2021(03)
■打ち込むもの打ち込めるもの
++++
「さーっ、む!」
「何もこんな大雪の時にやらなくたっていいんじゃないのか」
「出来るときにやっとかねーとだろ」
運動不足の解消だとかストレス発散のためにバドミントンをやろうという話になり、亮介の運転する車に乗り込む。現在緑風エリアは結構な大雪に見舞われているのだけど、そんなことはお構いなしと言わんばかりだ。で、バドミントンをやるということで前原とも合流するんだとか。
こんな時に出掛けると言うと普通親なんかは心配するか怒りそうなものだけど、芽依ちゃんはうちの出不精の方をいつも心配しているので「こんなに引きこもってる子を外に連れ出してくれる亮介君には感謝しかない」と快く送り出す。確かに出不精だけどそれはそれでどうなんだと。
「って言うかお前雪道運転とか大丈夫なのか。向こうでだって運転してるワケじゃないんだろ」
「教習所出てるし安全に行くから」
「うーわっ、ペーパードライバーの雪道運転とか」
「そのペーパードライバーの車に乗らないと外に出れないだろお前」
「それはそうだけど。と言うか、街の奴が出てくるべきだろといつも思う。家の立地に驕りやがって」
「まーバドに飽きてもその後が移行しやすいのは大鐘だとか光星よりは緑風よ」
「そうかぁ? 言う程だと思うけど」
何にせよ今日はバドミントンをするというのが目的なので前原に指定された体育館に行く。どうしてうちや亮介の地元じゃないのかと言えば、市の体育館が年末年始で休館していたからだ。体育館が開いていなければバドミントンどころの話ではない。
「しかしまあ、自堕落を地で行くあの前原がよく出て来るなあという気がしないでもない」
「こないだこの件で連絡した時にちょっと話してたんだけど、大学の方で自分に挑んでくる1年生に負けないために体は動かしときたいって言ってたなあ」
「へえ、アイツに挑むような奴がいるのか」
「普段が自堕落だったとしてもバドミントンは実際強いからなあ。じゃねーと俺も張り合いねーし」
「うちのサークルの後輩がアイツのゼミの後輩らしいんだけど、普段はクズなのにロボコンはちゃんと強いから意味が分からないって言ってた」
「つかお前の後輩さ、普通に口悪くね? 先輩にクズって言い切ってんじゃんよ」
「まあ、アイツはそういう奴だからな。ナチュラルに人を煽って小馬鹿にする才能は天下一品だ」
「お前の後輩だからって気もするけど」
「人の所為にするな」
そんなことを話しているうちにどんどんと車は体育館に近付き、街に来たなあという感じがする。とは言え緑風エリアには違いないので大雪なのはどこも同じだ。体育館の駐車場に着いてみると、利用者と思われる車はさほど停まっていない。
「やー、橘君奥村さん、わざわざどーもっす」
「本当にな」
「や、前回は俺が光星に行ったじゃないすか!」
「菜月は泣く子も黙る引き籠もりだかんね、呼びつける形で市の境を越えさせんのはなかなか重罪よ。とりあえず、やりますかあ」
「そーすね」
「で、鈍るのの防止に体を動かしたいって?」
「そーなんすよ。ウチのバドサーに活きのいい1年がいるんすけど、どーせやるなら勝ち逃げしたいじゃないすか。普段がああでもナメられたくないし、高い壁であり続けちゃんぞっつー」
「前原君、そいつ強いの?」
「元々まあまあやる子だけど、この1年で確実に強くなってんわ」
「ふーん、それじゃあ前原君も負けてらんないねえ」
「そーなんすよ」
前原に挑んでいるという1年は、最初の頃はただがむしゃらに向かってくるだけだったから軽くいなしてやれば楽に勝てたけど、最近では少しずつ手強くなってきているそうだ。そろそろ最初から本気を出さないと危なくなっていると。
うちは前原がどれだけの腕前なのかをあまりよく知らないけど、亮介はそれは確実に強くなってんねえと理解を示しているようだ。後輩にナメられたくないという気持ちはわからないでもないし、うちは特に何をするワケでもないけど体は動かす。元々うちのストレス発散だからな。
