に余裕がある。
 それから、鵠さんの部屋に泊まるとうちと環境が違いすぎるということもあるし、軽いデジタルデトックスみたいな感じになって早く寝ざるを得ない状況になる。多分5、6時間は変わってくるんじゃないかと思う。夜のうちから朝型の人と同じ生活を送るのがいい。

「大学祭の準備とか班で番組作るのとか見てても思ったけど、高木君て結構ゴリゴリの夜型だよね」
「そうだね。大学祭の準備とかは、夜のうちに俺が作業をして、朝になって鵠さんと交代してっていう感じでやってたしね」
「康平は康平で結構な朝型だけど、結構上手く噛み合ったんだね」
「米福君は? 朝に強いとか夜に強いとか」
「特別どっちが強いとかはないかな。ごくごく普通で」
「結局のところ、それが一番融通が利いていいよね」
「現場によっては俺らみたいな人間を揃えて三交代制みたいなことをやるじゃんな」
「あー、24時間稼働の現場とかね」

 鵠さんは鵠さんで10時以降になると眠くなってしんどくなるし、俺は俺で午前中は全然ダメだから、本当に人それぞれだし朝型夜型みたいなものは遺伝子で決まっているとかなんとかと聞いたこともある。ソースは見てないけど、遺伝子で決まってるなら仕方ないやと開き直っている。

「ちなみに今日ってどんな鍋なの?」
「鶏ベースの塩醤油風味のしゃぶしゃぶって感じ」
「しゃぶしゃぶかあ、豪勢だね」
「高級な肉じゃなくて安い薄い肉だけど、結局のところその安い肉をもりもり食べるのが美味しいんだよ。野菜も巻いてさ。で、シメにラーメンをやる予定だからね」
「おっ、いいじゃん」
「そのダシでラーメンは絶対美味しいね」
「うどんを食べても美味しいけど、ラーメンをやることを前提にこのダシにした感は確かにある」
「お米同好会だしシメは雑炊なのかなと思ったじゃんな」
「あ、ホントだ」
「お米同好会ってそう言われがちだけど、俺はラーメンとかうどんとかも普通に好きだし食べるからね」

 鍋をやること自体はまあまあ増えてきたと思うけど、しゃぶしゃぶっていう発想にはなかなかならなかったから斬新だなと思う。みんなでやる鍋って結構雑多に何でも鍋に入れて煮込むって感じだから。用意されてる野菜も肉と一緒に食べやすいように薄く切ってある。
 鍋の支度は米福君がしてくれているし、部屋は家主の鵠さんが綺麗にしてくれているので俺がやることは特になく。鍋やって泊まるんなら絶対に換えの下着は必要だとエイジがいつも言うので俺もそれに倣って使い捨ての着替えは持ってきている。うん、カバンの中身よーし。

「康平、そろそろ鍋持ってって大丈夫?」
「おう、来い来い」
「それじゃ、行きます。そーれっ」

 先にダシを作ってあった土鍋を、持ち手にタオルを巻いて一気にカセットコンロの上へ。すると、一気にダシの香りがぶわっと部屋いっぱいに広がって食欲が出て来る。味や具が変わるから毎日鍋でも全然大丈夫なんだよなあ。食べたらあったかくなるし、贅沢しなければ安い具材で節約にもなるしいいよねえ。
 割引シールの貼られたパックの豚肉と、ボウルの中に山盛りの野菜。シメのラーメンもそこに置いてある。昨日の鍋とはまた違うテイストの鍋がいい。鍋の世話も米福君がやってくれていて、俺は煮えるのを今か今かと待つだけでいい。本格的に至れり尽くせりだし、酒を飲みたければ飲んでもいいということだったので、一応持って来てはあるんだけど。

「鵠さん、俺飲んでいい?」
「それは好きにしてもらえばいいじゃんな」
「それじゃあいただきまーす」
「米福、お前はどうすんだ」
「俺は程良い時に飲むよ」
「そうか」

 今日の1杯目はレモンサワーで。比較的片付けやすいように今日はビンじゃなくて缶を中心に持ってきた。しゃぶしゃぶなので肉は色が白くなったくらいでもう食べれるのかな。根菜も薄く切ってあるからすぐ火が通りそうだ。

「もう食べられると思うよ」
「それじゃあ食うか」
「いただきます」


end.


++++

成人の日は大体往々にして月曜日なので、火曜1限の授業を取っていると必ずこうなる。徒歩5分は強い
鵠さんもヨネケン先輩も1人暮らしだからやりたいように出来るけど、年末年始で生活リズムはどうなったんだろうか
鵠さんの家にいるときは寝る(消灯)時間が5、6時間は違うっていうTKGの普段の生活のおかしさよ

.
96/100ページ