2021(03)
■A番マニュアルとドリミ帝国
++++
「えーっと、ブラリブラリ……」
「おはようございまーす」
「あっ、ドリミさんちょーどいーところに。おはざいまーっす」
事務所に入るなり、受付業務をしていた真桜から声をかけられる。俺が来たのが好都合って感じだし、もしかしたら受付の仕事の中で何かわからないことでもあったのかな。手元には去年林原さんが作ってくれたA番マニュアルがある。
「真桜、どうしたの?」
「さっきユースケさんからC-11の座席の人をブラックリスト登録しろって言われたんすけど、ブラリ登録のことは姫からもまだちゃんと聞いてなくて。普段私が受付やってるときはユースケさんやアオさんが横からパーッと登録してくんで」
「あー……はい。ちなみにだけど、どのランクで登録するか聞いた?」
「えっと、一番低いランクらしーっす」
「そっか。えっと、B番の人からブラックリストの登録を頼まれた時は、一応一度自習室に行ってチラッとでいいからその人の様子を見てからにしてね」
「ダブルチェックみたいなことすか?」
「そうだね。えっと、特に林原さんとアオから言われた時の話になるんだけど、その2人は結構厳格かつ淡々とやっちゃう節があるからねえ。とりあえず、1回見てきてもらえる?」
「了解っすー」
ブラックリストの登録に関しては、現場で対応した上できっちり処分を下す林原さんと、あんまりやり過ぎると後々めんどくせーんだよクソがという春山さんの間でよくケンカになってたなあと思い出す。俺はその間に挟まれて、どっちの味方をすればいいかわからなくって。
春山さんも決して手抜き仕事をしてたワケじゃないんだけど、特に繁忙期ともなるといろんな人がいるから多少の譲歩は必要だという考え方みたいだ。ブラックリストに登録すると、登録された人の扱いに関してそれだけ仕事が増えるし。
ただ、林原さんとアオは繁忙期を加味した上でも基準がちょっと厳しめだし、ダメだと思ったら容赦なく刎ねちゃうから。俺が受付の時はそうでもないけど、他の人の時は受付マシンに横入りして自分でブラリ登録、なんてこともザラ。
「挙動が怪しいっつーか、物音だの独り言がクソうるさかったっすね。注意しても改善なしだそうっす」
「そっか。それじゃあ入れさせてもらおうか。マニュアルの後ろの方にブラックリストの項目があるから開いてくれる?」
「はーい」
「で、後はマニュアルの通りなんだけど、ここをクリックすると現在の自習室の状況が表示されるから、今の場合はC-11にカーソルを合わせて右クリック」
「おー、これでブラックリスト登録を選んで、登録ランクをセット。今はCっすね」
「そうそう。で、登録の理由を備考欄に」
「はーい。これ、ブラリ登録された人がまた来たらどうなるんすか?」
「受付で学生証を登録した時にポップアップが来て、どういう人かっていうのがわかるよ。今の人の場合はCランクで、ちょっとうるさかったから注意って感じで。その情報がB番のマシンにも行くから」
「へー」
「もうバッチリだね」
「姫も言ってたんすけど、マニュアルがわかりやすいんすよ」
A番マニュアルは、基本のきとなる項目からブラックリスト登録に至るまで、受付業務の9割を網羅している。どのアイコンをクリックしたらどの画面に遷移して、どの欄に何をどう入力するとどうなる、というようなことが細かく書かれてるんだよね。
画面をひとつひとつキャプチャーして、しっかり説明書きがあるから誰が受付の仕事に就いてもこれを見れば何となく出来ちゃうんだよね。カナコさんだけじゃなくてアオや有馬くんもこのマニュアルのお世話になってるし、俺も未だにたまに見てるよね。
「このマニュアルはねえ、去年林原さんが当時研修生だったカナコさんのために作ってくれたヤツだから、本当に事細かに作られてるんだよね」
「はえー。ユースケさんものぐさに見えて意外にマメっすねー。プリントアウトした紙をラミネートまでしてあるし、大学側が作ったのかと思ってたっす」