「橘君に撃ち合い付き合ってもらえるのはありがたいっすね」
「そう?」
「その1年サウスポーなんだよな。ウチのサークル、他にサウスポーの奴いねーからシミュレーションにはちょうどいいわ」
「そいつ何タイプ? アタックタイプ?」
「そーね。基本アタックタイプだけど、最近ちょっとディフェンスにも振ってきてんわ」
「ほーん。それじゃあそのように相手するよ」
「頼んます」
「おーい亮介、うちのストレス発散はどうなったんだ」
「そしたら橘君と奥村さん、2人いっぺんに相手する感じでどーすか」
「おー、俺もナメられたモンだねえ」
「橘君、撃ち合い付き合ってくれるんじゃなかったんすか。ガチ対戦じゃねーのよ」
「あ、そうだった。悪い悪い。えーと? どっちにしても俺と菜月は容赦なく打ち込めばいーってコトね」
「そーすね」
「言っとくけど菜月は強えーぜ、俺が仕込んでる上に元々運動神経もあるし、クッソ性格悪いコトしてくるだろ。バドミントン経験がないからセオリーとか関係ないし」
「奥村さんて性格の悪さが一番厄介なんすよね」
「お前ら、自分たちがクズなのを棚に上げて随分言いたい放題じゃないか」
こうなったらご期待通りに思いっ切りやりたい放題してやろうじゃないか。性格の悪さにはある程度自覚はあるけど、さすがにそれをスポーツに持ち込んだことはなかったつもりなんだけどな。うーん、やっぱり、このクズどもに言われる筋合いはないんだよなあ。
「よし、やるぞ!」
「お願いしまーす」
「そこまで言ったからには性格の悪さを手抜きする気は毛頭ないぞ」
end.
++++
奏多の目論見は外れたようで、前原さんも飲み歩いてばかりではなかった様子。亮介の存在は誤算よなあ
ノサカはナチュラルに性格が悪いし人を煽るし、菜月さんの性格も人に褒められるような物でもないけどMMPだしなあ
お互い言いたいことをボロクソにも言い合うナツりょの関係性がなかなかに良き。菜圭にも通じる。
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「さーっ、む!」
「何もこんな大雪の時にやらなくたっていいんじゃないのか」
「出来るときにやっとかねーとだろ」
運動不足の解消だとかストレス発散のためにバドミントンをやろうという話になり、亮介の運転する車に乗り込む。現在緑風エリアは結構な大雪に見舞われているのだけど、そんなことはお構いなしと言わんばかりだ。で、バドミントンをやるということで前原とも合流するんだとか。
こんな時に出掛けると言うと普通親なんかは心配するか怒りそうなものだけど、芽依ちゃんはうちの出不精の方をいつも心配しているので「こんなに引きこもってる子を外に連れ出してくれる亮介君には感謝しかない」と快く送り出す。確かに出不精だけどそれはそれでどうなんだと。
「って言うかお前雪道運転とか大丈夫なのか。向こうでだって運転してるワケじゃないんだろ」
「教習所出てるし安全に行くから」
「うーわっ、ペーパードライバーの雪道運転とか」
「そのペーパードライバーの車に乗らないと外に出れないだろお前」
「それはそうだけど。と言うか、街の奴が出てくるべきだろといつも思う。家の立地に驕りやがって」
「まーバドに飽きてもその後が移行しやすいのは大鐘だとか光星よりは緑風よ」
「そうかぁ? 言う程だと思うけど」
何にせよ今日はバドミントンをするというのが目的なので前原に指定された体育館に行く。どうしてうちや亮介の地元じゃないのかと言えば、市の体育館が年末年始で休館していたからだ。体育館が開いていなければバドミントンどころの話ではない。
「しかしまあ、自堕落を地で行くあの前原がよく出て来るなあという気がしないでもない」
「こないだこの件で連絡した時にちょっと話してたんだけど、大学の方で自分に挑んでくる1年生に負けないために体は動かしときたいって言ってたなあ」
「へえ、アイツに挑むような奴がいるのか」
「普段が自堕落だったとしてもバドミントンは実際強いからなあ。じゃねーと俺も張り合いねーし」
