2021(03)
■いつかは2人で二人前
++++
「何と言うかまあ、お前の行動力って何気に俺ら6人の中でも1、2を争うよな」
「そうかな」
「だってそうだろ、シノにラジオの実験に付き合わされたその日に電話して次の日に面接をして、今日にはもう見学に行くって。スピード展開にも程があるじゃんな」
大学が冬休みに入ると、生活がバイト中心になってしまいがちだ。それを避けるためにも、俺はいろんな友達に声をかけて会うようにしている。帰省とかで会えなくなった人もいるけど、今の時期だからこそ会える人もいるから時間は大事だ。
そんな中でもいつもの友達というのは安心するなと思う。今日はサキと買い物だ。スマホと連動してどうする、みたいなスマートナントカについて教えてもらいながらも、高くて買えないなーと諦めて、食事は手軽に食べられるハンバーガーに落ち着く。
話の中で、サキがバイトを変えたということを聞いた。サキは今まで地元のショッピングセンターの中で惣菜屋の仕事をしていたんだけど、それを唐突に辞めて、1月1日付けでコミュニティラジオ局のFMにしうみで働くことになったそうだ。
「やるなら早い方がいいでしょ。うだうだ考えてたって、やらないときはやらないし」
「そうだな」
「それに、どうせやるときはやるんだから。やらずに後悔するよりやって後悔しろって言葉はあるけど、俺の考えでは、もっと早くやっておけばよかったって後悔するくらいならすぐやるべきだね」
どうして急にそんなことを思い立ったのかと言うと、高木先輩とL先輩、それからシノが水面下でやっていた実験に感化されたんだそうだ。実験の内容はネタバレになるから言えないけど、ラジオの機材は奥が深いし、自分ももっといろいろやりたくなったから、と。
「もっといろいろやりたくなったから」とまさかラジオ局で働き始めるとは、さすがサキだなって感じもする。思い立ったらもう行動に移してる点では解釈に不一致はない。それだけシノたちがやっていたことが面白かったのかもしれない。ネタバレ禁止って、どんなことやってたんだろ。
「で、今日は局の見学だっけ?」
「すがやん、高崎先輩がFMにしうみで番組持ってるのは知ってる?」
「ああ、話には聞いたことある」
「その番組が今日で最終回だからその番組の見学と、高崎先輩と一緒に番組をやってるディレクターが学生バイトらしいんだけど、その人に挨拶しておくっていうのと」
「なるほど、確かにタイミングとしてはいいのかもな。学生がどんな風にバイトしてんのかが見れるんだろ?」
「多分そんな感じだと思う」
MBCCでも伝説的なアナウンサーとして名前が轟く高崎先輩は、卒論でもラジオのことを研究してるとかって話だ。そのフィールドワークとして実際に自分でラジオ番組をやったり、全国のコミュニティFM局に取材に行ったりしていたそうだ。
全国に取材に行くのも凄いけど、それは頑張れば俺にも出来そうな気がする。だけど、自分でラジオ番組をやるっていうのはなかなかに高いハードルだと思う。コミュニティとは言え公共の電波に乗せる番組なワケだから。やりたいって言ってやらせてもらえるのがまずすげーなと。
「定例会に行ったときから少し考えてたんだよね。俺自身、もっといろいろやってレベルアップしないといけないなとは」
「いろいろって?」
「インターフェイスにこれまで溜まった音源のファイル化にしてもそうだし、機材が増えるならその使い方を勉強しなきゃいけない。映像関係の活動も増えてくる可能性がある以上、ラジオだけ出来ればいいってことでもないし」
「でも、映像関係のことなら青敬さんとかそっちら辺の人が頑張ってくれるんじゃねーの?」
「だからって俺が無知でいていい理由にはならないでしょ。来年は先輩がいるからいいかもしれないけど、その次になるとミキサーが実質俺しかいないようなものなんだから」
そう言われて定例会に出ている俺たちの学年のメンバーを思い起こしてみると、確かにアナウンサーが多いなって思う。カノンはアナミキどっちもやってるけどアナウンサー寄りだし、彩人も一応ミキサーとして出てるけど本職はプロデューサーだ。
