2021(03)
■丸みの部屋4
++++
「ただいまー」
「おかえりー」
「遅くなったけど、誕生日おめでとう」
「ありがとう」
年末年始で実家に帰っていたミドリが星港の部屋に戻ってきた。星大では授業の再開は来週の火曜日から。一般的な2年生なら成人式もあるしそれが終わってから戻る人の方が多いけど、ミドリは成人式には出ないっていう風に言っていた。
実家には帰りたいし家族にも会いたい。だけど地元には苦しくなることもある。世間で何かある度に無言電話をしてくる前の彼女さん。その人がどこかで見ているんじゃないかっていう恐怖を覚えながらの帰省になっているみたくって。実家でも何度か無言電話があったって。
そういう事情だっていうことはお父さんお母さんもわかっているみたくって、成人式には出たくないよっていうことを言ったときも了承してくれたとのこと。地元で会いたい人には会ってきたし、前の彼女さんに変な絡まれ方をした人にも謝ってきたって。
「ミドリ、運転疲れたでしょ?」
「無事に着けたし大丈夫だよ。GPSのアプリとか装置で位置情報を取得されてなければいいなっていう不安は残るけどね」
「帰省の度にそこまで気にしなきゃいけないって大変だね。明日でもお兄ちゃんに見てもらう? 変な物付けられてないか」
「お願い出来れば嬉しいな」
「じゃお兄ちゃんにLINEしとくね」
「ユキちゃんのお兄さんて本当に優しい人だよね」
「普通じゃないかな? あ、でもお姉ちゃんよりはお兄ちゃんの方が優しいかも」
「お姉さんは結構キャラが濃い人だとは思う」
お兄ちゃんは自動車整備の仕事をしているから、ミドリの車も定期的に見てもらうようになった。タイヤとかオイルの交換とかでちょくちょく持って行くようになったんだよね。あとは、車検以外のちょっとした点検とか。
「あれっ、そう言えば明日って円卓って言ってた?」
「うん。お鍋の予定。だから夜までには仕上がると嬉しいんだけど」
「わかったよー。あ、そうだ。工場に車持ってくならあたしも付いてこうかな」
「ユキちゃんも工場に用事?」
「こないだお兄ちゃんのプライベートなオイル交換で工場に行ったんだけど、そこの娘さんと話したのね?」
「あ、工場をやってる家の娘さん?」
「そうそう。で、お兄ちゃん同士が一緒の工場で働いてたり、誕生日が一緒だったりっていうので話が盛り上がってさ」
「へー、結構な共通点があるんだねー」
「でさ、工場の脇にプレハブが立ってて、そこで簡単なトレーニングが出来るんだって。やりたかったら連絡してくれれば付き合ってくれるって言ってたし、久々に体動かそうかなって」
「お正月明けで鈍ってるし、体を動かすのはいいことだと思うよ」
そうとなれば春風ちゃんにも連絡しておこう。前日に連絡するっていうのは急な気もするけど。大学生だったら普通にバイトとかの都合もあるだろうし。……と思ってたら割とすぐに「大丈夫ですよ」と返信があったので無事にトレーニングを出来ることに。
あー、でもジャージ持ってないな。でもここは星港。いくらでも現地調達出来るよね。簡単に体を動かせる服装だったら5000円もあればちょっとしたセットで揃うはず。クツをどうしようかなっていう問題はあるけど、行くところに行けば990円くらいでないかな?
「その娘さんて日頃からトレーニングをやってるの?」
「そうらしいよー。プレハブだけじゃなくて普通に外をジョギングとかもしてるって。実際すらっとしてるし締まるところは締まってるし、体のメリハリはやっぱ運動が作るのかなーとは」
「俺も全然体動かしてないし、全然走ったり出来ないんだろうなー。バイトもデスクワークみたいな感じで全然歩かないし」
「サンドバッグを打ち込むのがストレス発散になるとも言ってた」
「サンドバッグまであるんだ! なかなか本格的だねー」
「ステージの台本書いてる時期なら本気のパンチとキックが出せそう。いくら練習無精でもサドニナ本人をひっぱたくワケには行かないからね」
「あはは……程々にねー」
ただ、いくらサンドバッグでも殴り方を間違えると結構痛いという風には聞いたことがあるので、本当にやる前には春風ちゃんからパンチやキックの出し方もしっかりレクチャーしてもらわないといけないなとは。でも明日の本題はランニングマシンとかになるのかな?
