2021(03)
■宇宙の入り口
++++
「希くん、お時間を取ってもらってありがとうございます」
「いえいえ。それで鳥ちゃん、聞きたいことって?」
「希くんはラジオのサークルに入っていますよね」
「そうだね」
奏多つてに、鳥ちゃんが俺に聞きたいことがあるという風に聞いていた。鳥ちゃんは奏多の幼馴染みで、背が高くてすらりとしてる、大きな一本三つ編みが特徴のすっごい真面目な感じの子だ。本当に奏多の幼馴染みなのかと思うくらいには性格が正反対だけど、奏多を叱り付けるのを見るとそうだなあって納得した。
「天文部では大学祭にプラネタリウムを出しているのはご存知ですか?」
「そういや大学祭の時に言ってたね。ウチの先輩が言ってたよ、地味立地だから全然知られてないけどクオリティは高いって」
「ありがとうございます」
「で、そのプラネタリウムがどうかした?」
そのプラネタリウムでは、ブースに入ると天文部の人が星の光に合わせてアナウンスを読むという形式で上映しているそうだ。プログラムで光ファイバーの光を制御して、本当の星に近い光を再現しているとか。今年は去年のそれからバージョンアップして、ランダムで流れ星が流れるようになったらしい。
鳥ちゃんが言うには、去年のプラネタリウムを見に来たお客さんが、天文部の人がアナウンスをする前に一緒に来た後輩を相手に話し始めたんだそうだ。その話は本来語り聞かせる立場の天文部の人すら聞き入ってしまう程の内容で、天文部の天文ガチ勢の間で話題になったらしい。
ただ、それを聞いたのが1人だけだったということで、そんな人が本当にいるのかとみんなに疑われていたそうだ。あまりにプラネタリウムに人が来ないからそんな幻を見てしまったんだと。話を聞いた先輩はそのお客さんは実在するんだと1年間言い続けていたとか。
「先日、天文部の4年生の先輩が羽広先輩たちとお鍋を囲む機会があったそうで、そこに希くんのサークルの方もいらっしゃったそうです。その場でプラネタリウムの件についても話が盛り上がったそうで」
「そういや前原さん家で鍋やるとか言ってたな真希ちゃん」
「あー、そしたらその現場にいたのも4年生の先輩かー。まあ、正直今いるメンバーがプラネタリウムでそんだけ喋れるイメージがないし」
「幻だと言われていたそのお客さんが実在するということがはっきりして、どのような話だったのかが物凄~……く! 気になって気になって仕方がなく」
「録音してるワケでもねーのに期待するだけムダじゃね?」
「ううん、その話を聞きたいっていうわけじゃないの。星とか宇宙の知識を、相手の興味を引けるように話す技量の方が気になってて」
「あー、そっちな。まあ、お前の星講釈は基本一方的だし飽きるんだよな。毎回同じ話だし」
放送サークルでラジオをやっている身としては、鳥ちゃんが言っていることにはすげー興味がある。トークをするときにはどんな人でも入って来れるように入り口を広く取るっていう風には習ったけど、特定の相手を狙い撃ちたい場合には、ピンポイントでトーク内容を考える必要があるんだなと。
それでいて、ただ広く入り口を取るんじゃなくて、相手の年齢だとか放送する時間帯だとか、そういうことも考えていかなきゃいけないとは。今の話の場合、MMPの誰かがしていたらしいトークは、天文部の人が用意していたプラネタリウムの原稿よりもニッチな内容だったのかなって。
「じゃあ奏多はどういう話なら星の話に興味を引かれるのよ」
「ぶっちゃけそこまで星に興味はねーなあ。でも、星空っつったらロマンチックだし、デートスポットとしては優秀な感じだよな」
「あー、確かに星空がキレイなスポットとかいいな! 迫力満点なんだろうな」
「なるほど、そういう切り口もあるんですね。星や宇宙そのものだけでなく、それを体験する上での情報ですね。屋外での天体観測の情報なども盛り込んで行けばよさそうですね」
「まーた春風の星講釈が始まるのか」
「つか、そういう話をしてた人がマジでMMPにいるなら俺もその人のトークとか聞いて研究したいな」
「かっすーも知らない人なのか」
「4年生の先輩だとするなら一応会ったことはあるけど、ラジオの技術がどうとかって話はしたことないんだよ」
4年生の先輩の番組とかも聞いてみたいなー。こういうことを相談するならやっぱ野坂先輩になってくるのかな。すがやんはこういう状況なら過去の番組をパソコンで検索して聞くって言ってるし、そーゆートコはやっぱ緑ヶ丘が一歩進んでるよなー。
ウチの昼放送って、録音したMDをミキサーが保管してるし散り散りになってんだよな。今いる人より前の番組はないってことだよなー。それもちょっとなー。どうにかしたいなー。つか、家でMDを聞く機械も無いのにディスクだけあってもどーなるんだって話だし、何とかしてーなー。
「ちょっと、俺のためにもなるしちょっと先輩に聞いてみるよ」
「よろしくお願いします」
「……ああっ!」
「どーしたかっすー」
「来週でもう先輩たち引退じゃん! 急がねーと!」
でもって昼放送もあと1回っていうな! 明日には緑ヶ丘との合同番組もあるし何気にめっちゃ忙しいじゃんな! ここでいろいろ技術を吸収するぞ~!
end.
