2021(03)

■Learn to talk around

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「やァー、壮大な規模のおフザケ番組ッしたねェー」
「あとはこれの同録をチェックして本当に番組になってるのか確認しないとな」

 MMPの年末特番として企画していた緑ヶ丘との遠隔合同番組の収録が終わった。パソコンやスマホのアプリを活用して遠い場所と連携した番組だったり、中継での放送だったり、新しくて変わったことにいろいろ挑戦した番組だった。
 あくまでこっちの番組っていう体だから番組の企画だとか進行みたいなことはこっちでやっていた。通話アプリの部屋を立てたりだとか。向こうは向こうですがやんだったり、機材面での連携という意味で高木先輩だったりがいろいろやってくれていた。
 正直、ラジオ番組で中継っていうのもあんまりイメージしにくいし、行ったつもりだとか想像で喋ってもバレないじゃないかと思っていた。だけど、番組内で中継に出ていたレナのリポートは現場にいないとわかんないようなことを事細かに伝えてくれていたなという学びもあった。
 一応アナウンサーもミキサーもやっている身としては、この番組は勉強にしかならなかったし、来期以降どんな感じでやっていこうかなって深く考えるきっかけにもなった。昨日鳥ちゃんと話していたこともある。アナにしてもミキにしても俺には技術がまだまだ足りない。

「そしたら、同録を流しながら総括をしヤしょーか」
「そっすね」
「緑ヶ丘では全部の音を違うチャンネルで録音してたらしいんだよな。だから最悪編集でそれらしい番組にすることも出来るってタカティは言ってたな」
「しかしタカティは本当によくやりますねえ。技術革新が目覚ましいですよ」
「そうなると、ウチもパソコンとかを導入したいっすねー」
「チョロいパソコンだったら学祭の貯金で何とかなると思うけど、まあその辺は慎重に考えてもらってだな」
「たまに官公庁で使ってたパソコンのお下がり要りませんかみたいなチラシ入ってくるじゃないすか。あーゆーのはどうっすかね?」
「スペックとメモリによりかな。でも、ここにパソコンなり何なりがあるメリットっていうのは少なからずあって」
「え、何すか」
「曲のAD作業をここでやってここで入力出来るということだな。ぶっちゃけスマホでも出来るには出来るけど。どうにもこうにもサークル中の話題が脱線しやすいMMPだけども、雑談しながらでも手は動かしておけるというだな」
「間違いないっすね。奈々先輩どっすか?」
「年が明けた時点でのサークル費と相談して考えることになるかなーとは。でも前向きに考えていいとは思うよ」
「あざっす!」
「今後の収入には期待出来ないし、それだけが現状の問題点かなー」
「そっすよねー」

 パソコンを使った録音や音声編集に関しては、これからは高木先輩がその覇権を握ることになるだろうと先輩たちは口を揃えて言う。大学の授業でもそんなようなことをやってるらしいし、対策委員の機材管理担当としても定例会と連携していろいろやってるらしいから、すげー人なんだろうなとは。
 だけどこの分野はまだまだほぼ全員が駆け出しだし、俺も頑張れば追いつけないかなーと思う。家のパソコンとかで遊んだりして勉強すればいいんだし。インターフェイスのパソコン活用法に関しては、いいことを思いつけば俺が意見を出すことも出来る。

「そーだ野坂先輩、折り入って相談があるんすけど」
「相談? うん、聞くけど」
「天文部の友達から聞いたんすけど、MMPに星とか宇宙の知識が結構あって、なおかつ天文部の人をも唸らせる話術を持った人がいるとかいないとかって話なんすけど、心当たりはないっすかね? 4年生以上の人らしいんすけど」
「星や宇宙の知識で天文部員を唸らせる話術か。心当たりも何も菜月先輩しかいらっしゃらないな」
「マジすか! くーっ、やっぱ菜月先輩ってすげー人だったんすね!」
「で、菜月先輩がどうしたって?」
「菜月先輩のトーク技術みたいなモンがどう凄かったかみたいなことを、俺自身の五感で確かめたいんすよ。実際の番組は聞いたことないんで。本人の召集は難しいにしても、過去の番組が残ってたりしませんかね? 昼放送を録ったMDとかって一緒にやってたミキサーが持ってるんすよね? 散り散りになってるそれを集めて一挙大放出みたいなことってなりません?」

 俺はMDを聞く機械みたいな物は持っていないけど、サークルで持ってるポータブルプレイヤーを何となく繋いで音声ファイル化出来ないかなと。ググったりすがやんに聞いたりして聞きやすくしてマジでちゃんと勉強したいんだよな。

「おッ、カノンが最初から当たりを引きヤしたよ」
「本当ですね。大当たりですよ」
「え、当たりってどういうコトすか?」
「菜月先輩がやッてた昼放送5期分のうち、3期分を持ッてるのが野坂スよ」
「脂の乗った2年後期からベテランの風格漂う3年後期までの3期分ですね」
「おー! マジすか!」
「持ってるには持ってるけど菜月先輩は自分の番組を外に出すのを極端に嫌がられるから、これは出しても大丈夫だと判断した物だけを抜粋して渡すことになるけど。あと、番組を聞いたと決して口外しないことを条件にしようか」
「大丈夫っす、男たるもの約束は守れます」
「じゃあ、今日の夜にでも送るわ。ファイル化はとっくの昔にしてあるし」

 これからガチな勉強と特訓が始まるんだな。アナとミキの二足の草鞋をしっかり履きこなすぞ!

「ああそうだ、少し脇道にはそれるけど是非聞いて欲しい伝説の番組というものがあってだな」
「そんなのがあるんすか。どんな番組すか?」
「インターフェイスでかつてアナウンサーの双璧と呼ばれたお二方が共演されたファンフェスの100分番組というヤツだな」


end.


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これからカノンの勉強なり修行なりが始まるよ。1月になってサークル自体はお休みでも鍛錬は欠かしません。えらい。
そうこうしている間にノサカら3年生はあと1週間で引退というところまで来ていたらしい。連中には感慨も何もない。
菜月さんの番組のことならノサカに聞けば間違いないし、どの番組がおすすめかみたいなことまで一瞬で出してくるのが強火勢だね

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