2021(03)
■短い気の生産力
++++
年末年始の帰省から星港のアパートに戻ってくると、また大学が始まるんだなと思う。一応帰って来る時に部屋は綺麗にして来たからそのまま生活を始めることが出来る。あまり大きな荷物を持ち歩くことはしなかったから、荷物の整理もそこまで手間じゃない。うん、あんまりデカいスーツケースを転がして歩くと後々面倒なんだよな。
近所からの生活音は少しだけ聞こえて来る。いろいろあって防音対策をしたりしてもらったりというのもある。それでも朝霞さんもこっちに帰って来てんだなっていうのはわかる。4年生ってそんなに授業ないはずなのにこんな早く帰って来るんだなと一瞬不思議に思ったけど、卒論提出とかいろいろあるのかもしれない。
「おーい彩人ー」
「あ、朝霞さん」
「戻って来たって音でわかったから。あけおめ」
「あけおめっす」
「上がって大丈夫か?」
「あ、大丈夫っすよ」
「じゃ、お邪魔します」
何やら紙袋を提げて朝霞さんが遊びに来た。防音対策をしてあるとは言っても所詮安アパートなのでそれなりには人の気配という物は筒抜ける。朝霞さんは俺の部屋が殺風景だの何だのと驚いているようだけど、それはアンタの部屋が汚すぎるからじゃないかと真面目に思う。足の踏み場もねーのに、本人的には機能的な配置らしいからワケがわからない。
「これ、年末年始でいろいろ行ったからそのお土産。そんな高級なヤツでもないけどバラまいて適当に食ってくれ」
「あざっす。どこ行ってたんすか?」
「箱に書いてある通りだ」
「うーわっ、めっちゃいろいろ行ってるじゃないっすか。卒業旅行とかっすか?」
「いや、実況の都合だな。コラボに呼んでもらって撮影するのに行ったり来たりしてたんだ」
「へー、さすがっすね」
紙袋の中には1000円前後で買えるいろいろな地方のお土産が詰められている。1人で食うには多いけど、戸田班だとかリクだとか、その辺の人に分けるにはちょうどいい量であるように見受けられる。朝霞さんはゲーム実況グループに属していろいろな活動をやっているらしいけど、その活動の一環で忙しくしていたようだ。
「そういや彩人、年末にやってたっていう音楽祭のアーカイブは見たか?」
「それがこれからなんすよ。朝霞さんは見ました?」
「一部は見たけど全部はまだ見てないんだ」
「そしたら見ます?」
「おっ、そうだな」
深青から誘ってもらった年末の音楽祭というイベントは、とても凄くてとても面白かったらしい。ライブ終わりでテンションが上がった状態だったのか、LINEで「絶対に見て!」という風にメッセージが来ていた。アーカイブは結構長い時間だったからこっちに戻って来てからゆっくり見ようと思ってたんだけど、朝霞さんからその話を切り出してもらえていいきっかけになった。
朝霞さんはと言えば、一緒のグループでゲーム実況をやっている菅野さんたちにハブられた形になったことに対してブチ切れて、その結果元日の早朝から初日の出を見ようと友達を引き摺って登山をしてきたらしい。やっぱ朝霞さんはブチ切れると何をするかわからない人だなと思う。その怒り自体は初日の出で焼いてきたそうだ。
「後で菅野からフォローがあったけど、俺は実家に帰ってるだろうからって理由で音楽祭に声をかけなかったっつってよ。いやいや、教えてくれてればいくらでもスケジュールは調整したってのに」
「朝霞さんがそういう人だってわかってるからグループの皆さんが気を遣ってくれたんっしょ」
「メンバーは頑なに黙ってたけど、ライブのこと自体は壮馬から聞いて、何だそれはっつってブチ切れて歌詞を書き下ろして壮馬にぶん投げて、あとよろしくっつって。それがどんな曲になったのかも聞いてないんだよな」
「つーか朝霞さんてマジで短気っすよね」
「お前には言われたくないけどな」
「菅野さんたちの他にも現場に知り合いがいたんすね」
