2021(03)
■着せる衣もない
++++
秋学期が一段落して、年末年始の休みに入った。一度実家に帰って、特にやることがあるでもないのでごろごろしたりしている。だけど今回はマンションの部屋からこれはもう要らないかなっていう物をこっちに送ったから、その片付けは明日にでもやろうか。
今日は夏振りに亮介と遊ぶことになっていて、とりあえずいつもの待ち合わせ場所になっているモール内のCDショップへ。ショップの前とかじゃなくてそれぞれが好きな場所で好きなようにCDを物色しているのがいつもの流れだけど、大体の好みを知ってるから探す場所も迷わなくていい。
「亮介」
「おっ。ういーす」
「新譜?」
「先週出たヤツ」
「へえ。あ、うちも一通り店の中見ていいか」
「いーよ」
お互い買う物を買ってから本題に行くのがいつもの流れだ。後に行く場所もなければ延々と視聴機の前でこれがいいだのそれが熱いだのと語り合う。うちがいろいろな音楽に触れるようになったのは亮介の影響だ。何かいい音楽を知らないかと初めて訊いたのが高校3年の頃。
「結構買ったなあ」
「卒論のストレスもありありで」
「あー、お前3月で普通に卒業か」
「そうだな。卒論の提出が年明けすぐだからスパートをかけてだな」
「俺も再来年の今頃は卒論でひーこら言ってんだなー」
「え、今って2年遅れてんだっけ?」
「そーね。浪人で1年と、休学で1年」
亮介は一浪した後、青丹エリアにある大学に進学して歴史のこととかを勉強しているという風に聞いていた。毎年亮介と、あと1人いる腐れ縁の保原瞬という男の3人で忘年会なんかをやっている。連中は高校3年の時のクラスメイトで、変な縁になったなと会う度思う。
毎年何かしらの近況報告をし合ってたんだけど、去年亮介は「メンタルがきっちーから休学してんだわ」と話していた。それをうちは「そっかあ」と聞いていたのだけど、今年になって一緒にその話を聞いていたヤスも休学をしているとのこと。
お前も他人事じゃねーぞという風には2人共から言われているし、圭斗にはいつだってそのように疑われている。圭斗はまだ言葉を選んで言っているけど、性質が悪いのは山口だ。アイツは「議長サンは心療内科を受診すべきだよ」と直接的に言って来る。他のヤツ相手なら濁すクセに。
「別に遅れてることに関して悲観的でもないけどな。無理して周りと合わせる必要もないって思ってっし」
「それは確かにそうだな」
「ま、辛気臭くなりがちな話はそれっくらいにして、お茶でもしますかぁ」
「そうだな」
「菜月、どっか入りたいカフェとかある?」
「あー……そうだなあ、どんなトコあるんだろ。リニューアルしてから全然来たことないからどんなトコがあるのか知らないんだ」
「そしたらとりあえず1周しながら気になったトコに入るか」
「そうだな」
高校の帰りとかにたまに寄っていたショッピングモールがしばらく前にかなり広くなってリニューアルオープンをした。基本的に出不精だし、向島にいる間に変わったところにはほとんど足を運んでいないから初めて来る場所のようにも見える。
カフェを探して歩いている体だけど、お互い気になった店にはどんどん入っていく。亮介も青丹にいるからこっちの変化を楽しんでいるようだ。互いに洋服を選び合ったり、雑貨を見たり。星港でのウィンドウショッピングとはまた違う感覚がある。
「お前ホントそーゆーファッション好きね」
「気が付くとこういうのに落ち着いてるんだよな」
「ロングスカートとか普通のパンツとか穿いてるイメージが全然ねーし。ショートパンツとか膝上のスカートよな」
「お前も黒いパーカーがベースだし、人のことは言えないじゃないか」
「まあなあ。俺も似たような服ばっか増えてくわ。あ、でも最近は古着とかも結構好きよ」
「古着かあ。うちも向こうでたまに見てる。昔っぽい色合いのウィンドブレーカー? ジャンパーみたいなのとか可愛いなーと思って」
「見てるだけ?」
「その店って、量り売りシステムなんだよな。だから薄いのなら有名なブランドでも軽いから安いんだけど、果たして本当に要るのかと考えた時に手が出ない」