この顔ぶれなら、機材やシステムのことはサキに聞かなきゃという状況になりそうだなって気がする。代替わり初回で俺は暢気にみんなに挨拶して友好を深めようとしていたけど、そういうところに全然目が行ってなかった。
「サキ、確かにミキサーがサキしかいないようなモンかもしれないけど、1人だけで頑張り過ぎんなよ、マジで」
「だから今から頑張るんだよ。3年になった頃には肩の力を抜いていたいからね。俺は機材のことをメインに頑張ればいいんでしょ、他のことはすがやんがやってくれるから」
「うん、まあ、そういうことにはなるかな」
「会議中にうっかり機材関係のことばっかり考えててちゃんと話を聞いてなくてもすがやんが補完してくれたり」
「いや、そこは聞いとけ?」
「善処はするよ。でも、俺なりにすがやんにはもう甘えさせてもらってるし、1人だけで頑張ってるつもりはないよ。俺に出来ないことをすがやんにやってもらってるから」
俺は大学の代表としてみんなにニコニコ挨拶出来ないからね、とサキは程良く冷めてしなしなになったポテトをつまむ。ニコイチとして定例会に送り込まれた俺とサキだけど、それぞれにやるべき仕事があって、得意不得意を分け合いながら何とか一人前になろうと頑張っている。
「ところですがやん、初詣の話だけど」
「ああ、そうだそうだ」
「見学のときに細かい時間とかを教えてもらうから、わかったら連絡する。例年3時前には終わってるそうだし、出発時間とかは俺のことは気にしてもらわなくて大丈夫。眠かったら車の中で寝かせてもらうし」
「じゃあそのように進めるな。つか、初っ端の仕事が深夜の初詣取材とかなかなか派手だな」
「そう? 楽しそうじゃない」
end.
++++
すがやんのいつもの友達の中でも近場の方のサキとは日常の買い物などをしたりする。特別じゃない感が良い
今年のお話では佐藤ゼミ関係の実験をまるっとスルーしたのですが、それを受けてサキは頑張らなきゃと思った様子。
サキがサークルに来た頃を思えば凄く口数は増えてるし、すがやんに対しては完全なデレまで出てますね
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「何と言うかまあ、お前の行動力って何気に俺ら6人の中でも1、2を争うよな」
「そうかな」
「だってそうだろ、シノにラジオの実験に付き合わされたその日に電話して次の日に面接をして、今日にはもう見学に行くって。スピード展開にも程があるじゃんな」
大学が冬休みに入ると、生活がバイト中心になってしまいがちだ。それを避けるためにも、俺はいろんな友達に声をかけて会うようにしている。帰省とかで会えなくなった人もいるけど、今の時期だからこそ会える人もいるから時間は大事だ。
そんな中でもいつもの友達というのは安心するなと思う。今日はサキと買い物だ。スマホと連動してどうする、みたいなスマートナントカについて教えてもらいながらも、高くて買えないなーと諦めて、食事は手軽に食べられるハンバーガーに落ち着く。
話の中で、サキがバイトを変えたということを聞いた。サキは今まで地元のショッピングセンターの中で惣菜屋の仕事をしていたんだけど、それを唐突に辞めて、1月1日付けでコミュニティラジオ局のFMにしうみで働くことになったそうだ。
「やるなら早い方がいいでしょ。うだうだ考えてたって、やらないときはやらないし」
「そうだな」
「それに、どうせやるときはやるんだから。やらずに後悔するよりやって後悔しろって言葉はあるけど、俺の考えでは、もっと早くやっておけばよかったって後悔するくらいならすぐやるべきだね」
どうして急にそんなことを思い立ったのかと言うと、高木先輩とL先輩、それからシノが水面下でやっていた実験に感化されたんだそうだ。実験の内容はネタバレになるから言えないけど、ラジオの機材は奥が深いし、自分ももっといろいろやりたくなったから、と。
「もっといろいろやりたくなったから」とまさかラジオ局で働き始めるとは、さすがサキだなって感じもする。思い立ったらもう行動に移してる点では解釈に不一致はない。それだけシノたちがやっていたことが面白かったのかもしれない。ネタバレ禁止って、どんなことやってたんだろ。
「で、今日は局の見学だっけ?」
「すがやん、高崎先輩がFMにしうみで番組持ってるのは知ってる?」
