2021(03)

■境界を飛び越えろ

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「あ、誰か来た。塩見さんかな」
「ちー、ちょっと手放せないから出てくれる?」
「はーい」

 インターホンが鳴って、玄関先に出る。兄さんは去年に引き続いてうちのお正月に塩見さんをお招きしてたみたいだから、今来たのも塩見さんかなと思ったら、宅配でーすって。お正月って休みなんじゃないのと思いつつも、荷物を受け取ってサインをする。
 俺には荷物を送って来られる心当たりはないし、例によって兄さんが何か買ったのかなと思って一応伝票を確かめてみる。すると宛名が俺の名前だったし、送り主は朝霞になっていた。荷物の中身は「食品・お菓子」となっている。

「兄さーん」
「あら、拓馬じゃなかった?」
「うん。朝霞から俺宛に届いた荷物だった」
「カオルちゃんから? あの子確か帰省したわよね」
「うん。とりあえず開けてみよう」

 箱を開けてみると、中にはいろいろな土地の食品とお菓子が詰め込まれていた。朝霞の地元の山羽はわかるんだけど、その他には西に東に、行っている場所に統一感がまるでない。でも、食べ物がもらえるのは素直に嬉しいので荷物が届いたよと連絡を打つことに。

「荷物届いたよー、っと。……うわっ、既読付くの早っ!? てか電話!? はいもしもしー」
『もしもし大石ー? 明けましておめでとう』
「あっ、おめでとー。今年もよろしくー。てか荷物ありがとねー。いろんなところのお土産っぽいけど、それだけ行ってきたの?」
『ああ。ちょっと野暮用でな。お前も温泉旅行で俺にいろいろお土産くれたし、そのお返しくらいに思っといてくれ』
「わー、ありがとー。兄さんと一緒に食べるよー」
『ああそうだ、ベティさんにもよろしくお伝えください』
「わかったよー。あと、今日はこれからうちに塩見さんも来るんだ。それで兄さんがローストビーフを用意してくれてたり、事前に塩見さんが卵関係のおせちの具を持ってきてくれてて」
『なんか壮絶な食卓になりそうだな。ってか卵関係の具って伊達巻きとかか』
「そうだねー。いつもの卵屋さんで作ってるんだよ」
『絶対美味いヤツじゃねーか、いいなー。ローストビーフも食べたいし』
「朝霞は今実家?」
『今は高校の友達と一緒に初日の出見に山に登って、その帰りに飯食ってる』
「元気だねー」
『お前には負ける。それじゃ、そういうことで。また今度な』
「はいはーい。またねー」

 いろいろな土地に散らばるお土産は、大きな駅や物産展みたいな催事場とかで一気に買ったんじゃなくてそれぞれの土地に行って買ってるって言うんだから、朝霞はやっぱり元気だなあと思う。俺はエリアの外なんて最近出始めたばかりだからね。

「兄さん、朝霞がベティさんにもよろしくお伝えくださいって」
「店でも家でもまたいつでも遊びに来てちょうだいねって伝えといて」
「はーい」

 そのようにメッセージを打っていると、またひとつインターホンが鳴った。今度は誰かなと思って玄関先に出る。今度はちゃんと塩見さんだったので一安心。明けましておめでとうございますと挨拶をして、部屋にお通しする。

「兄さーん、塩見さんがいらっしゃったよー」
「もう少し待っててもらってー」
「はーい。塩見さんすみません、もう少し待っててもらって。あと荷物広げてたんでちょっと散らかっててすみません」
「何か届いたのか」
「はい。何か朝霞がいろいろなところに行ってたみたいで、そのお土産ですね。ホントいろんなところに行ってたみたいで、凄いなあって」
「水堀、西京、東都に光洋。あと山羽……は、アイツの地元か。でも大体西と東のデカい都市だな」
「そうやっていろいろ飛び回れるのは、バイタリティの高さなんですかね」
「それもあるだろうが、拠点が星港近辺ってのがカギだろうな。西だろうが東だろうがそれなりの時間で行けちまうからな。場合によっちゃ、西や東に散っている連中を呼び寄せることの出来る都市でもある」

 住んでるとあまり考えたことはないんだけど、星港って全国的にも大きい都市ではあるんだよね。交通網は発達してるし、飛行機も新幹線も特急も、高速バスだって使いたい放題だ。俺は旅行も車で行くから公共交通機関の利便性を考えたことはあんまりなかったな。
 それから、エリアを跨ぐ移動に関して俺は結構腰が重かったけど、朝霞はぴょんぴょん境を飛び越えている印象がある。元々の性格とか育った環境もあるかもしれないけど、日頃からそれを経験しているかっていうのも大きそうだ。
 俺は向島エリアからほとんど出ないけど、朝霞は定期的に新幹線で実家に帰っている。新幹線の座席を予約したり、それに乗ることに対するハードルは俺と朝霞では段違いだと思う。最近だと逆に、高速に乗ってエリア越えをすることに関しては俺の方が簡単に出来ちゃうんだろうなとは。

「でも、いくらいろいろ行ってるからって、行く先々でお土産なんて買ってくれて、朝霞は律儀だなあ」
「千景、お前それギャグで言ってんのか」
「えっ、ギャグではないですよー!」
「お前も温泉旅行であんだけ土産を送ってきたんだ、返礼が同じレベルになるのは納得しろ」
「つい買っちゃうんですよねー。あっ、塩見さんも朝霞のお土産つまんでくださいねー」
「しょっぱいのに飽きたらつまませてもらう」

 そうこうしている間に机の上に料理やお酒が運ばれて、すっかりお正月の食卓だ。これから始まるのは延々と終わる予定のないお正月の酒盛り。全員が同じレベルで飲み食いするから遠慮も要らないし、やりたい放題するための席だ。俺もアイスをしっかり買ってきてるよね。

「そしたら、いただきましょうか。改めまして、明けましておめでとうございます。今年も元気に働いて、稼ぐわよー! かんぱーい!」


end.


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全員が同じレベルで飲み食いするから遠慮が要らないとは言うけど、大石兄弟と塩見さんだとすげーことになるんよ
そしてちーちゃん宅に荷物を送ったPさんよ。山登った理由とかそれだけ遠征に出た理由とか、塩見さんには少々心当たりも。
てかPさんってお金ないイメージなんだけど、お土産のお金はどこから捻出したんだろうか

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