「そうだミドリ、今日のご飯どうする?」
「あー、そうだねー。帰る前に全部片付けちゃったし作るなら買い物からだけど」
「あたし明日のジャージ買いたいし、買い物に行きたいかも」
「わざわざ買うの?」
「運動が習慣付かなくても部屋着に出来るジャージね」
「保険かけちゃってるねー」
「もし続きそうならジムに行ってみたりとかさ」
「でもジムって会員になるにもお金かかるでしょ?」
「それがネックでやってみたいのになかなか出来なくってさー」
「会員にならなくても1回1回利用料を払って使えるジムが近くにあればいいんだろうけどねー」
「ホントにそれ!」
本当は何もなくても出来るんだろうけど、やると決めたときにはやっぱりきっかけだとか施設があるとより取りかかりやすいんだよね。ジョギングやってる人とかよく見るけど、ああいう人たちって意志力がすンごいんだなって思う。尊敬だよ尊敬。
「ユキちゃん明日体動かすなら今日はあんまり食べ過ぎない方がいいよね? あんまり重くなり過ぎないようにしないとね」
「そうだねー。でもどんなメニューがいいんだろう?」
「トレーニングと言えばササミみたいなイメージがあるけど」
「あ、ササミ美味しいよねー。何かササミでいいメニューないか調べてみよっか」
「そうだねー。それじゃそれを見て何を買うか決めよっかー」
end.
++++
ミドリの部屋でやる方のIF男子会を円卓会議って呼ぶのはユキちゃんもしっかり把握してるし、なんなら円卓って略もされてる。
時々忘れそうになるけどミドリの元カノさん関係の話は何一つとして解決してないのでいつ何があるかわからない恐怖と隣り合わせ。
ジムの話を円卓でしたならTKGが「大学で出来るからねえ」と言って終わるヤツ。緑ヶ丘の基準で語るなって怒られるヤツ。
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「ただいまー」
「おかえりー」
「遅くなったけど、誕生日おめでとう」
「ありがとう」
年末年始で実家に帰っていたミドリが星港の部屋に戻ってきた。星大では授業の再開は来週の火曜日から。一般的な2年生なら成人式もあるしそれが終わってから戻る人の方が多いけど、ミドリは成人式には出ないっていう風に言っていた。
実家には帰りたいし家族にも会いたい。だけど地元には苦しくなることもある。世間で何かある度に無言電話をしてくる前の彼女さん。その人がどこかで見ているんじゃないかっていう恐怖を覚えながらの帰省になっているみたくって。実家でも何度か無言電話があったって。
そういう事情だっていうことはお父さんお母さんもわかっているみたくって、成人式には出たくないよっていうことを言ったときも了承してくれたとのこと。地元で会いたい人には会ってきたし、前の彼女さんに変な絡まれ方をした人にも謝ってきたって。
「ミドリ、運転疲れたでしょ?」
「無事に着けたし大丈夫だよ。GPSのアプリとか装置で位置情報を取得されてなければいいなっていう不安は残るけどね」
「帰省の度にそこまで気にしなきゃいけないって大変だね。明日でもお兄ちゃんに見てもらう? 変な物付けられてないか」
「お願い出来れば嬉しいな」
「じゃお兄ちゃんにLINEしとくね」
「ユキちゃんのお兄さんて本当に優しい人だよね」
「普通じゃないかな? あ、でもお姉ちゃんよりはお兄ちゃんの方が優しいかも」
「お姉さんは結構キャラが濃い人だとは思う」
お兄ちゃんは自動車整備の仕事をしているから、ミドリの車も定期的に見てもらうようになった。タイヤとかオイルの交換とかでちょくちょく持って行くようになったんだよね。あとは、車検以外のちょっとした点検とか。
「あれっ、そう言えば明日って円卓って言ってた?」
「うん。お鍋の予定。だから夜までには仕上がると嬉しいんだけど」
「わかったよー。あ、そうだ。工場に車持ってくならあたしも付いてこうかな」
「ユキちゃんも工場に用事?」
「こないだお兄ちゃんのプライベートなオイル交換で工場に行ったんだけど、そこの娘さんと話したのね?」