「大学はここまでしてくれないね。林原さんの言い分としては、マシンの上にファイルで置いとくだけだとカナコさんがたどり着けなかったり消しかねないし、ただの紙だとコーヒーとかをこぼしたらダメになるからってこうなったみたい」
「ユースケさんに聞かれたら絶対ぶっ殺されそうっすけど、あの人普段ボロクソに言っときながら何だかんだで姫を丁寧に育成した上で重用してるっすよね」
「あー、確かに絶対怒られると思うけど、実際そうかもね。林原さん本人が実質B番専だし、A番専のカナコさんとの相性はいいからね」
林原さんは確かにはっきり物を言う人だし、口の悪さに関しては本人も自覚があるみたいだけど、それもまたカナコさんとの相性の良さに拍車をかけるんだよなあ……カナコさんは99.9%の上の高みを目指す人だし。ボロクソに言われてる方が燃えるみたいなんだよね。
「これ、ブラリ一覧ってガチな一覧っすか?」
「そうだね。リストでずらーっと出てくるよ」
「これが今までブラリに登録された人の一覧っすかー。結構物騒っすねー」
「これに関わるA番マニュアルにも書かれてない俺だけ出来る仕事っていうのがあるんだけど、これが結構大変でね」
「マジすか、ドリミさんだけが出来る仕事とかめっちゃ気になるっす」
「俺にしか権限がないのはブラックリスト一覧の編集だね。例えば、林原さんやアオが登録したブラリなんかは結構厳しすぎることがあるから、その実態を確認してこっそり解除するとかね」
「ヤッベ、黒幕じゃないすか。闇のドリミ帝国築けますよ」
end.
++++
真桜が結構センターにも馴染んでるし、カナコは姫でミドリはドリミ。でもアオはアオさんでリン様はユースケさん。カナコの影響かな。
リン様はカナコの扱い方をとてもよくわかっているし、仕事の上での使い方もわかっている様子。主に利用者へのアメムチ。
ラミネートまでされたA番マニュアルの存在をすっかり忘れてたけど、カナコ以降のスタッフたちはみんなこれを見て育ったんだろうなあ
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「えーっと、ブラリブラリ……」
「おはようございまーす」
「あっ、ドリミさんちょーどいーところに。おはざいまーっす」
事務所に入るなり、受付業務をしていた真桜から声をかけられる。俺が来たのが好都合って感じだし、もしかしたら受付の仕事の中で何かわからないことでもあったのかな。手元には去年林原さんが作ってくれたA番マニュアルがある。
「真桜、どうしたの?」
「さっきユースケさんからC-11の座席の人をブラックリスト登録しろって言われたんすけど、ブラリ登録のことは姫からもまだちゃんと聞いてなくて。普段私が受付やってるときはユースケさんやアオさんが横からパーッと登録してくんで」
「あー……はい。ちなみにだけど、どのランクで登録するか聞いた?」
「えっと、一番低いランクらしーっす」
「そっか。えっと、B番の人からブラックリストの登録を頼まれた時は、一応一度自習室に行ってチラッとでいいからその人の様子を見てからにしてね」
「ダブルチェックみたいなことすか?」
「そうだね。えっと、特に林原さんとアオから言われた時の話になるんだけど、その2人は結構厳格かつ淡々とやっちゃう節があるからねえ。とりあえず、1回見てきてもらえる?」
「了解っすー」
ブラックリストの登録に関しては、現場で対応した上できっちり処分を下す林原さんと、あんまりやり過ぎると後々めんどくせーんだよクソがという春山さんの間でよくケンカになってたなあと思い出す。俺はその間に挟まれて、どっちの味方をすればいいかわからなくって。
春山さんも決して手抜き仕事をしてたワケじゃないんだけど、特に繁忙期ともなるといろんな人がいるから多少の譲歩は必要だという考え方みたいだ。ブラックリストに登録すると、登録された人の扱いに関してそれだけ仕事が増えるし。
ただ、林原さんとアオは繁忙期を加味した上でも基準がちょっと厳しめだし、ダメだと思ったら容赦なく刎ねちゃうから。俺が受付の時はそうでもないけど、他の人の時は受付マシンに横入りして自分でブラリ登録、なんてこともザラ。