++++
大学祭のプラネタリウムを見に来ていたツチノコ的なお客さんの話からいよいよMMPに新たな渦が起こり始めます。
ちなみにこの時点でカノン的に、4年生と言えば菜月先輩と圭斗先輩だと思っているようだけど、実は謎の3人目がまだいたりする
来週で終わりなら現在昼放送でペアを組んでいるノサカがどんな風にカノンを育ててたかについてはまた来期以降になっちゃうなあ
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「希くん、お時間を取ってもらってありがとうございます」
「いえいえ。それで鳥ちゃん、聞きたいことって?」
「希くんはラジオのサークルに入っていますよね」
「そうだね」
奏多つてに、鳥ちゃんが俺に聞きたいことがあるという風に聞いていた。鳥ちゃんは奏多の幼馴染みで、背が高くてすらりとしてる、大きな一本三つ編みが特徴のすっごい真面目な感じの子だ。本当に奏多の幼馴染みなのかと思うくらいには性格が正反対だけど、奏多を叱り付けるのを見るとそうだなあって納得した。
「天文部では大学祭にプラネタリウムを出しているのはご存知ですか?」
「そういや大学祭の時に言ってたね。ウチの先輩が言ってたよ、地味立地だから全然知られてないけどクオリティは高いって」
「ありがとうございます」
「で、そのプラネタリウムがどうかした?」
そのプラネタリウムでは、ブースに入ると天文部の人が星の光に合わせてアナウンスを読むという形式で上映しているそうだ。プログラムで光ファイバーの光を制御して、本当の星に近い光を再現しているとか。今年は去年のそれからバージョンアップして、ランダムで流れ星が流れるようになったらしい。
鳥ちゃんが言うには、去年のプラネタリウムを見に来たお客さんが、天文部の人がアナウンスをする前に一緒に来た後輩を相手に話し始めたんだそうだ。その話は本来語り聞かせる立場の天文部の人すら聞き入ってしまう程の内容で、天文部の天文ガチ勢の間で話題になったらしい。
ただ、それを聞いたのが1人だけだったということで、そんな人が本当にいるのかとみんなに疑われていたそうだ。あまりにプラネタリウムに人が来ないからそんな幻を見てしまったんだと。話を聞いた先輩はそのお客さんは実在するんだと1年間言い続けていたとか。
「先日、天文部の4年生の先輩が羽広先輩たちとお鍋を囲む機会があったそうで、そこに希くんのサークルの方もいらっしゃったそうです。その場でプラネタリウムの件についても話が盛り上がったそうで」
「そういや前原さん家で鍋やるとか言ってたな真希ちゃん」
「あー、そしたらその現場にいたのも4年生の先輩かー。まあ、正直今いるメンバーがプラネタリウムでそんだけ喋れるイメージがないし」
「幻だと言われていたそのお客さんが実在するということがはっきりして、どのような話だったのかが物凄~……く! 気になって気になって仕方がなく」
「録音してるワケでもねーのに期待するだけムダじゃね?」
「ううん、その話を聞きたいっていうわけじゃないの。星とか宇宙の知識を、相手の興味を引けるように話す技量の方が気になってて」
「あー、そっちな。まあ、お前の星講釈は基本一方的だし飽きるんだよな。毎回同じ話だし」
放送サークルでラジオをやっている身としては、鳥ちゃんが言っていることにはすげー興味がある。トークをするときにはどんな人でも入って来れるように入り口を広く取るっていう風には習ったけど、特定の相手を狙い撃ちたい場合には、ピンポイントでトーク内容を考える必要があるんだなと。
それでいて、ただ広く入り口を取るんじゃなくて、相手の年齢だとか放送する時間帯だとか、そういうことも考えていかなきゃいけないとは。今の話の場合、MMPの誰かがしていたらしいトークは、天文部の人が用意していたプラネタリウムの原稿よりもニッチな内容だったのかなって。
「じゃあ奏多はどういう話なら星の話に興味を引かれるのよ」
「ぶっちゃけそこまで星に興味はねーなあ。でも、星空っつったらロマンチックだし、デートスポットとしては優秀な感じだよな」
「あー、確かに星空がキレイなスポットとかいいな! 迫力満点なんだろうな」
「なるほど、そういう切り口もあるんですね。星や宇宙そのものだけでなく、それを体験する上での情報ですね。屋外での天体観測の情報なども盛り込んで行けばよさそうですね」
「まーた春風の星講釈が始まるのか」
「つか、そういう話をしてた人がマジでMMPにいるなら俺もその人のトークとか聞いて研究したいな」
「かっすーも知らない人なのか」
「4年生の先輩だとするなら一応会ったことはあるけど、ラジオの技術がどうとかって話はしたことないんだよ」
4年生の先輩の番組とかも聞いてみたいなー。こういうことを相談するならやっぱ野坂先輩になってくるのかな。すがやんはこういう状況なら過去の番組をパソコンで検索して聞くって言ってるし、そーゆートコはやっぱ緑ヶ丘が一歩進んでるよなー。
ウチの昼放送って、録音したMDをミキサーが保管してるし散り散りになってんだよな。今いる人より前の番組はないってことだよなー。それもちょっとなー。どうにかしたいなー。つか、家でMDを聞く機械も無いのにディスクだけあってもどーなるんだって話だし、何とかしてーなー。
「ちょっと、俺のためにもなるしちょっと先輩に聞いてみるよ」
「よろしくお願いします」
「……ああっ!」
「どーしたかっすー」
「来週でもう先輩たち引退じゃん! 急がねーと!」
でもって昼放送もあと1回っていうな! 明日には緑ヶ丘との合同番組もあるし何気にめっちゃ忙しいじゃんな! ここでいろいろ技術を吸収するぞ~!
end.
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大学祭のプラネタリウムを見に来ていたツチノコ的なお客さんの話からいよいよMMPに新たな渦が起こり始めます。
ちなみにこの時点でカノン的に、4年生と言えば菜月先輩と圭斗先輩だと思っているようだけど、実は謎の3人目がまだいたりする
来週で終わりなら現在昼放送でペアを組んでいるノサカがどんな風にカノンを育ててたかについてはまた来期以降になっちゃうなあ
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