「うちのサークルの後輩がアイツのゼミの後輩らしいんだけど、普段はクズなのにロボコンはちゃんと強いから意味が分からないって言ってた」
「つかお前の後輩さ、普通に口悪くね? 先輩にクズって言い切ってんじゃんよ」
「まあ、アイツはそういう奴だからな。ナチュラルに人を煽って小馬鹿にする才能は天下一品だ」
「お前の後輩だからって気もするけど」
「人の所為にするな」
そんなことを話しているうちにどんどんと車は体育館に近付き、街に来たなあという感じがする。とは言え緑風エリアには違いないので大雪なのはどこも同じだ。体育館の駐車場に着いてみると、利用者と思われる車はさほど停まっていない。
「やー、橘君奥村さん、わざわざどーもっす」
「本当にな」
「や、前回は俺が光星に行ったじゃないすか!」
「菜月は泣く子も黙る引き籠もりだかんね、呼びつける形で市の境を越えさせんのはなかなか重罪よ。とりあえず、やりますかあ」
「そーすね」
「で、鈍るのの防止に体を動かしたいって?」
「そーなんすよ。ウチのバドサーに活きのいい1年がいるんすけど、どーせやるなら勝ち逃げしたいじゃないすか。普段がああでもナメられたくないし、高い壁であり続けちゃんぞっつー」
「前原君、そいつ強いの?」
「元々まあまあやる子だけど、この1年で確実に強くなってんわ」
「ふーん、それじゃあ前原君も負けてらんないねえ」
「そーなんすよ」
前原に挑んでいるという1年は、最初の頃はただがむしゃらに向かってくるだけだったから軽くいなしてやれば楽に勝てたけど、最近では少しずつ手強くなってきているそうだ。そろそろ最初から本気を出さないと危なくなっていると。
うちは前原がどれだけの腕前なのかをあまりよく知らないけど、亮介はそれは確実に強くなってんねえと理解を示しているようだ。後輩にナメられたくないという気持ちはわからないでもないし、うちは特に何をするワケでもないけど体は動かす。元々うちのストレス発散だからな。
「橘君に撃ち合い付き合ってもらえるのはありがたいっすね」
「そう?」
「その1年サウスポーなんだよな。ウチのサークル、他にサウスポーの奴いねーからシミュレーションにはちょうどいいわ」
「そいつ何タイプ? アタックタイプ?」
「そーね。基本アタックタイプだけど、最近ちょっとディフェンスにも振ってきてんわ」
「ほーん。それじゃあそのように相手するよ」
「頼んます」
「おーい亮介、うちのストレス発散はどうなったんだ」
「そしたら橘君と奥村さん、2人いっぺんに相手する感じでどーすか」
「おー、俺もナメられたモンだねえ」
「橘君、撃ち合い付き合ってくれるんじゃなかったんすか。ガチ対戦じゃねーのよ」
「あ、そうだった。悪い悪い。えーと? どっちにしても俺と菜月は容赦なく打ち込めばいーってコトね」
「そーすね」
「言っとくけど菜月は強えーぜ、俺が仕込んでる上に元々運動神経もあるし、クッソ性格悪いコトしてくるだろ。バドミントン経験がないからセオリーとか関係ないし」
「奥村さんて性格の悪さが一番厄介なんすよね」
「お前ら、自分たちがクズなのを棚に上げて随分言いたい放題じゃないか」
こうなったらご期待通りに思いっ切りやりたい放題してやろうじゃないか。性格の悪さにはある程度自覚はあるけど、さすがにそれをスポーツに持ち込んだことはなかったつもりなんだけどな。うーん、やっぱり、このクズどもに言われる筋合いはないんだよなあ。
「よし、やるぞ!」
「お願いしまーす」
「そこまで言ったからには性格の悪さを手抜きする気は毛頭ないぞ」
end.
++++
奏多の目論見は外れたようで、前原さんも飲み歩いてばかりではなかった様子。亮介の存在は誤算よなあ
ノサカはナチュラルに性格が悪いし人を煽るし、菜月さんの性格も人に褒められるような物でもないけどMMPだしなあ
お互い言いたいことをボロクソにも言い合うナツりょの関係性がなかなかに良き。菜圭にも通じる。
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