2021(03)
■五感の育て方
++++
ピンポーンとひとつインターホンが鳴って、お客さんが来たなって感じがする。あたしはみちるちゃん家の冷蔵庫の中を何とか整理しながらケーキと格闘中。今日はあたしが割ったケーキを消費してもらうためのクリスマスパーティー。
スイーツ断面動画の撮影は趣味でやってることだけど、ブログは結構見てもらえてるし、大学生になってからはバイトを始めたことで自由に使えるお金が増えた分、ホールケーキを切ってみようかなとか、切りやすい包丁を買おうかなとか、スケールも大きくなってきたかも。
「みちるちゃ~ん」
「ああ、北星。いらっしゃい。……てかいつにも増して凄いクマ」
「さっきまでくるちゃんの動画の編集してて。クリスマスケーキの動画だから、今日までに全部上げる必要があって」
「ブログにはもう全部上がってるみたいだけど」
「俺がやってたのは動画チャンネル用の追加編集。ブログに上げてるのははショートみたいなサッと見られる物で、じっくり見たければ動画チャンネルでって感じで一応分けてるから」
「へえ。まあ、何はともあれ上がって」
「ありがと~。お邪魔しま~す。あ、チキン買ってきた~」
――というワケで、ここ何日かは北星をずっと拘束してるよね。今回は撮影の規模も大きいからそこからまず手伝ってもらって。スイーツブロガーとしては動画の断面だけじゃなくて商品情報だとか食べてのレビューとかも大事だからあたしはその作業も忙しかったし。
あたしはわーわー言いながらバタバタしてたんだけど、北星はいつも通り冷静な仕事運びで本っ当に頼りになったよね! 今のあたしのブログがあるのは本当に北星様々。しかもケーキの消費も手伝ってくれるって足向けて寝れないよね。
「北星ホントにありがとね。あたし結構無茶言ったのに」
「ううん、平気。俺も楽しくてやってるから~。でも、ねむ~い」
「眠いならコーヒーでも飲む?」
「あ、欲しいで~す」
「くるみは? コーヒーか紅茶か」
「あたしは紅茶で」
「結局今日って何人来ることになった? それぞれ何となく声かけてたんでしょ」
「当麻が来てくれるって~」
「私は彩人に声をかけて、ササと高木さんと星大の先輩が来るという風には聞いてるんだけど」
「えー! 高木先輩も来てくれるんだ! って言うか高木先輩がケーキとか甘いもの食べてるイメージが全然ない!」
「くるみは誰かに声かけた?」
「すがやんとサキに声かけたけど振られちゃったー」
「そっか」
「千颯と~ちとせちゃんにも~、声かけてみたら~良かったね~」
「ホントだ! 忙しくてすっかり飛んじゃってた!」
ダメ元で今から声をかけてみたけど、さすがに急だったからごめんねって連絡が来たよね。って言うか2人とはまた今度、北星も含めた4人で忘年会めいたお鍋をやることになってるから、会うだけなら全然会えるんだけどね。
みちるちゃんが淹れてくれたお茶を飲みながらちょっと休憩。あたしはケーキの準備だし、みちるちゃんは箸休めにミネストローネを作ってくれてた。さすがに甘い物ばっかりじゃしんどい人もいるだろうからって。そういう心遣いがさすがみちるちゃんって感じ。
「みちるちゃんのコーヒー、おいし~」
「彩人がバイトしてる花栄のコーヒースタンドで買ってるんだよ」
「へ~。高級なんだね~」
「北星っていつもコーヒー飲んでるよね。こだわりとかってあるの?」
「特にないかな~。高くても安くても~、違いがわかんないし~」
「高い安いはともかく、味の違いはさすがにわかるでしょ?」
「苦い~とか、ちょっと酸っぱい~とかはわかるよ~。このコーヒーは~、苦くて~、香ばしいって感じ~?」
「正解」
「やった~」
「それだけわかれば十分だよ」
「そういう~、違いがわかるようになったのも~、くるちゃんの動画撮影を手伝い始めてからかな~」
「えっ、そうなの?」
「ブログとか見てて、文章で表現されてるスイーツのレビュー? ああいうのを見てると、くるちゃんは五感でどう感じてるのかなって」
