2018
■遅れた体でのブッキング
++++
「どうぞ、汚いところですが」
「うわ~、他所の大学さんの部屋に入るなんて緊張するでしょでしょ~」
今日はファンフェスの練習で向島さんにやってきた。ピントークで俺と組むミキサーの野坂クンに部屋を開けてもらって、初めて踏み入る部屋の広さと言ったら。朝霞班のブース何個分だろう。でも、朝霞クンには広すぎて落ち着かないかも。
適当な席を借りて、野坂クンが機材を立ち上げていくのを見つつ周りをぐるり。星ヶ丘大学は街の中にあるけど、向島さんは山の中。環境音と言うか、周りの音の質が全然違う。時間は午後1時半。夕方までは余裕で練習出来るよね、と。
そもそも、ラジオの練習をするなんて去年の夏合宿以来になるんじゃないかな。ステージだったら何とでもなるんだけど、ラジオは不慣れだからちゃんと練習をしておきたい。ファンフェスが生放送なのが救いかな。生、ライブだったらある程度の場数はあるから。
「準備が出来ました」
「座って良い?」
「はい、どうぞ」
「うわ~、落ち着かない」
「俺もあまり落ち着きません」
「野坂クン、お願いね~」
星ヶ丘はラジオに不慣れだからラジオに強い2年生を班にぶち込んでくれと朝霞クンが定例会でゴリ押ししてくれた結果の野坂クンだ。野坂クンは上手だってことは事前に聞いてるし、知ってる。だけど「ノサカはああ見えて緊張に弱い」という情報ももらっている。それを解してさえあげられれば。
「えっ、ウソだ…!」
「野坂クンど~したの?」
「ピンヒールの音が…!」
「ピンヒール、ってコトは議長サン?」
急に野坂クンが怯えて、焦ったような顔。何かと思えばピンヒールの音って。周りが静かだから廊下に響く足音も聞こえるのが向島さんの特徴。特に、カツンカツンという硬い音はわかりやすすぎて、とのこと。
すると、その言葉通りこの部屋にやってきたのは議長サンだ。議長サンは野坂クンがいたことに驚いていて。だけど、俺の存在を知ると腑に落ちた様子で自分の席に陣取った。時刻は1時45分。
「あっ、あの、菜月先輩、どうして…!」
「昼放送の収録に来たんじゃないか」
「昼放送の初回は8日の火曜日では…?」
「1日もやるって言っただろ。人の話をちゃんと聞け」
「すみません、すっかり忘れてました」
どうやら野坂クンが議長サンとの約束をすっかり忘れちゃってた様子。俺もちょっと気まずい。
「ファンフェスの練習か?」
「はい、そうです」
「あ、議長サンゴメンね~」
「いや、練習するならやってくれて全然」
「えっ、いいの~?」
「普段の収録でノサカが来るのなんか4時過ぎだからな。ノサカが遅刻してる体で、その時間を練習に回せばいい。ところで山口、今はやらかさなかったか?」
「全然大丈夫だったよ~」
これには議長サンも呆れたような溜め息を。どうして自分との時は1時間でも2時間でも遅れて来てしまうのか、と。時間にルーズだっていうのはつばちゃんからも聞いてたけど、2時間は確かにヒドすぎかも。
「あっ、そうだ議長サン。せっかくだし~、俺の練習を見ていろいろ突っ込んでくれない?」
「は? ツッコミ?」
「いざやるとステージのクセが強いかもしれないし~、ちょっとでもラジオに寄せときたくて~。せっかくならアナウンサーの議長サンにいろいろ聞いときたいと言うか~」
「菜月先輩、俺からもお願いします」
「ったく、仕方ないな」
それから、2時間みっちり議長サンのレッスンが繰り広げられた。ステージみたいに自分が動くことはなかなか出来ないから、いかに姿勢をキープするかとかね。身振り手振りを使うことは全然オッケーとか、いろいろ。
と言うか、俺よりも野坂クンに対しての方が厳しかったかも。星ヶ丘でどういうサインを使ってるかをあらかじめ聞いておけとか、アナウンサーに目を配る余裕を持てとか。キューを出すなら手は震わさずにピタッと止めろ、なんてのもあったよね~。
