2021(03)
■実家に馴染むころ
++++
「カズ、お餅焼くけど食べる?」
「食べる」
「何個?」
「1個」
「はーい」
慧梨夏と結婚して初めての正月を迎え、慧梨夏が嫁さんとして年末年始をうちで過ごしているのを見ると本当に結婚したんだなっていう感じがする。今はまだお互い違う家に住んでいるし、いわゆる別居婚状態。同居は秋学期のテストが終わって(慧梨夏の)卒業が確定してからにしましょうという話になっていたから。
もちろん新居となる家やその家に置く家財道具、それに保険のこととか。2人での生活に向けた準備はそれらしくやってはいるんだけど、同居するまではなかなか実感が湧かないんだろうなとは。2月頃に引っ越しして、それから新婚旅行に行くことにもなっている。行き先は出来るだけ北。海外で1週間のんびり、みたいな金銭的余裕があるワケでもないから北辰かなとは話している。
三箇日も過ぎて世間では仕事始めの人もたくさんいる中で、大学生の俺たちはまだまだ正月気分だなと思う。俺はもうゼミくらいしか授業はないし、慧梨夏は未だにもうちょっと単位を残してるらしいけど、それでも履修コマ自体はそれなりに少ない。俺が大学に行くのも卒論提出が最初になる。
卒論を書くのはかなり苦労した。元々レポートとかはあんまり得意じゃないし。俺は文系ではあるけど文字を扱うよりかは数字を扱う方が得意なタイプだし。論文上にもデータを載せることで字数を稼いで何とかした感はある。一方、慧梨夏は「2万字なんか薄い本1冊分にもならないじゃん」と言ってバチバチとキーボードを叩いていた。
「おじいちゃんのお餅ってどうしてこんなに美味しいんだろうね」
「ホントに。市販の餅も保存が利くし使い勝手がいいとは思うけど、正月限定だからこその良さってのもあると思う」
「GREENsのみんなもおじいちゃんの餅大好きだからね」
「さすがにお前がいなくなっちまったら鏡開きは今年が最後か」
「寂しいけどそうなっちゃうだろうね。お雑煮食べる文化が残るかどうかは下の子たち次第だけど」
伊東家の正月行事として、じっちゃんの家での餅つきがある。餅自体は慧梨夏も毎年食べてたから馴染み深い物だけど、つきたてやわやわの物を食べるのは初めてだったから、その美味さに感動して食いまくってたのが3日前のこと。結婚式終わったからって節制してたのをあからさまにちょっと緩めたもんな。
じっちゃん家でついて余った餅は人に分けたりGREENsに持ち込んで鏡開きと称したお雑煮大会が開かれている。GREENsの方で始まったお雑煮大会は元々姉ちゃんが餅を持ち込んだことで始まったらしいんだけど、それを慧梨夏がどんどんイベントとしての規模を大きくして現在に至っている。それがあって餅つきの方も年々規模がデカくなっていったもんな。
「カズ、お餅何つけて食べる? うち京子さんのぜんざいで食べるけど」
「あー、どうしようかな。砂糖醤油にしようかな」
「じゃ今作るね」
「あんがと」
そうやって少し待つと、砂糖と醤油を合わせただけのものが豆皿に入って出て来るだけでも感動してしまうのは、最初を知ってるからだろうなと思う。慧梨夏は本当に料理が出来なかったけど、今では本当に簡単なことくらいなら出来るようになってきている。難しいことはまだ出来ないけど、練習を重ねれば人並みにはなると信じて日々教えている。
GREENsの雑煮大会の方でも去年から雑煮の汁を作る側に立つようになって、最初はメンバーもビビり散らかしていたらしい。けど、慧梨夏が作った物にしては普通だったぞとみんなその成長に驚いていたらしい。今年は去年より成長しているので、雑煮の汁を作ることに関しては何も言われないだろうとは思う。ネギを切ることに関しても今年は出来るんじゃないかなとは旦那の欲目だろうか。
「カズ、今日夕飯作るんでしょ? 買い物とか大丈夫?」
「あー、そうだな。そしたらこれ食べたら買い物行くかあ」