あたしも味の違いみたいなことは他の人がやってる食レポやレビューなんかを参考にして見よう見まねで感じ取るようになった。今では一口食べて何の風味が強いかな、隠し味はあるのかなって原材料を見ながら嗅覚や舌で探すようになって。
多分食べ物の味の違いみたいなことは今まで、あと、今でも北星にはあんまり必要のない情報かなって思う。コーヒーの苦みや酸味、あと香りみたいな物が少しわかるようになったっていうのも、元々まあまあ強い感受性が開放された結果じゃないかな。
「くるちゃんがどのケーキはどの五感で味わってるのかっていうのを聞いて、動画で見る上での表現の仕方なんかもちょっと変えてたりする。視覚のときはこう、嗅覚のときはこう、みたいな感じで」
「うそ、あたし全然気付いてなかった。北星が編集した後の動画を見て、本当にあたしが撮った動画かな、おいしそ~ってただただ感心して見てた」
「なるほど、あくまで動画に必要だからって理由でありつつも、くるみが北星の人らしい感性を育成してるワケか。当麻が聞いたら泣いて喜ぶかも」
最初のお茶を飲み終われば、休憩はおしまい。あたしは冷蔵庫整理だしみちるちゃんはミネストローネ作りの続き。北星には少し休んでてもらって、会場設備なんかをしつつ。
「くるみ、結局今日は8人くらいになりそうだけど、ケーキは足りそう?」
「8人でも1人3ピースくらいはノルマだね!」
「3ピースか。まあまあだね。さっき見た感じ一切れが大きかったし、彩人には味わう余裕もないくらいに詰め込むことになりそうだけど」
end.
++++
相棒のササシノと違って当麻は北星のガチな世話役なので、北星の成長なんかは多分涙がちょちょぎれる程嬉しい。
何だかんだで北星は他の友達にも声をかければよかったね~などと気付くようになっているのでAKBCに入って協調性はやや身についたか
そういやMBCC1年生の6人が初詣行こうって話はいつ決めたんだろう。大方すがくる主動だとは思うんだけど
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ピンポーンとひとつインターホンが鳴って、お客さんが来たなって感じがする。あたしはみちるちゃん家の冷蔵庫の中を何とか整理しながらケーキと格闘中。今日はあたしが割ったケーキを消費してもらうためのクリスマスパーティー。
スイーツ断面動画の撮影は趣味でやってることだけど、ブログは結構見てもらえてるし、大学生になってからはバイトを始めたことで自由に使えるお金が増えた分、ホールケーキを切ってみようかなとか、切りやすい包丁を買おうかなとか、スケールも大きくなってきたかも。
「みちるちゃ~ん」
「ああ、北星。いらっしゃい。……てかいつにも増して凄いクマ」
「さっきまでくるちゃんの動画の編集してて。クリスマスケーキの動画だから、今日までに全部上げる必要があって」
「ブログにはもう全部上がってるみたいだけど」
「俺がやってたのは動画チャンネル用の追加編集。ブログに上げてるのははショートみたいなサッと見られる物で、じっくり見たければ動画チャンネルでって感じで一応分けてるから」
「へえ。まあ、何はともあれ上がって」
「ありがと~。お邪魔しま~す。あ、チキン買ってきた~」
――というワケで、ここ何日かは北星をずっと拘束してるよね。今回は撮影の規模も大きいからそこからまず手伝ってもらって。スイーツブロガーとしては動画の断面だけじゃなくて商品情報だとか食べてのレビューとかも大事だからあたしはその作業も忙しかったし。
あたしはわーわー言いながらバタバタしてたんだけど、北星はいつも通り冷静な仕事運びで本っ当に頼りになったよね! 今のあたしのブログがあるのは本当に北星様々。しかもケーキの消費も手伝ってくれるって足向けて寝れないよね。
「北星ホントにありがとね。あたし結構無茶言ったのに」
「ううん、平気。俺も楽しくてやってるから~。でも、ねむ~い」
「眠いならコーヒーでも飲む?」
「あ、欲しいで~す」
「くるみは? コーヒーか紅茶か」
「あたしは紅茶で」