「いいかノサカ、大学が違えば使うサインも違う。ウチじゃ残り30秒なんて出さないけど、星ヶ丘じゃ使うだろ。その辺を擦り合わせてどっちかに寄せとかないと」
「はい」
「それと、山口」
「うん」
「曲中とかにはノサカにガンガン話しかけて大丈夫だ。ノサカは振られたらちゃんと返してくれるし、話を広げてくれる。何だかんだファンフェスはライブだから、生きた会話がトークに力を持たせると思う。お前はそういうの、得意だろうから」
「うん、ありがと~」
「ノサカは人見知りで緊張しいだけど、そこはまあ、本番までに仲良くなっといてくれ」
そして時刻は4時を回っていた。議長サンから野坂クンへのミキサーとしての信頼が垣間見えたところで、バトンタッチ。これから始まるのは、議長サンと野坂クンの昼放送。せっかくだし~、聞いてくしかないでしょでしょ~。
「いや、何でまだいるんだ」
「生きた番組を見て少しでも吸収する、的な~」
「そうまじまじ見られると緊張するじゃないか!」
「何かあったときの対処は任せて~」
すると、無言の圧が飛んでくるよね。そうだよね、その件には触れちゃいけなかったよネ。緊張が原因の過呼吸なんて。
end.
++++
去年だったかの話で放送に対してクソ真面目とまでノサカに言われた洋平ちゃんですので、きっと情報を入れる以外にもちゃんと練習してたのかなと。
そして土曜日ということで、ちょっとノサカがうっかりしたらこうなります。菜月さんとのダブルブッキング。
洋平ちゃんは普段Pからぎゃあぎゃあ言われているので、他人様からモニター的な感じで指摘されるのもバッチコイなスタンスなんだろうなあ
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「どうぞ、汚いところですが」
「うわ~、他所の大学さんの部屋に入るなんて緊張するでしょでしょ~」
今日はファンフェスの練習で向島さんにやってきた。ピントークで俺と組むミキサーの野坂クンに部屋を開けてもらって、初めて踏み入る部屋の広さと言ったら。朝霞班のブース何個分だろう。でも、朝霞クンには広すぎて落ち着かないかも。
適当な席を借りて、野坂クンが機材を立ち上げていくのを見つつ周りをぐるり。星ヶ丘大学は街の中にあるけど、向島さんは山の中。環境音と言うか、周りの音の質が全然違う。時間は午後1時半。夕方までは余裕で練習出来るよね、と。
そもそも、ラジオの練習をするなんて去年の夏合宿以来になるんじゃないかな。ステージだったら何とでもなるんだけど、ラジオは不慣れだからちゃんと練習をしておきたい。ファンフェスが生放送なのが救いかな。生、ライブだったらある程度の場数はあるから。
「準備が出来ました」
「座って良い?」
「はい、どうぞ」
「うわ~、落ち着かない」
「俺もあまり落ち着きません」
「野坂クン、お願いね~」
星ヶ丘はラジオに不慣れだからラジオに強い2年生を班にぶち込んでくれと朝霞クンが定例会でゴリ押ししてくれた結果の野坂クンだ。野坂クンは上手だってことは事前に聞いてるし、知ってる。だけど「ノサカはああ見えて緊張に弱い」という情報ももらっている。それを解してさえあげられれば。
「えっ、ウソだ…!」
「野坂クンど~したの?」
「ピンヒールの音が…!」
「ピンヒール、ってコトは議長サン?」
急に野坂クンが怯えて、焦ったような顔。何かと思えばピンヒールの音って。周りが静かだから廊下に響く足音も聞こえるのが向島さんの特徴。特に、カツンカツンという硬い音はわかりやすすぎて、とのこと。