「ああ、話には聞いたことある」
「その番組が今日で最終回だからその番組の見学と、高崎先輩と一緒に番組をやってるディレクターが学生バイトらしいんだけど、その人に挨拶しておくっていうのと」
「なるほど、確かにタイミングとしてはいいのかもな。学生がどんな風にバイトしてんのかが見れるんだろ?」
「多分そんな感じだと思う」
MBCCでも伝説的なアナウンサーとして名前が轟く高崎先輩は、卒論でもラジオのことを研究してるとかって話だ。そのフィールドワークとして実際に自分でラジオ番組をやったり、全国のコミュニティFM局に取材に行ったりしていたそうだ。
全国に取材に行くのも凄いけど、それは頑張れば俺にも出来そうな気がする。だけど、自分でラジオ番組をやるっていうのはなかなかに高いハードルだと思う。コミュニティとは言え公共の電波に乗せる番組なワケだから。やりたいって言ってやらせてもらえるのがまずすげーなと。
「定例会に行ったときから少し考えてたんだよね。俺自身、もっといろいろやってレベルアップしないといけないなとは」
「いろいろって?」
「インターフェイスにこれまで溜まった音源のファイル化にしてもそうだし、機材が増えるならその使い方を勉強しなきゃいけない。映像関係の活動も増えてくる可能性がある以上、ラジオだけ出来ればいいってことでもないし」
「でも、映像関係のことなら青敬さんとかそっちら辺の人が頑張ってくれるんじゃねーの?」
「だからって俺が無知でいていい理由にはならないでしょ。来年は先輩がいるからいいかもしれないけど、その次になるとミキサーが実質俺しかいないようなものなんだから」
そう言われて定例会に出ている俺たちの学年のメンバーを思い起こしてみると、確かにアナウンサーが多いなって思う。カノンはアナミキどっちもやってるけどアナウンサー寄りだし、彩人も一応ミキサーとして出てるけど本職はプロデューサーだ。
この顔ぶれなら、機材やシステムのことはサキに聞かなきゃという状況になりそうだなって気がする。代替わり初回で俺は暢気にみんなに挨拶して友好を深めようとしていたけど、そういうところに全然目が行ってなかった。
「サキ、確かにミキサーがサキしかいないようなモンかもしれないけど、1人だけで頑張り過ぎんなよ、マジで」
「だから今から頑張るんだよ。3年になった頃には肩の力を抜いていたいからね。俺は機材のことをメインに頑張ればいいんでしょ、他のことはすがやんがやってくれるから」
「うん、まあ、そういうことにはなるかな」
「会議中にうっかり機材関係のことばっかり考えててちゃんと話を聞いてなくてもすがやんが補完してくれたり」
「いや、そこは聞いとけ?」
「善処はするよ。でも、俺なりにすがやんにはもう甘えさせてもらってるし、1人だけで頑張ってるつもりはないよ。俺に出来ないことをすがやんにやってもらってるから」
俺は大学の代表としてみんなにニコニコ挨拶出来ないからね、とサキは程良く冷めてしなしなになったポテトをつまむ。ニコイチとして定例会に送り込まれた俺とサキだけど、それぞれにやるべき仕事があって、得意不得意を分け合いながら何とか一人前になろうと頑張っている。
「ところですがやん、初詣の話だけど」
「ああ、そうだそうだ」
「見学のときに細かい時間とかを教えてもらうから、わかったら連絡する。例年3時前には終わってるそうだし、出発時間とかは俺のことは気にしてもらわなくて大丈夫。眠かったら車の中で寝かせてもらうし」
「じゃあそのように進めるな。つか、初っ端の仕事が深夜の初詣取材とかなかなか派手だな」
「そう? 楽しそうじゃない」
end.
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すがやんのいつもの友達の中でも近場の方のサキとは日常の買い物などをしたりする。特別じゃない感が良い
今年のお話では佐藤ゼミ関係の実験をまるっとスルーしたのですが、それを受けてサキは頑張らなきゃと思った様子。
サキがサークルに来た頃を思えば凄く口数は増えてるし、すがやんに対しては完全なデレまで出てますね
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