「彩人、トリプルメソッドってバンド知ってるか?」
「あ、知ってますよ。CDショップとか行ったら結構試聴機に入ってますよね」
「そのボーカルの壮馬と飯食ってる時に聞いたんだよな、音楽祭の話を」
「え、マジで知り合いなんすか?」
「俺用のギター練習曲を書いてくれたりしてるし、俺が歌詞を付けたそれをライブでもやったっつってたな」
「えー! マジすか! え、朝霞さんがブチ切れて書いた歌詞をぶん投げて? この音楽祭で?」
「やったらしい」
「つかどーやって知り合うんすかそーゆー人と」
「壮馬とは、山口が行ってる美容院の美容師が元々アイツと一緒にバンドやってて、その繋がりで紹介されてって感じかな」
テレビに映し出したライブ映像を見ていても、いろんなタイプのバンドが本当に異種格闘技って感じでわちゃわちゃしてたんだなと。そりゃ菅野さんにネタバレすんなよって怒られるのもちょっと納得だ。俺でも現地でちょっとワクワク感を味わいたかったような気がする。深青のバンドが結構なV系だったしツインベースがゴリゴリでヤバい。
「ほー……これがmish-mashか」
「菅野さんの曲だけあってやっぱヤベーっすよね」
「このレベルでやるんであれば確かに俺はハブられて然るべきだけど、実家に帰ってるだろうしって言ってくれればブチ切れることはなかったぞ」
「でも、ブチ切れてなかったらこの世に存在しなかった曲もあるんすよね?」
「まあそうなるな」
「基本良くはないっすけど、一概に悪いことばっかでもないんじゃないんすか、短気なのも」
「まあ、基本良くはないんだけどな」
end.
++++
音楽祭のアーカイブを見ていると見せかけてPさんが妖怪お土産配りをしているだけの話。
Pさんに対してフォローを入れるのが安定のスガPだし、多分スガP的にはこの手の人間の扱いは慣れっこ。
短気同士がお互い「コイツよりはまだ自分の方がまともだ」と思い合っている師弟である。
.
++++
年末年始の帰省から星港のアパートに戻ってくると、また大学が始まるんだなと思う。一応帰って来る時に部屋は綺麗にして来たからそのまま生活を始めることが出来る。あまり大きな荷物を持ち歩くことはしなかったから、荷物の整理もそこまで手間じゃない。うん、あんまりデカいスーツケースを転がして歩くと後々面倒なんだよな。
近所からの生活音は少しだけ聞こえて来る。いろいろあって防音対策をしたりしてもらったりというのもある。それでも朝霞さんもこっちに帰って来てんだなっていうのはわかる。4年生ってそんなに授業ないはずなのにこんな早く帰って来るんだなと一瞬不思議に思ったけど、卒論提出とかいろいろあるのかもしれない。
「おーい彩人ー」
「あ、朝霞さん」
「戻って来たって音でわかったから。あけおめ」
「あけおめっす」
「上がって大丈夫か?」
「あ、大丈夫っすよ」
「じゃ、お邪魔します」
何やら紙袋を提げて朝霞さんが遊びに来た。防音対策をしてあるとは言っても所詮安アパートなのでそれなりには人の気配という物は筒抜ける。朝霞さんは俺の部屋が殺風景だの何だのと驚いているようだけど、それはアンタの部屋が汚すぎるからじゃないかと真面目に思う。足の踏み場もねーのに、本人的には機能的な配置らしいからワケがわからない。
「これ、年末年始でいろいろ行ったからそのお土産。そんな高級なヤツでもないけどバラまいて適当に食ってくれ」
「あざっす。どこ行ってたんすか?」
「箱に書いてある通りだ」
「うーわっ、めっちゃいろいろ行ってるじゃないっすか。卒業旅行とかっすか?」
「いや、実況の都合だな。コラボに呼んでもらって撮影するのに行ったり来たりしてたんだ」
「へー、さすがっすね」