父さんも母さんも姉ちゃんも今日からみんな仕事なので、今日は俺が夕飯を作りますよという話になっていた。ただ、さっき冷蔵庫を見た感じ買い物から始めないといけなさそうな感じだったから、献立を考えつつ、どうするかなーと。買い物に行くのは慧梨夏がいるから車を出してもらえばいい。
「はい、できましたー」
「京子さんのぜんざいをここまで美味そうに食うのはお前か未夏くらいだぜマジで」
「焼いたおじいちゃんの餅が香ばしいから京子さんのぜんざいの甘さといい具合にマッチするんだよね」
「そーゆーモンかね」
「砂糖醤油どう? バランスとか」
「ちょうどいい」
「どやァ」
「よく出来ました」
かつて俺と浅浦の味覚をぶっ壊した京子さんのぜんざいだ。それを美味しくいただけることが嫁として素晴らしい点だとは浅浦談。それはともかく、砂糖醤油のバランスがとてもよく出来たことにドヤる慧梨夏が微笑ましいのでここが実家でなければというところが惜しいポイントではある。
「つか晩飯何にするかなー。慧梨夏、宮林家では正月明けに何食ってたとかある?」
「うちは大体カレーだね。ごくごく普通のカレー」
「カレーか。そういや最近食ってないな。よし、今日はカレーにしよう。あとは付け合わせを何にするかだな」
「ところで伊東家の皆さんって、カレーでも薬味を山盛りにするの? カズも福神漬けとからっきょうとか結構盛ってたと思うけど」
「うちの女性陣を見てもらえれば、いかに俺が控えめかが分かると思う」
end.
++++
困ったときのいちえりちゃん。餅を食べているだけですが、慧梨夏が義実家の台所に立っているところがポイント。
伊東家の皆さんはカレーでも薬味をもりもりと使うので慧梨夏にはその辺がカルチャーショックかもしれない。
レポートの字数の価値観については慧梨夏だとかPさんはナノスパ内でもぶっ壊れてる方ではあるのよ一応
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「カズ、お餅焼くけど食べる?」
「食べる」
「何個?」
「1個」
「はーい」
慧梨夏と結婚して初めての正月を迎え、慧梨夏が嫁さんとして年末年始をうちで過ごしているのを見ると本当に結婚したんだなっていう感じがする。今はまだお互い違う家に住んでいるし、いわゆる別居婚状態。同居は秋学期のテストが終わって(慧梨夏の)卒業が確定してからにしましょうという話になっていたから。
もちろん新居となる家やその家に置く家財道具、それに保険のこととか。2人での生活に向けた準備はそれらしくやってはいるんだけど、同居するまではなかなか実感が湧かないんだろうなとは。2月頃に引っ越しして、それから新婚旅行に行くことにもなっている。行き先は出来るだけ北。海外で1週間のんびり、みたいな金銭的余裕があるワケでもないから北辰かなとは話している。
三箇日も過ぎて世間では仕事始めの人もたくさんいる中で、大学生の俺たちはまだまだ正月気分だなと思う。俺はもうゼミくらいしか授業はないし、慧梨夏は未だにもうちょっと単位を残してるらしいけど、それでも履修コマ自体はそれなりに少ない。俺が大学に行くのも卒論提出が最初になる。
卒論を書くのはかなり苦労した。元々レポートとかはあんまり得意じゃないし。俺は文系ではあるけど文字を扱うよりかは数字を扱う方が得意なタイプだし。論文上にもデータを載せることで字数を稼いで何とかした感はある。一方、慧梨夏は「2万字なんか薄い本1冊分にもならないじゃん」と言ってバチバチとキーボードを叩いていた。
「おじいちゃんのお餅ってどうしてこんなに美味しいんだろうね」
「ホントに。市販の餅も保存が利くし使い勝手がいいとは思うけど、正月限定だからこその良さってのもあると思う」
「GREENsのみんなもおじいちゃんの餅大好きだからね」
「さすがにお前がいなくなっちまったら鏡開きは今年が最後か」
「寂しいけどそうなっちゃうだろうね。お雑煮食べる文化が残るかどうかは下の子たち次第だけど」