「あ、工場をやってる家の娘さん?」
「そうそう。で、お兄ちゃん同士が一緒の工場で働いてたり、誕生日が一緒だったりっていうので話が盛り上がってさ」
「へー、結構な共通点があるんだねー」
「でさ、工場の脇にプレハブが立ってて、そこで簡単なトレーニングが出来るんだって。やりたかったら連絡してくれれば付き合ってくれるって言ってたし、久々に体動かそうかなって」
「お正月明けで鈍ってるし、体を動かすのはいいことだと思うよ」
そうとなれば春風ちゃんにも連絡しておこう。前日に連絡するっていうのは急な気もするけど。大学生だったら普通にバイトとかの都合もあるだろうし。……と思ってたら割とすぐに「大丈夫ですよ」と返信があったので無事にトレーニングを出来ることに。
あー、でもジャージ持ってないな。でもここは星港。いくらでも現地調達出来るよね。簡単に体を動かせる服装だったら5000円もあればちょっとしたセットで揃うはず。クツをどうしようかなっていう問題はあるけど、行くところに行けば990円くらいでないかな?
「その娘さんて日頃からトレーニングをやってるの?」
「そうらしいよー。プレハブだけじゃなくて普通に外をジョギングとかもしてるって。実際すらっとしてるし締まるところは締まってるし、体のメリハリはやっぱ運動が作るのかなーとは」
「俺も全然体動かしてないし、全然走ったり出来ないんだろうなー。バイトもデスクワークみたいな感じで全然歩かないし」
「サンドバッグを打ち込むのがストレス発散になるとも言ってた」
「サンドバッグまであるんだ! なかなか本格的だねー」
「ステージの台本書いてる時期なら本気のパンチとキックが出せそう。いくら練習無精でもサドニナ本人をひっぱたくワケには行かないからね」
「あはは……程々にねー」
ただ、いくらサンドバッグでも殴り方を間違えると結構痛いという風には聞いたことがあるので、本当にやる前には春風ちゃんからパンチやキックの出し方もしっかりレクチャーしてもらわないといけないなとは。でも明日の本題はランニングマシンとかになるのかな?
「そうだミドリ、今日のご飯どうする?」
「あー、そうだねー。帰る前に全部片付けちゃったし作るなら買い物からだけど」
「あたし明日のジャージ買いたいし、買い物に行きたいかも」
「わざわざ買うの?」
「運動が習慣付かなくても部屋着に出来るジャージね」
「保険かけちゃってるねー」
「もし続きそうならジムに行ってみたりとかさ」
「でもジムって会員になるにもお金かかるでしょ?」
「それがネックでやってみたいのになかなか出来なくってさー」
「会員にならなくても1回1回利用料を払って使えるジムが近くにあればいいんだろうけどねー」
「ホントにそれ!」
本当は何もなくても出来るんだろうけど、やると決めたときにはやっぱりきっかけだとか施設があるとより取りかかりやすいんだよね。ジョギングやってる人とかよく見るけど、ああいう人たちって意志力がすンごいんだなって思う。尊敬だよ尊敬。
「ユキちゃん明日体動かすなら今日はあんまり食べ過ぎない方がいいよね? あんまり重くなり過ぎないようにしないとね」
「そうだねー。でもどんなメニューがいいんだろう?」
「トレーニングと言えばササミみたいなイメージがあるけど」
「あ、ササミ美味しいよねー。何かササミでいいメニューないか調べてみよっか」
「そうだねー。それじゃそれを見て何を買うか決めよっかー」
end.
++++
ミドリの部屋でやる方のIF男子会を円卓会議って呼ぶのはユキちゃんもしっかり把握してるし、なんなら円卓って略もされてる。
時々忘れそうになるけどミドリの元カノさん関係の話は何一つとして解決してないのでいつ何があるかわからない恐怖と隣り合わせ。
ジムの話を円卓でしたならTKGが「大学で出来るからねえ」と言って終わるヤツ。緑ヶ丘の基準で語るなって怒られるヤツ。
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