紙袋の中には1000円前後で買えるいろいろな地方のお土産が詰められている。1人で食うには多いけど、戸田班だとかリクだとか、その辺の人に分けるにはちょうどいい量であるように見受けられる。朝霞さんはゲーム実況グループに属していろいろな活動をやっているらしいけど、その活動の一環で忙しくしていたようだ。
「そういや彩人、年末にやってたっていう音楽祭のアーカイブは見たか?」
「それがこれからなんすよ。朝霞さんは見ました?」
「一部は見たけど全部はまだ見てないんだ」
「そしたら見ます?」
「おっ、そうだな」
深青から誘ってもらった年末の音楽祭というイベントは、とても凄くてとても面白かったらしい。ライブ終わりでテンションが上がった状態だったのか、LINEで「絶対に見て!」という風にメッセージが来ていた。アーカイブは結構長い時間だったからこっちに戻って来てからゆっくり見ようと思ってたんだけど、朝霞さんからその話を切り出してもらえていいきっかけになった。
朝霞さんはと言えば、一緒のグループでゲーム実況をやっている菅野さんたちにハブられた形になったことに対してブチ切れて、その結果元日の早朝から初日の出を見ようと友達を引き摺って登山をしてきたらしい。やっぱ朝霞さんはブチ切れると何をするかわからない人だなと思う。その怒り自体は初日の出で焼いてきたそうだ。
「後で菅野からフォローがあったけど、俺は実家に帰ってるだろうからって理由で音楽祭に声をかけなかったっつってよ。いやいや、教えてくれてればいくらでもスケジュールは調整したってのに」
「朝霞さんがそういう人だってわかってるからグループの皆さんが気を遣ってくれたんっしょ」
「メンバーは頑なに黙ってたけど、ライブのこと自体は壮馬から聞いて、何だそれはっつってブチ切れて歌詞を書き下ろして壮馬にぶん投げて、あとよろしくっつって。それがどんな曲になったのかも聞いてないんだよな」
「つーか朝霞さんてマジで短気っすよね」
「お前には言われたくないけどな」
「菅野さんたちの他にも現場に知り合いがいたんすね」
「彩人、トリプルメソッドってバンド知ってるか?」
「あ、知ってますよ。CDショップとか行ったら結構試聴機に入ってますよね」
「そのボーカルの壮馬と飯食ってる時に聞いたんだよな、音楽祭の話を」
「え、マジで知り合いなんすか?」
「俺用のギター練習曲を書いてくれたりしてるし、俺が歌詞を付けたそれをライブでもやったっつってたな」
「えー! マジすか! え、朝霞さんがブチ切れて書いた歌詞をぶん投げて? この音楽祭で?」
「やったらしい」
「つかどーやって知り合うんすかそーゆー人と」
「壮馬とは、山口が行ってる美容院の美容師が元々アイツと一緒にバンドやってて、その繋がりで紹介されてって感じかな」
テレビに映し出したライブ映像を見ていても、いろんなタイプのバンドが本当に異種格闘技って感じでわちゃわちゃしてたんだなと。そりゃ菅野さんにネタバレすんなよって怒られるのもちょっと納得だ。俺でも現地でちょっとワクワク感を味わいたかったような気がする。深青のバンドが結構なV系だったしツインベースがゴリゴリでヤバい。
「ほー……これがmish-mashか」
「菅野さんの曲だけあってやっぱヤベーっすよね」
「このレベルでやるんであれば確かに俺はハブられて然るべきだけど、実家に帰ってるだろうしって言ってくれればブチ切れることはなかったぞ」
「でも、ブチ切れてなかったらこの世に存在しなかった曲もあるんすよね?」
「まあそうなるな」
「基本良くはないっすけど、一概に悪いことばっかでもないんじゃないんすか、短気なのも」
「まあ、基本良くはないんだけどな」
end.
++++
音楽祭のアーカイブを見ていると見せかけてPさんが妖怪お土産配りをしているだけの話。
Pさんに対してフォローを入れるのが安定のスガPだし、多分スガP的にはこの手の人間の扱いは慣れっこ。
短気同士がお互い「コイツよりはまだ自分の方がまともだ」と思い合っている師弟である。
.