「CDには躊躇しねーのに服は1回考えんのね」
「そうだな。100均とか行っても要ると思ってカゴにぽいぽい入れるんだけど、最終的にはやっぱ要らなくないかってなって1コ2コの会計になることも多々だ」
「踏み止まれるってーのはすげー特技だと思うんだけどなあ」
「CDとコンビニの新商品はダメだ。スイーツとかカップめんとかお菓子とか。そこはうっかり買うんだよ」
前よりニーハイの上に乗ってる分が増えたような気がするのは気の所為じゃなかったか、などと人が一番気にしていることを突いて来やがる。だけど、せめてカフェでは久しく飲んでいないブラックのコーヒーにしておいた方がいいのかな、などとも思う。
「お前せっかく昔バスケやってて体動かす下地あるんだし、量り売りの古着屋でスポーツブランドの服とか買ってラジオ体操から始めりゃいーんだよ」
「ラジオ体操なあ。ガチればめちゃくちゃしっかりした体操だとは言うけど」
「こっちにいる間にまた1回やるか」
「まあ、付き合ってやってもいいけど」
「スマッシュ打ち込めば卒論のストレス? とかもちょっとは晴れるぜ。思いっ切りッパーンやるんだよ」
「ああ、確かにそれは良さそうだな。え、ラケットとかはレンタル出来るよな?」
「それはもちろん。あ、せっかくだし前原君も呼ぶかあ」
「そういやいたなあ前原とか」
「ひっでーなあ、一応同じ大学なのに」
「言っとくけど共通の友達がいるだけで、うちとアイツの間には何の関係もないんだぞ」
end.
++++
向島大学も冬休みなので菜月さんも実家に戻っています。今年は就活もあったから比較的戻ってはいたけどみんな新鮮。
菜月さんが古着のジャージとかを見てる話とか買った話も見てみたいけど、今からだと来年度になりそうだ
そういやそろそろいい時期だけど、バドサーの方でも前原さんを巡る因縁はどうなったかしら
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秋学期が一段落して、年末年始の休みに入った。一度実家に帰って、特にやることがあるでもないのでごろごろしたりしている。だけど今回はマンションの部屋からこれはもう要らないかなっていう物をこっちに送ったから、その片付けは明日にでもやろうか。
今日は夏振りに亮介と遊ぶことになっていて、とりあえずいつもの待ち合わせ場所になっているモール内のCDショップへ。ショップの前とかじゃなくてそれぞれが好きな場所で好きなようにCDを物色しているのがいつもの流れだけど、大体の好みを知ってるから探す場所も迷わなくていい。
「亮介」
「おっ。ういーす」
「新譜?」
「先週出たヤツ」
「へえ。あ、うちも一通り店の中見ていいか」
「いーよ」
お互い買う物を買ってから本題に行くのがいつもの流れだ。後に行く場所もなければ延々と視聴機の前でこれがいいだのそれが熱いだのと語り合う。うちがいろいろな音楽に触れるようになったのは亮介の影響だ。何かいい音楽を知らないかと初めて訊いたのが高校3年の頃。
「結構買ったなあ」
「卒論のストレスもありありで」
「あー、お前3月で普通に卒業か」
「そうだな。卒論の提出が年明けすぐだからスパートをかけてだな」
「俺も再来年の今頃は卒論でひーこら言ってんだなー」
「え、今って2年遅れてんだっけ?」
「そーね。浪人で1年と、休学で1年」
亮介は一浪した後、青丹エリアにある大学に進学して歴史のこととかを勉強しているという風に聞いていた。毎年亮介と、あと1人いる腐れ縁の保原瞬という男の3人で忘年会なんかをやっている。連中は高校3年の時のクラスメイトで、変な縁になったなと会う度思う。
毎年何かしらの近況報告をし合ってたんだけど、去年亮介は「メンタルがきっちーから休学してんだわ」と話していた。それをうちは「そっかあ」と聞いていたのだけど、今年になって一緒にその話を聞いていたヤスも休学をしているとのこと。