「挙動が怪しいっつーか、物音だの独り言がクソうるさかったっすね。注意しても改善なしだそうっす」
「そっか。それじゃあ入れさせてもらおうか。マニュアルの後ろの方にブラックリストの項目があるから開いてくれる?」
「はーい」
「で、後はマニュアルの通りなんだけど、ここをクリックすると現在の自習室の状況が表示されるから、今の場合はC-11にカーソルを合わせて右クリック」
「おー、これでブラックリスト登録を選んで、登録ランクをセット。今はCっすね」
「そうそう。で、登録の理由を備考欄に」
「はーい。これ、ブラリ登録された人がまた来たらどうなるんすか?」
「受付で学生証を登録した時にポップアップが来て、どういう人かっていうのがわかるよ。今の人の場合はCランクで、ちょっとうるさかったから注意って感じで。その情報がB番のマシンにも行くから」
「へー」
「もうバッチリだね」
「姫も言ってたんすけど、マニュアルがわかりやすいんすよ」
A番マニュアルは、基本のきとなる項目からブラックリスト登録に至るまで、受付業務の9割を網羅している。どのアイコンをクリックしたらどの画面に遷移して、どの欄に何をどう入力するとどうなる、というようなことが細かく書かれてるんだよね。
画面をひとつひとつキャプチャーして、しっかり説明書きがあるから誰が受付の仕事に就いてもこれを見れば何となく出来ちゃうんだよね。カナコさんだけじゃなくてアオや有馬くんもこのマニュアルのお世話になってるし、俺も未だにたまに見てるよね。
「このマニュアルはねえ、去年林原さんが当時研修生だったカナコさんのために作ってくれたヤツだから、本当に事細かに作られてるんだよね」
「はえー。ユースケさんものぐさに見えて意外にマメっすねー。プリントアウトした紙をラミネートまでしてあるし、大学側が作ったのかと思ってたっす」
「大学はここまでしてくれないね。林原さんの言い分としては、マシンの上にファイルで置いとくだけだとカナコさんがたどり着けなかったり消しかねないし、ただの紙だとコーヒーとかをこぼしたらダメになるからってこうなったみたい」
「ユースケさんに聞かれたら絶対ぶっ殺されそうっすけど、あの人普段ボロクソに言っときながら何だかんだで姫を丁寧に育成した上で重用してるっすよね」
「あー、確かに絶対怒られると思うけど、実際そうかもね。林原さん本人が実質B番専だし、A番専のカナコさんとの相性はいいからね」
林原さんは確かにはっきり物を言う人だし、口の悪さに関しては本人も自覚があるみたいだけど、それもまたカナコさんとの相性の良さに拍車をかけるんだよなあ……カナコさんは99.9%の上の高みを目指す人だし。ボロクソに言われてる方が燃えるみたいなんだよね。
「これ、ブラリ一覧ってガチな一覧っすか?」
「そうだね。リストでずらーっと出てくるよ」
「これが今までブラリに登録された人の一覧っすかー。結構物騒っすねー」
「これに関わるA番マニュアルにも書かれてない俺だけ出来る仕事っていうのがあるんだけど、これが結構大変でね」
「マジすか、ドリミさんだけが出来る仕事とかめっちゃ気になるっす」
「俺にしか権限がないのはブラックリスト一覧の編集だね。例えば、林原さんやアオが登録したブラリなんかは結構厳しすぎることがあるから、その実態を確認してこっそり解除するとかね」
「ヤッベ、黒幕じゃないすか。闇のドリミ帝国築けますよ」
end.
++++
真桜が結構センターにも馴染んでるし、カナコは姫でミドリはドリミ。でもアオはアオさんでリン様はユースケさん。カナコの影響かな。
リン様はカナコの扱い方をとてもよくわかっているし、仕事の上での使い方もわかっている様子。主に利用者へのアメムチ。
ラミネートまでされたA番マニュアルの存在をすっかり忘れてたけど、カナコ以降のスタッフたちはみんなこれを見て育ったんだろうなあ
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