すると、その言葉通りこの部屋にやってきたのは議長サンだ。議長サンは野坂クンがいたことに驚いていて。だけど、俺の存在を知ると腑に落ちた様子で自分の席に陣取った。時刻は1時45分。
「あっ、あの、菜月先輩、どうして…!」
「昼放送の収録に来たんじゃないか」
「昼放送の初回は8日の火曜日では…?」
「1日もやるって言っただろ。人の話をちゃんと聞け」
「すみません、すっかり忘れてました」
どうやら野坂クンが議長サンとの約束をすっかり忘れちゃってた様子。俺もちょっと気まずい。
「ファンフェスの練習か?」
「はい、そうです」
「あ、議長サンゴメンね~」
「いや、練習するならやってくれて全然」
「えっ、いいの~?」
「普段の収録でノサカが来るのなんか4時過ぎだからな。ノサカが遅刻してる体で、その時間を練習に回せばいい。ところで山口、今はやらかさなかったか?」
「全然大丈夫だったよ~」
これには議長サンも呆れたような溜め息を。どうして自分との時は1時間でも2時間でも遅れて来てしまうのか、と。時間にルーズだっていうのはつばちゃんからも聞いてたけど、2時間は確かにヒドすぎかも。
「あっ、そうだ議長サン。せっかくだし~、俺の練習を見ていろいろ突っ込んでくれない?」
「は? ツッコミ?」
「いざやるとステージのクセが強いかもしれないし~、ちょっとでもラジオに寄せときたくて~。せっかくならアナウンサーの議長サンにいろいろ聞いときたいと言うか~」
「菜月先輩、俺からもお願いします」
「ったく、仕方ないな」
それから、2時間みっちり議長サンのレッスンが繰り広げられた。ステージみたいに自分が動くことはなかなか出来ないから、いかに姿勢をキープするかとかね。身振り手振りを使うことは全然オッケーとか、いろいろ。
と言うか、俺よりも野坂クンに対しての方が厳しかったかも。星ヶ丘でどういうサインを使ってるかをあらかじめ聞いておけとか、アナウンサーに目を配る余裕を持てとか。キューを出すなら手は震わさずにピタッと止めろ、なんてのもあったよね~。
「いいかノサカ、大学が違えば使うサインも違う。ウチじゃ残り30秒なんて出さないけど、星ヶ丘じゃ使うだろ。その辺を擦り合わせてどっちかに寄せとかないと」
「はい」
「それと、山口」
「うん」
「曲中とかにはノサカにガンガン話しかけて大丈夫だ。ノサカは振られたらちゃんと返してくれるし、話を広げてくれる。何だかんだファンフェスはライブだから、生きた会話がトークに力を持たせると思う。お前はそういうの、得意だろうから」
「うん、ありがと~」
「ノサカは人見知りで緊張しいだけど、そこはまあ、本番までに仲良くなっといてくれ」
そして時刻は4時を回っていた。議長サンから野坂クンへのミキサーとしての信頼が垣間見えたところで、バトンタッチ。これから始まるのは、議長サンと野坂クンの昼放送。せっかくだし~、聞いてくしかないでしょでしょ~。
「いや、何でまだいるんだ」
「生きた番組を見て少しでも吸収する、的な~」
「そうまじまじ見られると緊張するじゃないか!」
「何かあったときの対処は任せて~」
すると、無言の圧が飛んでくるよね。そうだよね、その件には触れちゃいけなかったよネ。緊張が原因の過呼吸なんて。
end.
++++
去年だったかの話で放送に対してクソ真面目とまでノサカに言われた洋平ちゃんですので、きっと情報を入れる以外にもちゃんと練習してたのかなと。
そして土曜日ということで、ちょっとノサカがうっかりしたらこうなります。菜月さんとのダブルブッキング。
洋平ちゃんは普段Pからぎゃあぎゃあ言われているので、他人様からモニター的な感じで指摘されるのもバッチコイなスタンスなんだろうなあ
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