2021(03)

■LUCKY CURRY

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「やあやあ、僕たちが来たよ」
「だから、お前のポジションを誰がやるんだっていう話でだな」

 今日は向島留学の最終日。昼放送の収録はもうないんだけど、最後の水曜日だし一応来ておこうかっていう話になっていたんだ。先週やった年末特番がMBCCではどんな風に扱われていたかっていう報告をしたりとか、やることは思ったよりもあったような感じだ。
 そんな感じで話していると、4年生の圭斗先輩と菜月先輩が発泡スチロールの箱や紙袋を持ってやって来た。前にやった缶蹴り大会の現場で会ったことはあったけど、やっぱここで会う方が近いって感じもするし、実はあんまちゃんと挨拶をしてなかったりもする。

「やァー圭斗先輩菜月先輩、はよーごぜーヤす」
「本日はどのようなご用件でお越しになられたのでしょうか」
「今日は陰の集団MMPの力が最大限に増幅する冬至だろう? だからカレーうどんを食べようと思ってね。あの菜月カレーをカレーうどん用にアレンジした新作だよ」
「ナ、ナンダッテー!? ……って、俺は試作の現場にいたから知ってるんだった」
「まあ、それから少し改良はしたけどな。それより圭斗、今日が水曜日であることを完全に失念してたから1人分少ないぞ」
「元々お吸い物レベルで済ませるつもりだったんだ。夕飯に支障がなくてなおいいじゃないか」
「……りっちゃん先輩、何が始まるんすか?」
「話を遡れば去年のことになりヤす」

 奈々先輩のお姉さんがMCをやっているイベント、“夏至カレー”なる企画に対抗して、冬至には何を食べたものかと話し合うことになったのが去年のこと。冬至なら元々カボチャがあるけど、他に良きものがないかといつもの感じでサークル1回分を使って会議をしていたそうだ。
 冬至には“ん”の字が付く食べ物がいいだとか、カボチャも結局のところは風邪をひかないようにするための物だからということで、別名“カレー南蛮”のカレーうどんで身体をしっかりあっためて風邪に負けないようにしましょうということに落ち着いたそうだ。

「――というようなコトすわ」
「それで本当にカレーうどんを。すげーすね」
「ロビーで火を使う許可は取っておいたから、今すぐにでもやれるよ」
「じャ、行きヤすかァー」

 何て言うか、こういうところがMMPの凄さなんだろうな。MBCCだとまず夏至に対抗する冬至の食べ物っていう話なんかにはならないと思うし。話すだけならともかくそれで本当にカレーうどんの準備をして持って来た上でサークル棟でパーティーが始まっちまうんだもんな。

「すがやん、今日この現場にいられたのはかなりラッキーだと言っとく」
「マジすか。え、野坂先輩何がどうラッキーなんすか?」
「菜月先輩のカレーはマジでこの世のカレーの上位を争う美味さだ。今回はカレーうどんだから厳密にはちょっと違うけど、ベースには菜月カレーの味がちゃんと残ってるし」
「つか俺も菜月先輩のカレー食ったことないんすよ! めっちゃ美味いって話しか聞いたことないっす!」
「ちなみに、去年抽選会で当てた米5キロを消費するためにカレーパーティーを開催したんだけど、野坂は冗談でなく菜月カレーで丼3杯食べたからね。それくらいの味なんだよ」
「マジすか~、ホントにラッキーっすね!」

 野坂先輩がメチャクチャ食う人だとは知ってたけど、それでも丼3杯はさすがにちょっとやり過ぎだ。でもそれだけ美味いカレーがベースになったカレーうどんなんだよな。ローテーブルにはカセットコンロ、その上には土鍋がセットされ、火が入る。

「ちょっと写真失礼します」
「すがやん、またそれ緑ヶ丘のLINEに乗せるの」
「そうっすね。こないだの焼き芋の時もすごい反響でした」
「今年も焼き芋をやったのかな?」
「そースね。自分がまた芋を入手したンで」
「あっ、さっそく返信っすね」
「誰から?」
「くるみは「いいなーおいしそー!」で、サキは「何で鍋?」って」

 そのまま素直に「冬至だからカレーうどんを食べるんだよ」と言ったところで余計ワケがわからなくなるとは思うけど、今はとりあえずそう送っておいてちゃんとした説明が必要なら次のサークルの時にでも掻い摘んで話せばオッケーかな。

「出来たぞ。心して食べるように」
「それでは皆さん、菜月さんに感謝を込めて。はい、いただきます」
「いただきます!」
「うっめー! カレーうどんでこれならノーマルカレーはどんなだったんだ!」
「はわわわ……前回より美味しくなってる…! さすが菜月先輩…!」
「すがやん、どースか?」
「美味いっす。正直もうちょっと食べたいっすし、米でもあればリゾットっすよ間違いなく」
「すがやん! お前は何て罪深いことを言うんだ! このカレーでのリゾットだなんて…!」
「米と言やすがやん、抽選会の米はどーしヤした?」
「今は家にあるっす」
「あー残念」
「ん、今年もMMPの一団が米を当てたのかな?」
「残念ながら純正のMMPメンバーじゃァなかったンで米の扱いはお任せになりヤしたけど」
「もしかしてっすけど俺が当ててたら?」
「カレーパーティーの開催を打診してた可能性はありヤすねェー」
「マジかー!」
「マジか!」
「ヤ、カノンはともかくお前はそこまで悔しがるなら文房具券狙いじャなくて最初から米狙っとけッつー話スわ」
「すがやん、購買にはあっためて食うパックごはんやとろけるチーズも売ってるぞ。今なら車を走らせれば間に合う」
「ノサカ、お前は余所様の無垢な1年生を唆すんじゃない」
「や、希望する人数がいれば自分行きます。リゾット用のご飯買って来たら食べるよーって人ー」
「4年生も含めた全員スね。すがやん、行きヤしょーか。後で全員から金集めヤーす」


end.


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現4年生の引退後は前ほど軽率にカレパは開催されなくなったので、3年生らにとっても菜月カレーはレアな味になってしまったのである
元々そこまで量を食べるつもりで用意してなかったところに+すがやんなので、みんなリゾットを食べる余裕くらいはある
カレーうどんの写真についてすがやんのいないMBCCでなにこれって話してるような話も見たい

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