2021(03)

■ラジオの間口

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「あー、この先で事故あったみたいだな」
「えーっ、渋滞とか大丈夫そう?」
「一応大丈夫だと思う」

 今日は1年生6人で初詣に行こうということで、すがやんの車に乗り込んでシノの地元である西形市に向かっている。俺たち6人はみんな家の方角がバラバラだし、帰り道が一緒になることもなければ休みの日にわざわざ集まって遊ぶこともない。
 せっかくだからみんなで初詣に行こうという話になったときに、どこの神社に行くのかは少なからず問題になった。向島エリアでも有数の神社であれば星港市内になる。でも、みんなが集まりやすい場所と考えた時には少々の難があった。
 遊ぶときには星港に行っておけば間違いないし、星港であればエリア内のどこからでも交通網が繋がっている。だけどそれだと基本的に距離の遠いシノの負担が大きくなるし、たまにはシノの地元に乗り込もうということになって現在に至っている。
 みんなを車に乗せてくれているのはすがやんだ。すがやんが順番にみんなを拾ってくれて、5人目の俺が今さっき合流した。朝が早くて俺も少し時間が怪しかったけど、ここに来るまでにもすがやんは軽く1時間以上運転してるし何時起きか聞くのも怖いくらいだ。

「すがやんて車の音、ラジオなんだね」
「そうだな。基本ラジオ」
「へー、音楽とかじゃないんだね。ラジオが好きなの?」
「結構面白いぜ。って言うかラジオに対して普通以上の感情を持ってなかったらMBCCには入ってなくね?」
「そっか、それもそうだね」
「でもラジオを入れとくといいっていうのは親が言ってたんだよな。運転中ってスマホ触れないし、最新情報を得るにはラジオのニュースが基本かな」
「運転してると道路情報とかって大事だよね。私もバイク乗るからリアルタイムでの情報の重要さはわかるよ」
「あと、ラジオはタイムテーブルがあるじゃん、何時にどういう番組をやるとかさ。それで大体の時間がわかるから、この番組やってて現在地がここならちょっと余裕があるんだなとか」

 ラジオは習慣のメディアだという風にも聞いたことがあるし、使い方はそれこそ人に寄るんだけど、すがやんのラジオの使い方は理に適っているなと思う。純粋な娯楽として聞く場合はアプリのタイムシフト機能とかで狙った番組を再生することもあるけど、そういうことではなく。

「あと、親が言うにはラジオは人が投稿したメッセージが面白いっていうんだよな。知り合いじゃない人の話だとか、それに対するパーソナリティーの返しだとかを聞くのが自分もためになるって。これはわかるんだけど、自分で聞く内容を選べないのもいいって言ってるんだ。それがまだわかんないんだよな」
「陸、ラジオ関係の本を10数冊読破した経験で何かない?」
「俺の主観だけど、俺たちって、スマホとかで自分の欲しい情報とかコンテンツに限定して得に行くのが基本だろ。そうすると、自分に都合のいい話ばかりが入ってくるようになるし、検索エンジンもそのように提示してくるだろ」
「あ、わかる! あたしのスマホ、広告がスイーツばっかりだもん!」
「でもそうなると視野が狭くなるし、自分の主義や指向に合わない人の話を聞く機会がなくなるし、はねのけてしまうようになると思うんだよ。すがやんの親御さんは、広くアンテナを張っていたい人なんじゃないのかなって思うよ」
「あー、何となく言いたいことがわかったような気がする」
「すがやんの交友関係とかにも通じるところがあるよね。いろんな友達がいるし、これっていう一点だけに凝り固まることはなさそう」

 菅谷家の家族関係はかなり良好であるということは普段の話からみんな知っていることだし、親がそういう感じの人だからすがやんがこんな感じに育ったんだなあと俺も玲那も、くるみも納得をするんだ。すがやん自身、親の言うことを結構素直に聞く奴だし。
 ラジオについての話で言えば結構興味深い内容だったので、今後佐藤ゼミでどんな研究をしていくかはわからないけど、場合によっては改めてすがやんの話を参考にさせてもらおうと思う。研究をするのであれば、もっといろいろな知見を得ていかないとなあとは。

「今の話、サキの見解も聞いてみたいね!」
「確かに。って言うか眠りが深いな。結構うるさくしてるのに全然起きない」
「それこそサキはラジオ局で働き始めたし、今日って初詣の人に手当たり次第に取材してたんでしょ? 面白い話が聞けそうだね」

 1番に拾われたサキは、助手席でブランケットにくるまって寝ている。すがやんによれば、バイトが深夜帯だから眠ければ車の中で寝るし集合時間とかは普通でいいと言ってきたそうだ。俺も玲那推薦のドラマを見るのに朝方まで普通に起きてたけど、事情が違いすぎて俺は寝るに寝られない。

「シノってたまに寝坊してるイメージあるけど、今日は大丈夫かな? ササ、どう思う?」
「普通に正月もバイトだって言ってたし、休みの期間中は基本深夜バイトだからちょっと怪しいような気もする」
「深夜なのってやっぱ時給上がるから?」
「年末年始は手当も入るって言ってた」
「シノ、一人暮らし出来ればいいね!」
「本当に。どれだけ頑張ってるか見てるから尚更思う」
「あれっ。陸さん、一人暮らしを始めたシノの部屋に入り浸って遊びたいからじゃなくて?」
「玲那」
「それはそうと、1回シノに連絡入れといたら? 今この辺だよって」
「そうだな。そうしようか」
「でも、大学近くに部屋を構えたら、拠点決定だよなー。1回は鍋でもたこ焼きでも、何かしらのパーティーはさせてもらいたいよなー」
「そうだよね!」

 シノからは割とすぐ「何とか起きてる」と返信があったので、絶対に寝るなよとだけこちらからも返信をする。うーん、この感じだと星港集合だったら絶対来れてなかったなアイツ。でも俺も人のことは言えないし、サキも怪しかっただろうけど。

「ササ、この先も道路状況結構いいみたいだから、ちょっと早く着くかもしんないって言っといて」
「了解」


end.


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MBCC1年生の初詣、すがやん車の中の一幕。すがやんは車内ではラジオだよっていうのをやりたいがための話。
ただ、ラジオの真面目な話になると佐藤ゼミエントリーシートに15冊分の書評を書いたササの見解っていうのは参考になりそう。
だけど、現場に出始めたサキの話もこれからはこの手の話に色を持たすんだろうなと。後にヒゲさんに指摘されるところよ

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