伊東家の正月行事として、じっちゃんの家での餅つきがある。餅自体は慧梨夏も毎年食べてたから馴染み深い物だけど、つきたてやわやわの物を食べるのは初めてだったから、その美味さに感動して食いまくってたのが3日前のこと。結婚式終わったからって節制してたのをあからさまにちょっと緩めたもんな。
じっちゃん家でついて余った餅は人に分けたりGREENsに持ち込んで鏡開きと称したお雑煮大会が開かれている。GREENsの方で始まったお雑煮大会は元々姉ちゃんが餅を持ち込んだことで始まったらしいんだけど、それを慧梨夏がどんどんイベントとしての規模を大きくして現在に至っている。それがあって餅つきの方も年々規模がデカくなっていったもんな。
「カズ、お餅何つけて食べる? うち京子さんのぜんざいで食べるけど」
「あー、どうしようかな。砂糖醤油にしようかな」
「じゃ今作るね」
「あんがと」
そうやって少し待つと、砂糖と醤油を合わせただけのものが豆皿に入って出て来るだけでも感動してしまうのは、最初を知ってるからだろうなと思う。慧梨夏は本当に料理が出来なかったけど、今では本当に簡単なことくらいなら出来るようになってきている。難しいことはまだ出来ないけど、練習を重ねれば人並みにはなると信じて日々教えている。
GREENsの雑煮大会の方でも去年から雑煮の汁を作る側に立つようになって、最初はメンバーもビビり散らかしていたらしい。けど、慧梨夏が作った物にしては普通だったぞとみんなその成長に驚いていたらしい。今年は去年より成長しているので、雑煮の汁を作ることに関しては何も言われないだろうとは思う。ネギを切ることに関しても今年は出来るんじゃないかなとは旦那の欲目だろうか。
「カズ、今日夕飯作るんでしょ? 買い物とか大丈夫?」
「あー、そうだな。そしたらこれ食べたら買い物行くかあ」
父さんも母さんも姉ちゃんも今日からみんな仕事なので、今日は俺が夕飯を作りますよという話になっていた。ただ、さっき冷蔵庫を見た感じ買い物から始めないといけなさそうな感じだったから、献立を考えつつ、どうするかなーと。買い物に行くのは慧梨夏がいるから車を出してもらえばいい。
「はい、できましたー」
「京子さんのぜんざいをここまで美味そうに食うのはお前か未夏くらいだぜマジで」
「焼いたおじいちゃんの餅が香ばしいから京子さんのぜんざいの甘さといい具合にマッチするんだよね」
「そーゆーモンかね」
「砂糖醤油どう? バランスとか」
「ちょうどいい」
「どやァ」
「よく出来ました」
かつて俺と浅浦の味覚をぶっ壊した京子さんのぜんざいだ。それを美味しくいただけることが嫁として素晴らしい点だとは浅浦談。それはともかく、砂糖醤油のバランスがとてもよく出来たことにドヤる慧梨夏が微笑ましいのでここが実家でなければというところが惜しいポイントではある。
「つか晩飯何にするかなー。慧梨夏、宮林家では正月明けに何食ってたとかある?」
「うちは大体カレーだね。ごくごく普通のカレー」
「カレーか。そういや最近食ってないな。よし、今日はカレーにしよう。あとは付け合わせを何にするかだな」
「ところで伊東家の皆さんって、カレーでも薬味を山盛りにするの? カズも福神漬けとからっきょうとか結構盛ってたと思うけど」
「うちの女性陣を見てもらえれば、いかに俺が控えめかが分かると思う」
end.
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困ったときのいちえりちゃん。餅を食べているだけですが、慧梨夏が義実家の台所に立っているところがポイント。
伊東家の皆さんはカレーでも薬味をもりもりと使うので慧梨夏にはその辺がカルチャーショックかもしれない。
レポートの字数の価値観については慧梨夏だとかPさんはナノスパ内でもぶっ壊れてる方ではあるのよ一応
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