お前も他人事じゃねーぞという風には2人共から言われているし、圭斗にはいつだってそのように疑われている。圭斗はまだ言葉を選んで言っているけど、性質が悪いのは山口だ。アイツは「議長サンは心療内科を受診すべきだよ」と直接的に言って来る。他のヤツ相手なら濁すクセに。
「別に遅れてることに関して悲観的でもないけどな。無理して周りと合わせる必要もないって思ってっし」
「それは確かにそうだな」
「ま、辛気臭くなりがちな話はそれっくらいにして、お茶でもしますかぁ」
「そうだな」
「菜月、どっか入りたいカフェとかある?」
「あー……そうだなあ、どんなトコあるんだろ。リニューアルしてから全然来たことないからどんなトコがあるのか知らないんだ」
「そしたらとりあえず1周しながら気になったトコに入るか」
「そうだな」
高校の帰りとかにたまに寄っていたショッピングモールがしばらく前にかなり広くなってリニューアルオープンをした。基本的に出不精だし、向島にいる間に変わったところにはほとんど足を運んでいないから初めて来る場所のようにも見える。
カフェを探して歩いている体だけど、お互い気になった店にはどんどん入っていく。亮介も青丹にいるからこっちの変化を楽しんでいるようだ。互いに洋服を選び合ったり、雑貨を見たり。星港でのウィンドウショッピングとはまた違う感覚がある。
「お前ホントそーゆーファッション好きね」
「気が付くとこういうのに落ち着いてるんだよな」
「ロングスカートとか普通のパンツとか穿いてるイメージが全然ねーし。ショートパンツとか膝上のスカートよな」
「お前も黒いパーカーがベースだし、人のことは言えないじゃないか」
「まあなあ。俺も似たような服ばっか増えてくわ。あ、でも最近は古着とかも結構好きよ」
「古着かあ。うちも向こうでたまに見てる。昔っぽい色合いのウィンドブレーカー? ジャンパーみたいなのとか可愛いなーと思って」
「見てるだけ?」
「その店って、量り売りシステムなんだよな。だから薄いのなら有名なブランドでも軽いから安いんだけど、果たして本当に要るのかと考えた時に手が出ない」
「CDには躊躇しねーのに服は1回考えんのね」
「そうだな。100均とか行っても要ると思ってカゴにぽいぽい入れるんだけど、最終的にはやっぱ要らなくないかってなって1コ2コの会計になることも多々だ」
「踏み止まれるってーのはすげー特技だと思うんだけどなあ」
「CDとコンビニの新商品はダメだ。スイーツとかカップめんとかお菓子とか。そこはうっかり買うんだよ」
前よりニーハイの上に乗ってる分が増えたような気がするのは気の所為じゃなかったか、などと人が一番気にしていることを突いて来やがる。だけど、せめてカフェでは久しく飲んでいないブラックのコーヒーにしておいた方がいいのかな、などとも思う。
「お前せっかく昔バスケやってて体動かす下地あるんだし、量り売りの古着屋でスポーツブランドの服とか買ってラジオ体操から始めりゃいーんだよ」
「ラジオ体操なあ。ガチればめちゃくちゃしっかりした体操だとは言うけど」
「こっちにいる間にまた1回やるか」
「まあ、付き合ってやってもいいけど」
「スマッシュ打ち込めば卒論のストレス? とかもちょっとは晴れるぜ。思いっ切りッパーンやるんだよ」
「ああ、確かにそれは良さそうだな。え、ラケットとかはレンタル出来るよな?」
「それはもちろん。あ、せっかくだし前原君も呼ぶかあ」
「そういやいたなあ前原とか」
「ひっでーなあ、一応同じ大学なのに」
「言っとくけど共通の友達がいるだけで、うちとアイツの間には何の関係もないんだぞ」
end.
++++
向島大学も冬休みなので菜月さんも実家に戻っています。今年は就活もあったから比較的戻ってはいたけどみんな新鮮。
菜月さんが古着のジャージとかを見てる話とか買った話も見てみたいけど、今からだと来年度になりそうだ
そういやそろそろいい時期だけど、バドサーの方でも前原さんを巡る因縁はどうなったかしら
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