「結局今日って何人来ることになった? それぞれ何となく声かけてたんでしょ」
「当麻が来てくれるって~」
「私は彩人に声をかけて、ササと高木さんと星大の先輩が来るという風には聞いてるんだけど」
「えー! 高木先輩も来てくれるんだ! って言うか高木先輩がケーキとか甘いもの食べてるイメージが全然ない!」
「くるみは誰かに声かけた?」
「すがやんとサキに声かけたけど振られちゃったー」
「そっか」
「千颯と~ちとせちゃんにも~、声かけてみたら~良かったね~」
「ホントだ! 忙しくてすっかり飛んじゃってた!」
ダメ元で今から声をかけてみたけど、さすがに急だったからごめんねって連絡が来たよね。って言うか2人とはまた今度、北星も含めた4人で忘年会めいたお鍋をやることになってるから、会うだけなら全然会えるんだけどね。
みちるちゃんが淹れてくれたお茶を飲みながらちょっと休憩。あたしはケーキの準備だし、みちるちゃんは箸休めにミネストローネを作ってくれてた。さすがに甘い物ばっかりじゃしんどい人もいるだろうからって。そういう心遣いがさすがみちるちゃんって感じ。
「みちるちゃんのコーヒー、おいし~」
「彩人がバイトしてる花栄のコーヒースタンドで買ってるんだよ」
「へ~。高級なんだね~」
「北星っていつもコーヒー飲んでるよね。こだわりとかってあるの?」
「特にないかな~。高くても安くても~、違いがわかんないし~」
「高い安いはともかく、味の違いはさすがにわかるでしょ?」
「苦い~とか、ちょっと酸っぱい~とかはわかるよ~。このコーヒーは~、苦くて~、香ばしいって感じ~?」
「正解」
「やった~」
「それだけわかれば十分だよ」
「そういう~、違いがわかるようになったのも~、くるちゃんの動画撮影を手伝い始めてからかな~」
「えっ、そうなの?」
「ブログとか見てて、文章で表現されてるスイーツのレビュー? ああいうのを見てると、くるちゃんは五感でどう感じてるのかなって」
あたしも味の違いみたいなことは他の人がやってる食レポやレビューなんかを参考にして見よう見まねで感じ取るようになった。今では一口食べて何の風味が強いかな、隠し味はあるのかなって原材料を見ながら嗅覚や舌で探すようになって。
多分食べ物の味の違いみたいなことは今まで、あと、今でも北星にはあんまり必要のない情報かなって思う。コーヒーの苦みや酸味、あと香りみたいな物が少しわかるようになったっていうのも、元々まあまあ強い感受性が開放された結果じゃないかな。
「くるちゃんがどのケーキはどの五感で味わってるのかっていうのを聞いて、動画で見る上での表現の仕方なんかもちょっと変えてたりする。視覚のときはこう、嗅覚のときはこう、みたいな感じで」
「うそ、あたし全然気付いてなかった。北星が編集した後の動画を見て、本当にあたしが撮った動画かな、おいしそ~ってただただ感心して見てた」
「なるほど、あくまで動画に必要だからって理由でありつつも、くるみが北星の人らしい感性を育成してるワケか。当麻が聞いたら泣いて喜ぶかも」
最初のお茶を飲み終われば、休憩はおしまい。あたしは冷蔵庫整理だしみちるちゃんはミネストローネ作りの続き。北星には少し休んでてもらって、会場設備なんかをしつつ。
「くるみ、結局今日は8人くらいになりそうだけど、ケーキは足りそう?」
「8人でも1人3ピースくらいはノルマだね!」
「3ピースか。まあまあだね。さっき見た感じ一切れが大きかったし、彩人には味わう余裕もないくらいに詰め込むことになりそうだけど」
end.
++++
相棒のササシノと違って当麻は北星のガチな世話役なので、北星の成長なんかは多分涙がちょちょぎれる程嬉しい。
何だかんだで北星は他の友達にも声をかければよかったね~などと気付くようになっているのでAKBCに入って協調性はやや身についたか
そういやMBCC1年生の6人が初詣行こうって話はいつ決めたんだろう。大方すがくる主動だとは思うんだけど
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